橘たかし no 皆の仲間: 2021年8月24日火曜日

2021-08-24

憧れの行政書士への道

はじめに

僕が行政書士を目指した歴史は古い。

と言うか資格取得を目指して成しえたためしがない。

過去取得に失敗した資格はこんなところだ。

20代 第二種情報処理技術者試験 → 挫折

仕事柄、会社の指示で申込んだ。

理論(2進数とか)は何とか解けたがプログラム(COBOL)が全く自信がなく逃げた。

一般的には逆で普段プログラミングしてるから実技は出来るのが当たり前と言われてた。

だから過去問を見て「はて?」と思った自分が恥ずかしくて辞めた。

20代 自動車普通免許 → 一度挫折し再チャレンジで取得

当時の教習車は、まだ重ステ(パワステの逆)だった。

カーブでどんだけハンドル回すのかという程回した。

それでやっと仮免とったら教習車がパワステの新車になった。

今度は逆に一寸ハンドルきっても直ぐ曲がる。

もうやってられなかった。

それで通わなくなって仮免は失効した。

20代最後位に気を取り直して別の教習所に通った。

教官が皆気持ち悪いくらい優しくなった。

一度運転してるから慣れててストレートでとれた。
30代 宅地建物取引主任者 → 挫折

当時は法律の事など全く無知だった。

だから法律用語が全く慣れなかった。(片務契約とか瑕疵担保責任とか)

40代 マンション管理士 → 挫折

資格所得というよりマンション管理組合の仕組みを知りたくて勉強した。

40代 ファイナンシャルプランナー3級 → 挫折

これからデフレが続くと将来が急に不安になり始めた時だ。

これからは金融だと思い勉強を始めた。

50代 日商簿記3級 → 一度挫折し再チャレンジで取得

就職するとどこの会社でも取れと言われるはずだ。

僕も20代からチャレンジした。

素人には貸方と借方が等しくなる理屈が中々理解できない。

経理とか実務で常にお金を扱えば理解しやすいんだろう。

とは言え銀行員でさえ信用創造を知らないから当然だ。

50代 日商簿記2級 → 取得
60代 行政書士 → 挫折し再チャレンジ中

そう最後の行政書士に再チャレンジしようという今回は企画だ。

これから始めて1年後の2022年11月の受験(流石に3か月後の受験は受付も終わっているし無理)を目指す。 

種本はユーキャン行政書士速読レッスン2012年版(自由国民社)だ。

(追記 2021.8.25)

直近で受験しようとして取り寄せた古本だ。(あまりやる気がなかった)

これを一通り読み終えたら早速、練習問題と過去問を当たるつもりだ。

僕のボリシーは、なるべく早い段階から試験と同じ問題を解いてみることだ。

過去の経験から、これを後に延ばせば延ばすほど焦りになる。

つまり暗記したつもりが問題を解けなくてショックを受けるより早い段階から慣れておくためだ。

素人にありがちなのが1回覚えたら1発で正解してやろうと意気込んでしまうことだ。

イメージ的には暗記するより見慣れていく馴染んでいく感覚を磨くことだ。

そこで最適なサイトを見つけた。

行政書士試験!合格道場だ。

ここなら過去問も網羅されていて基本無料で利用できるので良いと思う。

(追記 2021.8.27)

早速過去問を解いてみた。

難しい。

かなり細かな事まで暗記してないと正解は無理だ。

たとえばAならばBが正解な場合、Aに忍ばせてCを加えて出題(AおよびCならば)しAがあるから正解だろうと判断し不正解になるパターンもある。

つまり解説をよく読まないと何故不正解か納得できないレベルだ。

流石に合格率が10%を切る(10人に1人しか合格しない)だけはある。

(追記 2021.8.28)

勉強を進めると必ず陥る思いがある。

「実務でこんなことはあり得ない。」

この葛藤に打ち勝たないと勝利はない。

人間常に辛いことから逃れたい思いがある。

だから、ついこういった論調になびき挫折するのだ。

(追記 2021.8.31)

もう一つ陥りやすい感情がある。

「古臭い。」

扱ってるテーマが未だに昭和な感じが満載だ。

20-30代だとこの雰囲気が無理かもしれない。

だとしたらトットと法文改正してくれ。

60レッスンあるので毎日1レッスンづつ読み進め2か月で1回目を終える。

分野としては憲法・行政法・民法・商法・基礎法学・一般知識の6分野だ。

毎度のことだが挫折するポイントも分っていている。

憲法から順に読み進めると行政法は全く馴染みがなく退屈で挫折する。 

だから今回は各分野をランダムに読み進めようと思う。

少しでも飽きないように工夫しようと思う。

もう一つポイントがある。

単純に読み進めると言ったが実はノートなどに書き進めた方が良い。

試験は筆記なので最終的には書かなければいけないので理にかなっている。

また後で自分で書き留めたノートを眺めると嘘でもやったんだという充実感が湧き挫折しにくい。

単に読むだけだと痕跡が残らない分途中で虚しくなり辞めたくなる。

だから今回はこのブログに書き留めて痕跡を残すことにした。

良いアイデアだと今は信じている。

それでは始めよう。


もくじ


1章 憲法


2章 行政法


3章 民法


4章 商法


5章 基礎法学


6章 一般知識

レッスン4 市場経済
レッスン5 環境問題
レッスン6 社会保障
レッスン7 情報通信





1章 憲法 レッスン1 憲法総論

憲法の特色

①憲法とは

憲法とは国家権力を制限し国民の人権を保護する国家の根本ルールだ。

②憲法の歴史

憲法が今に至るまで人類は長い権利(人権)獲得の歴史がある。

今日の憲法を立憲的意味の憲法(近代憲法)と呼ぶ。

1215年『マグナ・カルタ』(イギリス)
1689年『権利章典』(イギリス)
1689年『市民政府二論』ロック(イギリス)
1748年『法の精神』モンテスキュー(フランス)
1762年『社会契約論』ルソー(フランス)
1789年 フランス革命、人権宣言(フランス)
1889年 大日本帝国憲法(日本)
1918年 男子普通選挙(イギリス)
1919年 ワイマール憲法:社会権の保障(ドイツ)
1928年 婦人参政権(イギリス)
1946年 日本国憲法(日本)

(追記 2021.9.1)

大日本帝国憲法が発布されたのは1889年だ。

奇しくもフランス革命の100年後だ。

実はこの憲法の発布までには伊藤博文と大隈重信の軋轢があった。

元は大隈重信らがイギリス憲法を手本にしようとしたが伊藤博文らは手柄を手中に納めたくドイツ憲法を手本にすべしと画策した。

結果、大隈重信らは下野し伊藤博文らの思惑通りドイツ憲法が手本となった。

これが後の大東亜戦争への悲劇と繋がる。

③日本国憲法の特色

[日本国憲法の特色]
(自由の基礎法)憲法は基本的人権の保障を中心とした法であり人権規定がその中心だ。
(制限規範)憲法は基本的人権の保障を実現するため国家権力を制限する規範としてある。
(最高法規)基本的人権の保障を中心に据えた憲法が他のすべての国内法規の最上位にある。

憲法の基本理念

①国民主権

国民主権とは、かつての君主制に対し国民が国家の主人公であるとした。

国民主権という際の主権とは「国政においての最高決定権」である。

憲法前文1項に「ここに主権が国民に存することを宣言し」とある。

②基本的人権の尊重

基本的人権とは人が人として生まれながらに当然に有す基本的な権利をさす。

[基本的人権にある性質]
人権の固有性)人権は憲法や天皇からいわば恩恵として与えられたもではく人間として当然に有するもととしての権利だ。
人権の不可侵性)人権は原則、公権力に侵されない権利である。
人権の普遍性)人権は人種、身分、性に区別なく人間であるだけで当然に享有される権利である。

[重要条文
すべて国民は個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については公共の福祉に反しない限り立法その他の国政の上で最大の尊重を必要とする。(憲法13条)

日本国憲法が保障している基本的人権は人間が自律的な個人として自由と生存とを確保し、これによって尊厳性を維持するため必要な権利が当然に人間に固有の権利として存在することを前提として認めるものだ。

つまり「基本的人権」は「人間として固有の尊厳に由来するもの」だ。

このような人間の尊厳の原理は「個人の尊厳の原理」ともいわれ日本国憲法は「個人の尊重」を宣言している。

③平和主義

[重要条文
日本国民は恒久の平和を念願し人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは平和を維持し専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ平和のうちに生存する権利を有することを確認する。(憲法前文2項)

[重要条文
1 日本国民は正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し国権の発動たる戦争武力による威嚇又は武力の行使は国際紛争を解決する手段としては永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。(憲法9条)

戦争を回避し廃絶する取り組みは国際的にもさまざまに行われてきた。

しかし、それらはいずれも他国への侵略戦争を制限し、または放棄する内容に留まっていた。

日本国憲法は、これらの動きを一層進め戦争否定の態度を徹底している。

1章 憲法 レッスン2 人権総論

人権の種類

①人権の種類

自由権)国家が個人の領域に権力をもって介入することを排除し個人の自由な活動を保障する権利(自由権は精神的自由権、経済的自由権、人身の自由に分かれる。)

社会権)社会的・経済的弱者が「人に値する生活」を営なめるように国家が積極的に配慮を求めることができる権利(例:生存権、教育を受ける権利)

参政権)国民が国政に参加できる権利(自由権を確保するためには国民が政治に参加する必要があるため参政権が認められる)

受益権)国民が国家に対して一定の行為を請求できる権利(例:裁判を受ける権利、国家賠償請求権)

②人権の享有主体

人権は人である以上当然に有する権利だ。

だが日本国憲法には「国民の権利義務」と人権を保障される対象を「国民」に限定している。

我が国には国民以外に外国人(在日朝鮮人など)自然人(生身の身体をもった個人)や法人(会社など)など色々な人がいる。

天皇や皇族も日本国籍を有する自然人だ。

だが天皇は日本国の象徴である。

特殊な職務を担い皇位は世襲される。

皇族も天皇に準じ特殊な職務を担う。

よって天皇や皇族は人権の享有に制限がつく。

法人は現代社会では大きな役割を果たしている。

したがって判例でも性質上可能な限り法人に人権規定を適用する。

法人に認められる人権として結社の自由、経済的自由権、請願権、国家賠償請求権、裁判を受ける権利などがる。

外国人は日本国籍を有さないので国民に含まれない。

しかし人権は人であることにより有するとされるものだ。

したがって日本国民に限って認められる人権以外は外国人にも保障される。

[重要判例]
マクレーン事件(最大判S53.10.4)
アメリカ人マクリーンが在留期間を1年としてわが国に入国し1年後にその在留期間の延長を求めて更新の申請をしたところ法務大臣が在留中にマクリーンが政治活動を行ったことを理由に更新を拒否し、その適否が争われた事件
判示憲法第3章気鋭による基本的人権の保障は権利の性質上日本国民のみの対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべきである。

外国人の入国の自由は当然には保障されない。

国際慣習法のうえ各国の裁量に委ねられる。

一方、外国人の出国の自由は22条に定める外国移住の自由として保障される。(最大判S32.12.25)

さらに外国人の再入国の自由は認めていない。(森川キャサリーン事件、最判H4.11.16)

外国人の政治活動は「わが国の政治的意思決定または実施に影響を及ぼす活動など外国人の地位に鑑み認めることが相当でないと解されるものを除き保障が及ぶ」(マクレーン事件、最大判S53.10.4)

外国人は国政選挙についても地方選挙についても憲法上参政権は保障されないとうるのが判例だ。

すなわち「公務員を選定し及びこれを罷免することは国民固有の権利である。」(憲法15条1項)とされているが、この権利は権利の性質上日本国民のみを対象とし、わが国に在留する外国人には及ばないと判示している。

ただし憲法は第8章で地方自治について定めており、そこでは住民の日常生活に密接な関連を有する事務については住民自治に基づいて処理することを制度的に保障している。

そして地方選挙について「地方公共団体の長、その議会の議院及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が直接これを選挙する」(憲法93条2項)と定めている。

そこで判例は、この「住民」とは地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するが、が国に在留する外国人のうち永住者等であって居住する区域の地方公共団体と特段に密接な関係をもつもの法律をもって地方公共団体の長その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは憲法上禁止されているものではないと判示した。

[重要判例]
(定住外国人地方参政権事件、最判H7.2.28)
日本に永住資格をもつ在日韓国人である原告らが居住地の各選挙管理委員会に対して選挙人名簿に登録することを求めたが却下されたため、この却下決定の取消しを求め提訴した事件
判示(1)公務員を選定罷免する権利を保障した憲法15条1項の規定は権利の性質上日本国民のみをその対象とし右規定による権利の保障は、わが国に在留する外国人には及ばないものと解するのが相当である。
(2)国民主権の原理及びこれに基づく憲法15条1項に規定の趣旨に鑑み地方公共団体が、わが国の統治機構の不可欠の要素を成すものであることも併せて考えると憲法93条2項にいう「住民」とは地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当であり、その議会の議員等の選挙の権利を保障したものということはできない。
(3)わが国に在留する外国人のうちでも永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて、その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公共団体の公共的事務の処理に反映させるべく法律をもって地方公共団体の長その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは憲法上禁止されているものではないと解するのが相当である。

③人権の限界

自分の人権を尊重してもらいたければ他人の人権にも配慮しなければいけない。

たとえば、いくら真実であるからと言って他人の名誉や信用を損なうことを無制約に公言する事は許されない。(あの人はデベソだ)

よって人権といえども全く無制約なもではなく他人の人権との調整のうえで制約を受ける。(渋谷センターのコロナワクチン接種が抽選)

この憲法が国民に保障する自由及び権利は国民の不断の努力によって保持しなければならない。

また国民は、これを濫用してはならないのであって常に公共の福祉のためこれを利用する責任を負ふ。(憲法12条)

すべての国民は個人として尊重される。

生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利について公共の福祉に反しない限り立法その他の国政の上で最大の尊重を必要とする。(憲法13条)

[公共の福祉の意味]
一元的外在制約説)基本的人権は、すべて「公共の福祉」によって制約される。
22条および29条の「公共の福祉」という文言に特別の意味はない。

内在・外在二元的制約説)「公共の福祉」による制約が認められる人権は、その旨が明文で定められている経済的自由権(22条、29条)および国家の積極的施策によって実現される社会権(25条-28条)に限定され、その他の権利・自由は内在的制約に服するにとどまる。

一元的内在制約説)「公共の福祉」は人権相互の矛盾衝突を調整するための実質的公平の原理である。すべての人権に論理必然的に内在している。(通説)

在監者(刑務所に拘禁されている者)や公務員は特別な立場や地位に置かれている。

よって公権力と特殊な関係がある者には特別な人権制限がなされる。

在監者は公権力により強制的に拘束されている特殊な法律関係にある。

在監関係を憲法自身が認めている。(18条、31条)

当然に一般国民とは異なる制約を予定している

[重要判例]
(よど号ハイジャック新聞記事抹消事件、最大判S58.6.22)
東京留置所に勾留されていた左翼活動家の原告らが留置所内で読売新聞を私費で定期購読していたが同留置所長が、よど号乗っ取り事件に関する記事を墨で塗りつぶして配布したため同処分が違法であるとして国家賠償請求を求めた事件
判示未決勾留により監獄に拘禁されている者の新聞、図書等の閲覧の自由についても逃亡及び罪証隠滅の防止という勾留の目的のためのほか監獄内の規律及び秩序の維持のために必要とされる場合にも一定の制限を加えることはやむおえないものとして承認しなければならない。しかしながら未決勾留は刑事司法上の目的のために必要やむをえない措置として一定の範囲で個人の自由を拘束するものであり他方これにより拘禁される者は当該拘禁関係に伴う制約の範囲外においては原則として一般市民としての自由を保障されるべき者であるから監獄内の規律及び秩序の維持のためにこれを被拘禁者の新聞紙、図書等の閲読の自由を制限する場合においても、それは刑事司法上の目的を達成するために真に必要と認められる限度にとどめられるべきものである。

公務員の人権も一般国民とは異なる制約を受ける。

憲法が公務員という存在を予定してる

公務員であるがゆえの制約を受ける

公務員の人権制限として問題となるのは政治活動の自由(21条1項)と労働基本権(28条)だ。

公務員の政治活動は一律に禁止される。(国家公務員法102条1項、人事院規則14-7)

ただし公務員の政治活動の自由の制約も必要最小限の制約であることが必要だ。

そのため(1)制約の目的が正当であること(2)目的達成の手段として必要最小限の制約であることが必要とされる。

[重要判例] 
(猿払事件、最大判S49.11.6)
猿仏村の郵便局員が選挙用ポスターを公営掲示板に掲示したなどの行為が国家公務員法102条および人事院規則14-7に違反するとして起訴された事件
判示公務員の政治的中立を損なうおそれのある公務員の政治的行為を禁止することは、それが合理的で必要やむおえない限度にとどめるものである限り憲法の許容するところであるといわなければならない。
国公法102条1項及び規則による公務員に対する政治的行為の禁止が右の合理的で必要やむおえない限度にとどまるものか否かを判断するにあたって禁止の目的、この目的と禁止される政治的行為との関連性、政治的行為を禁止することにより得られる利益と禁止することにより失われる利益との均衡の三点から検討することが必要である。

公務員の職種の違いで労働三権(団結権、団体交渉権、争議権)の全部また一部が制限される。

警察職員、消防職員、自衛隊員、海上保安庁また監獄に勤める職員(団結権)〇(団体交渉権)〇(争議権)〇  非現業の一般公務員(団結権)✖(団体交渉権)〇(争議権)〇  現業(非権力的な労務)公務員(団結権)✖(団体交渉権)✖(争議権)✖

[私人間効力についての考え方]
無効力説)憲法の規定は私人間には適用されない。
直接適用説)奴隷的拘束および苦役からの自由(憲法18条)、労働基本権(憲法28条)など一定の人権規定は私人間にも直接、効力を有する。
間接適用説)規定の趣旨、目的ないし法文から直接的な私法的効力をもつ人権規定を除き私人間力を認めないが法律の概括的条項、特に公序良俗に反する法律行為は無効であるろする民法90条のような一般条項を憲法の趣旨を取り込んで解釈・適用することによって間接的に私人間の行為を規律すべきである。

[重要判例]
(三菱樹脂事件、最大判S48.12.12)
被告に採用された原告が在学中に学生運動歴について入社試験の際に虚偽の申告をしたという理由で3か月の試用期間終了時に本採用を拒否されたため、その適否が争われた事件
判示(1)憲法の右規定(19条、14条)は同法第三章のその他の自由権的基本権の保障規定と同じく国または公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障する目的に出されたもので、もっぱら国または公共団体と個人との関係を規律するものであり私人相互の関係を直接規律することを予定するものでない
(2)私的自治に対する一般的制限規定である民法1条、90条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によって一面で私的自治の原則を尊重しながら他面で社会的許容性の限度を超える侵害に対し基本的な自由や平等を保障し、その間の適切な調整を図る方途も存するのである。

本判決は結果的に企業は、いかなる者を雇い入れるかについて原則自由である。

したがって企業がある思想・信条を有する者の雇い入れを拒んでも当然に違法ではない。

労働者の思想・信条を調査し、これに関する申告を求められても違法ではない。

包括的基本権と法の下の平等

①生命・自由・幸福追求権

日本国憲法に規定される人権規定は歴史的に国家権力に侵害されることが多かった重要な権利や自由を列挙したものにすぎず、すべての人権を網羅して揚げたものではない。

また憲法制定時と現在とでは社会情勢や国民の考え方に大きな変化がある。

それに伴い生じた諸問題について憲法に明文がなからといって法的に対応しないというのでは憲法が掲げる「個人の尊重」を全うすることはできない。

そこで憲法が明文で規定しなくても保障すべき人権がある考えられる。

これが新しい人権の概念だ。

憲法は歴史上重要な権利について14条以下で具体的に規定を置いて保障しているが、これらに含まれない新しい権利についても13条後段により人権として保障されることがる。

[重要条文]
すべての国民は個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については公共の福祉に反しない限り立法その他の国政の上で最大の尊重を必要とする。(憲法13条)

幸福追求権」は憲法に列挙されてない新しい人権の根拠となる一般的な包括的な権利となる。

新しい人権の代表的なものに(1)プライバシー権(2)自己決定権(人格的自律権)がる。

(通説)プライバシー権とは自己に関する情報をコントロールする権利をさす。

プライバシーの保護を公権力に対して積極的に請求していく請求権的・積極的側面もある。

自己決定権とは個人の人格的生存に関わる重要な私的事項を公権力の介入や干渉を受けずに各自が自律的に決める権利を指す。

たとえばライフスタイルを決める自由や家族のあり方を決める自由や医療拒否など生命の処分を決める自由などだ。

その他の新しい人権として肖像権、環境権、日照権、嫌煙権、アクセス権(反論権)などが主張される。

[重要判例]
(京都府学連事件、最大判S44.12.24)
デモ行進が違法な状態で行われていたため警察官が捜査活動の一環として犯罪の証拠を残すため違法な行進の状況を写真撮影したが撮影される者の同意を得て行われたものでなかったため撮影の違法性が争われた事件。
判示個人の私生活上の自由の一つとして何人も、その承諾なしに、みだりに個人の容貌・姿態(以下、容ぼう等)を撮影されない自由を有するものというべきである。これを肖像権と称するかどうかは別として少なくとも警察官が正当な理由もないのに個人の容ぼう等を撮影することは憲法13条の趣旨に反し許されないものといわなければならない。

本判決は、みだりに個人の容ぼう等を撮影されない自由を無制限に保護されるわけではなく犯罪捜査の必要上写真を撮影する場合など公共の福祉のための必要のある場合には相当の制限を受けるとし本件撮影を適法とした。

②法の下の平等

1 すべて国民は法の下に平等であって人種、信条、性別、社会的身分または門地(家系、血統)により政治的、経済的または社会的関係において差別されない。

2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。

3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴わない。栄典の授与は現にこれを有し、または将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。(憲法14条)

[14条の意味]
(1)直接的な法規範として立法、行政、司法のすべての国家行為を拘束する。
(2)個々の国民に対し法的に平等に扱われる権利ないし不合理な差別を受けない権利(平等権)を保障する。

法の内容の平等」までを含むものと考えるのが通説だ。

14条は形式的な平等(機会の平等)を原則とするが実質的な平等(結果の平等)の観点も社会権の保障等によって実現しようとする。

よって平等とは絶対的平等ではなく相対的平等を意味する。

相対的平等とは人の事実の差異に着目し不合理な差別は認めない」という事だ。

刑法200条(尊属殺人(血族を殺害)罪)は普通殺に関する刑法199条の法定刑に比し著しく不合理な差別的扱いをするものであり憲法14条1項に違反して無効である。(尊属殺違憲判決事件、最大判S48.4.4)

本件規定が非摘出子の法定相続分を摘出子の2分の1としたことが合理的理由のない差別とはいえず憲法14条1項に反するものといえない。(非摘出子相続分規定合憲判決事件、最大決H7.7.5)

議員定数不均衡の合憲性とまり形式的に1人1票の原則が貫かれても投票価値が平等であるとは限らない

1章 憲法 レッスン3 精神的自由権

思想および良心の自由

①思想および良心の自由とは

思想および良心の自由は、これを侵してはならない。(憲法19条)

②思想および良心の自由の内容

特定の思想や良心をもとこと、またはもたいことを強制されない。

特定の思想や良心をもつこと、またはもたいないことによって不利益を受けない

内心の領域にとどまる限り、どのような思想や良心をもっても絶対的に自由であり国家権力は内心の思想を理由とする不利益な扱いや思想を強制できない。(⇔江戸時代の踏み絵)

内心の領域に留まる限り他人の人権と衝突しない。

沈黙の自由または告白の自由。

沈黙の自由とは国民がその思想について国家権力から告白を強制されない。

ただし単なる事実の知・不知には保障は及ばない。(裁判の証言、偽証罪)

[重要判例]
(謝罪広告事件、最大判S31.7.4)
名誉棄損を理由に訴えられ一審および二審で謝罪広告を命じられた者が上告をし代替執行による謝罪の強要は思想および良心の自由を侵害するか否かが争われた事件。
判示謝罪広告を命ずる。(中略)単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明するに止まる程度のものであっては、これが強制執行も代替作為として民法733条の手続(代替執行、現民事執行法171条)によることを得る

代替執行…債権者や第三者が授権を受け債務者に代わり債務の内容を実現し、その費用を債務者に請求する強制執行の方法。

信教の自由

①信教の自由とは

[重要条文]
1 信教の自由は何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も国から特権を受け又は政治上の権力を行使してはならない。
2 何人も宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
3 国及びその機関は宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。(憲法20条)

信教の自由は近代の憲法史上、精神的自由の基盤となすものだったといえる。

すなわち近代の自由主義は中世の宗教的な圧迫に対する抵抗から生まれ、その後殉教の歴史を経て成立したと評価されるのだ。

まさに命を賭して信教の自由を貫いた殉教徒のおかげで自由の基盤が築かれたといえる。

日本においては戦前「神社は宗教にあらず」とされ国家神道は国家主義・軍国主義の精神的な柱とされた。

こうした時代を経て戦後、日本国憲法は個人の信教の自由を厚く保障し国家と宗教との分離を明確にした。

因みに明治憲法(大日本帝国憲法)は信教の自由を保障していなかったわけではない。(明治憲法28条)

信仰の自由は以下の3つからなす。

(1)信仰をもつこと、またはもたないことを強制されない。
(2)信仰をもつこと、またはもたないことで不利益を受けない。
(3)沈黙の自由または告白の自由

信仰に関して祭壇を設け礼拝や祈祷を行うなど宗教上の儀式、祝典、行事その他の右京などを行う自由それらに参加する自由のことだ。

また、これらの宗教的行為を行わない自由、参加を強制されない自由も含む。

宗教結社の自由は以下の3つからなす。

(1)宗教的結社をつくり、またはつくらない自由
(2)宗教結社に入り、または入らない自由
(3)宗教結社において活動し、またはしない自由

宗教的行為の自由と宗教的結社の自由は内心の領域に留まらず外部に向けた行為を伴う。

したがって他者の人権とぶつかる恐れがある。

そこで信教の自由の保障は絶対的ではなく必要最小限の内在的制約を受けることになる。

[重要判例]
(加持祈祷治癒事件、最大判S38.5.15)
僧侶が被害者の精神障害の平癒を祈願するため宗教行為として線香の火を当てたり手で殴ったりした結果、被害者が急性心臓麻痺により死亡し僧侶が傷害致死罪に問われた事件
判示宗教行為としてなされたもでも他人の生命、身体等に危害を及ぼす違法な有形力の行使に当たるものであり、これにより被害者を死に致したものである以上、憲法20条1項の信教の自由の保障の限界を逸脱したものというほかなく、これを刑法205条に該当するものとして処罰したことは何ら憲法の右条項に反するものではない。

②政教分離の原則

政教分離とは政治と宗教を分離させることだ。

つまり国家は宗教に対して中立的であることが原則だ。(終戦記念式典、原爆慰霊祭など宗教色が一切ない)

[政教分離の趣旨、目的]
個人の信教の自由、特に少数者の信教の自由を補強すること)国家と宗教が結びつくと国家が支持する宗教以外の信者や無宗教者に対する迫害が生じる。
宗教の堕落を防止すること)宗教は一度国家から特典を与えられると立場を維持しようと国家に対して迎合する。
政府を破壊から救う)宗教は絶対的価値観に基づくものであり民主主義に反する側面をもつ。(逆に民主主義が絶対か?)

[政教分離原則の内容と具体例]
(1)宗教団体への特権付与の禁止(例)ある宗教団体への土地や建物の無償供与
(2)宗教団の政治上の権力行使の禁止(例)創価学会員が無理やり公明党員へ投票を強要
(3)国および地方公共団体の宗教的活動の禁止(例)靖国神社・護国神社への玉串料の奉納(最大判H9.4.2)

政教分離の原則は憲法上の制度的保障(一定の制度を保障することを定め立法によってその核心ないしは本質的部分を侵害できなくすることで国民の人権を守る。)であるとされている。

つまり政教分離という制度自体が客観的に憲法により保障されているのだ。

具体的には政教分離制度に違反する立法は憲法違反の問題が生じ立法権に対する歯止めになる。

また国民が国の立法や行為に関して信教の自由などの人権侵害を理由に訴えを提起した場合に政教分離制度は国の立法の違憲性を主張する理由になりうる。

憲法上の制度的保障は(1)政教分離(2)大学の自治(3)私有財産制度(4)地方自治制度がる。

政教分離が原則とはいっても国家と宗教が全く関りをもってはいけないということではない。

たとえば私立学校(立教大学、明治学院大学、森友学園)への助成金や文化財(東本願寺、延暦寺)への補助金を宗教団体に交付しなけいとすれば不合理な差別となるだろう。

国と宗教との関りが許されるか否かは問題となっている行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進または圧迫、干渉になるかにより判断する。(目的効果基準

[重要判例]
(津地鎮祭事件、最大判S52.7.13)
三重県津市が市体育館の建設起工式の地鎮祭として挙行し、これに公金を支出したことが憲法20条3項、89条前段に違反するのではないかと争われた事件
判示ここ(憲法20条3項)にいう宗教的活動とは政教分離原則の意義に照らしてこれをみれば、およそ国およびその機関の活動で宗教との関わり合いをもつすべての行為を指すものではなく、その関わり合いが相当とされる限度を超えるものに限られるというべきであって当該行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進または圧迫、干渉等になるような行為をいうものと解すべきである。

[重要判例]
(愛媛玉串料事件、最大判H9.4.2)
愛媛県が宗教法人靖国神社の例大祭および宗教法人愛媛県護国神社の慰霊大祭に対し玉串料ないし供物料として公金を支出したことが憲法20条3項、89条前段に違反しないかが争われた事件。
判示県が本件玉串料等を靖国神社または護国神社に奉納したことは、その目的が宗教的意義を持つことを免れず、その効果が特定の宗教に対する援助、助長、促進になると認めるべきであり、これによってもたらされる県と靖国神社等との関り合いが我が国の社会的・文化的諸条件に照らし相当とされる限度を超えるものであって憲法20条3項の禁止する宗教的活動に当たる

表現の自由

①表現の自由とは

[重要条文]
1 集会、結社および言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。(憲法21条)

表現の自由とは思想や意見など内心の精神的作用を外部に発する精神的活動の自由をさす。

「表現の自由は優越的地位を有する」といわれる。

それは表現の自由が(1)自己実現(2)自己統治で重要な役割を果たす。

自己実現とは個人が表現活動を通じて自己の人格を発展させることをいい自己統治とは表現活動によって国民が政治的意思決定に関与し民主主義を実現することをいう。

表現の自由が保障されてない社会では自分が発した言葉にびくびくしながら生きていけかねばならず、ひいては国家権力のいいなりという状態に甘んじなければならなくなる。

他の重要な人権がきちんと保障され人間らしい生活を営むためには表現の自由が保障されていなければならない。

自己実現とは自らの内面を現したい欲求を表現活動で満たすことができる個人的な価値だ。

自己統治とは民主政のプロセスに関わる社会的な価値だ。(中国の人民と対比

知る権利とは公権力から妨げられることなく国民が知りたい情報を知ることができ国家等に対して知りたい情報を要求する権利をさす。

知る権利は表現の自由に含まれるものとして憲法21条により保障されると一般に考えられている。

現代は情報の「送り手」と「受け手」とが分離して固定化しており送り手の自由を保障するだけでは表現の自由の趣旨である「自己実現・自己統治」の価値を実現することはできない。

そこで情報の受け手の側から憲法21条を再構成する必要があり、その方策が知る権利の保障なのだ。

たとえば実際は無実であるのに犯人であるかのような報道をされるなどマスメディアの報道でいったん名誉毀損などの人権侵害がなされると、その回復は非常に困難となる。

その手段としては反論文の掲載などを求めることが考えられる。

しかし、このような「反論権」が認められるとマスメディアに対して反論の発表を強制することになりマスメディア自身の表現の自由が侵害され、かえって表現の自由を損なう結果になりかねない。

したがって判例は憲法21条のみを根拠として反論文の掲載の請求は認められないと判断している。

[重要判例]
(サンケイ新聞事件、最判S62.4.24)
新聞に掲載された意見広告により名誉を毀損されたと主張する者が新聞社に意見広告と同一のスペースに反論文を無料で掲載することを求め、いわゆる反論権が認められるかが争われた事件。
判示反論権の制度は民主主義社会において極めて重要な意味をもつ新聞等の表現の自由に対し重大な影響を及ぼすものであって、たとえ被上告人の発行するサンケイ新聞などの日刊全国紙による情報の提供が一般国民に対し強い影響力をもち、その記事が特定の者の名誉ないしプライバシーに重大な影響を及ぼすことがあるとしても(中略)反論権の制度について具体的な成分法がないのに反論権を認めるに等しい上告人主張のような反論文掲載請求権をたやすく認めることはできないものといわなければならない。

②表現の自由の内容

集会の自由は集会を開き主催し指導し、または集会に参加する等の行い対し公権力が制限を加えることを禁止し、それらの行いを公権力によって強制されないことだ。

集会の自由には集団行動の自由が含まれると考えられている。

たとえばデモ行進は「動く集会」として、あるいは「その他一切の表現」として憲法21条で保障される。

集団行動(デモ行進)の自由が保障されるが、これを制限する、いわゆる公安条例合憲性が問題となる。

公安条例は集団行動を事前に抑制することしか許容されない。

この点について新潟県公安条例事件と東京都公安条例事件という2つの判例を比較する。

[公安条例に対する判例の比較]
新潟県公安条例事件】(規制の目的)他の利用者との調整(目的を達成する手段)集団行動につき一般的な許可制を定めて事前に抑制することは許されないが特定の場所または方法につき合理的かつ明確な基準の下に条例で許可制ないし届出制をとりこれらの行動について公共の安全に対し明らかな差し迫った危険を及ぼすことが予見されるときは、これを許可せず、または禁止することができる旨の規定を設けても、これをもってただちに憲法の保障する国民の自由を不当に制限することにはならない。(最判S29.11.24)
東京都公安条例事件】(規制の目的)公共の安寧の保持(目的を達成する手段)集団の潜在的な力は甚だしい場合には一瞬にして暴徒と化すること(集団暴徒化論)は群集心理の法則と現実の経験に徴して明らかであるとし本件条例では公安委員会は「公共の安寧を保持する上に直接危険を及ぼすと明らかに認められる場合」のほかは手段行動を許可しなkればならないとされており不許可の場合が厳格に制限されているので、この許可制は実質において届出制と異なるところがない。(最大判S35.7.20)

たとえば市民会館などの公共施設の利用について条例などで許可制をとっているケースが見受けられる。

集会を公共施設で行おうとする場合は使用許可が得られないと集会を開くことができない。

これは表現の自由に対する制約となりその合憲性が問題となる。

[重要判例]
(泉佐野市民会館事件、最判H7.3.7)
市民会館の使用許可申請に対し集会の実質的な主催者がいわゆる過激派の一団体であり公の秩序を乱す恐れがあることを理由に不許可としたところ不許可処分が憲法21条に違反しないかが争われた事件。
判示本件条例7条1号は「公の秩序を乱す恐れがある場合」を本件会館の使用を許可してはならない事由として規定しているが同号は広義の表現を採っているとはいえ本件会館における
集会の自由を保障することの重要性よりも本件会館で集会が開かれることによって人の生命、身体または財産が侵害され公共の安全が損なわれる危険を回避し防止することの必要性が優越する場合をいうもと限定して解すべきであり、その危険性の程度としては単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りなず明らかに差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要であると解するのが相当である。そう解する限り、このような規制は他の基本的人権に対する侵害を回避し防止するために必要かつ合理的なものとして憲法21条に違反するものではなく、また地方自治法244条に違反するものでもないというべきである。
そして右事由の存在を肯認することができるのは、そのような事態の発生が許可権者の主観により予測されるだけではなく客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測される場合でなければならないことはいうまでもない。

結社の自由とは団体の結成およびその活動に関する自由だ。

[結社の自由の具体的内容]
(1)団体を結成し、そのれに加入する自由
(2)団体が団体として活動する自由
(3)団体を結成しない自由、団体に加入しない自由、または加入した団体から脱退する自由

団体は多数決で決まったことに従わせる権限、つまり内部統制権を有するが、その統制権にも限界がある。

たとえば労働組合が特定の候補者を支持する政治活動を行うことは認められるが、それに反して立候補した組合員の除名は許されないとされている。(最大判S43.12.4)

結社の自由もまったく無制約ではなく内在的制約がある。

たとえば犯罪を行う結社の自由は認められない。

通信の秘密は公権力による通信内容の探索を打ち切ることが政治的表現の自由の確保につながるという趣旨による。

通信の自由の保障は対象は通信内容に留まらず差出人(発信人)、受取人(受信人)の氏名、住所および日時など通信に関するすべての事項に及ぶと考えられる。

ただし通信の秘密にも限界がある。

たとえば(1)被告人および被疑者の郵便物の押収(刑事訴訟法100条、222条)(2)破産者宛の郵便、電報の破産管財人による開披(破産法82条)が法律上の制限とされている。

報道の自由とは報道機関が国民に事実を伝達する自由をさす。

報道は事実を知らせるものであり特定の思想を表現するものではない。

しかし報道の前提として報道内容の編集という知的な作業が行われること、そもそも真実の伝達と思想や意思の伝達とは厳密には区別できないもであることから報道の自由は表現の自由の一部として保障されると考えられている。

取材の自由とは生の事実に接近して報道内容を新たに作り出す自由をさす。

取材の自由は報道の自由と異なり自ら情報を獲得しようとする積極的行動に関わるので憲法上保障されるか問題となる。

[重要判例]
(博多駅テレビフィルム事件、最大決S44.11.26)
佐世保港に米軍空母が入港し博多駅で反対派の学生のデモ隊と機動隊が衝突した件につき裁判所がテレビ局に放送済みのニュースフィルムの提出を求めたが拒否されたので提出命令は発令されテレビ局の取材の自由が保障されるかが争われた事件。
判示(1)報道機関の報道は民主主義社会において国民が国政に関与するんつき重要な判断の資料を提供し国民の「知る権利」に奉仕するものである。したがって思想の表明の自由とならんで事実の報道の自由は表現の自由を想定した憲法21条の保障のもとにあることはいうまでもない。また、このような報道機関の報道が正しい内容をもつためには報道の自由とともに報道のための取材の自由も憲法21条の精神に照らし十分尊重に値するものといわなければならない。
(2)取材の自由といっても、もとより何らの制限を受けないものではなく、たとえば公正な裁判の実現というような憲法上の要請がある時は、ある程度の制約を受けることのあることも否定することができない。
(3)公正な刑事裁判の実現を保障するために報道機関の取材活動によって得られたものが証拠として制約を蒙ることとなってもやむを得ないところというべきである。しかしながら(中略)他面において取材したものを証拠として提出させられることによって報道機関の取材の自由が妨げられる程度およびこれが報道の自由に及ぼす影響の度合その他諸般の事情を比較衡量して決せられるべきであり、これを刑事裁判の証拠として使用することがやむを得ないと認められる場合においても、それによって受ける報道機関の不利益が必要な限度をこえないように配慮されねばならない

裁判所ではなく捜査機関が報道機関の取材活動によって得られたものを証拠として押収することは取材の自由の侵害となるのだろうか。

判例は公正な刑事裁判を実現するためには適正迅速な捜査が不可欠の前提であり報道の自由ないし取材の自由に対する制約の許否に関しては裁判所の提出命令と捜査機関による押収との間に本質的な差異はないとして検察官ないし警察官による報道機関の取材ビデオテープの押収を認めている。(最決H1.1.30、最決H2.7.9)

報道機関による政府情報の取材については国家機密との関係で取材の自由の限界が問題となる。

[重要判例]
(外務省秘密漏洩事件、最決S53.5.31)
外務省の事務官とかなり強引に肉体関係をもち、これに乗じて外務省極秘電文を入手した新聞記者の取材行為に国家公務員法の定める「秘密漏示そそのかし罪」が成立するかが争われた事件。
判示報道機関が取材の目的で公務員に対し秘密を漏示するようにそそのかしたからといって、そのことだけで直ちに当該行為の違憲性が推定されるものと解するのは相当でなく(中略)それが真に報道の目的から出たものであり、その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限りは実質的に違法性を欠き正当な業務行為というべきである。しかしながら(中略)取材の手段・方法が贈賄、脅迫、強要等の一般の刑罰法令に触れる行為を伴う場合は勿論、その手段・方法が一般の刑罰法令に触れないものであっても取材対象者の個人としての人格の尊厳を著しく躊躙する等法秩序全体の精神に照らし社会観念上是認することのできない態様のものである場合にも正当な取材活動の範囲を逸脱し違憲性を帯びるものといわなければならない。

[重要判例]
(法廷メモ採取事件、最大判H1.3.8)
アメリカ人弁護士レペタ氏が裁判を傍聴するにあたりメモをとる許可を申請したが裁判長により不許可とされたので損害賠償を求め憲法21条で法廷においてメモをとる自由が保障さるかが争われた事件。
判示(1)筆記行為の自由は憲法21条1項の規定の精神に照らして尊重されるべきであるといわなければならない。
(2)傍聴人が法廷においてメモを取ることは、その見聞する裁判を認識、記憶するためになされるものである限り尊重に値し故なく妨げられてはならないものというべきである。

※本判決は結論的には裁判長の措置は違法とはいえないとして損害賠償を認めなかった。

人の名誉を傷つける表現は無制約に認められるわけではなく名誉棄損行為は刑法の名誉棄損罪(刑法230条)として刑事罰の対象となる。

しかし、たとえば国会議員や犯罪行為に関する事実については名誉棄損的な表現であっても社会的価値が認められる場合がある。

そこで刑法230条の2により表現の自由と名誉権の調整がなされる。

[重要条文]
1 前条(刑法230条)第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には事実の真否を判断し真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2 前項の規定の適用については公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は公共の利害に関する事実とみなう。
3 前条(刑法230条)第1項の行為が公務員または公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には事実の真否を判断し事実であることの証明があったときは、これを罰しない。(刑法230条の2)

[重要判例]
(夕刊和歌山時事事件、最大判S44.6.25)
事実を真実であると確信して新聞記事を書いたが実際には事実でなかったため記者が名誉棄損罪に問われた事件。
判示刑法230条の2の規定は人格権としての個人の名誉の保護と憲法21条による正当な言論の保障との調和をはかったものというべきであり、これら両者間の調和と均衡を考慮するならば、たとい刑法230条の2第1項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは犯罪の故意がなく名誉棄損の罪は成立しない

※名誉棄損罪は故意に他人の名誉を傷つけた場合に限り成立するが本判決は記者に故意がないことを理由に名誉棄損罪が成立しないとしたものだ。

プライバシーを侵害する行為は不法行為となるだろうか。

プライバシーと表現の自由との調整が問題となる。

[重要判例]
(『宴のあと』事件、東京地判S39.9.28)
自分をモデルとした小説によりプライバシーを侵害されたとして作者および出版社に対し損害賠償と謝罪広告を求めた裁判でプライバシーと表現の自由との関係が争われた事件。
判示プライバシーの侵害に対し法的な救済が与えられるためには公開された内容が(1)私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られる恐れのあることがらであること(2)一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合公開を欲しないであろうと認められることであること(中略)(3)一般の人々に未だ知られていないことがらであることを必要とし、このような公開によって当該私人が実際に不快、不安の念を覚えたことを必要とするが公開されたところが当該私人の名誉、信用というような他の法益を侵害するものであることを要しないのは言うまでない。

選挙運動の自由は憲法21条の表現の自由として保障される。

選挙権を行使して公権力の行使者を選定するという選挙本来の意義を十分発揮させるためには有権者が必要かつ十分な判断材料をもたなければならない。

そのため言論や出版などを通じての選挙運動の自由は不可欠となる。

他方で選挙運動を放任すると買収等の腐敗が生まれ選挙の公正が害されるなどの弊害が生じる。

そこで公職選挙法が選挙運動の方法について規制している。

③表現の自由の限界

表現の自由を中心に精神的自由権を規制する法律は経済的自由権を規制する法律より特に厳しい基準で憲法違反か審査しないといけない。

つまり精神的自由権と経済的自由権とで合憲性の審査基準を分ける考え方だ。(二重の基準論

二重の基準論においては精神的自由権を制約する法律についての憲法判断は裁判所が積極的に介入して厳格に行うべきだ。

これに対して経済的自由権を制約する法律についての憲法判断については国会の判断を尊重するべきだ。

[合憲性の審査基準]
文面審査】(事前抑制の理論)
      (明確性の理論)
適用審査】(明白かつ現在の危険の基準)
      (LRAの基準)

事前抑制の理論とは表現に対する公権力による事前の抑制を排除するとの理論をいう。

例外として許されるのは裁判所による差止とデモ行進の届出制だ。

事前抑制の具体例として代表的なものに検閲がある。

検閲は接待的に禁止される。(憲法21条2項)

[重要判例]
(札幌税関検査事件、最大判S59.12.12)
書籍の輸入申告に対し税関長が輸入禁制品に該当する旨を通知したため、その取消しを求めた裁判で税関検査が検閲にあたるかが争われた事件。
判示「検閲」とは行政権が主体となって思想内容等の表現物を対象とし、その全部または一部の発表の禁止を目的として対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に発表前にその内容を審査した上、不適用と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるものを指すと解すべきである。

本判決は税関検査は(1)思想内容を網羅的一般的に審査することを目的としないこと(2)一般に国外においては発表済みの表現物を対象とすること(3)輸入禁止処分に対しては司法審査の機会が与えられることから総合的に考察して検閲にはあたらないとした。

明確性の理論とは精神的自由を規制する立法はその要件が明確でなければならないとする理論だ。

明白かつ現在の危険の基準とは(1)近い将来、実質的害悪を引き起こす蓋然性が明白であり(2)実質的害悪が重大であり(3)当該規制手段が害悪を避けるのに必要不可欠であることの3要件が認められる場合に表現行為を規制できるとするものだ。

LRAの基準は規制手段が広範囲である点が問題の法令に対して立法目的を達成するため規制の程度のより少ない手段が存在するかを具体的、実質的に審査し、それが存在する場合は当該立法を違憲とする基準のことだ。

学問の自由

①学問の自由とは

学問の自由とは個人の真理の探究を国家が圧迫、干渉した場合に排除することができる権利のことだ。

学問が真理の探究にかかわり人類の文化発展にとって有意義でありながら時として政治に対し批判的な態度をとることがあったことから国家権力がその自由を封じ段級してきたという歴史がある。

学問の自由】(学問研究の自由)
       (研究結果発表の自由)
       (教授の自由)

②大学の自治

大学の自治とは大学における研究教育の自由の十分な保障のため大学の内部行政は大学の自主的な決定に任せ大学内の問題への外部勢力の干渉を排除することだ。

大学の自治】(人事、財政、研究、教授の内容の自主決定権)
       (施設の自主管理権)
       (学生の自主管理権)

[重要判例]
(東大ポポロ事件、最大判S38.5.22)
東京大学の学内において学生団体の演劇発表会において潜入していた私服警察官に暴行を加えた学生が暴行行為等処罰法違反に問われ大学の自治と警察権との関係が争われた事件。
判示(1)大学の学問の自由と自治は(中略)直接には教授その他の研究者の研究その結果の発表、研究結果の教授の自由とこれらを保障するための自治とを意味すると解される。大学の施設と学生は、これらの自由と自治の効果として(中略)学生も学問の自由と施設の利用を認められるのである。
(2)大学における学生の集会も、右の範囲において自由と自治を認められるのであって(中略)実社会の政治的社会的活動に当たる行為をする場合には大学が有する特別の学問の自由と自治は享有しないといわなければならない。

1章 憲法 レッスン4 精神的自由権以外の自由権

経済的自由権

①居住および移動の自由、職業選択の自由

[重要条文]
何人も公共の福祉に反しない限り居住、移動および職業選択の自由を有する。(憲法22条1項)

職業選択の自由は自己が従事する職業を決定する自由を意味する。

たとえば酪農家になりたい者に国家が「昨今、酪農家は飽和状態なので認めない」と禁止することはできない。

また職業選択の自由は営業の自由すなわち自分が選択した職業を行う自由を含む

職業を自由に選択できても、それを実行する自由がなければ意味がないからだ。

職業選択の自由は一般に表現の自由などの精神的自由権に比べ、より強い規制を受けるとされる。

その理由は第一に職業選択の自由も社会における公共の安全や秩序維持の観点から行われる消極的な内在的制約を服すると考えられるからだ。

第二に憲法22条1項は特に「公共の福祉に反しない限り」と規定しており職業選択の自由は弱者救済などの福祉国家理念の実現を目的とする積極的な政策的制約に復すると考えられるからだ。

規制の方法は主として国民の生命および健康に関する危険を防止するためになされる消極目的規制と社会的・経済的弱者を保護するためになされる積極的規制とに分かれる。

規制の目的による分類であることから規制目的2分論という。

消極目的規制とは警察的規制ともよばれ貸金業の許可制、理容業の届出、弁護士や医師の資格制が具体例だ。

規制の合憲性判定基準合理性の基準が用いられる。

この基準は立法目的および立法目的達成手段の双方について一般人を基準にして合理性が認められるかを審査するものだ。

合理性の基準は精神的自由の規制の判断基準よりも緩やかな基準だ。

この合理性の基準は立法府の判断に合理性があることを前提とする。

つまり原則として合憲性が推定される。

合理性の基準は消極的規制に用いられる厳格な合理性の基準と積極目的規制に用いられる明白性の原則とに分かれる。(二分論)

[規制目的二分論と合憲性判定基準]
消極目的規制厳格な合理性の基準→裁判所が規制目的の必要性、合理性および「同じ目的を達成できる、より緩やかな規制手段」の有無を立法事実に基づき審査
積極目的規制明白性の原則→当該規制が著しく不合理であることの明白である場合に限って違憲とするもの

[重要判例]
(小売市場距離制限事件、最大判S47.11.22)
小売市場の適正配置規制を定める小売商業調整特別措置法の規定が憲法22条1項に反し違憲であるかが争われた事件。
判示本法所定の小売市場の許可規制は国が社会経済の調和的発展を企図するという観点から中小企業保護政策の一方策としてとった措置ということができ、その目的において一応の合理性を認めることができないわけではなく、また、その規制の手段・態様においても、それが著しく不合理であることが明白であるとは認められない。そうすると本法3条1項、同法施行令1条、2条所定の小売市場の許可規制が憲法22条1項に違反するものとすることができないことは明らかである。

[重要判例]
(薬局距離制限事件、最大判S50.4.30)
薬局の適正配置規制を定める薬事法の規定が憲法22条1項に反し違憲であるかが争われた事件。
判示(1)適正配置規制は主として国民の生命および健康に対する危険の防止という消極的、警察的目的のための規制措置である。
(2)薬局等の設置場所の地域的制限の必要性と合理性を裏づける理由として被上告人の指摘する薬局等の偏在ー競争激化ー一部薬局等の経営の不安定ー不良医薬品の供給の危険または医薬品乱用の助長の弊害という事由は、いずれもいまだそれによって右の必要性と合理性を肯定するに足りず、また、これらの事由を総合しても右の結論を動かすものではない。
(3)無薬局地域または過少薬局地域における医薬品供給の確保のためには他にもその方策があると考えられる。
(4)以上のとおり薬局の開設等の許可基準の一つとして地域的制限を定めた薬事法6条2項、4項は不良医薬品の供給の防止等の目的のために必要かつ合理的な規制を定めたものということができないから憲法22条1項に違反し無効である

[重要判例]
(公衆浴場距離制限事件、最判H1.3.7)
公衆浴場(銭湯)の適正配置規制を定めた公衆浴場法の規定が憲法22条1項に反し違憲であるかが争われた事件。
判示(公衆浴場)法2条2項による適正配置規制の目的は国民保健および環境衛生の確保にあるとともに(中略)既存公衆浴場業者の経営の安定を図ることにより自家風呂を持たない国民にとって必要不可欠な厚生施設である公衆浴場自体を確保しようとすることも、その目的としているものと解されるのであり前記適正配置規制は右目的を達成するための必要かつ合理的な範囲内の手段と考えられるので前記大法廷判例に従い(公衆浴場)法2条2項および大阪府公衆浴場法施行条例2条は憲法22条1項に違反しないと解するべきである。

[重要判例]
(酒類販売免許制事件、最判H4.12.15)
酒類販売業の免許制を定める酒税法の規定が憲法22条1項に反し違憲であるか争われた事件。
判示(1)職業の自由に対する規制措置は事情に応じて各種各様の形をとるため、その憲法22条1項適合性を一律に論ずることはできず具体的な規制措置について規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容および制限の程度を検討し、これらを比較考量した上で慎重に決定されなければならない。
(2)租税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家のの財政目的のための職業の許可制による規制については、その必要性と合理性についての立法府の判断が政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので著しく不合理なものでない限り、これを憲法22条1項の規定に違反するものということはできない

[重要条文]
1 何人も公共の福祉に反しない限り居住、移転および職業選択の自由を有す
2 何人も外国に移住し又は国籍を離脱する自由を侵されない。(憲法22条)

居住および移転の自由は自由に自己の住所または居所を決定し移動することを内容とし旅行の自由も含まれる。

また海外渡航の自由は憲法22条2項の「外国に移住する自由」に含まれるとされる。(帆足計事件、最大判S33.9.10)

②財産権の保障

[重要条文]
1 財産権は、これを侵してはならない
2 財産権の内容は公共の福祉に適合するように法律でこれを定める。
3 私有財産は正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。(憲法29条)

憲法29条1項が規定する財産権とは、どのようなものだろうか。

たとえば土地や宝石といった物を所有する権利が保障されていると考えるのが普通だ。

日本国憲法は、このような具体的な財産のみならず具体的な財産権の前提となる私有財産制自体も保障している。

財産権も社会における公共の安全や秩序維持の観点から消極的な内在的制約に服する。

さらに憲法29条2項では1項で保障される財産権が公共の福祉による制約を受けると定めている。

財産権が政策的な制約、つまり積極目的の規制にも服するという意味だと考えられている。

[重要判例]
(森林法共有林事件、最大判S62.4.22)
持分価格2分の1以下の共有者の分割請求を禁止する森林法186条の規定が憲法29条2項に反し違憲であるか争われた事件。
判示(1)同条(森林法186条)の立法目的は(中略)森林の細分化を防止することによって森林経営の安定を図り、ひいては森林の保続培養と森林の生産力の増進を図り、もって国民経済の発展に資することにあると解すべきである。
(2)森林法189条が共有森林につき持分価額2分の1以下の共有者に民法256条1項所定の分割請求権を否定しているのは森林法186条の立法目的との関係において合理性と必要性のいずれをも肯定することのできないことが明らかであって、この点に関する立法府の判断は、その合理的裁量の範囲を超えるものであるといわねばならない。したがって同条は憲法29条2項に違反し無効というべきであるから共有森林につき持分価額2分の1以下の共有者についても民法256条1項本文の適用があるものというべきである。

(追記 2021.9.3)

憲法は1レッスンが10頁を超えることもあり非常に時間がかかるし疲れる。

判例も多く興味ない箇所の判例は読み飛ばしている。

にしても裁判官が書く判決文って何で読み難いんだろう。

将来、裁判官になる人って学校で国語より算数が得意かも。

憲法29条3項の定める「正当な補償」のことを損失補償という。

たとえばダムの建設のために個人の土地が収用されたとすれば国民は水道水の確保や洪水の防止という利益を得られるが反面、土地を失った人は損失をこうむる。

そのために損失補償制度が必要だ。

また「公共のために用いる」とは広く公益にために財産に損失が加えられる場合をいう。

私有財産を公共のために用いるには常に補償が必要な場合について判例は以下の2つの要件を満たすことを要求する。(特別の犠牲

[補償が必要な場合]
(1)特定人に対する財産権の制約であること
(2)財産権の本質を害するような強度な制約であること

正当な補償とは損失補償が財産権を保障するためのものである以上原則として完全な補償を意味する。

しかし常に完全な補償を必要とせず相当な補償で足りるというのが近時の判例の傾向だ。

財産を制限する個々の法律に損失補償の規定がなければ損失補償を求められないだろう。

これについては判例は憲法29条3項の規定に基づき損失補償を請求する余地があるとして、そのような法律も合憲としている。(河川附近地制限令違反事件、最大判S43.11.27)

人身の自由

①奴隷的拘束からの自由

[重要条文]
何人も、いかなる奴隷的拘束を受けない。また犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。(憲法18条)

現在では品減誰しも奴隷的な拘束を受けないというのは当然のことにように思われる。

しかし過去には奴隷的な拘束が行われたという歴史があり、その反省の上に立ち明文が置かれた。

②適正手続の保障

[重要条文]
何人も法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、またはその他の刑罰を科せられない。(憲法31条)

人身の自由についての基本原則を定めているのが憲法31条の規定だ。

憲法31条は「法律の定める手続」と規定しており条文上は手続を法律で定めさえすれば良いようにみえる。

しかし手続がいくら法定されていても、その内容が適正でなければ結局のところ「手続が適正」であるとはいえない。

したがって判例は手続内容の適正さまでが要求されると判断している。

さらに実体法の法定および内容の適正までもが憲法31条で要求されると考えられている。

なお「法律」には地方公共団体の制定する自主立法である「条例」も含まれると解釈されてている。

公権力が国民に刑罰その他の不利益を科そうとする場合に当事者にあらかじめ内容を告知し当事者に弁解防御の機会を与える必要がある。

一方的な嫌疑だけで刑罰等の不利益を科してしまうと万が一嫌疑が誤りだった(冤罪)場合に人権侵害は取り返しがつかないからだ。

[重要判例]
(第三者所有物没収事件、最判S37.11.28)
密輸に関係する貨物の没収判決が被告人以外の第三者の所有物も対象としてなされ当該第三者に事前に告知と聴聞の機会を与えす没収することが違憲であるかが争われた事件。
判示(憲法)31条は何人も法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、またはその他の刑罰を科せられないと規定しているが第三者の所有物の没収は被告人に対する附加系として言い渡され、その刑事処分の効果が第三者に及ぶものであるから所有物を没収せられる第三者についても告知、弁解、防禦の機会を与えることが必要であって、これなくして第三者の所有物を没収することは適正な法律手続によらないで財産権を侵害する制裁を科するに外ならないからである。(中略)従って前記関税法118条1項によって第三者の所有物を没収することは憲法31条、29条に違反するものと断ぜざるをえない

憲法31条は刑事手続に関する規定だが行政手続には適用されないのだろうか。

現在、行政権は肥大化し行政による国民生活の権利保障にとって無視できない重要性をもつに至っている。

したがって憲法31条の趣旨は行政手続にも準用されると考えられている。

この点につき最高裁は成田新法事件(最判H4.7.1)において行政手続は刑事手続きでないとの理由のみで当然に憲法31条の保障の枠外にあると判断すべきでないと判示している。

③被疑者および被告人の権利

[重要条文]
何人も現行犯として逮捕される場合を除いては権限を有する司法官憲が発し且つ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ逮捕されない。(憲法33条)

逮捕状…裁判官が捜査機関に被疑者の逮捕を認める場合に発する令状。

勾引状…裁判所また裁判官が被告人や証人を一定の場所に引到するため発する令状。

勾留状…裁判所また裁判官が被疑者また被告人を拘束するため発する令状。

現行犯逮捕…犯行の現場で逮捕すること。証拠隠滅や逃走防止の必要が高く不当逮捕となるおそれば少ないので例外とされる。

[重要条文]
何人も理由を直ちに告げられ且つ直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ抑留または拘禁されない。また何人も正当な理由がなければ拘禁されず要求があれば、その理由は直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。(憲法34条)

憲法33条は犯罪による逮捕には原則として司法官憲が発する逮捕状、勾引状、勾留状などの令状が必要であるとする。

これを令状主義という。

恣意的な人身の自由の侵害を阻止するためだ。

憲法33条の例外が現行犯逮捕だ。

また憲法34条の抑留とは一時的な身体拘束をいい拘禁とは抑留より継続的な身体拘束をいう。

[重要条文]
1 何人も、その住居、書類及び所持品について侵入、捜索および押収を受けることのない権利は第33条の場合を除いては正当な理由に基づいて発せられ且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ侵されない
2 捜索又は押収は権限を有する司法官憲(裁判官)が発する各別の令状により行う。(憲法35条)

住居は人の生活の中心だ。

捜索する場所および押収する物の明示された令状以外の令状は禁止される。

たとえば判例は行政調査目的での家屋への立入りであっても刑事責任追及を目的とするものでないとの理由のみで一切の強制が当然に本条の保障の枠外と判断するのは相当でないとしている。

[重要条文]
公務員による拷問及び残虐な刑罰は絶対にこれを禁ずる。(憲法36条)

最高裁は憲法に刑罰としての死刑の存置を想定し是認する規定があることを指摘し現行の絞首刑による死刑そのもは残虐な刑罰にあたらないとしている。(最判S23.3.12)

[重要条文]
1 すべて刑事事件においては被告人は公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
2 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられ、また公費で自己のための強制的手続により証人を求める権利を有する。
3 刑事被告人は、いかなる場合にも資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは国でこれを附する。(憲法37条)

公平な裁判所とは公正その他において偏頗の恐れのない裁判所ことだ。(最大判S23.5.26)

迅速な裁判とは不当に遅延した裁判ではないことだ。

裁判が遅延すると被告人に有利な証拠が失われかねず未決段階の身柄の拘束が長期化するためだ。

公開裁判とは対審および判決が公開の法廷で行われる裁判のことだ。

[重要条文]
何人も自己に不利益な供述を強要されない。(憲法38条1項)

「自己に不利益な供述」とは本人の刑事責任に関する不利益な供述つまり有罪判決の基礎となる事実や量刑上不利益となる事実の供述をいう。

これを強要されない権利のことを一般に「黙秘権」という。

[重要判例]
(川崎民商事件、最判S47.11.22)
所得税法に基づく税務署職員の検査を拒んだ被告人に罰金が科されたところ、この検査が憲法38条1項に反し違憲であるかが争われた事件。
判示右規定(憲法38条1項)による保障は純然たる刑事手続においてばかりでなく、それ以外の手続においても実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続には、等しく及ぶものと解するのを相当とする。

[重要条文]
2 強制、拷問若しくは強迫による自白または不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
3 何人も自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には有罪とされ、または刑罰に科せられない。(憲法38条2項、3項)

拷問や脅迫などによる本人の任意に基づかない自白は証拠として認められない。

また、たとえ任意性のある自白であっても、これを補強する証拠が別にない限り有罪の証拠とすることができない。

[重要条文]
何人も実行の時に適法であった行為または既に無罪とされた行為については刑事上の責任を問われない。また同一の犯罪について重ねて刑事上の責任を問れない。(憲法39条)

憲法39条前段前半の部分は事後法の禁止ないし遡及処罰の禁止を定めている。

いずれも罪刑法定主義の重要な内容だ。

また憲法39条前段後半の部分は一事不再理の原則、憲法39条後段の部分はいわゆる二重処罰の禁止を規定したものだ。

[重要条文]
何人も抑留または拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは法律の定めるところにより国にその補償を求めることができる。(憲法40条)

憲法40条は受益権である刑事補償請求権を定めたものだ。

本条を受けて刑事補償法が制定された。

1章 憲法 レッスン5 その他の憲法上の権利義務

受益権(国務請求権)

受益権国務請求権)とは国家に対して要求する権利のうち社会権以外をさす。

①請願権

[重要条文]
何人も損害の救済、公務員の罷免、法律、命令または規則の制定、廃止または改正その他の事項に関し平穏に請願する権利を有し何人も、かかる請願をしたために如何なる差別待遇も受けない。(憲法16条)

請願とは国または地方公共団体の機関に対して意見や要望を述べることをいう。

現代では国民主権に基づく議会政治は発達しており言論の自由が広く認められている請願権の意義は相対的に減少している。

しかし今なお国民の意思表明の重要な手段として参政権的な役割を果たしている。

請願権は、あくまでも意見や希望を述べる権利であり請願を受けた機関は、それを受理し誠実に処理する義務を負うのみであり(請願法5条)請願に法的に拘束されない。

②国家賠償請求権

[重要条文]
何人も公務員の不法行為により損害を受けたときは法律の定めるところにより国または公共団体に、その賠償を求めることができる。(憲法17条)

国家賠償制度は公務員の不法行為について国または公共団体の損害賠償責任を認める制度だ。

憲法17条を受けて国家賠償法が制定されている。

明治権法では国家賠償については何も規定されてない

国家無答責の原則が支配していた。

③裁判を受ける権利

[重要条文]
何人も裁判所において裁判を受ける権利を奪われない。(憲法32条)

日本国憲法は裁判所による違憲審査権を採用している。

したがって法の支配を実現し個人の基本的人権を保障する最後のよりどころは裁判所だ。

ここでいう裁判所は、そのようなものでもよいというわけではなく平等かつ公平なものでなければならない。

④刑事補償請求権

刑事補償請求権(憲法40条)は刑事裁判の被告人についての受益権だ。

司法官憲の故意または過失の有無に関わりなく国民に生じた不利益を補償ところに特徴がある。

つまり適法行為についても補償が行われる。

社会権

社会権は国民が国に対して一定の行為を要求する作為請求権だ。

この点において国の介入の排除を目的とする、いわば不作為請求権である自由権とは異なる。

①生存権

[重要条文]
すべての国民は健康で文化的な最低限の生活を営む権利を有する。(憲法25条1項)

生存権は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利だ。

憲法25条1項の規定は国が国民に対し「健康で文化的な最低限度の生活」が送れるよう配慮するという政治的義務を定めるにすぎないと考えられている。

つまり、この規定は訓示的な規定であり憲法25条は法規範性をもたないと考えられている。

生存権は、その内容を具体化する法律を制定されることによって、具体的な権利になるとされている。

生存権が法規範性をもたないとする考え方を「プログラム規定説」という。

その理由として以下の理由があげられる。

(1)資本主義体制の下では個人の生活は自助(自活すること)の原則が妥当し生存権を具体的権利とする前提を欠く。
(2)具体的な実施に必要な予算が国の財政政策等の問題として政府の裁量に委ねられている。

憲法25条の趣旨を実現するために制定された法律として老人福祉法国民年金法食品衛生法などがある。

[重要判例]
(朝日訴訟、最大判S42.5.24)
厚生大臣(当時)の設定した日用品費の生活扶助額が憲法25条1項および生活保護法に反し違憲であるかが争われた事件。
判示(1)この規定(25条1項)は、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり直接個々の国民に対して具体的権利を賦与したものではない。具体的権利としては憲法の規定の趣旨を実現するために制定された生活保護法によって、はじめて与えられているというべきである。
(2)何が健康で文化的な最低限度の生活であるかの認定判断は、いちおう厚生大臣の合目的的な裁量に委されており、その判断は当不当の問題として政府の政治責任が問われることはあっても直ちに違法の問題を生ずることはない。

[重要判例]
(堀木訴訟、最大判S57.7.7)
児童扶養手当の定める併給調整条項が25条に反し違憲であるかが争われた事件。
判示憲法25条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き、裁判所が審査判断するに適さない事柄であるといわなければならない。

②教育を受ける権利

[重要条文]
1 すべて国民は法律の定めるところにより、その能力に応じて等しく教育を受ける権利を有する。
2 すべて国民は法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負う。義務教育は、これを無償とする。(憲法26条)

教育を受ける権利は自由権と社会権の両側面を有する。

たとえば親が子に有名な私立学校へ行かせたいと考えている場合、国や地方公共団体が公立学校への進学を強制することはできない。(自由権的側面

教育を受ける権利は国家に対して教育条件の向上や教育施設の整備の要求ができる。(社会権的側面

教育を受ける権利は今日では子供の学習権という考え方を中心に捉えられている。

学習権とは一般に子が教育を受けて学習し人間的に発達し成長していく権利をさす。

この教育を受ける権利に対応して子供に教育を与える義務を負うべき者は第一次的には親となり第二次的には国とされる。

親は義務教育制度との関係で子供を就学させる義務を負い国は教育条件を整備するべき義務を負っている。

教育権とは教育をする権利をさし教育の内容や方法を決定する権利を含む

教育権については、たとえば小学1年生から外国語教育をカリキュラムに取り入れるといったことを決められるのは誰かが問題となる。

これについて判例は国民つまり親や教師に一定の範囲で教育の自由が認められると同時に国の側も一定の範囲で教育内容について決定する権能を有するとしている。

[重要判例]
(旭川学テ事件、最大判S51.5.21)
旭川市の中学校で文部省(当時)の指示に基づいて行われた全国学力テストに対し実施に反対する教師が実力による阻止行動をとったため公務執行妨害罪等で起訴された事件。
判示(1)この規定(26条)の背後には国民各自が一個の人間として、また一市民として成長、発達し自己の人格を完成、実現するために必要な学習をする固有の権利を有すること特に、みずから学習することのできない子供は、その学習要求を充足するための教育を自己に施すことを大人一般に対して要求する権利を有するとの概念が存在している。
(2)普通教育の場においても(中略)(教師に)一定の範囲における教授の自由が保障されるべきことを肯定できないではない。しかし(中略)普通教育における教師に完全な教授を自由に認めることは、とうてい許されない。
(3)親の教育の自由は主として家庭教育等学校外における教育や学校選択の自由にあらわれるものと考えられるし、また私学教育における自由や前述した教師の教授の自由も、それぞれ限られた一定の範囲においてこれを肯定するのが相当であるけれど、それ以外の領域において一般に社会公共的な問題について国民全体の意思を組織的に決定、実現すべき立場にある国は(中略)必要かつ相当と認められる範囲において教育内容についてもこれを決定する機能を有する

憲法26条2項にいう「無償」とは義務教育に係る一切の費用を無償とするまでを要求せず授業料の無償を定めたものとされている。(最大判S39.2.26)

ただし法律により義務教育において教科書は無償とされている。

③勤労の権利・労働基本権

[重要条文]
1 すべて国民は勤労の権利を有し義務を負う。
2 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は法律でこれ定める。
3 児童は、これを酷使してはならない。(憲法27条)

[重要条文]
勤労者の団結する権利および団体交渉その他の団体活動をする権利は、これを保障する。(憲法28条)

19-20世紀に資本主義の発達の過程における過酷な労働条件の反省から制定された。

労働者と使用者の実質的な対等を図るには労働基本権の補償が必要であり憲法28条が規定された。

憲法28条にいう勤労者とは労働力の提供により対価を得る者をいう。

公務員ももちろん勤労者だ。

[基本労働権の内容]
団結権】労働者の団結を組織する権利(労働組合結成権
団体交渉権】労働者の団体が使用者と労働条件について交渉する権利
団体行動権】労働者の団体が労働条件の実現を図るたねに団体行動(ストライキなどの争議行為)を行う権利(争議権)

[労働基本権(労働三権)の特色]
社会権的側面】国に対し労働者の労働基本権を保障する措置を要求し国は施策を実施すべき義務を負う。
自由権的側面】労働基本権を制限する立法その他の国家行為を国に対して禁止する。
私人間の適用】私人間に直接適用される。→争議行為について労働者に民事免責が与えられる。(労働組合法8条)

参政権

参政権とは主権者である国民が直接的または間接的に政治に参加する権利をいう。

それ例として選挙権、被選挙権などがあげられる。

参政権は憲法の基本原理である国民主権および民主主義を実現するため不可欠な基本的人権だ。

[選挙に関する基本原則]
普通選挙】財力、教育、性別等を選挙権の要件としない制度⇔制限選挙
平等選挙】選挙権の価値は平等すなわち1人1票を原則とする制度⇔複数選挙、等級選挙
自由選挙】棄権しても罰金、公民権停止、氏名公表等の制裁を受けない制度⇔強制選挙
秘密選挙】誰に投票したかを秘密にする制度⇔公開選挙
直接選挙】選挙人が公務員を直接選挙する制度⇔間接選挙

国民の義務

[国民の三大義務]
教育すべて国民は法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負う。(憲法26条2項)
勤労】すべての国民は勤労の権利を有し義務を負う。(憲法27条1項)
納税】国民は法律の定めるところにより納税の義務を負う。(憲法30条)

1章 憲法 レッスン6 国会

国会の地位

国会の地位を学ぶ前に権力分立の原理を理解する必要がある。

権力分立とは国家の諸作用を性質に応じて立法、行政、司法に区分し各作用を異なる機関に担わせるよう分離し相互に抑制と均衡を保たせる制度をさす。(憲法41条、65条、76条)
①国民の代表機関

[重要条文]
両議院は全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。(憲法43条1項)

全国民の「代表」とは「国民は代表機関を通じて行動し代表機関は国民の意思を反映するものとみなされる」と言う意味だ。(政治的意味の代表)≠法的意味の代表

国会議員は選挙民の意思に従わない政治活動をしても法的責任は問われない。(自由委任

だとしても自由委任を前提に選挙により表明された国民の多元的な意思を国会にできる限り忠実に反映されるべきだ。(社会学的代表

②国権の最高機関

[重要条文]
国会は国権の最高機関であって国の唯一の立法機関である。(憲法41条)

国会は主権者である国民によって直接選任された国民に直結し憲法上、立法権をはじめ重要な機能を与えられた国政の中心的地位を占める機関であると政治的に強調している。(政治的美称説)

だが国会は他の機関に対して優越的な地位にあったり特別な権能を有するわけではない。

③唯一の立法機関

立法の意味として(1)形式的に「法律」という法規範を定めるという考え方(形式的意味の立法説)(2)名称に関わらず実質的な内容をもつ法規範を定めるという考え方(実質的意味の立法説)がある。

実質的意味の法律説が通説となっている。

実質的意味の法律とは一般的・抽象的な法規範をさす。

「唯一」の立法機関であるとは(1)国会中心立法の原則(2)国会単独立法の原則の2つを意味する。

[国会中心立法の原則]
意義】国の行う立法は憲法に特別な定めがある場合を除き国会を通じてなされなければならない原則
例外】(1)議院規則制定権:衆議院と参議院がそれぞれ個別に制定する(国会一つで意思決定し制定していない)⇒各議院の自律権を理由に憲法上、例外とされる(2)最高裁判所の規則制定権(3)内閣が制定する政令など委任命令:個別的な法律による具体的な委任(法律の委任)があれば国会中心立法の原則に反せず例外として認められる⇒包括的、白紙的な委任は認められない(4)地方公共団体の条例制定権

[国会単独立法の原則]
意義】国会による立法は国会以外の機関の参与を必要としないで成立するという原則
例外】(1)内閣の法案提出権:法律は法案の提出⇒審議⇒表決という過程を経て成立するが最初の段階に内閣が関与することが憲法上認められる(理由1)行政の専門化および技術化に対応するには内閣に法案提出権を認めた方が良い(理由2)立法過程で最も重要な審議および表決は国会で行うこと(2)地方自治体特別法制定のための住民投票:1地方自治体のみに適用される法律を制定するには、その地方の住民の投票が必要(憲法95条)→地方自治特別法が適用される地方住民の意思を尊重するため憲法上、例外とされる。

国会の組織

①二院制

[重要条文]
国会は衆議院および参議院の両議院でこれで構成する。(憲法42条)

二院制の理由を下記に記す。

議会の専制防止】二院の間に抑制均衡の関係をもたせ議会の多数派の暴走を未然に防止する
下院と政府との衝突の緩和】衆議院と政府が対立したとき参議院が間に入る
下院の軽率な行動、過誤の回避】参議院が衆議院の暴走に歯止めをかけたり衆議院の誤りを指摘する
民意の忠実な反映】選挙区や任期が異なるように定め多様な民意の反映を可能にする

②衆議院の優越

憲法は多くの重要な問題の処理について衆議院の優越を認めている。

理由として(1)議員の任期や解散制度等からみて衆議院の方が民意をより忠実に反映している。(2)二院対等の場合と比較して国会と内閣の関係がより単純化され安定した政治を実現できる。

[衆議院の優越]
憲法上の優越
権限自体が衆議院のみ認められたもの…内閣不信任決議(憲法69条)予算先議権(憲法60条1項)
権限は参議院にも認められるが衆議院の決議が優先するもの…法律案の決議(憲法59条2項、4項)予算の決議(憲法60条2項)条約の承認(憲法61条)内閣総理大臣の指名(憲法67条2項)
法律上の優越
国会の臨時会および特別会の会期の決定、国会の会期の延長(国会法13条)

③選挙

選挙区とは選挙人団を区分する基準となる区域をさす。

大選挙区】二人以上の議員を選出する選挙区
小選挙区】一人の議員を選出する選挙区

代表の方法は3種類に分かれる。

多数代表制】選挙区の投票者の多数派から議員を選出させようとする代表方法
少数代表制】選挙区の投票者の少数派からも議員を選出することができる代表方法
比例代表制】多数派、少数派の各派に対して得票数に比例した議員の選出を認めた代表方法

政党は国民が国家の意思形成の過程に関与するための「媒介」をなしので議会制民主主義を支える重要な役割を果たす。

政党は憲法上は明文で規定されてないが「結社」に含まれ保障を受ける。(憲法21条1項)

国会の活動

①会期

[重要条文]
国会の常会は毎年1回これを招集する。(憲法52条)

[重要条文]
内閣は国会の臨時会の招集を決定することができる。いづれかの総議員の4分の1以上の要求があれば内閣はその招集を決定しなければならない。(憲法53条)

[重要条文]
衆議院が解散されたときは解散の日から40日以内に衆議院議員の総選挙を行い、その選挙の日から30日以内に国会を召集しなければならない。(憲法54条1項)

[会期の種類]
常会】毎年1回、定期に召集される(憲法52条)
臨時会】臨時の必要に応じて召集される(憲法53条)
特別会】衆議院が解散され総選挙が行われた後に召集される(憲法54条1項)

国会は会期ごとに活動する。(会期独立の原則)

国会の会期中に議決されなかった案件は後会に継続されない。(国会法68条本文)

②参議院の緊急集会

[重要条文]
2 衆議院が解散されたときは参議院は同時に閉会となる。ただし内閣は国に緊急の必要があるときは参議院の緊急招集会を求めることができる。
3 前項但書の緊急集会において採られた措置は臨時のものであって次の国会開会の後10日以内に衆議院の同意がない場合は、その効力を失う。(憲法54条2項、3項)

衆議院が解散されると参議院も同時に閉会となり会期が終了する。

そして衆議院の総選挙が施行され特別会が召集されるまでの間は衆議院は存在しないことになるので国会を召集することができない。

そこで、この間に国に緊急の必要がある時に参議院を招集し国会の代行をさせる制度を参議院の緊急集会という。

緊急集会は、あくまでも緊急の必要がある時に臨時に召集されるものなので招集することができるのは内閣のみだ。

③会議の原則

[重要条文]
両議院は各々その総議員の3分の1以上の出席がなければ議事を開き議決することができない。(憲法56条1項)

定足数とは合議体が活動するために必要な最小限の出席者の数をさす。

[重要条文]
両議院の議事は、この憲法に特別の定のある場合を除いて出席議員の過半数でこれを決し可否同数のときは議長の決するところによる。(憲法56条2項)

[憲法で定める表決数の例外]
出席議員の2/3以上で決すべき場合】
議員の資格喪失(憲法55条)議院の資格に関する争訟の裁判において議員の議席を失わせる場合
秘密会の開催(憲法57条1項)原則として公開しなければならない両議院の会議を秘密会とする場合
議員の除名(憲法58条2項)院内の秩序を乱した議員に対する懲罰として議員を除名する場合
法律案の再議決(憲法59条2項)衆議院で可決し参議院でもれと異なった議決をした法案につき衆議院で再び可決しようとする場合
総議員の2/3以上で決すべき場合】
憲法改正の発議(憲法96条1項)憲法の改正案を決定し国民の承認を求める場合

国会議員の地位

①歳費受領権

[重要条文]
両議院の議員は法律の定めるところにより国庫から相当額の歳費を受ける。(憲法49条)

議院は裁判官と異なり減額の禁止までは保障されてない

したがって歳費は法律の定めにより減額することができる。

②不逮捕特権

[重要条文]
両議院の議員は法律の定める場合を除いて国会の会期中は逮捕されず会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば会期中これを釈放しなければならない。(憲法50条)

国会議員には不逮捕特権が認められる。

これは行政権による逮捕権の濫用を防ぎ議員の活動の自由を確保する趣旨だ。

この趣旨から院外での現行犯や院の承諾があれば逮捕権の濫用は考えられないので「法律の定める」例外として会期中でも逮捕される。(国会法33条)

③免責特権

[重要条文]
両議院の議員は議院で行った演説、討論または表決について院外で責任を問われない。(憲法51条)

免責特権は議院での自由な活動を補償するためのものだ。

したがって、その対象となるのは議院の活動として議員が職務上行った行為であり職務活動に附随する行為を含む。

免責されるのは民事責任、刑事責任、懲戒責任などの「院外での」法的な責任だ。

したがって院内の懲罰責任は免責されない。

国会の権能

①法律の制定権

[重要条文]
1 法律案は、この憲法に特別の定めのある場合は除いては両議院で可決したとき法律となる。
2 衆議院で可決し参議院でこれと異なった議決をした法律案は衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再び可決したときは法律となる。
3 前項の規定は法律の定めるところにより衆議院が両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。
4 参議院が衆議院の可決した法律案を受け取った後、国会休会中の期間を除いて60日以内に議決しないときは衆議院は参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。(憲法59条)

国会は国の唯一の立法機関だ。

また法律案の議決について衆議院の優越が認められる。

②条件締結の承認権

[重要条文]
条約の締結に必要な国会の承認については前条(60条)第2項の規定を準用する。(憲法61条)

現代の複雑な国際政治情勢の下で、さまざまな利益を比較衡量しつつ迅速かつ円滑に条約を成立させるには条約締結権を内閣に専属させることが適切だ。

ただし内閣の条約締結権には国会の承認が必要とされている。

その趣旨は行政権の行う外交に民主的コントロールを及ぼすことにある。

③弾劾裁判所の設置権

[重要条文]
国会は罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するために両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。(憲法64条1項)

弾劾裁判所は裁判官の職務上の義務の著しい違反や職務の甚だしい怠慢および細管間の威信を著しく失う非行について罷免の訴追を受けた裁判官を裁判する裁判所だ。

④内閣総理大臣の指名権

[重要条文]
内閣総理大臣国会議員の中から国会の決議で、これを指名する。この指名は他のすべての案件に先だって、これを行う。(憲法67条1項)

内閣総理大臣の指名権は衆議院の内閣不信任決議権とともに議院内閣制の基礎となるものだ。

⑤財政監督権

財政に関する国会の監督権は国会が保持する権能のなかでも法律の議決権と並び重要な権能の一つだ。(憲法60条、83条-91条)

⑥憲法改正の発議権

[重要条文]
この憲法の改正は各議院の総議員の3分の2以上の賛成で国会が、これを発議し国民に提案してその承認を得なければならない。この承認には特別の国民投票または国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成を必要とする。(憲法96条1項)

憲法改正の手続は国会の発議から始まる。

憲法改正の発議権は国会の最も重要な権能の一つだ。

議院の権能

①議院自律権

議院自律権とは各議院が他の議院を含む国家機関から監督や干渉を受けないで、その組織や運営などに関して自主的に決定できる権能をさす。

[組織に関する自律権]
会期前に逮捕された議員の釈放要求権】国会の会期前に逮捕された議員について法律の定めがある場合を除き会期中の釈放を要求することができる。(憲法50条)
議員の資格争訟の裁判権】議員の資格に関する争訟について裁判することができる。(憲法55条)
役員選任権】議長その他の役員を選任することができる。(憲法58条1項)

[重要条文]
両議院は各々その会議その他の手続および内部の規律に関する規則を定め又院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。但し議員を除名するには出席議員の3分の2以上の多数による議決を必要とする。(憲法58条2項)

議院は、その自律性から自ら組織の運営に関するルールを自ら決めることが認められている。

また、そのルールを破るなど院内の秩序を乱した者に対して各議院が懲罰を与えることが認めれている。

②国政調査権

[重要条文]
両議院は各々国政に関する調査を行い、これに関して証人の出頭および証言ならびに記録の提出を要求できる。(憲法62条)

国政調査権は各議院が、それぞれ立法、行政および司法の国の政治全般に対して調査する権能をさす。

国政調査権の法的性質について補助的機能説が通説とされる。

これは国政調査権は議院が立法その他の機能を行使するための手段として認められた補助的な機能だと考えるものだ。

つまり議員は、その機能を有効・適切に行使するための資料収集等を目的としてのみ調査を行うことができることになる。

なお、このように解すると国政調査権の及ぶ範囲が狭くなりそうだが国会の権能は純粋に私的な事項を除いて国政全般にわたるので不都合はない。

国政調査権は議院の補助的権能と考えられるから調査の目的は立法、予算審議、行政監督など議院の憲法上の権能を行使するためのものでなければならない。

また調査対象と方法にも権力分立と人権の原理から制約がある。

裁判所は少数者の人権を保護するという重大な職責(自由主義)を担っている。

そこで司法権の独立を侵害しない限度でしか国政調査権を行使することができない。

検察事務は行政権の作用だから原則として国政調査権の対象となる。

しかし起訴または不起訴に関する検察権の行使に政治的圧力を加えることが目的の調査や起訴事件に直接関係する事項や公訴追行の内容を対象とする調査、捜査の続行に重大な影響を与えるような調査などは許されない。

国政調査権の目的は行政に対する監督にあるといえるから行政権については行政処分の取消しや停止とならない限り行政全般にわたって調査することができる。

③内閣不信任決議権

内閣不信任議決権は内閣を信任しない旨の決議を行う権能だ。

衆議院にのみ認められている。(憲法69条)

議院内閣制の基礎となる権能だ。

1章 憲法 レッスン7 内閣

行政権

①行政権とは

[重要条文]
行政権は内閣に属する。(憲法65条)

行政権とは、すべての国家作用のうちから立法作用司法作用を除いた残りの作用をさす。

福祉国家現象により行政権の果たす役割が増大している現在、行政権を漏れなく定義すると、このようになると考えられている。

②議院内閣制

議院内閣制は三権分立の下、議会と政府が一応分離したうえで政府が議会の信任の上に立つという仕組みをとるこおとにより政府に議会に対する責任を負わせるという制度だ。

日本国憲法が議院内閣制をとるという明文の規定は置いてないが以下の条文を根拠に議院内閣制を採用していると考えられている。

[重要条文]
内閣総理大臣その他の国務大臣は両議院の一に議席を有すると有しないとに関わらず何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。また答弁または説明のため出席を求められたときは出席しなければならない。(憲法63条)

議員が国務大臣に質問し、あるいは国務大臣が議院で説明する機会を確保するため内閣総理大臣その他の国務大臣に議院に出席する権利および義務が認められている。

[重要条文]
内閣は行政権の行使について国会に対し連帯して責任を負う。(憲法66条3項)

ここでいう責任とは政治的責任のことであり損害賠償責任などの法的責任は発生するのではない

[重要条文]
内閣総理大臣国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は他のすべての案件に先だって、これを行う。(憲法67条1項)

政府の長である内閣総理大臣の指名手続について国会議員であること、かつ他のすべてに先立って国会の議決で指名することとし議会の統制を政府に及ぼそうとしたものだ。

[重要条文]
1 内閣総理大臣は国務大臣を任命する。ただし、その過半数は国会議員の中から選ばれなければならない。
2 内閣総理大臣は任意に国務大臣を罷免することができる。(憲法68条)

内閣総理大臣に国務大臣の任免権と国務大臣の過半数が国会議員であることを要件と定め内閣の一体性と統一性を求めている。

[重要条文]
内閣は衆議院で不信任の決議案を可決し又は信任の決議案を否決したとき10日以内に衆議院が解散されない限り総辞職をしなければならない。(憲法69条)

衆議院が内閣を信任しない場合に内閣として(1)総辞職するか(2)衆議院を解散するか、どちらかで責任をとる。

[重要条文]
天皇は内閣の助言と承認により国民のため左に国事に関する行為を行う。
三 衆議院を解散すること。(憲法7条3号)

衆議院の解散とは任期が満了する前に衆議院議員全員の資格を失わせることをいう。

解散権が形式的に天皇にあることははっきりしており(憲法7条)実質的には解散権が内閣にあることも疑いがない。

しかし実質的な解散権の根拠と、これに関連する解散権の限界については考え方が分かれる。

通説および判例は7条3号説をとっているといわれる。

[解散権の所在に関する考え方]
③独立行政委員会

独立行政委員会とは特定の行政について内閣から独立した地位でその職権を行使することを認められている合議体の行政機関をさす。

[独立行政委員会の具体例]
(1)人事院
(2)中央労働員会
(3)公正取引委員会
(4)国家公安委員会
(5)公害等調整委員会

政治的な中立性が要求される行政および専門性ないし技術性の要請される行政について、これを円滑化し国民の権利実現を図ることを趣旨とする制度だ。

憲法上、行政権は内閣に属し(憲法65条)内閣の代表である内閣総理大臣が行政各部を指揮監督するとされている。(憲法72条)

そこで内閣から独立している独立ぎょうせう委員会は憲法65条に反しないかが問題となる。

この点は憲法65条に反しないとする結論にほぼ異論はないが、その理由としては独立行政員会も内閣の指揮管理の下にあるという考え方と憲法65条は例外を一切認めない趣旨ではないという考え方とがある。

内閣の組織

①内閣の構成

内閣は行政権を担当する国の機関だ。

行政活動は内閣のみではないので実際には多くの行政機関を必要とする。

内閣は行政各部を指揮監督し行政全体を総合調整し統括する。

行政権】⇒【内閣】⇒【行政各部】⇒【国民

内閣は内閣総理大臣とその他の国務大臣で組織する合議体だ。

国務大臣は内閣の構成員なので内閣の構成員という資格のみで行政事務を担当しない無任所大臣も認められる。

原則として国務大臣の数は14名以内である。

ただし特別の必要がある場合は17名まで許される。(内閣法2条2項)

そして内閣は行政各部を指揮監督するが行政各部の上に国務大臣を配置し各省の長として行政事務を分担、管理させている。

国務大臣委は内閣という合議体の一員という側面と、それぞれの行政各部の長という側面とがある。

内閣は国会に対して連帯責任を負うため(憲法66条3項)内閣の一体性が必要になってきる。

この点、内閣では慣習上、原則として全員一致で意思決定をしている。

②内閣総理大臣と国務大臣

[重要条文]
1 内閣は法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣およびその他の国務大臣でこれを組織する。
2 内閣総理大臣その他の国務大臣は文民(⇔軍人)でなければならない。
3 内閣は行政権の行使につて国会に対し連帯して責任を負う。(憲法66条)

内閣総理大臣は国会議員の中から国会の議決で指名し(憲法67条1項)天皇が任命する。(憲法6条1項)

内閣総理大臣の資格として(1)国会議員であること(憲法67条1項)(2)文民であること(憲法66条2項)が要求される。

内閣総理大臣の権限は4つある。

[重要条文]
1 内閣総理大臣は国務大臣を任命する。ただし、その過半数国会議員の中から選ばなければならない。
2 内閣総理大臣は任意に国務大臣を罷免することができる。(憲法68条)

[重要条文]
内閣総理大臣は内閣を代表して議案を国会に提出し一般国務および外交関係について国会に報告し並びに行政各部を指揮監督する。(憲法72条)

[重要条文]
法律および政令には、すべて主任の国務大臣が署名内閣総理大臣が連署することを必要とする。(憲法74条)

内閣は国会でつくられた法律を誠実に執行しなければならず(憲法73条1号)法律への連署は法律の執行における責任を明らかにする意味がある。

[重要条文]
国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ訴追されない。ただし、これがため訴追の権利は害されない。(憲法75条)

国務大臣の訴追には内閣総理大臣の同意が必要とされる。

[内閣総理大臣の権限]
(1)国務大臣の信免(憲法68条)
(2)国会への議案の提出、国務の報告等(憲法72条)
(3)法律、政令への連署(憲法74条)
(4)国務大臣の訴追への同意(憲法75条)

③内閣総辞職

[重要条文]
内閣は衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したとき10日以内に衆議院が解散されない限り総辞職をしなければならない。(憲法69条)

[重要条文]
内閣総理大臣が欠けたとき、又は衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があったときは内閣は総辞職をしなければならない。(憲法70条)

[重要条文]
前2条(69条、70条)の場合には内閣は新たに内閣総理大臣が任命されるまで引き続きその職務を行う。(憲法71条)

内閣はいつでも総辞職をすることができる。

次の場合には総辞職を義務づけられる。

(1)衆議院で不信任の決議案が可決し、または信任の決議案が否決した時10日以内に衆議院が解散されない場合
(2)内閣総理大臣が欠けた場合⇒死亡、内閣総理大臣たる資格の喪失(辞職、除名、資格争訟の裁判等による議員の身分の喪失等)
(3)衆議院銀総選挙の後にはじめて国会の召集があった場合

衆議院が解散された場合も特別会が召集された時に内閣は総辞職する。(憲法70条)

新たな内閣総理大臣が任命されるまでは引き続き旧内閣が職務を行う。(憲法71条)

内閣の権能

①内閣の主な権能

内閣は行政権の中枢として広範囲な行政権を行使する。

[重要条文]
内閣は他の一般行政事務の外、左の事務を行う。
一 法律を誠実に執行国務を総理すること。
二 外交関係を処理すること。
三 条約を締結すること。ただし事前に時宣によっては事後に国会の承認を経ることを必要とする。
四 法律の定める基準に従い官史に関する事務を掌理すること。
五 予算を作成して国会に提出すること
六 この憲法および法律の規定を実施するために政令を制定すること。ただし政令には特にその法律の委任がある場合を除いては罰則を設けることができない
七 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除および復権を決定すること。(憲法73条)

官吏に関する事務の掌理(憲法73条4号)として内閣は国家公務員の人事行政につき法定に基準に従い処理する。

予算の作成と国会への提出(憲法73条5号)とは財政に対する民主的なコントロールを図るため予算を国会へ提出し国会の審議を受けて決議を経る。

政令の制定(憲法73条6号)は憲法および法律の規定を実施するために行う。

②他の国家機関との関係

天皇は憲法の定める国事に関する行為のみ行い国政に関する権能を有さない。(憲法4条1項)

この国事に関する行為については内閣が実質的に意思決定を行い、その結果について責任を負う。

[重要条文]
天皇の国事に関するすべての行為には内閣の助言と承認を必要とし内閣が、その責任を負う。(憲法3条)

[重要条文]
天皇は内閣の助言と承認により国民のために左の国事に関する行為を行う。
一 憲法改正、法律、政令および条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 衆議院を解散すること。
四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
五 国務大臣および法律の定めるその他の官吏の任免ならびに全権委任状および大使ならび公使の信任状を認証すること。
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除および復権を認証すること。
七 栄典を授与すること。
八 批准書および法律の定めるその他のが外交文書を認証すること。
九 外国の大使および行使を接授すること。
十 儀式を行うこと。(憲法7条)

国会の会期外に国会の活動が必要になった時のために内閣に召集権が認められている。

[重要条文]
内閣は国会の臨時会の招集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば内閣は、その招集を決定しなければならない。(憲法53条)

臨時会と同様の趣旨で参議院の緊急集会の召集権が認められている。

[重要条文]
衆議院が解散されたときは参議院は同時に閉会となる。但し内閣国に緊急の必要があるときは参議院の緊急集会を求めることができる。(憲法54条2項)

財政民主主義の観点から種々の統制が行われている。

[重要条文]
内閣は毎会計年度の予算を作成し国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。(憲法86条)

[重要条文]
予見し難い予算の不足に充てるため国会の議決に基いて予備費を設け内閣の責任でこれを支出することができる。(憲法87条1項)

[重要条文]
国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し内閣は次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。(憲法90条1項)

[重要条文]
内閣は国会および国民に対し定期に少なくとも毎年1回、国の財政状況について報告しなければならない。(憲法91条)

権力分立の表れとして内閣に裁判官の指名権ないし任命権が認められている。

[重要条文]
天皇内閣の指名に基いて最高裁判所の長たる裁判官を任命する。(憲法6条2項)

[重要条文]
最高裁判所は、その長たる裁判官および法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官内閣でこれを任命する。(憲法79条1項)

[重要条文]
下級裁判所の裁判官最高裁判所の指名した者の名簿によって内閣でこれを任命する。その裁判官は任期を10年とし再任されることができる。但し法律の定める年齢に達した時には退官する。(憲法80条1項)

下級裁判所は最高裁判所を除く裁判所つまり高等裁判所、地方裁判所、簡易裁判所および家庭裁判所をさす。

③内閣の責任

明治憲法天皇に対して各国務大臣が単独に負う
日本国憲法】内閣は行政権全般について国会に対し連帯して責任を負う。(1)政治責任であり法的責任ではない(2)連帯責任である(3)(2)の例外として特定の国務大臣の個別責任の追及可能

1章 憲法 レッスン8 裁判所

司法権

①司法権の意味

[重要条文]
すべて司法権は最高裁判所および法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。(憲法76条1項)

司法権とは具体的に争訟について法を適用し宣言することによって、これを裁定する国家の作用をさす。

[司法権を構成する要素]
(1)具体的な争訟の存在
(2)適正手続の要請等に則った特別の手続
(3)独立した裁判
(4)正しい法の適用を保障する作用であること

特別裁判所の設置を禁止し行政機関による終審裁判を禁止している。(憲法76条2項)

日本国憲法が施行される以前は行政事件は特別裁判所である行政裁判所の管轄とされていた。

つまり司法権の範囲は民事裁判と刑事裁判のみとされた。

日本国憲法は公平かつ公平な裁判を実現するため、すべての裁判作用を司法権に含むこととした。

②法律上の争訟

司法権を構成する要素の中で最も重要なのは「具体的な争訟」だ。

この具体的な争訟にあたらなければ原則として裁判による救済を受けることができないからだ。

裁判所法の3条1項にいう「法律上の争訟」も具体的な争訟のことを指すとされる。

法律上の争訟とは「当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の在否に関する紛争であって、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるもの」をいうとされている。(最大判S56.4.7)

司法権の対象となるのは具体的な紛争であり具体的な紛争とは無関係に裁判所に抽象的な法令の解釈や効力についての審査を求めることはできない。(警察予備隊違憲訴訟、最大判S27.10.8)

たとえば国会が検閲を許す法律を制定し行政機関がこれを執行し表現者Aが検閲を受けたとする。

この場合にAは訴訟を提起して自分に対して行われた検閲の憲法違反および検閲の根拠となった法律の憲法違反を主張することができる。

これに対して、たとえばAの友人のBがAに対する検閲に腹を立てていてもBが検閲を受けた訳ではないのでBは具体的な紛争が生じてないので司法権の発動を求めるこおtができない。
[重要判例]
板まんだら事件(最大判S56.4.7)
宗教団体に寄付した元信者が本尊(板まんだら)が本物だと誤信して寄付したとして民法95条の錯誤による無効を主張し寄付金の返還を求めた事件
判示本訴訟は具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争の形式をとっており、その結果信仰の対象の価値または宗教上の教義に関する判断は請求の当否を決するについての前提問題であるにとどまるものとされているが本件訴訟の帰すうを左右する必要不可欠のものと認められ(中略)結局本件訴訟は、その実質において法令の適用による終局的な解決の不可能なものであって裁判所法3条にいう法律上の争訟にはあたらないものといわなけれなならない。

③司法権の限界

司法権の限界とは法律上の争訟ではあるが裁判所が司法審査をしない、またはできない事項をさす。

[憲法の明文上の限界]
議員の資格争訟の裁判】議院の自律権の問題→各議院で裁判
裁判官の弾劾裁判】両議院の議員からなる弾劾裁判所を設置→通常の裁判所では裁判できない

[国際法上の限界]
国際法上の限界として、たとえば外交官の治外法権や条約による裁判権の制限などなる。

[自律権]
国会または各議院の内部における議事手続(56条)や懲罰(58条2項)については他の機関からの圧迫や干渉を受けずに判断できなければならない。(自律性

この点、裁判所による司法審査も他の機関からの圧迫、干渉となるので裁判所は各議院の議事手続や懲罰については司法審査ができないとうことになる。

[自由裁量]
国務大臣の任命および罷免(68条)や国務大臣の訴追の同意(75条)は内閣総理大臣にのみ認められている権限(専権事項)だ。

恩赦の決定(73条7号)は内閣にその判断が委ねられている。

したがって、これらの行為については裁判所の司法審査が及ばないとされている。

[統治行為]
三権を担う機関のうち国会は選挙で国民によって選出された議員からなる。

内閣は国会の信任によって成立する。

つまり国会と内閣とは民主的な機関であるといえ政治部門といわれる。

これに対して裁判所は少数者の人権保障のため国会や内閣と比べて民主的基盤が弱く政治的に中立であることを求められる。

したがって高度に政治性のある行為については政治部門のなかで解決されるのが望ましいと考えられ法的判断が可能であっても裁判所は司法審査をしないとされている。

判例は、その根拠に権力分立をあげている。

[重要判例]
苫米地事件(最大判S35.6.8)
衆議院のいわゆる抜打ち解散により議員の地位を失った者が解散は無効であるとして国に歳費の支払いを求めた事件
判示直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為のごときは、たとえそれが法律上の争訟となり、これに対する有効無効の判断が法律上可能である場合であっても、かかる国家行為は裁判所の審査権の外にあり、その判断は主権者たる国民の政治判断に委ねられるものと解すべきである。この司法権に対する制約は結局、三権分立の原理に由来し当該国家行為の高度の政治性、裁判所の司法機関としての性格、裁判に必然的に随伴する手続上の制約等にかんがみ特定の明文による規定はないけれど司法権の憲法上の本質に内在する制約と理解すべきである。

[重要判例]
砂川事件(最大判S34.12.16)
駐留軍が使用する館川基地を拡張するための測量に反対するデモ隊員が基地内に立ち入ったため、いわゆる刑事特別法2条違反に問われた事件
判示本件安全保障条約は主権国としてのわが国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有するものとすべきであって、その内容が違憲なりや否やの法的判断は、その条約を締結した内閣およびこれを承認した国会の高度の政治的ないし自由裁量的判断と表裏をなす点がすくなくない。それ故、右違憲なりや否やの法的判断は純司法的機能をその使命とする司法裁判所の審査には原則としてなじまない性質のものであり、従って一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは裁判所は司法審査権の範囲外のものであって、それは第一次的には右条約の締結権を有する内閣および、これに対して承認権を有する国会の判断に従うべく終局的には主権を有する国民の政治的判断に委ねるべきものと解するを相当とする。

[部分社会の法理]
市民社会の中には、たとえば政党や学校のサークルなど部分部分に個別の社会が存在する。

これらの部分社会の中には、それぞれの個別の規範(ルール)がある。

これらの部分社会内部の紛争については一般市民社会と直接関係を有しない限り部分社会における自治を尊重し、その部分社会内部の規範によって解決するべきであり司法審査の対象とならないと考えられる。

このような考えを部分社会の法理という。

[重要判例]
地方議会議員出席停止懲罰事件(最大判S35.10.19)
地方議会の議員が出席停止の懲罰を受けたため懲罰の無効または取消しを求めた事件
判示一口に法律上の係争といっても、その範囲は広汎であり、その中には事柄の特質上司法裁判権の対象の外におくを相当とするものがあるのである。けだし自律的な法規範をもつ社会ないし団体に在っては当該規範の実現を内部規律の問題として自治的措置に任せ必ずしも裁判にまつを適当としないものがあるからである。本件における出席停止の如き懲罰はまさにそれに該当するものと解するを相当とする。

判例は地方議会の懲罰でも議員の除名処分は議員の身分の喪失に関する重大事項で単なる内部的規律の問題にととまらないので司法審査の対象となる。(最大判S35.3.9)

[重要判例]
共産党袴田事件(最判S63.12.20)
政党が党の規律違反を理由に除名処分とした党員に対し党所有の家屋の明渡しを求め除名処分の効力が争われた事件
判示政党が党員に対してした処分が一般市民秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り裁判所の審査権は及ばないというべきであり、他方、右処分が一般市民としての権利利益を侵害する場合であっても右処分の当否は当該政党の自律的に定めた規範が公序良俗に反するなどの特段の事情がない限り右規範に照らし右規範を有しないときは条理に基づき適正な手続に則ってされたか否かによって決すべきであり、その審理も右の点に限られるものといわなければならない。

裁判所の組織

①裁判所の種類と構成

[重要条文]
最高裁判所は、その長たる裁判官および法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は内閣でこれを任命する。(憲法79条1項)

裁判所は最高裁判所下級裁判所に分かれる。

下級裁判所は高等裁判所地方裁判所家庭裁判所および簡易裁判所の4つがある。

下級裁判所の裁判官は最高裁判所の指名した者の名簿によって内閣でこれを任命する。

その裁判官は任期を10年とし再任されることができる。

ただし法律の定める年齢に達した時には退官する。(憲法80条1項)

[重要条文]
特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関終審として裁判をおこなうことができない。(憲法76条2項)

憲法は法の支配の原理をとっているので、すべての最判は通常の司法裁判所一系列で行われる。

それを憲法76条が規定している。

なお行政機関も終審ではなく「前審」としてなら裁判を行うことができる。(76条2項後段の反対解釈)

行政機関による判断を認めた方が、より正確かつ迅速な審理を行うことができるといえるからだ。

②規則制定権

[重要条文]
1 最高裁判所は訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律および司法事務処理に関する事項について規則を定める権限を有する
2 検察官は最高裁判所の定める規則に従わなければならない。
3 最高裁判所は下級裁判所に関する規則を定める権限を下級裁判所に委任することができる。(憲法77条)

③最高裁判所裁判官の国民審査

[重要条文]
2 最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後10年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。
3 前項の場合において投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は罷免される。
4 審査に関する事項は法律でこれを定める。(憲法79条2項-4項)

最高裁判所は法律などが憲法に適合するか否かを決定する権限を有する終審裁判所という重要な役割を果たしている。(憲法81条)

そこで国民が直接に裁判官を制御する制度として国民審査が規定されている。

判例は国民審査の法的性質は国民が罷免を可とした者を解職する「リコール制」であるとしている。(最大判S27.2.20)

④裁判の公開

[重要条文]
1 裁判の対審および判決は公開法廷でこれを行う。
2 裁判所が裁判官の全員一致で公の秩序または善良の風俗を害する虞があると決した場合には対審は公開しないでこれを行うことができる。但し政治犯罪、出版に関する犯罪または、この憲法第三章で保障する国民の権利が問題となっている事件の対審は常にこれを公開しなければならない。(憲法82条)

[裁判公開の原則と例外]
原則】裁判の対審判決公開法廷で行う
例外】次の両方に該当する場合は対審を非公開とできる(1)裁判官が全員一致したこと(2)公の秩序または善良の風俗を害する恐れがあると決したとき
例外の例外(原則に戻る)】次のいずれかに該当する場合は常に対審を公開しなくてはならない(1)政治犯罪(2)出版に関わる犯罪(3)憲法第三章で保障する国民の権利が問題となっている事件

司法権の独立

①司法権の独立とは

[重要条文]
すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、この憲法および法律にのみ拘束される。(憲法76条3項)

裁判で最も大事なことは裁判が公正に行われることだ。

たとえば行政側が訴えら行政機関の圧力に屈して国民の権利が実現されないことがあってならない。

そこで裁判所および裁判官は他の機関から圧力や干渉を受けないようしなければならない。(司法権の独立

裁判官には職権行使の独立や身分保障が定められている。

個々の裁判官が独立して職権行使できるよう全体としての裁判所が他の国家機関から独立して活動できるような仕組みが必要だ。(司法府の独立

まず実際に裁判を行う裁判官が他から干渉を受けないで自由に裁判ができるようにしなければならない。

そこで裁判官には職権行使の独立や身分保障を定められている。

次に個々の裁判官が独立して職権行使できるようにするため全体としての裁判所が他の国家機関から独立して活動を行えるような仕組みが必要だ。(司法府の独立)

[司法権の独立の内容]
個々の裁判官の職権行使の独立(司法権の独立の中核)→職権行使の独立の実効性を保障するため個々の裁判官の身分を保障
司法府の独立→職権行使の独立を他の国家機関の不当な圧力や干渉から守る

②裁判官の身分保障

裁判官の職権行使の独立を実効性あるものとするため裁判官は身分が保障されてねばならない。

[裁判官の罷免事由]
(1)心身の故障…病気の場合など
(2)公の弾劾…弾劾裁判所による裁判
(3)最高裁判所裁判官の国民審査

[重要条文]
裁判官は裁判により心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては公の弾劾によらなければ罷免されない。(憲法78条前段)

懲戒権限は裁判所自身に与えられており行政機関による懲戒は許されない。(憲法78条後段)

裁判官は定期かつ相当額の報酬の保障と、その減額の禁止が憲法上定められている。

[重要条文]
最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は在任中、これを減額することができない。(憲法79条6項)

[重要条文]
下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は在任中、これを減額することができない。(憲法80条2項)

違憲審査権

①違憲審査権とは

[重要条文]
最高裁判所は一切の法律、命令、規則または処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。(憲法81条)

憲法は国家の根本法ないし基本法であり他の法令や国務に関する行為などよりも上位にある最高法規である。(憲法98条1項)

最高法規である憲法に反する法律は無効とされる。

なぜ憲法が最高法規であるかというと単に根本法ないし基本法だからというのみではなく、その内容に基本的人権の保障を規定しているからだ。(憲法97条)

よって違憲審査権は憲法の最高法規性を守ることを通じて国民の人権保障をしていくものだ。

[重要条文]
この憲法は国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅および国務に関するその他の行為の全部または一部は、その効力を有しない。(憲法98条1項)

裁判所はいかなる場合に違憲審査権を行使することができるかは2つ考え方がる。

[抽象的違憲審査制と付随的違憲審査制]
抽象的違憲審査制】具体的な訴訟とは関係なく法令自体の違憲性を主張して抽象的に違憲審査違権を行使できる
付随的違憲審査制具体的訴訟事件を裁判する際に、その前提として事件の解決に必要な限度で違憲審査権を行使できる

日本国憲法が司法権の帰属する裁判所に違憲審査権を与えている以上、裁判所が付随的違憲審査を行うことができるという点について争いはない。

では具体的な事件を離れて抽象的違憲審査権を行うことはできるだろうか。

通説および判例では、これを否定している。

その理由は(1)憲法81条は「第六章 司法」の章にあり司法とは具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する争いを前提とし、それに法令を適用して紛争を解決する作用であること、および(2)抽象的違憲審査を認めるならば憲法上それを積極的に明示する規定があるはずだが、そのような規定はないことだ。

②違憲審査権の内容

憲法上「最高裁判所」と規定されているが判例および通説は下級裁判所にも違憲審査権はあるとしている。(最大判S25.2.1)

違憲審査をする対象は「一切の法律、命令、規則または処分」だ。(憲法81条)

つまり憲法の下にある一切の国内法規範や個別具体的な公権的行為が含まれる。

違憲審査権の対象として特に問題になるのが条約だ。

条約は法律、命令、規則または処分に入ってないので対象にならないのか。

判例および通説は条約は違憲審査権の対象となる考えられる。

なぜなら条約には国内法的側面もあり、これを違憲無効とすれば条約の相手国を害することにならないからだ。

日米安保条約が高度の政治性を有することを理由に違憲判断を差し控えただけで条約であることは理由としていない。

そこで条約一般に対する違憲審査の可能性自体は認めたものと考えられる。

③違憲判決の効力

ある法律の規定について最高裁判所が違憲判決を下した場合に、その規定はどのように扱われるだろうか。

これについては以下の2種類の考え方がある。

[一般的効力説と個別的効力説]
一般的効力説】違憲とされた法律は一般的に無効となり削除されたと同様になる。《理由》(1)最高裁判所が合憲性について最終判断権をもっている以上、違憲と判断された法律は当然無効である(2)法的な安定性を重視すべきである(3)平等原則に合致する
個別的効力説】違憲とされた法律は当該事件に限って適用が排除される《理由》付随的審査制の下で当該事件の解決に必要な限りで審査が行われ違憲判決の効力も当該事件に限って及ぶと考えられる

わが国の通説となっているのは個別的効力説を前提として判決の効力は当該事件に限られるが国会は違憲とされた法律を速やかに改廃し政府はその執行を控え検察はその法律に基づく起訴を行わないなどの措置をとることを憲法はきたいしているとみなすべきだ。

1章 憲法 レッスン9 統治に関するその他の事項

天皇

①天皇の地位

[重要条文]
天皇は日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は主権の存する日本国民の総意に基く。(憲法1条)

日本国憲法は国民主権主義を採る一方、象徴天皇制という形で天皇制を存置(そのまま残しておく)した。

明治憲法時代の天皇にも国の象徴という側面があったが日本国憲法の象徴天皇制のおもな目的は天皇が国の象徴である役割以外の役割を担わないことを強調することにある。

[重要条文]
皇位は世襲のものであって国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。(憲法2条)

皇位の世襲制は14条の定める法の下の平等の大きな例外だ。

②天皇の権限

[重要条文]
天皇の国事に関するすべての行為には内閣の助言と承認を必要とし内閣が、その責任を負う。(憲法3条)

天皇の国事に関する行為には内閣の助言と承認が必要だ。

天皇の行為の結果については内閣が自ら責任を負い天皇は責任を問われない。(無答責

天皇は国事に関する行為のみを行い国政に関する権能を有しないとされている。(憲法4条1項)

[重要条文]
1 天皇は国会の指名に基いて内閣総理大臣を任命する。
2 天皇は内閣の指名に基いて最高裁判所の長たる裁判官を任命する。(憲法6条) 

[重要条文]
天皇は内閣の助言と承認により国民のために左の国事に関する行為を行う。
一 憲法改正、法律、政令および条例を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 衆議院を解散すること。
四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
五 国務大臣および法律の定めるその他の官史の任免並びに全権委任および大使および公使の信任状を認証すること。
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除および復権を認証すること。
七 栄典を授与すること。
八 外国の大使および公使を接受すること。
九 儀式を行うこと。(憲法7条)

③皇室財産

[重要条文]
皇室に財産を譲渡し、または皇室が財産を譲り受け若しくは賜与することは国会の決議に基づかなければならない。(憲法8条)

[重要条文]
すべての皇室財産は国に属する。すべて皇室の費用は予算に計上し国会の決議を経なければならない。(憲法88条)

皇室財産とは天皇の財産および皇族の財産をさす。

皇室財産は日本国憲法では「国に属する」ことになるので天皇や皇族の活動に要する費用(皇室費用)は予算に計上される。

皇室への財産の譲渡等は制限される。(憲法8条)

皇室に再び財産が集中したり皇室が特定の個人や団体と特別の関係を結び不当な支配力を有することになるのを防止する趣旨だ。 

財政

①財政の基本原則

[重要条文]
国の財政を処理する権限は国会の決議に基いて、これを行使なければならない。(憲法83条)

財政とは国家が、その任務を行うために必要な財力を取得し管理し使用する作用をさす。

つまり国家が国民から税金を徴収し予算を組み、それに基づいて支出するという一連の行為にことだ。

国家に必要な財力を負担するには国民だから財政は適正に運用されなければいけない。

そこで日本国憲法は他の一般行政作用と区別して特に一章を設け財政に国会の制御を強く及ぼす財政民主主義をとっている。

[重要条文]
あらたに租税を課し、または現行の租税を変更するには法律または法律の定める条件によることを必要とする。(憲法84条)

租税とは国または地方公共団体が課税権に基づき特別の役務に対する反対給付としてでなく経費に充てるため一方的、強制的に賦課徴収する金銭のことだ。

租税法律主義の主な内容として課税要件法定主義および課税要件明確主義がる。

課税要件法定主義】納税義務者、課税物件、課税標準、税率等の課税要件と税の賦課および徴収の手続が法律で定められなければならない
課税要件明確主義】課税要件、賦課および徴収を定める手続は誰でもその内容を理解できるように明確に定めなければならない

課税要件法定主義と家財要件明確主義によって新たな課税や現行の租税の変更に関して国民が予測可能となり租税に関する法律への国民の信頼が維持される。

条例は地方住民の代表である地方議会で定める自主法だから条例により「新たに租税を課し、または現行の租税を変更」しても84条の趣旨には反さないといえる。

したがって84条の規定する法律には条例も含まれる

[重要条文]
公金その他の公の財産は宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、または公の支配に属さない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、またはその利用に供してならない。(憲法89条)

89条前段は宗教上の組織もしくは団体への公金の支出を禁止することにより政教分離の原則を財政面から保障することを目的としている。

89条後段は公財産の濫用を防止し慈善事業等の営利目的傾向ないし公権力に対する依存性を排除するための規定と考えられる。(公費濫用防止説

②予算および決算

まず前提として国費の支出および国の債務負担行為は国会の決議に基づくことが必要である規定がある。

[重要条文]
国費を支出し、または国が債務を負担するには国会の決議に基づくことを必要とする。(憲法85条)

[重要条文]
内閣は毎会計年度の予算を作成し国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。(憲法86条)

予算の法的性格は一般の法律とは異なる特殊な法形式であると考えられる。(予算法形式説、多数説)

財政民主主義の観点から予算は政府を拘束する法規範と考えるべきだ。

しかし予算は以下に揚げる法律と違いがあるので法律とは言い切れない。

(1)予算は政府を拘束するのみで一般国民を直接拘束しない
(2)提出権が内閣に属する(憲法73条5号、86条)
(3)衆議院に先議権が認められている(憲法60条1項)
(4)衆議院の再議決制が認められていない(憲法60条2項)
(5)予算の効力は一会計年度に限定される

予算案について全面的否決権をもつ国会は減額の修正権ももつと考えられる。

また税制民主主義を強調する立場では増額修正も認められることになる。

予算と法律の不一致が以下の2つの場合に考えられる。

(1)予算を必要とする法律が成立したが、その執行に要する予算が不成立の場合→内閣は法律を誠実に執行する義務(憲法73条1項)を負っているので補正予算や予備費支出等の方法で対処べき
(2)予算は成立しているが、その予算の執行を命ずる法律が不成立の場合→内閣は支出を実行できず法律案を国会に提出し議決を求める。他方、国会は法律制定の義務を負わない

[重要条文]
1 予見し難しい予算の不足に充てるため国会の議決に基づいて予備費を設け内閣の責任でこれを支出することができる。
2 すべて予備費の支出については内閣は事後に国会の承諾を得なければならない。(憲法87条)

[重要条文]
1 国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し内閣は次の年度に、その検査報告とともに国会に提出しなければならない。
2 会計検査院の組織および権限は法律でこれを定める。(憲法90条)

国の収入支出に事後的な制御を及ぼすものだ。

[重要条文]
内閣は国会および国民に対し定期に少なくとも毎年1回、国の財政状況について報告しなければならない。(憲法91条)

報告は国会のみでなく国民に対しても直接行われる必要があるので本条が規定されている。

地方自治

①地方自治とは

地方自治とは一定の地域団体(地方公共団体)が住民の意思に基づいた政治を行うことだ。

地方自治の意義は民主主義の基盤を育成すること(民主主義的意義)および中央政府への権力集中を抑制し濫用から国民を保護すること(自由主義的意義)にある。

日本国憲法は第8章に「地方自治」の章を設け地方自治という公法上の制度を保障している。(制度的保障

[重要条文]
地方公共団体の組織および運営に関する事項は地方自治の本旨び基づいて法律でこれを定める。(憲法92条)

地方自治制度の中には国の法律をもっても侵すことのできない本質的な核心部分がある。

これを地方自治の本旨と呼ぶ。

地方自治の本旨は住民自治と団体自治をその本質的要素とするとされている。

住民自治とは地方自治が住民の意思により行われることだ。

住民自治は地方自治の民主主義的要素であり中央政府を補完する役割を果たす。

住民自治を具体化する規定として以下の3つがある。

(1)地方公共団体の長、議会の議員の直接選挙(憲法93条2項)
(2)地方自治特別法を制定する際の住民投票(憲法95条)
(3)直接請求を認める諸制度(条例の制定・改廃請求等)

団体自治とは国から独立した団体に地方自治が委ねられ団体の意思と責任の下で運営されることだ。

団体自治は地方自治の自由主義的要素であり中央政府に対する抑制・均衡の役割を果たす。

団体自治は94条により具体化される。

[重要条文]
地方公共団体は、その財産を管轄し事務を処理し、および行政を執行する権能を有し法律の範囲内で条例を制定することができる。(憲法94条)

②地方公共団体

地方公共団体とは一定の地域とそこに住む住民を構成要素とし、その地域に関連する公共的役務を実施する地域共同体だ。

地方自治法では地方公共団体は普通地方公共団体と特別地方公共団体とされている。(地方自治法1条の3)

しかし憲法上の地方公共団体は、これらのうち普通地方公共団体である都道府県市町村のことだとされている。

[重要条文]
1 地方公共団体には法律で定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
2 地方公共団体の、その議会の議員および法律の定めるその他の史員は、その地方公共団体の住民直接これを選挙する。(憲法93条)

憲法は国の政治については議院内閣制を採用しているのに対し地方自治では執行機関の首長制を基本としつつ議院内閣制の要素も加味している。

地方公共団体の機関は地方議会および地方公共団体の長だ。

地方議会は住民の直接選挙によって選任される議員によって組織された合議体だ。

中央における国会と同様、住民の代表機関かつ議決機関だが地方議会は執行機関(知事や知町村長)と対等な関係に立ち地方自治における最高機関でない点が違う。

地方公共団体の長とは地方公共団体を代表する職務を有する独任制(1人)の執行機関だ。

つまり都道府県知事および市区町村長だ。

任期は4年だが住民から解職請求を受けることがある。

長は議会の解散権を有する。

[重要条文]
地方公共団体は、その財産を管理し事務を処理し、および行政を執行する権能を有し法律の範囲内で条例を制定することができる。(憲法94条)

(1)財産の管理(2)事務の処理(3)行政の執行(4)条例の制定の4つが地方公共団体の機能だ。

このうち(2)の事務には本来地方公共団体がすべき仕事である自治事務と国が本来果たすべきものを代わりに行う法定委託事務とがある。

(4)の条例は自治事務だけでなく法定委託事務を実施するためにも法律の範囲内で制定できる。

[重要条文]
一つの地方公共団体のみ適用される特別法は法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ国会は、これを制定することができない。(憲法95条)

地方公共団体の差別的な取扱いや地方公共団体の間の不平等を防止するため特別法の立法には住民投票が必要とされている。

この特別法を地方自治特別法という。

憲法改正

①憲法改正とは

日本国憲法は一定の価値観を内包している。

すなわち立憲的意味の憲法を代表して(1)自由の基礎法(2)制限規範および(3)最高法規という3つの特質を有する。

このうち(3)最高法規とは憲法が国法秩序において最も強い効力を持つということだ。(形式的最高法規性)(憲法98条)

なぜ憲法が最高法規とされるかというと基本的人権を国家権力から不可侵のものとして保障しているからだ。

つまり(1)自由の基礎法であることが憲法の最高法規性の実質的根拠といえる。

そして基本的人権が永久不可侵であることを宣言するのが97条(実質的最高法規性)だ。

この97条が憲法改正手続を定めた96条の根拠だ。

[重要条文]
この憲法が日本国民に保障する基本的人権は人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は過去幾多の試練に堪へ現在および将来の国民に対し侵すことのできない永久の権利として信託されてものである。(憲法97条)

日本国憲法が硬性憲法という性格を有しているのも97条が実質的根拠となっている。

②憲法改正の手続

[重要条文]
1 この憲法の改正は各議院総議員の3分の2以上の賛成で国会が、これを発議し国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には特別の国民投票または国会の定める選挙の際行われる投票において過半数の賛成を必要とする。
2 憲法改正について前項の承認を経たときは天皇国民の名で、この憲法と一体をなすものとして直ちにこれを公布する。(憲法96条)

憲法改正の手続は国会の発議から始まる。

発議とは国民に提案される憲法改正案を国会が決定することをさす。

発議は(1)発案(2)審議(3)議決という過程を経て成立する。

発案】憲法改正の原案を提出する権限は各議員にある。
審議】審議手続は法律案の場合に準じて行うことができる。国会は原案を自由に修正することができる。
議決各議院の総議員の3分の2以上の賛成を得た場合に発議が成立する。この議決の効力には衆議院の優越は認められていない。つまり、いずれかの議院が否決すれば発議は成立しない。

憲法改正は国民の承認によって成立する。

承認の要件は「過半数の賛成」だ。

この承認を得る手続は「特別の国民投票または国会の定める選挙の際行われる投票」だ。

国会が定める選挙は衆議院議員総選挙か参議院議員通常選挙になる。

憲法改正の公布は天皇によって国民の名で行う。(憲法7条1項、96条2項)

公布が「国民の名で」行われるのは憲法改正権が国民にあり国民の意見によって改正されたことを明らかにするためだ。

③憲法改正の限界

憲法改正の手続に従えば、どのような内容の変更も法的に許されるのだろうか。

これが憲法改正の限界の問題だ。

この問題に対して2つの考え方があるが限界説が通説とされている。

[憲法改正の限界に関する考え方]
無限界説】憲法改正に限界はない。<理由>(1)憲法の規定はすべて同一の形式的効力を有しており憲法が改正を認める以上、改正可能なものと不可能なものと区別はあり得ない(2)憲法改正権は憲法制定権力と同質であり、しかも制定権力は万能であるから制定された憲法の枠には拘束されない
限界説(通説)】憲法改正には言っての限界がある。<理由>(1)憲法制定権力と憲法改正権とは峻別され改正権は自己の根拠である憲法制定権が根本的決断として定めた「憲法」を改変する法的能力をもたない(2)実定憲法の上位には自然法が存在し憲法をも含む全実定法の効力の有無は自然法への適合・不適合によって決せられるとするならば改定規定による憲法改正の授権も自然法上の制約を受ける。

具体的には憲法のどの部分を改正することが許されないのだろうか。

限界説によれば(1)国民主権(2)人権尊重主義(3)平和主義(4)憲法改正および国民投票制の改正は許されないとされている。

なお現実問題として限界を超えた改正がなされてしまったとすると従前の憲法から考えてその改正は無効だ。

ただし有効な改正として実施された場合に新たな憲法の制定と理解することはできる。

たとえば日本国憲法は明治憲法73条の改正規定により明治憲法を改正したものとして公布されたが両憲法の性格は根本的に異なるため新たな憲法が制定されたと考えられている。

新たに成立した国民主権主義に基づいて国民が制定した民定憲法が日本国憲法なのだ

(追記 2021.9.30)

今の日本の憲法が国民自らの手のみで制定したなど史実を全く歪曲した見解だ。

当時米国の占領下でソ連の共産主義圏から防衛するため急きょ設えられた憲法だ。

よって、わざわざ憲法改正の条文まで設えてあるわけだ。

つまり当時の占領した米国でさえ半永久的のこの憲法で良しなどと、とても思えない代物で何時か日本国民自らが改正するだろうと思っていた。

それを今の今まで後生大事に日本国民自ら守り続けているだけだ。

と言えば聞こえは良いが事実は全く無関心でほったらかしにしているだけだ。

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

ユーキャンの行政書士通信講座
価格:63000円(税込、送料無料) (2021/9/18時点)


2章 行政法 レッスン1 行政法総論

行政法の特色

①行政法とは

行政法とは国や公共団体の行政活動を対象とする。

もっとも「行政法」というタイトルの法律があるわけではない。

日本国で施行されている数多くの法律の中から行政に関する定められている法律をまとめて表現した言葉が行政法だ。

[行政の定義に関する考え方]
控除説行政とは国家作用のうち立法と司法を除いたものである。
積極説】行政とは法の規制を受けながら現実具体的に国家目的の積極的な実現を目指して行われる全体として統一性をもった継続的な形成的国家活動である。

行政の定義に関しては控除説が有力だ。

その論拠としては三権分立の形成過程に忠実であること積極説をとると行政の自立性や責任制を強調するあまり行政権の広い裁量権を正当化することになり三権分立に反する恐れがあることがあげられる。

②行政法の基本構造

行政法は以下の3つの観点から分類される。

[行政法の構成:3つの観点からの分類]
(1)誰が行政活動を行うか → 行政組織法
(2)行政活動において何を行うか → 行政作用法
(3)行政活動によって国民が不利益を受けた時には、どのように救済されるか → 行政救済法

行政組織法とは行政組織に関する法律の総称したものだ。

つまり国、地方公共団体その他の行政活動を行う者(行政主体)にその存在の根拠を与え、これらの行政主体が設置する行政機関とその名称、任務および担当の事務の範囲などについて定めた法律だ。

行政作用とは行政目的を実現するために国や地方公共団体などの行政主体が国民の権利または利益に対して影響を与える行為をいう。

行政作用法は、この行政作用について規定する法律を総称したものだ。

[行政作用の性質による分類]
権力的行政作用】国または地方公共団体が優越的な地位に立って公権力を行使し国民に命令強制することを本質とする行政作用(具体例:税金の徴収など)
非権力的行政作用】国または地方公共団体が国民と対等の立場に立って行う行政作用(具体例:行政契約など)

行政救済法とは行政活動によって不利益を受けた国民の救済方法について規定した法律の総称だ。

日本国憲法は国家権力から国民の基本的人権を守るため制定された国の最高法規だ。(憲法13条、97条-99条)

行政法は憲法を具体化する法律群であるということができる。

[日本国憲法と行政法との関係]
行政組織法憲法の規定する人権保障を実現するのに適する行政組織を構築する。
行政作用法】憲法第三章「国民の権利および義務」を保障するため業背作用の内容と限界を定める
行政救済法】人権保障のため憲法が保障する司法的救済のうち特に行政作用に対する救済に関して具体化する

③行政法の基本原理

行政法の基本原理には(1)法律による行政の原理と(2)行政裁量がある。

法律による行政の原理とは行政権の行使を法の拘束の下に置き、その適性を図ろうとする原理をいう。

これは行政権の権力濫用から国民の自由を守るための原理だ。

この原理には(1)法律の優位(2)法律の留保(3)法律の法規創造力の3つの原理が含まれる。

法律の優位とは、いかなる行政活動も行政活動を制約する法律の定めに違反してはならないという原理だ。

法律の留保とは行政活動を行うには法律の根拠が必要であるという原理だ。

法律の法規創造力とは新たな法規の定立は国民代表としての議会の定立する法律またはその授権に基づく命令の形式においてのみすることができるという原理だ。

したがって国民の意思が間接的にしか反映されない行政府が法規を定めるには法律の委任が必要となる。

現代の行政活動は広範でさまざまな分野に及んでおり複雑で流動的な事態への対処が求められる。

しかし、このような事態をすべて予想することは困難だし流動的な事項については法の弾力的な運用を可能にしておく必要もある。

そこで行政側に裁量の余地を残しておく必要がある。

このような行政活動における裁量を行政裁量という。

そして裁量に基づいて行われた行政行為を裁量行為という。

公法および私法

①公法と私法

公法とは国または地方公共団体とその構成員(国民、住民)の関係について定めた法律をいう。

一方、私法とは私人相互の関係について定めた法律をいう。

つまり行政法は公法に含まれる。

②公法と私法の関係に関する判例

行政法の対象となるのは行政機関の公法に基づく行為だ。

たとえば行政救済法により救済されるのは行政機関の公法に基づく行為によって不利益を受けた場合だ。

行政主体と私人との関係において両者に公法が適用されるのか私法が適用されるのかについて判例の立場を整理しておこう。

[私法の適用を否定した判例]
(1)相隣関係に関する民法234条1項と建築基準法65条との関係 → 防火地域に関する建築基準法の規定は民法の相隣規定に関する特別法として適用される。(最判H1.9.19)
防火地域内にある耐火構造の建築物の外壁を隣地境界線に接して設けることができるとしている建築基準法65条の規定は同条所定の建築物に限り建物を築造するには境界線から50cm以上の距離を保たなければならないとする民法234条の規定の特則として民法の規定を排除するものである。
(2)公営住宅の法律関係と民法・借地借家法の適用 → 公営住宅の場合は貸借権の承継を否定(最判H2.10.18)
公営住宅の入居者が死亡した場合に被相続人の行政上の地位を相続できるかについて、その相続人は当該公営住宅を使用する権利を当然に承継するわけではない

[私法の適用を肯定した判例]
(1)食品衛生法違反と売買契約の効力 → 単なる取締規定に違反する売買契約は無効ではないとして私法の適用を肯定(最判S35.3.18)
食品衛生法上の許可を得ないで取引をした場合であっても、その取引に関する売買契約は無効ではない
(2)公営住宅の法律関係と民法・借地借家法の適用 → 民法・借地借家法の適用を肯定(最判S59.12.13)
公営住宅法ならびに関係条例が特別法として優先して適用されるが同法および条例に特別の定めがない時は一般法である民法および借地借家法が適用される
(3)建築基準法に基づく道路位置の指定がなされている私道と通行妨害排除 → 妨害排除請求権と民事訴訟を提起する利益を肯定(最判H9.12.18)
建築基準法に基づいて道路位置の指定がなされている私道の敷地所有者が私道の通行を妨害している場合に私道を通行することについき日常生活上不可欠の利益を有する者は、これに対して妨害行為の排除を求める権利を有する

2章 行政法 レッスン2 行政組織

行政活動の主体

行政主体とは行政を行う権利と義務を有し自己の名と責任をもって行政行為を行う団体をいう。

行政は国民への謂わばサービス行為であり公共の利益のため必要不可欠な仕事のうち私人では行うことが困難なものを国や公共団体の力で実現するものだ。

そのため団体をつくり団体が行政主体として行政行為を行う。

行政主体は国と公共団体に大きく分かれる。

公共団体の代表は地方公共団体であり、このほかに特殊法人や独立行政法人などが存在する。

[行政主体の種類]
(行政主体)(国)
      (公共団体)(地方公共団体)
            (特殊法人)
            (独立行政法人)

地方公共団体には普通地方公共団体「都道府県」「市区町村」と特別地方公共団体「特別区」「地方公共団体の組合」「財産区」「地方開発事業団」がある。

特殊法人とは特定の事業を実施するために特別の法律により設けられた法人をいう。

国や地方公共団体の出資などで設立される。

特殊法人はさらに営造物法人公共組合がある。

営造物法人】法律により設立された財団的な性格をもつ団体で企業的な経営手法で独立採算で合理的な事業経営が可能な分野に設立された法人(例:事業団公庫
公共組合】公の行政に関する特定の事業を行うため特別の法律に基づき設立される社団的な性格をもつ団体(例:健康保険組合、土地区画整理組合)

独立行政法人とは従来は国が行ってきた行政活動のうち一定のものを省庁から切り離し独立して行わせるため設立した法人のこと。(例:造幣局、国民生活センター、大学入試センター、国立科学博物館、国立美術館)

1999年(平成11年)に中央省庁再編に伴う行政の効率化スリム化を目的におこなった行政改革で設けられた。

これにより事業運営の効率性や透明性が向上するものとされた。

②行政機関とは

行政機関とは行政主体に効果を帰属させるため、その手足となって現実に職務を行う機関をいう。

法律によって行政機関には一定の所掌事務つまり権限と責任が割り当てられる。

行政機関がその権限の範囲内で行う行為の効果は法律上もっぱら行政主体に帰属し行政機関には帰属しない

行政機関は権限に応じて(1)行政庁(2)諮問機関(3)参与機関(議決機関)(4)監査機関(5)執行機関(6)補助機関に分かれる。

[行政機関の種類と具体例]
行政庁政主体の法律上の意思を決め外部に示す権限を持つ機関。行政作用上最も重要な機関と言える。
(例:各省大臣都道府県知事市町村長独立行政委員会
諮問機関行政庁から「諮問を受け意見を具申する機関。各種審議会の答申(意見)は法的には行政庁を拘束しないが最大限尊重すべきもの。
(例:各種審議会(法制審議会、中央教育審議会など))
参与機関(議決機関)】行政庁の意思を拘束する決議を行う行政機関のこと。諮問機関より、より専門性が高い。たとえば電波監理審議会の議決は総務大臣の決定を拘束する。(例:労働保険審査会、検察官適格審査会、電波監理審議会)
監査機関】行政機関の事務や会計の処理を検査し、その適否を監査する機関。
(例:行政評価事務所、会計検査院)
執行機関】行政目的を実現するために必要とされる実力行使を国民の身体や財産に対して行う行政機関。法律上の意思の決定をし外部の対し表示する。
(例:警察官徴税職員消防職員
補助機関】行政庁その他の行政機関の職務を補助するため日常的な事務を遂行する機関。(例:副大臣、各省の事務次官、局長、課長)

行政庁の意思決定する方法として(1)独任制(行政庁が1人で意思決定を行う制度)(2)会議制の2つがある。

行政庁は独任制による意思決定を行うのが原則

多種多様な行政需要に迅速に応え責任の所在を明確にする必要がある。

したがって各省大臣、都道府県知事、市町村長はいずれも専任制をとっている。

このように行政庁は独任制が原則だが専門的な判断が必要な領域や政治的中立性が要求される領域については各界の識者や利害関係人等の合議によって公正さを保障する必要がある。

したがって、このような領域では例外として合議制が採用される。

会議制の行政庁の例として内閣公正取引委員会教育委員会などがある。

法律による行政の原理から行政機関の権限は、それぞれ法令により定められる。

行政機関は、その権限の範囲内においてのみ活動できるにすぎない。

しかし自らの権限を行使できない状況も考えられる。(東日本大震災)

そんな場合に備え権限の権限の代行が決められている。

また行政機関の意思統一には権限の監督やきょう意義も重要だ。

各行政庁が病気や重傷などの一定の事由が発生したために自ら権限を行使することができない場合に他の行政機関にその権限の全部または一部を行使させることができる。

これを権限の代行という。

権限の代行には(1)権限の委任(2)権限の代理(3)代決(専決)の3種類がある。

権限の委任とは自己に与えられた権限の一部を他の機関に行わせることだ。

ただし権限を全部また主要な部分を他の機関に委任することはできない。

仮にこれが許されると、その行政機関に権限を分配した意味がなくなるからだ。

権限が委任されると委任した行政機関はその権限を失う

いわば行政機関の権限の一部を丸ごと他の行政機関(行政庁の下級行政機関または補助機関であることが多い)に移してしまうことになる。

そして委任を受けた機関受任機関が自己の名と責任で権限を行使することになる。

権限の代理とは、ある行政機関が他の行政機関に代理権を与えることだ。

権限の代理の場合に代理機関は権限行使を代わりに行うのみで権限そのものは代理機関に移転しない

したがって権限の代理の効果は代理機関ではなく被代理機関に帰属する。

権限の代理には授権代理と法定代理の2種類がある。

[代理の種類]
授権代理】[意味]行政機関からの授権に基づき発生する代理関係[法律上の根拠]授権するための根拠は不要[被代理機関による代理機関の指揮監督]代理機関を指揮監督できる
法定代理】[意味]行政機関に事故などあり法律に基づき当然発生する代理関係[法律上の根拠]授権するための根拠は必要[被代理機関による代理機関の指揮監督]代理機関を指揮監督できない→被代理機関のすべてを代わって行う

代決(専決)とは本来は行政機関が決裁するべきものを補助機関が決裁することだ。

この場合は外部との関係では本来の行政機関の名で表示させる。

行政機関は行政意思の統一性と責任の所在の明確性を確保するため上級の行政機関には下級の行政機関の権限の行使の様を指揮監督する権限がある。

いわばビラミッド型の上命下服組織で構成されている。

具体的には上級行政機関による指揮監督権は以下に示す通りだ。

監視権】上級行政機関が下級行政機関の事務の執行を調査し事務の執行について報告させる権限
許認可権】下級行政機関の事務遂行を事前に確認するため権限行使について許可や認可を求めるよう要求する権限
訓令・通達権(指揮命令権)】上級行政機関が下級行政機関を指揮することができる権限で明文の規定がなくとも行使できる
取消・停止権】上級行政機関が職種によって下級行政機関の違法・不当な行為を取消または停止する権限
権限争議決定権(裁定権)】下級行政機関の相互に権限の有無や範囲について争いがる際に上級行政機関が解決する権限

訓令…下級行政機関の行政内容を指示するために上級行政機関は発する命令のこと。

通達…訓令のうち特に書面の形式によるもののこと。

協議は対等な関係に立つ行政機関の間で意思統一を図る方法だ。

一つの事項が複数の行政機関の権限に関係する際に行う。

協議が法律上義務づけられている行政行為は、これを経ないでなされた際に当該行政行為は無効となる。

2001年(平成13年)1月6日に中央省庁が1府12省庁に再編された。

その目的は官僚主導の政治から国会中心政治へ転換するためだ。

内閣総理大臣の指揮下、内閣機能の強化によって国民視点に立った総合性と機動性ある政策立案を実施しようとした。

内閣とは長である内閣総理大臣と14名以内の国務大臣から構成される合議機関をさす。(内閣法2条)

内閣府とは内閣に設置され内閣の事務を補助する機関だ。

各省庁において別々の角度でなされる政策を総合的に調整していく役割を担う。

複雑多岐な行政を実務するのは内閣の統轄下にある各行政機関だ。

国の行政機関は省、委員会、庁とし、それらの設置および廃止は法律の定めに従う。(国家行政組織法3条2項)

[国の行政組織]
(内閣府)(国家公安員会)
     (公正取引委員会)
     (金融庁)
     (消費者庁)
     (宮内庁)
公物

①公物とは

公物とは道路、河川、公園や庁舎などの国や公共団体の行政主体により直接に公の目的のため使用される有体物をさす。

公物の意味を明確にする趣旨は、その物の管理責任の所在を明確にし、その物によって市民が損害をおった際は管理責任者に責任を負わせる点にある。

たとえば公物である道路の欠陥によって事故が発生した場合は行政主体が責任を負うことになる。

公物は使用する目的の違いによって2つに分類できる。

公共用物】直接に市民の共通使用に供される物(例:道路、公園、河川)
公用物】国や公共団体の使用に供される物(例:官公庁舎、公用車、公立学校の校舎)

②公物の時効取得

たとえば公物を市民が長期間、自分の物として占有した場合に一般市民は公物を時効取得できるだろうか。

行政財産に対する私権の設定についての法律の規定と判例の見解を整理する。

[公物の時効取得]
行政財産に対して私権を設定できるか】国有財産法により私権の設定は禁止されている。(国有財産法18条1項)
公物の時効取得はできるか】一定の要件を満たせば可能(1)公物の売渡処分が無効であることを知らないで占有した者に対して特別の事情がない限り時効取得を認める。(最判S41.9.30)(2)公物であっても長年の間、事実上公の目的に使用されず黙示の公用禁止があったとみられる場合は行政庁の明確な公用廃止の意思表示がなくても時効取得できる。(最判S51.12.24)

③公物の成立と消滅

公共用物は次の要件を満たされると成立し消滅する。

成立要件】(実体的要素)行政主体がその物の使用権を取得し国民の使用に供される。(意思的要素)公の目的に供する意思および公示が在すること。
消滅要件】実体的要素の紛失または行政主体の滅失の意思表示および公示。

公用は次に要件が満たされると成立し消滅する。

成立要件】行政主体が物の使用を開始すること。
消滅要件】事実上その物の使用を廃止すること。

④公物のその他の分類

公物は(1)そのままの状態で使用されているか(2)所有権の所在(3)保存期間の制限(4)将来使用されるものか等の区分によって分類できる。

[公物:その他の分類]
使用される状態】《自然公物》自然の状態で公の用に供される物(例:河川など)《人工公物》行政主体が人手をかけて公の用に供することで公物となる物(例:道路、公園など)
所有権者】《国有公物》所有権が国にある公物《公有公物》所有権が地方公共団体になる公物《私有公物》所有権が私人になる公物(道路法・河川法)
保存管理の制限】《保存公物》もっぱら公の目的のためにその物自体の保存や管理に制限を加えている公物(例:重要文化財、保安林など)
将来の使用の予定の有無】《予定公物》将来公の目的に供せられる物(例:河川予定地、道路予定地など)

(追記)

聞きなれない用語が髄所に現れ眩暈がしそうだ。

行政庁なんて用語は初めて聞いた。

2章 行政法 レッスン3 行政作用

行政行為

①行政行為とは

行政作用とは行政目的を実現するため国または公共団体など行政主体がが国民の権利利益に対し影響を及ぼす行為をさす。

行政作用には行政行為、行政上の強制措置やその他の行政作用に分類される。

行政行為とは行政庁など行政機関が法に基づき一方的に国民にはたらきかけることで国民の権利義務に変動を生じさせ行政目的を実現させる行為をさす。

②行政行為の分類

行政行為は法律行為的行政行為準法律行為的行政行為に分類される。

法律行為的行政行為とは行政庁の意思表示によって成立する行為をさし行政庁が望む法律効果を発生させる。(例:行政庁が国民に営業の許可をする)

準法律行為的行政行為とは判断ないし認識の表示に対し法律の規定によって言っての法律効果が発生する行為をさす。(例:行政庁が国民を選挙人名簿に登録する)

法律行為的行政行為には(1)命令的行為(2)形成的行為がある。

命令的行為とは行政庁が国民に対し国民が本来有している権利を制限したり制限を解除する行為をさす。

命令的行為には下命、禁止、許可と免除の4種類がある。

下命】作為(積極的に行為を行うこと)を命ずる行為(例:課税処分)
禁止】不作為(特定の行為を行わないこと)を命ずる行為(例:道路の通行禁止)
許可】一般的な禁止を解除する行為(例:自動車の運転免許)
免除作為義務を免除する下命を解除する行為(例:納税の免除)

なお許可を受けないで行った行為でも私法上は有効とされる場合がある。

たとえば無許可で飲食店を営業した者の店舗内で飲食物を注文した者は飲食契約自体は有効なので飲食代金を払わなければならない。

形成的行為とは国民が本来有していない特別の権利や法的地位を与えたり奪ったりする行為をさす。

形成的行為には特許および剥権、許可、代理がある。

特許とは人が生まれながらに有していない新たな権利その他法律上の力ないし地位を特定の人に設定する行為をさす。

特許は行政庁の自由裁量によりなされる行為だ。

したがって前記の許可とは違い、たとえば内容的に両立できない複数の特許申請が競合する場合は行政庁が裁量で特許を与える者を選ぶことができる。

つまり先願主義を採用していない

剥権とは特許によって設定された権利を消滅させる行為をさす。

許可とは第三者の契約や合同行為など法律行為を補充して法律上の効果を完成させる行為をさす。

許可を受けないでさなれた法律行為は無効となる。(例:都道府県知事から農地の売買契約の許可(認可)が下りないと売買契約は有効とならない。)

代理とは行政主体が他の法的主体がなすべきである行為を代わりに行い、その結果、他の法的主体が行ったのと同様の効果をもたらす行為をさす。(例:土地収用委員会が審理の結果、収容の裁決をすると県はその土地を取得することができる。)

準法律的行政行為には確認、公証、通知、受理がある。

確認特定の事実または法律関係の存否について公の権威をもって判断し、これを確定する行為(例:建築確認、選挙の当選人の決定)
公証特定の事実または法律関係の存在を公に証明する行為「確認の表示」と表現されることがある(例:選挙人名簿への登録)
通知】特定人や不特定に対して一定の事項を知らせる行為(例:納税の督促、事業確認の告示)
受理】相手方の行為を有効な行為として受ける付ける行為(例:各種の申請に対する受理)

[法律行為的行政行為と準法律行為的行政行為のまとめ]
法律行為的行政行為
命令的行為
下命】作為を命ずる行為(例:課税処分、違法建築物の排除命令)
禁止】不作為を命ずる行為(例:営業の禁止、道路の交通禁止)
許可】一般的な禁止を解除する行為(例:自動車の運転明許、火薬類輸入の許可、各種営業の許可・免許)
免除】作為義務を解除する行為(例:納税義務の免除、児童就学義務の免除)
形式的行為
特許】新たな権利その他を特定人に設定する行為(例:河川・道路占有許可、公有水面埋立て免許、鉱業権設定の許可)
剥権】特許によって設定された権利を消滅させる行為(例:占有許可の取消し)
認可】第三者の契約や合同行為などの法律行為を補充して、その法律上の効果を完成させる行為(例:農地の権利移転の許可、河川占有の譲渡の承認、公共料金値上げの許可)
代理】行政行為が他の法的主体がなすべき行為の法的主体が行ったのと同様の効果をもたらす行為(例:土地収用の裁決)
純法律行為的行政行為
確認】特定の事実または法律関係の存否について公の権利をもって判断しこれを確定する行為(例:建築確認、選挙における当選人の決定、発明の特許)
公証】特定の事実または法律関係の存在を公に証明する行為(例:選挙人名簿への登録、行政書士の登録)
通知】特定人や不特定人に対して一定の事項を知らせる行為(例:納税の督促)
受理】相手方の行為を有効な行為として受け付ける行為(例:各種申請の受理)

③行政行為の効力

行政行為には一般私人間における法律行為とは異なる特殊な効力が認められる。

(1)拘束力(2)公定力(3)不可争力(4)自力執行力(5)不可変更力の5つだ。

拘束力とは行政行為の相手方のみでなく第三者や行政主体に対しても行政行為の効力が及ぶことをさす。

行政行為は公益の目的で行われるため、その効力を広く及ぼすべきであるとの考え方から認められている効力だ。

公定力とは仮に違法な行政行為が行われた場合であっても、それが無効な行政行為でない限りは取り消されるまで有効な行為として扱われる効力をさす。

行政目的の早期実現の観点から認められた効力だ。

不可争力とは行政行為がなされてから一定期間が経過すると、もはや国民がその効力を不服申立てや取消訴訟によって争うことができなくなる効力をさす。

行政行為は多くの国民に影響を与える行為だから早期に効力を安定させる必要があるため認められた効力だ。

ただし行政庁の側から行政行為を取り消すことはできる

自力執行力とは行政庁が行政行為の内容を自力で実現できるという効力をさす。

たとえば納税しない者に対し行政庁は自ら取立てできる。

私法の世界のように裁判所の判決を得る必要はない

行政目的を早期に実現するために認められる効力だ。

ただ自力執行は非常に強力な効力を発揮するので行政権による濫用の恐れもある。 

したがって法律の根拠がある場合のみ自力執行力は認められる。

たとえば税金の取立ては国税徴収法や地方税法によって強制執行できると定められてるため自力執行力が認められる。

不可変更力とは行政庁自身がその行政行為の取消しや変更をできなくなる効力をさす。

行政行為は法令が特段の定めをしている場合を除き行政行為が相手方に到達した時に効力が発生する。

具体的には(1)相手方が現実に確認した時(2)書面を郵便受けに入れるなどして相手方が確認しようと思えば何時でも確認できる状態の時に効力が発生する。

④行政行為の瑕疵

行政行為の瑕疵とは行政行為の違法性または不当性の原因ともなるものをさす。

行政行為の瑕疵には(1)無効な場合(2)取り消すことができる場合がある。

無効な行政行為とは初めから全く効力をもたない行政行為をさす。

行政行為の効力である公定力は認められない。

したがって裁判によるまでもなく効力を否定できる。

瑕疵がどの程度であれば無効な行政行為かの基準の判例は「瑕疵が重大かつ明白か否か」と示している。(最大判S31.7.18)

瑕疵が重大かつ明白ならば、その行政行為が無効となる。

[無効な行政行為の例]
形式】書面による必要があるのに口頭で済ませた行政行為
手続】議決が義務付けられているのに議決を経ないでなされた行政行為
内容内容が不明確な行政行為
行為者】強度の強迫などによって行政庁に全く意思のない状態で行った行政行為

重大かつ明白とは言えない瑕疵つまり無効には至らない瑕疵がある行政行為は取り消すことができる。

行政行為には公定力が認められるため取り消すことができる行政行為は取り消されるまでは有効として扱われる。

行政行為が取り消されると、その効力は遡って失われる。(遡及効

取消すことが出来るのは正当な権限のある行政庁裁判所だ。

瑕疵を争う者は(1)行政庁に対する不服申立て(2)裁判所での取消訴訟のどしらかを選ぶ。

なお不服申立ても取消訴訟も期間制限がある。

行政行為の撤回とは運転免許の取消しのように、いったん有効に成立した行政行為の効力を、その後に発生した新たな事情を理由に将来に向かって消滅させることをさす。

撤回することができるのは原則として行政行為を行った行政庁に限られる。

行政行為を行う権限者に撤回を認めることが合理的だからだ。

なお上級行政庁(監督行政庁)は特別に定めがある場合に限り撤回できる。

[職権による取消しと撤回]
意義】(職権による取消し)行政行為の瑕疵が重大かつ明白なものでない場合に行政庁自らがする取消し(撤回)一旦有効に成立した行政行為の効力を、その後に発生した新たな事情を理由に将来に向かって消滅させること
行使の効果】(職権による取消し)原則として遡及効撤回将来効のみ
行使自由の原則】公益の管理者として行政行為の効力を維持することが公益上適用でないと判断したときは原則として効力を失わせることができる

違法性の承継とは先行する行政行為の瑕疵を主張して、それに続く行政行為の取消しを求めることができるかという問題だ。

原則として先行の行政行為の違法を理由に後行の行政行為も違法との主張はできない。

理由は先行も後行も行政行為は別個独立した行為だからだ。

だが先行処分と後行処分とが連続した一連の手続で同一の目的を有している場合には例外的に後行処分も違法となる。

法律による行政の原理から考えると瑕疵ある行政行為は取消され、または無効とされるべきだ。

しかし、この原則を貫くと、かえって不都合になる場合には適法な行政行為として扱うべきだ。

判例上、瑕疵ある行政行為を適法として扱うことが認められるものとして(1)瑕疵の治癒(2)違法行為の転換がある。

瑕疵の治癒とは瑕疵ある行政行為がなされた後に瑕疵が修復されて完全に適法な行為になることをさす。

瑕疵の治癒は瑕疵自体が軽微で治癒する利益がある場合に認められる。

違法行為の転換とは、ある行為が違法である場合には別も行政行為としてみたときに適法であるならば、その別の行政行為とみて有効として取り扱う。

⑤行政行為の附款

附款とは行政行為における主たる意思表示に従たる意思表示を加えるものをさす。

たとえば「自動車の運転免許を付与するが眼鏡等を使用すること」となっていたとする。

この場合において「自動車の運転免許を付与する」という部分が主たる意思表示であり「眼鏡等を使用すること」という部分が従たる意思表示となる。

この従たる意思表示の部分が附款だ。

附款がつけられるのは行政行為の目的を達成するためだ。

「許可」は一般的な禁止を解除する行為だが、その目的を達成するためには許可を与えた国民が運転に適する視力を眼鏡等で補正する必要があるのだ。

附款は法令で明文でつけることを定めている場合は勿論だが明文の規定がなくても行政庁の裁量が認められる場合にその範囲内でつけることができる。

附款は、それ自体が意思表示なので一般に意思表示に基づく行政行為である法律行為的行政行為にのみつけることができるとされている。

また行政目的の達成に必要な限度でのみつけることができるとされている。

法律行為的行政行為】附款 つけられる
【準法律行為的行政行為】附款 ×つけられない

附款には5種類ある。

[附款の種類]
条件】行政行為の効果を発生不確実な将来の事実に係らせる意思表示(停止条件)事実の発生によって行政行為の効果が生ずるとき(解除条件)事実の発生によって行政行為の効果が消滅するもの(例:道路工事の開始日から通行を禁止する)
期限】行政行為の効果を将来発生することの確実な事実に係らせる意思表示(始期)事実の発生によって行政行為の効果が発生する場合(終期)事実の発生によって行政行為の効果が消滅する場合(例:運転免許証の有効期限)
負担】許可、認可等の授益的行政行為に付加される意思表示で相手方に特別の義務を命ずるもの。相手方が負担に従わなくても本体たる行政行為の効力は消滅しない(例:免許の条件等眼鏡等使用)
取消し・撤回権の留保】許認可などの行政行為をするにあたって許認可を取り消す(撤回する)権利を留保する旨の意思表示を付加すること⇒撤回するには正当な理由が必要。附款をつければ無制限に行えるのでない(例:営業許可に「一定の違反行為をした際は許可を撤回する」旨を付記する)
法律効果の一部除外】行政行為をするにあたり法令がその行政行為に認めている効果の一部を発生させないことをする意思表示のこと⇒法律に根拠がある場合にのみ付けることができる(例:自動車道事業の免許に通行する自動車の範囲を限定する)

附款の瑕疵がある場合は(1)附款が違法であり取消しができる場合(2)附款に強度の違法があるため無効である場合がある。

附款が違法であり取消しができる場合であっても取り消されるまで有効である。

附款は行政行為の一部であり公定力を有するからだ。

附款が違法で取消しができる場合は原則として附款のみを取り消すことができる。

だが例外として本体である行政行為と附款が不可分一体となっている場合には、その附款がなければ行政行為がなされなかったといえる。

この場合には附款を含めた行政行為全体を取り消さなければ附款のみを取り消すことはできない

行政上の強制措置

①行政上の強制措置とは

行政法では多くの場合において行政が国民に、さまざまな命令をし国民が、それに従うことによって公益が実現される。

そこで国民が命令に従わなかった場合に備え行政上の義務が履行されることを確保する手段として(1)行政庁自体が自力執行する「行政上の強制執行の制度」(2)命令に対する不服従への制裁として「行政罰」の制度がある。

これらの制度は一つの義務不履行に対して併用することができる。

たとえば行政罰のみで目的を達成できない場合は併せて行政上の強制執行をすることもできる。

②行政上の強制執行

行政上の強制執行とは行政上の義務が国民によって履行されないときに履行された状態に行政庁が自力で強制的に作り出す作用をさす。(自力執行力)

行政上の強制執行には(1)代執行(2)執行罰(間接強制)(3)直接強制(4)行政上の強制徴収の4種類がある。

このように強力な手段が行政側に認められている以上、行政上の強制執行ができる場合には民事上の強制執行を行うことはできない

行政上の義務は法律上の義務でなければならない。

なお行政上の強制執行を認める法律の規定も必要となる。

代執行とは行政上の代替的作為義務つまり他人が代わってすることができ、かつ一定の行為が必要な義務を義務者が履行しない場合に行政庁が自ら義務者のなすべきことを行い、または第三者に行わせて費用を義務者から徴収する作用をさす。(行政代執行法2条)

たとえば違法建築物の所有者に代わってその建築物を取り除くことだ。

代執行の対象とされる義務は法律(法律の委任に基づく命令、規則および条例も含む)により直接命じられたものでなくてはならない。

代執行に関する一般法として行政代執行法があり個別に規定する法律として土地収用法などがある。

行政代執行法に基ずく代執行は以下に示す要件を満たすことによる。(行政代執行法2条)

[代執行の要件]
(1)法律または行政行為(命令)による作為義務が存在すること
(2)義務が代替的作為義務であること
(3)義務の履行がないこと
(4)その不履行を放置することが著しく公益に反すること
(5)他の手段によってはその義務の履行が困難であること

代執行は以下の手順でなされる。(行政代執行法3条-6条)

原則的な場合
(1)行政庁は相手方が義務を履行しない場合は相当の履行期限を定め、その期日までに履行がなされない時は代執行をなすべき旨を、あらかじめ文書で戒告しなければならない。
(2)行政庁は義務者が戒告において指定された期限までに義務を履行しない時は代執行令書により代執行の時期・責任者の氏名および代執行に要する費用の見積額を通知する。
(3)代執行の実施後は義務者に文書によって費用の納付を命ずる。義務者が納付しない場合は国税滞納処分の手続によって強制徴収する。

非常等の場合
非常の場合)(危険切迫の場合)上記、原則的な場合の(1)(2)の手続を経ないで代執行できる。

代執行の実施の際、執行責任者は自分が執行責任者であることを示す証票を携帯しなければならない。

また証票の呈示を求められた場合は呈示しなければならない。(行政代執行法4条)

執行罰とは非代替的な作為義務や不作為義務が履行されない場合に行政庁が一定の期限を示し期限内に義務の履行がなされないときは過料を科す旨を予告することにより義務者に心理的な圧迫を加えて間接的に義務の履行を強制する作用をさす。

過料…金銭を支払わせる行政罰のこと。過料は刑罰ではなく刑罰と併科することができる。

執行罰は義務の履行を確保する手段だから義務の履行がなされるまで何度でも科すことができる。

執行罰に一般法は存在せず砂防法36条に規定が存在するのみだ。

直接強制とは義務者が義務を履行しない場合に直接に行政庁が義務者の身体または財産に強制力を加えて義務の内容を実現する作用をさす。

直接強制は即効的に義務を実現することができる反面、義務者の身体または財産に直接的に実行を行使する作用だから人権侵害の程度がきわめて大きくなる。

したがって現在は直接強制を定めた一般法は存在しない。

個別法にて若干存在するのみだ。

行政上の強制徴収とは国民が税金などを納めない場合に強制的に徴収する作用をさす。

行政上の強制徴収は直接強制の一種だ。

金銭債権の強制執行手続に関して特に簡単な方法を認めたものだ。

国税の強制徴収に関しては国政徴収法が定められている。

③行政上の即時強制

行政上の即時強制とは予め義務を命ずる余裕のない急迫の障害が存在する場合は義務を命ずることなく、つまり相手方の義務不履行を前提とすることなく直接国民の身体や財産に実力を加え行政上必要な状態を作り出す作用をさす。

行政上の即時強制は国民の身体や財産に対する重大な侵害行為であるので法律上の根拠がなければならない。

また行政職員が即時強制の過程で家宅への立入りを行う場合は令状が必要だ。

④行政罰

行政罰とは行政上の義務違反行為に対し科される罰をさす。

行政罰は過去の行政上の義務違反に対して制裁を科すという点において強制的な義務の実現である強制執行とは、その目的が本質的に異なる。

行政罰は(1)行政刑罰と(2)秩序罰の2つに分かれる。

法律なければ刑罰なしという罪刑法定主義の原則(憲法31条)は刑事罰だけでなく行政罰にも適用される。

したがって行政罰も法理の根拠がなければ科すことはできない。

さらに二重処罰の禁止(憲法39条後段)も適用されるため反復して行政罰を科すことはできない。

行政罰は法律だけでなく条例によっても定めることができる。

また行政罰のうち秩序罰は地方公共団体の長が定める規則によって定めることもできる

[行政刑罰と秩序罰の比較]
行政刑罰】(意義)行政上の義務違反を犯罪として処罰する際に科される刑罰のこと。(種類)懲役、禁錮、罰金、拘留、科料(科刑手続)刑法総則の規定が適用される。検察官が起訴し裁判所が刑事訴訟法に従って審理をし刑罰を科す。実際の違反者のみならず、その使用者にも科される場合がある。使用者が法人の場合には、その法人が事業主として処罰されることがある。(両罰規定)
秩序罰】(意義)犯罪に至らない行政上の軽微な義務違反に対して科される罰のこと。(種類)過料のみ(科刑手続)国の法令に基づく場合は非訴事件手続法に従って裁判所により科される。条例や規則に基づく場合は地方公共団体の長が科す。

その他の行政作用

①行政立法

行政立法とは行政が規範とまりルールを作ることをさす。

法律の委任がなければ行政機関に国民の権利義務に関わる規範の定立を委ねることはできない。

だから、その超えた部分は無効となる。

認められた行政立法には(1)法規命令と(2)行政規則の2つがある。

(行政立法)(法規命令)(委任命令)
            (執行命令)
      (行政規則)(訓令)
            (通達)
            (職務命令)
            (告示)

法規命令とは行政機関が定立する規範のうち国民の権利義務に関わるものをさす。

たとえば都市計画法では乱開発を防止し住みやすい街づくりを実現するため一定規模の開発は原則として都道府県知事の許可がいる。(都市計画法29条)

そして許可が必要となる開発行為を区別する開発規模については都市計画法施行令という国土交通大臣が定めるルールに委ねられている。

法規命令には(1)委任命令と(2)執行命令がある。

委任命令とは国民の権利義務を規制する命令のことだ。

委任命令をつくるには法律によって個別的かつ具体的に委任がなされなければならない。

白紙委任(委任内容が具現化されてない)や包括委任(無条件で一切を委任する)は許されない。

なお個別的かつ具体的な委任がある場合は委任命令においても罰則をもうけることができる

執行命令とは法律を執行するために必要な手続について定める命令をさす。

新たな国民の権利義務を規制する規範をつくるのではないので委任命令と違い法律による個別的かつ具体的な委任はふようだ。

行政規則とは行政機関がつくる規範のうち行政主体と国民との間の権利義務を定める法規ではなく行政機関内部での規範のことだ。

行政規則には以下の4種類がある。

[行政規則の種類]
訓令)上級行政機関が監督下にある下級行政機関に対して権限の行使を指図するために発する命令の一般のこと
通達)訓令のうち文書で示されたもの
職務命令)行政機関の内部において上司が部下である公務員個人に対して職務を監督するために発する命令のこと
告示)行政機関がその意思がその意思や事実を不特定の国民に知らせるための公示のこと

②行政計画

行政計画とは行政機関が公共事業その他の行政活動を行うに先立って方向性を定めることだ。

行政計画は計画を立案した段階では単なる行政の内部的な取り決めにすぎない。

したがって行政計画は原則として取消訴訟の対象とはならない。

しかし行政計画も、その内容次第で私たちの生活に大きな影響を与えることがある。

そこで判例には行政計画に対する取消訴訟を認めたものもある。

③行政契約

行政契約とは行政主体が国民(私人)と対等な立場において締結する契約をさす。

[行政契約の特徴]
行政契約の成立)当事者の意思表示の合致
法律の根拠)行政契約を締結するための法律の根拠は不要

④行政指導

行政指導とは行政目的を達成するために行政機関が国民に働きかけて協力を求め国民を誘導して行政機関の欲する行為をさせようとする作用をさす。

相手の協力を得ての行政目的達成手段なので行政指導に法律の根拠は不要だ。

つまり行政指導は法的拘束力をもたない事実行為といえる。

違法な行政指導であっても法的拘束力をもたない行為なので原則として不服申立てや取消訴訟によって救済は求められない。

だが行政指導によって損害を被った場合は国家賠償請求により金銭補償を求められる。

行政指導の内容は相手方の任意の協力によってのみ実現される。

だが実際は行政側が有する許認可権限補助金交付権限などをチラつかせ拒絶しにくい行政指導が多々なされる。

これが行政指導に対する法的な規制が必要とされる根拠であり行政手続法によって規制されている。

2章 行政法 レッスン4 行政手続法

行政手続法の概要

①行政手続法の目的

行政活動が不当、違法に行われた場合には、それを事後的に救済する制度が用意されている。(行政救済)

しかし、できれば事前に適正な行政活動が行われるべきだ。

なぜなら国民にとって行政を相手に行政救済制度を利用して自らの権利利益を守るために活動することは大変な負担となるからだ。

そこで行政手続法が必要なのだ。

すなわち行政手続法は行政処分等をする前の段階で、その手続をできるだけ公正かつ透明なものにすることを目的に制定された法律なのだ。

[行政手続法の目的]
処分、行政指導および届出に関する手続ならびに命令等を定める手続に関し共通する事項を定めることによって
⇒ 行政運営における公正の確保と透明性の向上を図ること
⇒ 国民の権利利益の保護に資すること

戦前においては行政行為の内容が実体法の定めに適合していればよいといの考えが一般的で手続的適正までは考慮されていなかった。

しかし個人の尊厳を最高の価値とし適正手続きの保障を明文化した日本国憲法(13条、31条)の下では行政行為の内容のみならず手続の適正まで保障することが要求されている。

ただ行政活動は多種多様な分野にわたるので、それら全部を共通規定で規律することは困難だ。

行政手続が法的にどうであるべきかについては行政手続法制定以前は判例や各個別法で規律されていた。

しかし、このような対応では手続的保障が不備、不統一であり国民の権利の保障内容に不公平あるいは不平等な結果をもたらすことになってしまった。

このような反省を踏まえ行政手続についての一般法として行政手続法が制定されたのだ。

②行政手続法の対象

行政手続法が対象とするのは以下の4種類だ。

[行政手続法の対象]
処分】行政庁の処分その他、公権力の行使にあたる行為のこと。行政手続法上、処分には申請に対する処分と不利益処分とがある。
行政指導】行政機関が任務または所掌事務の範囲内で一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為または不作為を求める指導、勧告、助言その他の作為であって処分に該当しないもの。
届出】行政庁に対し一定の事項の通知をする行為(申請に該当するものを除く)であって法令により直接に当該通知が義務付けられているもの。
命令等】内閣または行政機関が定める次のもの(1)法律に基づく命令または規則(2)審査基準(3)処分基準(4)行政指導指針

③適用除外

行政手続法は処分、行政指導、届出および命令等といった行政作用に適用されるが、それらの中には行政手続法の適用になじまない作用も存在する。

事柄の性質上、専門性が要求され各機関の処分や行政指導を尊重すべきものだ。

また全国一律でなく各地域の特性に応じた処理が求められる場合もある。

したがって行政手続法の対象でありながら一定の行政作用や地方公共団体による措置について適用除外とされる。(行政手続法3条)

一定の行政作用については申請に対する処分、不利益処分、行政指導(行政手続法第2章-第4章)の規定は適用されない。

[適用除外とされる処分および行政指導の例]
・国会の両院もしくは一院または議会の議決によってされる処分
・裁判所もしくは裁判官の裁判により、または裁判の執行としてされる処分
・刑事事件に関する法令に基づいて検察官、検察事務官または司法警察職員がする処分および行政指導
・国税または地方税の犯則事件に関する法令に基いて国税庁長官、国税局長等がする処分および行政指導
・金融商品取引の犯則事件に関する法令に基づいて証券取引等監視委員会がする処分および行政指導
公務員(または公務員であった者)に対してその職務または身分に関してされる処分および行政指導
外国人の入出国、難民の認定または帰化に関する処分および行政指導
・もっぱら人の学識技能に関する試験または検定の結果についての処分
審査請求、異議申立て、その他の不服申立てに対する行政上の裁決、決定その他の処分

次に掲げる命令等を定める行為について意見公募手続等(行政手続法第6章)の規定は適用されない。

[適用除外とされる命令等の例]
・法律の施行期日について定める政令
・恩赦に関する命令
・命令または規則を定める行為が処分に該当する場合における当該命令または規則
・法律の規定に基づき施設、区間、地域その他これらに類するものを指定する命令または規則
・公務員の給与、勤務時間その他の勤務条件について定める命令等

申請に対する処分

①申請に対する処分の概要

申請とは法令に基づき行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分を求める行為であって該当行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされるものだ。(行政手続法2条3号)

[申請から処分までの流れ]
【申請】⇒【審査】⇒【許認可】
         ⇒【拒否】

これらの過程でできる限り公正かつ透明にすることによって申請者の権利利益の保護を図ることが必要となる。

(1)どれくらいの期間で処理するのか(2)基準があるのか(3)どのように対応すべきか(4)拒否はどのように対応すべきか(5)問い合わせはにはどのように対応すべきか(6)関係者の意見にはどのように対応すべきか等の基準が定められている。

②標準処理時間

標準処理期間とは申請に対し許認可等の応答するまでに通常要すべき標準的な期間をさす。

[重要条文]
行政庁は申請がその事務所に到達してから当該申請に対する処分をするまでに通常要すべき標準的な期間(法令により当該行政庁と異なる機関が当該申請の提出先とされている場合は併せて当該申請が当該提出先とされている機関の事務所に到達してから当該行政庁の事務所に到達するまでに通常要すべき標準的な期間)を定めるよう努めるとともに、これを定めたとき、これらの当該申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により公にしておかなければならない。(行政手続法6条)

[標準処理期間に含まれるもの・含まれないもの]
含まれる】審査の進行状況や処分の時期の見通しについて申請者から問合せがあったときに行政庁がその回答を準備する期間
含まれない】申請に対する補正指導の期間や事前指導の期間

③審査基準

審査基準とは申請によって求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準をさす。(行政手続法2条8号ロ)

[重要条文]
1 行政庁は審査基準を定めるものとする
2 行政庁は審査基準を定めるにあたっては許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。
3 行政庁は行政上特別の支障があるときを除き法令により申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならない。(行政手続法5条)

[審査基準の重要事項]
審査基準の具体性】当該許認可等の性質に照らし、できる限り具体的なものとしなければならない → 審査の恣意性、独断性、偏見性の排除
審査基準の公開】定めた審査基準を公表しなければならない → 審査基準に従って確かに審査しているか国民がチェックできるようにするため

④申請に対する審査

従来、所定の書類等を作成して申請しても行政庁がこれを受け付けないという対応がなされたことが見受けられた。

そこで法は受理段階での行政庁の意見表示を外し申請が事務所に到達したことで申請書の審査義務は生ずるとした。

これにより「受理しない」という対応はなくなった。

[重要条文]
行政庁は申請がその事務所に到達したときは延滞なく当該申請の審査を開始しなければならず、かつ申請書の記載事項に不備がないこと申請書に必要な書類が添付されていること申請をすることができる期間内にされたものであることその他の法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については速やかに申請をした者(以下「申請者」という。)に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求め、又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない。(行政手続法7条)

[申請に対する審査の重要事項]
審査の開始時期】事務所に到達したとき延滞なく開始しなければならない
申請の形式上の要件】(1)申請書の記載事項に不備がないこと(2)必要書類が添付されてること(3)申請できる期間内にされたものであること等々

⑤理由の提示

行政庁が許認可等の拒否処分をするには原則として、その処分の理由を示さなければならない。

[重要条文]
1 行政庁は申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は申請者に対し同時に該当処分の理由を示さなければならない。ただし法令に定められた許認可等の要件または公にされた審査基準が数量的指標その他の客観的指標により明確に定められている場合であって当該申請がこれらに適合しないことが申請書の記載または添付書類その他の申請の内容から明らかである時は申請者の求めがあった時にこれを示せば足りる。
2 前項本文に規定する処分を書面でするときは同項の理由は書面により示さなければならない。(行政手続法8条)

[例外:客観的指標により明確に定められている場合]
法令で定められた許認可要件・公にされた審査基準が数量的指標その他客観的指標で明確に定められる + 該当申請がこれらに適合しないことが申請内容から明らか

⑥情報提供

審査の透明化を図る趣旨で行政庁に必要な情報の提供に関する努力義務を定めている。

[重要条文]
1 行政庁は申請者の求めに応じ該当申請に係る審査の進行状況および該当申請に対する処分の時期の見通しを示すよう努めなければならない
2 行政庁は申請をしようとする者または申請者の求めに応じ申請書の記載および添付書類に関する事項その他の申請に必要な情報提供に努めなければならない。(努力目標)(行政手続法9条)

⑦公聴会の開催等

公正な審査をするに際して情報収集は不可欠だ。

処分について利害関係者の利益を考慮する必要もある。

そこで公聴会の開催等の方法により利害関係者の意見を聞き情報収集の機会を設ける努力義務を行政庁に課した。(努力目標)(行政手続法10条)

不利益処分

①不利益処分の概要

不利益処分とは行政庁が法令に基づき特定の者を名宛人として直接に、これに義務を課し、またはその権利を制限する処分をさす。(行政手続法2条4号)

行政庁による不利益処分が恣意的になされたり不利益を受けた者に弁明の機会を与えずになされると不当な結果になることもある。

そこで行政庁は(1)処分の基準を示す(2)意見陳述の機会を与える(3)不利益処分の理由を示す(4)重大な不利益処分の場合の聴聞や(5)通常の不利益処分の場合の弁明という手続きを定める。

②処分基準

行政庁が処分をするにあたり恣意性、独断性、偏見性をもった発動とならないように公平かつ平等な処分を担保する必要がある。

そこで行政庁は処理基準を定め公表するよう努めなければならない。(努力目標

③意見陳述手続

意見陳述手続は不利益処分を課せられた者が自らの言い分を述べる手続だ。

意見陳述のための手続は当該不利益の対象となる者の防御権の保障という観点から手続の公正を確保する重要な手段となる。

意見陳述手続には(1)原則として口頭で意見陳述をする聴聞と(2)原則として書面で意見陳述をする弁明の機会の付与とがある。

なお例外として意見陳述の手続がとれず不利益処分がなされることがある。

緊急の必要があるときなど一定の場合だ。(行政手続法13条2項)

[重要条文]
行政庁は不利益処分をしようとする場合には次の各号の区分に従い、この章の定めるところにより当該不利益処分の名あて人となるべき者について当該各号に定める意見陳述のための手続を執らなければならない
一 次のいずれかに該当するとき 聴聞
イ 許認可等を取り消す不利益処分をしようとするとき。
ロ イに規定するもののほか名あて人の資格または地位を直接にはく奪する不利益処分をしようとするとき。
ハ 名あて人が法人である場合におけるその役員の解任を命ずる不利益処分、名あて人の業務に従事する者の解任を命ずる不利益処分または名あて人の会員である者の除名を命ずる不利益処分をしようとするとき。
ニ イからハまでに掲げる場合以外の場合であって行政庁が相当と認めるとき。
ニ 前号イからニまでいずれにも該当しないとき弁明の機会の付与 (行政手続法13条1項)

④理由の提示

行政庁が不利益処分をする場合は、その理由が存在する。

これを明らかにさせることによって行政庁が行う判断の公正と慎重さを確保することにした。

そこで理由の提示が原則として必要とされる。

[重要条文]
1 行政庁は不利益処分をする場合には、その名宛人に対し同時に当該不利益処分の理由を示さなければなたない。ただし当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない
2 行政庁は前項ただし書の場合においては当該名あて人の所在が判明しなくなった時その他処分後において理由を示すことが困難な事情があるときを除き処分後相当の期間内に同項の理由を示さなければならない
3 不利益処分を書面でするときは前2項の理由は書面により示さなければならない。(行政手続法14条)

⑤聴聞

聴聞を開始するには不利益処分の対象者に何について、いつまでに、どのような防御ができるか知らせて準備させなければいけない。

そこで行政庁は聴聞を行う場合に不利益処分の対象者に対して一定事項を書面によって通知をすることとした。

[重要条文]
行政庁は聴聞を行うに当たっては聴聞を行うべき期日までに相当な期間をおいて不利益処分の名宛人となるべき者に対し次に揚げる事項を書面により通知しなければならない。
一 予定される不利益処分の内容および根拠となる法令の条項
二 不利益処分となる原因となる事実
三 聴聞の期日および場所
四 聴聞に関する事務を所掌する組織の名称および所在地(行政手続法15条1項)

聴聞の場で意見の陳述をする場合に不利益処分の対象である本人はもとより本人が代理を立てれば更に防衛権を強力に行使できる。

たとえば不利益処分の対象となっている分野の専門家や弁護士に依頼することになる。

そこで代理人の選定の規定も設けている。

[重要条文]
1 前条(15条)第1項の通知を受けた者(同条第3項後段の規定により当該通知が到達したものとみなされる者も含む。以下「当事者」という。)は代理人を選任することができる。
2 代理人は各自、当事者のために聴聞に関する一切の行為をすることができる。
3 代理人の資格は書面で証明しなければならない
4 代理人がその資格を失ったときは当該代理人を選任した当事者は書面でその旨を行政庁に届け出なければならない。(行政手続法16条)

[代理人の権限・証明]
代理人の権限】聴聞に関する一切の行為
代理人の資格】書面で証明しなければならない
代理人が資格を失った場合】書面で行政庁に届け出なければならない

不利益処分に関し一定の利害関係を有する者について、その利益を守るために手続に関わらせる必要がある。

そこで、このような者も手続に関与することを認め規定を設けている。

また参考人は資料の閲覧を求めることができる。

[重要条文]
1 第19条の規定により聴聞を主宰する者は必要があると認めるときは当事者以外の者であって当該不利益処分の根拠となる法令に照らし当該不利益処分について利害関係を有するものと認められる者(同条第二項第六行において「関係者」)に対し当該聴聞に関する手続に参加することを許可できる。
2 前項の規定により当該聴聞に関する手続に参加する者は代理人を選任することができる。
3 前条(16条)第2項から第4項までの規定は前項の代理人について準用する。このっ倍において同条第2項および第4項中「当事者」とあるが「参考人」と読み替えるものとする。(行政手続法17条)

[重要条文]
当事者および当該不利益処分がされた場合に自己の利益を害されることとなる参考人(以下この条および第24条第3項において「当事者等」という。)は聴聞の通知があった時から聴聞が終結する時までの間、行政庁に対し当該事案についてした調査の結果に係る調書その他の当該不利益処分の原因となる事実を証する資料の閲覧を求めることができる。この場合において行政庁は第三者の利益を害する恐れがあるときその他正当な理由があるときでなければ、その閲覧を拒むことができない。(行政手続法18条1項)

聴聞手段は主宰者すなわち審理をする者と行政庁すなわち処分をする者とを分離して別々の機関とした。

これはあたかも刑事事件において逮捕して処罰をする司法行政と裁判で審理をする裁判所が別々の期間となっているのと同様に考えられる。

第三者機関である主宰者の下に処分をする行政庁と不利益処分の対象となる当事者とが対等の立場に置かれ裁判のような形式で審理が進められる。

こうすることで審理の公正を担保し不利益処分を受ける者の権利利益を保護している。

[重要条文]
1 聴聞は行政庁が指名する職員その他政令で定める者が主宰する。
2 次の各号のいずれかに該当する者は聴聞を主宰することができない。
一 当該聴聞の当事者または参考人
二 前号に規定する者の配偶者、4親等内の親族または同居の親族
三 第1号に規定する者の代理人または次条3項に規定する補佐人
四 前3号に規定する者であったことのある者
五 第1号に規定する者の後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人または補助監督人
六 参加人以外の関係人(行政手続法19条)

聴聞の期日おける審理の方式について具体的に定め行政庁側の職員と不利益処分の当事者のやりとりを聴きながら審理が進められる。

ただ裁判の原則と違い聴聞における審理は原則として非公開だ。

しかし例外的に行政庁の裁量により公開が相当と認められれば公開とされる。

[重要条文]
1 主宰者は最初の聴聞の期日の冒頭において行政庁の職員に予定される不利益処分の内容および根拠となる法令の条項並びにその原因となる事実を聴聞の期日に出頭した者に対し説明されなければならない。
2 当事者または参加人は聴聞の期日に出頭して意見を述べおよび証拠書類等を提出し並びに主宰者の許可を得て行政庁の職員に対し質問を発することができる。
3 前項の場合において当事者または参考人は主宰者の許可を得て補佐人とともに出頭することができる。
4 主宰者は聴聞の期日において必要があると認めるときは当事者若しくは参考人に対し質問を発し意見を陳述若しくは証拠書類等の提出を促し、または行政庁の職員に対し説明を求めることができる。
5 主宰者は当事者または参加人の一部が出頭しないときであっても聴聞の期日における審理を行うことができる。
6 聴聞の期日における審理は行政庁が公開することを相当と認める時を除き公開しない。(行政手続法20条)

聴聞の期日に当事者や参考人が病気等で出頭できない場合に備えて、これらの者の防御権行使を保障するため陳述書等の提出権つまり書面による防御権行使が認められる。

[重要条文]
1 当事者また参加人は聴聞の期日への出頭に代えて主宰者に対し聴聞の期日まで陳述書および証拠書類等を提出することができる。
2 主宰者は聴聞を期日に出頭した者に対し、その求めて応じて前項を陳述書および証拠書類等を示すことができる。(行政手続法21条)

聴聞は1回で終了する場合もあれば数回実施しなければ判断材料が十分出揃わない場合もある。

主宰者としては、もっと行政庁や当事者の言い分を聴きたいという場合だ。

このような場合に備えて一定の要件の下に聴聞が続行される場合があり、その手続が定められている。

[重要条文]
主宰者は聴聞の期日における審理の結果なお聴聞を続行する必要があると認めるときは更に新たな期日をさだめることができる。(行政手続法22条1項)

不利益処分の原因となる事実の認定が主宰者によって適正になされることが必要だ。

これを手続面から保障するため聴聞調書報告書という書類の作成を主宰者に義務づけた。

当事者および関係に、これら聴聞調書と報告書の閲覧権を与え、これらの者が自己の主張が主宰者に正しく届き公正な評価を得たかを検証することができる。

[重要条文]
1 主宰者は聴聞の審理の経過を記載した調書を作成し当該調書において不利益処分の原因となる事実に対する当事者および参加人の陳述の要旨を明らかにしておかねばばらない。
2 前項の調書は聴聞の期日における審理が行われた場合には各期日ごとに当該審理が行われなかった場合には聴聞の終結後速やかに作成しなければならない。
3 主宰者は聴聞の終結後速やかに不利益処分の原因となる事実に対する当事者等の主張に理由があるかどうかについての意見を記載した報告書を作成し第1項の調書とともに行政庁に提出しなければならない。
4 当事者または参加人は第1項の調書および前項の報告書の閲覧を求めることができる。(行政手続法24条)

終結した聴聞が再開される場合がある。

[重要条文]
行政庁は聴聞の終結後に生じた事情にかんがみ必要があると認めるときは主宰者に対し前条(24条)第3項の規定により提出された報告書を返戻して聴聞の再開を命ずることができる
第22条第2項本文および第3項の規定は、この場合について準用する。(行政手続法25条)

聴聞の結果、当事者に対して不利益処分がなされることがある。

その場合も聴聞手続において出された主宰者の意見を尊重して不利益処分がなされるべきだとされている。

[重要条文]
行政庁は不利益処分の決定をするときは第24条第1項の調書の内容および同条第3項の報告書に記載された主宰者の意見を十分に参酌してこれをしなければならない。(行政手続法26条)

聴聞手続を経て不利益処分を受けた当事者がその処分に不服がある場合には本来であれば行政不服審査法に基づく不服申立てや行政事件訴訟で争うことができるはずだ。

行政手続法の聴聞は事前の手続であるのに対し、これらは事後的な救済制度であり両者は異なる制度だからだ。

しかし聴聞を経てなされた不利益処分については不服申立てのうち異議申立てをすることはできない。(行政手続法27条2項)

異議申立ては、その処分をした行政庁に対して行うものであり異議申立てをしても、その判断がくつがえる可能性はほとんどないためだ。

ただし審査請求をすることはできる

審査請求は処分を行った行政庁でなく、その上級行政庁に行うもので異なる判断がなされる可能性があるからだ。

[重要条文]
1 行政庁または主宰者がこの節の規定に基づいてした処分については行政不服審査法による不服申立てをすることはできない。
2 聴聞を経てされた不利益処分については当事者および参加人は行政不服審査法による異議申立てをすることができない。ただし第15条第3項後段の規定により当該通知が到達したものとみなされる結果当事者の地位を取得した者であって同項に規定する同条第1項第3号(第22条第3項において準用する場合も含む)に掲げる聴聞の期日のいずれかにも出頭しなかった者については、この限りではない。(行政手続法27条)

⑥弁明の機会の付与

弁明が相当と判断される処分でも不利益処分であることには変わりない。

したがって対象者には自分の権利利益を防御させるため、いつまでにどのような形でなすべきかが通知により示される。

[重要条文]
行政庁は弁明書の提出期限(口頭による弁明の機会の付与を行う場合には、その日時)までに相当な期間において不利益処分の名宛人となるべき者に対し次に掲げる事項を書面により通知しなければならない。
一 予定される不利益処分の内容および根拠となる法令の条項
二 不利益処分の原因となる事実
三 弁明書の提出先および提出期限(口頭による弁明の機会の付与を行う場合には、その旨並びに出頭すべき日時および場所)(行政手続法30条)

聴聞とは違い原則として書面を提出して弁明させる。

例外として口頭での弁明を認める方法を定めている。

[重要条文]
1 弁明は行政庁が口頭ですることを認めたときを除き弁明を記載した書面(以下「弁明書」という。)を提出してするものとする。
2 弁明をするときは証拠書類等を提出することができる。(行政手続法29条)

行政指導

①行政指導の概要

行政指導とは行政機関がその任務または所掌事務の範囲内で一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為または不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをさす。(行政手続法2条6号)

②一般原則

行政指導は相手方の任意の協力を求めるものであり根拠法がなく行われることが多い。

ただし行政指導は行政機関の任務またが所掌事務の範囲でなければ行えないとされている。

[重要条文]
1 行政指導にあっては行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務または所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現するされるものであることに留意しなければならない。
2 行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として不利益な取扱いをしてはならない。(行政手続法32条)

③申請に関連する行政指導

行政指導の中でも従来問題を指摘されてきたのが申請に関連する行政指導だ。

申請を取り下げさせたり内容の変更を求めたりする行政指導については特に規定を置いて制限している。

[重要条文]
申請の取り下げ又は内容の変更を求める行政指導にあたっては行政指導に携わる者は申請者が当該行政指導に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず当該行政指導を継続すること等により当該申請者の権利の行使を妨げるようなことをしてはならない。(行政手続法33条)

④許認可等の権限に関連する行政指導

33条と同様の趣旨から許認可などの権限に関連して行政指導を行うことにより、これに従わないことで許認可の更新等に影響があると相手方に思わせ行政指導に従わざるを得なくすることがないよう特に規定を置いて制限している。

[重要条文]
許認可等をする権限または許認可に基づく処分をする権限を有する行政機関が当該権限を行使することができない場合または行使する意思がない場合においてする行政指導にあっては行政指導に携わる者は当該権限を行使し得る旨を殊更に示すことにより相手方に当該行政指導に従うことを余儀なくさせるようなことをしてはならない。(行政手続法34条)

⑤行政指導の方式

行政指導に携わる者は行政指導を受ける相手方に対して誰がどのような立場・権限で行政指導を行うか内容はどのようなもので何故行うか等を明らかに示す必要がある。(行政手続法35条)

具体的には行政指導に携わる者は、その相手方に対して当該行政指導の趣旨および内容ならびに責任者を明確に示さなければならない。

そして行政指導が口頭でされた場合において、その相手方からこれらの事項を記載した書面の交付を求められたとき当該行政指導に携わる者は行政上特別の支障がない限り、これを交付しなければならない。

なお以下の行政指導については書面の交付は不要だ。
(1)相手方に対しその場において完了する行為を求めるもの。
(2)すでに文書または電磁的記録によりその相手方に通知されている事項と同一の内容を求めるもの。

[行政指導の方式の書面化]
【行政指導の方式】(原則)特に制限なし(例外)書面の交付を求められたとき⇒行政上特別の支障がない限り交付義務あり

⑥複数の者を対象とする行政指導

種類を同じくする行政指導が多数の者に対してなされる場合がる。(コロナ禍の営業自粛)

この場合は行政指導の明確性とともに多数者間の公平性も要求される。

そこで公平性を確保するため行政指導指針の作成と公表が義務付けられている。

[重要条文]
同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときは行政機関は予め事案に応じ行政指導指針を定めかつ行政上特別な支障がない限り、これを公表しなければならない。(行政手続法36条)

届出

①届出とは

届出とは行政庁に対し一定の事項の通知をする行為であって法令により直接に当該通知が義務づけられているものをさす。(行政手続法2条7号)

②届出規定の趣旨

従来わが国では届出の内容が行政指導に適合してない場合には不受理としたり届出の返戻をすることが見受けられた。

しかし届出の対象事項は、そもそも行政庁の裁量的な判断が入り込む余地がないものだ。

このような行為は許されるものではない。

[重要条文]
届出が届出書の記載事項に不備がないと届出書に必要な書類が添付されていることその他の法令に定められた届出の形式上の要件に適合している場合は当該届出が法令により当該届出の提出先とされている機関の事務所に到達したときに当該届出をすべき手続上の義務が履行されたものとする。(行政手続法37条)

命令等を定める手続

①一般原則

命令等とは内閣または行政機関が定める法律に基づく命令または規則、審査基準、処分基準、行政指導指針をさす。(行政手続法2条8号)

命令等を定める機関は命令等が、その根拠法令の趣旨に適合するものとなるようにしなければならない。

また命令等は国民生活に影響を及ぼすものだが時代にありように適合させる必要がある。

そこで命令等を制定した後も社会経済の状況の変化に照らし必要に応じてその内容の見直しをするなど適性の確保に努めなければならない。

[重要条文]
1 命令等を定める機関(以下「命令等制定機関」という。)は命令等を定めるに当たっては当該命令等がこれを定める根拠となる法令の趣旨に適合するものとなるようにしなければならない。
2 命令等制定機関は命令等を定めた後においても当該命令等の規定の実施状況、社会経済情勢の変化等を勘案し必要に応じ当該命令等の内容について検討を加え、その適性を確保するよう努めなければならない。(行政手続法38条)

②意見公募手続

意見公募手続とは広く国民に意見を募り、これを命令等の制定に役立たせる趣旨で定められた手続きをさす。

[重要条文]
1 命令等制定機関は命令等を定めようとする場合には当該命令等の案および、これに関連する資料をあらかじめ公示し意見(情報を含む。以下同じ)の提出先および意見の提出のための期間(以下「意見提出期間」という。)を定めて広く一般の意見を求めなければならない。
2 前項の規定により公示する命令等の案は具体的かつ明確な内容のものであって、かつ当該命令等の題名および当該命令等を定める法令の条項が明示されたものでなければならない。
3 第1項の規定により定める意見提出期間は同項の公示の日から起算して30日以上でなければならない。
4 次の各号のいずれかに該当するときは第1項の規定は適用しない。
一 公益上、緊急に命令等を定める必要があるため第1項の規定による手続(以下「意見公募手続」という。)を実施することが困難であるとき。
二 納付すべき金銭について定める法律の制定または改正により必要となる当該金銭の額の算定の基礎となるべき金額および率並びに算定方法についての命令等その他当該法律の施行に関し日知様な事項を定める命令等を定めるようとするとき。
三 予算の定めるところにより金銭の給付決定を行うために必要となる当該金銭の額の算定の基礎となるべき金額及び率並びに算定方法その他も事項を定める命令等を定めようとするとき。
四 法律の規定により内閣府設置法第49条第1項若しくは第2項若しくは国家行政組織法第8条に規定する機関(以下「委員会等」という。)の議を経て定めることとされている命令等であって相反する利害を有する者の間の利害の調整を目的として法律または政令の規定により、これらの者及び公益をそれぞれ代表する委員をもって組織される委員会等において審議を行うこととされているものとして政令で定める命令等を定めようとするとき。
五 他の行政機関が意見公募手続を実施して定めた命令等と実質的に同一の命令等を定めようとするとき。
六 法律の規定に基づき法令の規定の適用または準用について必要な技術的読替えを定める命令等を定めようとするとき。
七 命令等を定める根拠となる法令の規定の削除に伴い当然必要とされる当該命令等の廃止をしようとするとき。
八 他の法令の制定または改廃に伴い当然必要とされる規定の整理その他の意見公募手続を実施することを要しない軽微な変更として政令で定めるものを内容とする命令等を定めようとするとき。(行政手続法39条)

意見公募するときは原則として30日以上の意見提出期間をとらなければならないが例外としてやむを得ない理由がある時は30日を下回る期間設定が許される。

[重要条文]
1 命令等制定機関は命令等を定めようとする場合において30日以上の意見提出期間を定めることができないやむを得ない理由があるときは前条(39条)第3項の規定にかかわらず30日を下回る意見提出期間を定めることができる。この場合においては当該命令等の案の公示の際その理由を明らかにしなければならない。
2 命令等制定機関は委員会等の議を経て命令等を定めようとする場合(前条(39条)第4項第4号に該当する場合を除く。)において当該委員会等が意見公募手続に準じた手続を実施したときは同条第1項の規定にかかわらず自ら意見公募手続を実施することを要しない。(行政手続法40条)

命令等制定機関は提出された意見に拘束されたり命令への反映を義務づけられたりはしないが、それらの意見を十分に考慮しなくてはならない。

そうでなければ制度自体が無意味となってしまうからだ。

[重要条文]
命令等制定機関は意見公募手続を実施して命令等を定める場合には意見提出期間内に当該命令等制定機関に対し提出された当該命令等の案についての意見(以下「提出意見」という。)を十分に考慮しなければならない。(行政手続法42条)

命令等制定機関は命令等について公布をするものについては公布と同時期に、しないものについては公にする行為と同時期に(1)命令等の題名(2)命令等の案の公示の日(3)提出意見(4)提出意見を考慮した結果および理由を公示しなければならない。(43条1項)

公示の方法は電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法により行う。(45条1項)

2章 行政法 レッスン5 情報公開法

情報公開法の概要

①情報公開の目的

行政機関の保有する情報の公開に関する法律(情報公開法)は国民の誰もが自分の知りたい情報を行政機関の長に対して開示を請求できるとする法律だ。

本来、国が保有する情報は私たち国民の共有財産だ。

国は行う行政は国民の税金および財政を使って運営されているからだ。

情報公開法の制定によって国民は情報の保有についても政府や行政機関と対等な立場に立つことが可能になった。

情報公開法に基づいて主権者としての国民の意思を明確にすることができるようになった。

[重要条文]
この法律は国民主権の理念にのっとり行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする。(情報公開法1条)

[情報公開法の目的のポイント]
(1)行政機関の保有する情報の一層の公開を図る
(2)政府の説明責任が全うされるようにする
(3)公正で民主的な行政の推進に資する

②対象となる機関

情報公開法は原則として国のすべての行政機関が保有する情報を対象としてる。

つまり対象となる機関は行政機関であり、それ以外の立法府である国会や司法府である裁判所が保有する情報は対象にならない。(情報公開法2条2項)

また地方公共団体特殊法人が保有する情報も対象外だ。

③対象となる事項

情報公開法による開示請求の対象となるのは行政文書だ。(情報公開法3条)

行政文書とは行政機関の職員が職務上作成し、または取得した文書、図画および電磁的記録であって当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして当該行政機関が保有しているものだ。(情報公開法2条2項本文)

「文書」といっても紙媒体だけでなく図画、写真フィルム、録音データ、フォロッピーディスク、CD、DVD等の電磁的記録も含まれる

以下に示すものは例外的に開示対象から除外するものと定められている。(情報公開法2条2項但書1号-3号)

[例外として開示対象としないもの]
(1)官報、白書、新聞、雑誌、書籍その他不特定多数の者に販売することを目的として発行したもの
(2)公文書等の管理に関する法律2条7項に規定する特定歴史公文書等
(3)政令で定める研究所その他の施設において歴史的、文化的、学術研究用の資料として特別の管理がなされているもの(2)にあるものを除く

行政文書の開示

①開示請求の概要

情報公開法による開示請求の対象である行政文書は先の通り行政機関の保有する文書、図画、電磁的記録という媒体であり行政機関の保有する情報そのものではない

開示請求にあたって情報の使用目的について情報公開法は何も定めていない

したがって学術目的であろうと事業目的であろうと開示請求をすることができる。

情報公開法は開示請求権者を限定していない。(情報開示法3条)

外国人法人等の団体も開示請求をすることができる

[重要条文]
何人も、この法律の定めるところにより行政機関の長((前条2条)第1項第4号および第5号の法令で定める機関にあっては、その機関ごとに政令で定める者をいう。以下同じ)に対し当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる。(情報公開法3条)

②開示請求の手続

開示情報は以下にある事項を記載した書面(開示請求書)を行政機関の長に提出して行う。(情報公開法4条1項)

[開示請求書の必要記載事項]
【請求者情報】(1)開示請求する者の氏名または名称(2)住所または居所(3)法人その他の団体では代表者の氏名
【行政文書情報】行政文書の名称その他の開示請求に係る行政文書を特定するに足りる事項

行政機関の長は開示請求書に形式上の不備があると認める時は開示請求者に対し相当の期間を定めて、その補正を求めることができる。(情報公開法4条2項)

開示請求者は開示請求をする際に手数料を納付しなければならない。(情報公開法16条1項)

情報が記録された文書等を受領し時でなく請求をするだけで手数料の納付が必要となる。

その趣旨は開示請求の濫用を防止し真に開示を求める人に制度を利用させることにある。

③開示・不開示の決定

開示請求を受けた行政機関の長は以下に示す一定の期間内に開示に関する決定をしなければならない。(情報公開法10条、11条)

[開示決定等に関する期限]
事由】原則【期限開示請求の日から30日以内(補正の日数は含まない
事由事務処理上の困難等の正当な理由があるとき期限先の期間を30日以内に限り延長可能→最長60日行政機関の長の通知義務】開示請求者に対して遅滞なく延長後の期間および延長の理由を書面により通知
事由開示請求された行政文書の量が著しく大量であるとき期限】開示請求された行政文書のうち相当の部分→開示請求の日から60日以内、残部→相当の期間内【行政機関の長の通知義務】開示請求があった日から30日以内に開示請求者に対し特例が適用される旨およびその理由、残部についての期限を書面により通知

行政機関の長は開示請求に対し以下の3通りのうち、いずれかの決定をし開示請求者に所定の通知を書面によってしなければならない。(情報公開法5条、6条、9条)

[開示に関する決定の種類]
開示】(全部開示決定)開示請求に係る行政文書の全部を開示する(一部開示決定)開示請求に係る行政文書の一部を開示
不開示】(全部不開示決定)開示請求に係る行政文書の全部を開示しない

行政機関の長は開示請求があった時は原則として開示請求に係る行政文書を開示しなければならない。(情報公開法5条)

しかし以下に掲げる事由に該当する場合は不開示とされる。

その趣旨は開示によりプライバシー等の個人の権利利益を害することとなったり公益に悪影響を及ぼしたりする恐れがあるためだ。

[不開示情報](情報公開法5条1号-6号)
個人に関する情報》・情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(個人識別情報)・特定の個人を識別することはできないが公にすることにより個人の権利利益を害する恐れがあるもの
例外〉a.法令の規定や慣行により公にされる情報または公にされる予定の情報 b.人の生命、健康、生活または財産を保護するため公にすることが必要と認められる情報 c.公務員の職および職務追行の内容に関する情報
法人その他の団体または個人の営む事業に関する情報》・公にすることにより法人等の権利や競争上の地位など正当な利益を害する恐れがある情報・行政機関の要請を受けて公にしないとの条件で任意に提供された情報であって公にしないとの条件んを付けることが情報の性質や当時の状況等に照らして合理的と認めるもの
例外〉人の生命、健康、生活または財産を保護するため公にすることが必要と認められる情報
国の安全に関する情報》公にすることにより国の安全が害されたり他国や国際機関との信頼関係が損なわれたり、または他国や国際機関との交渉上不利益を被る恐れがあると認められる情報
公共の安全と秩序維持に関する情報》公にすることにより犯罪の予防や捜査または刑の執行など公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼす恐れがあると認められる情報
国の機関等の審議、検討または協議に関する情報》国の期間、独立行政法人等や地方公共団体および地方独立行政法人の内部または相互間における審議、検討または協議に関する情報であって公にすることにより率直な意見の交換や意思表示の中立性が不当に損なわれたり不当に国民の間に混乱を生じさせたり、または特定の者に不当に利益を与えもしくは不利益を及ぼす恐れがあるもの
国の機関等の事務または事業に関する情報》国の機関、独立行政法人等や地方公共団体または地方独立行政法人が行う事務または事業に関する情報であって公にすることにより事務または事業の適正な遂行に支障を及ぼす恐れがあるもの

部分開示とは不開示情報が記録されている部分を除いた部分について開示することをさす。(情報公開法6条)

行政機関の長は開示請求に係る行政文書の一部に不開示情報が記録されている場合において不開示情報が記録されている部分を容易に区別して除くことができる時は開示請求に対し当該部分を除いた部分につき開示しなければならない

行政機関の長は開示請求に係る行政文書に不開示情報が記録されている場合であっても公益上特に必要があると認める時は開示請求に対し当該行政文書を開示することができる。(情報公開法7条)

開示請求に対し、その行政文書が存在しているか否か答えるのみで不開示情報を開示することとなる時は行政機関の長は当該行政文書の存否を明らかにしないで当該開示請求を拒否することができる。(情報公開法8条)

④開示に実施

行政文書の開示は文書または図画については閲覧または写しの交付により電磁的記録については、その種別、情報化の進展状況等を勘案して政令で定める方法により行うことになる。(情報公開法14条1項)

なお開示を受ける者は開示決定の通知があった日から30日以内に希望する開示の方法を行政機関の長に申し出なければならない。(情報公開法14条2項、3項)

開示請求された行政文書の中には第三者に関する情報が記録されている場合も考えられる。

この場合は第三者が行政文書の開示によって不利益を受けることのないようにしなければならない。

そこで開示決定の前に第三者に意見書を提出する機会を与える手続が行われることがある。(情報公開法13条)

この手続は任意的に行われる場合と必要的に行わなければならない場合とがある。

[第三者に意見書提出の機会を与える手紙]
任意的】開示請求された行政文書に第三者に関する情報が記録されているとき
必要的】(1)行政文書に記録されている情報が人の生命、健康、生活または財産を保護するため公にすることが必要であると認められるとき(2)公益上の理由による裁量的開示(情報公開法7条)の規定により開示しようとするとき※ただし第三者の所在が判明しない場合を除く

開示請求をする者または行政文書の開示を受ける者は政令で定めるところにより、それぞれ実費を納付しなければならない。(情報公開法16条1項)

この場合は開示を請求する際にまず手数料を納め続いて開示決定を受けて開示が実施される時にも手数料を納めることになる。

なお手数料を減額または免除される場合がある。(情報公開法16条3項)

[開示に関する手数料]
開示請求】開示請求に係る手数料
開示決定】開示の実施に係る手数料

救済制度

①不服申立て

開示決定等に対して不服がある場合も考えられる。

たとえば不開示の決定がなされた場合や開示された情報に自分に関する情報が記録されていた場合などだ。

このような場合に行政不服審査法に基づいて不服申立てをすることができる。

②情報公開・個人情報保護審査会

情報公開・個人情報保護審査会は内閣府に設置される機関で15名からなる委員で構成されている。

委員の任期は3年で再任も可能とされている。(情報公開・個人情報保護審査会設置法2条、3条1項、4条4項、5項)

開示決定等について不服申立てがあった時は裁決または決定をすべき行政機関の長は原則として情報公開・個人情報保護審査会に諮問しなければならない。(情報公開法18条)

開示か不開示がの決定を行政機関の判断のみで行わせると行政機関に都合の良くない情報は不開示とされる恐れがある。

そこで第三者の立場からの判断も加え、より客観的で公正な決定がなされるようにした。

なお審査会の調査や審議の手続は非公開で行われる。(情報公開・個人情報保護審査会設置法14条)

[審査会の審議内容・調査権限]
審議内容】(1)開示拒否処分の適法性の調査・審議(2)妥当性の判断
ウォーン・インデックス】審査会は必要があると認める時は諮問庁に対し行政文書等に記録されている情報または保有個人情報に含まれている情報の内容を審査会の指定する方法により分類・整理した資料を作成し提出するよう求めることができる。
インカメレラ審理】審査会は必要があると認める時は諮問庁に対し開示決定等に係る行政文書の提示を求めることができ諮問庁は、これを拒んではならない。→この場合は何人も審査会に対し提示された行政文書の開示を求めることができない。
その他】審査会は不服申立てに係る事件に関し不服申立人、参加人または諮問庁(不服申立人等)に意見書または資料の提出を求めること適当と認める者にその知っている事実を陳述させ、または鑑定を求めること、その他必要な調査をすることができる

[不服申立人に認められる権利]
意見陳述権】審査会は不服申立人等から申立てがあった時は当該不服申立人等に口頭で意見を述べる機会を与えなければならない。ただし審査会が、その必要がないと認める時は、この限りでない。
意見書の提出権】不服申立人等は審査会に対し意見書または資料を提出することができる。
提出資料の閲覧権】不服申立人等は審査会に対し審査会に提出された意見書または資料の閲覧を求めることができる。この場合において審査会は第三者の利益を害する恐れがあると認める時その他正当な理由がある時であれば、その閲覧を拒むことができない。

審査会は諮問に対する答申をした時は答申書の写しを不服申立人および参加人に送付するとともに答申の内容を公表する義務がある。(情報公開・個人情報保護審査会設置法16条)

③取消訴訟

不開示の決定に不服のある者は訴訟を提起することができる。

これは「不開示処分取消訴訟」と呼ばれ不服申立てか訴訟か、いずれかを自由に選択することができる。

情報開示条例

情報公開制度の整備は国に先駆けて地方公共団体において行われた。

山形県神山町が1982年(昭和57年)に続けて1983年(昭和58年)には神奈川県や埼玉県が情報公開条例を相次いで制定した。

現在ではすべての都道府県と政令指定都市で情報開条例が定められるに至った。

2章 行政法 レッスン6 行政不服審査法ー行政救済①-

行政救済の種類

①行政救済の種類

そもそも行政活動は国民の権利利益を保護し、ひいては社会経済の秩序を維持することを目的に行われているはずだ。

しかし行政活動がすべて国民の権利利益を保護するとは限らない。

多くの行政活動は適法かつ妥当に行われているが中には違法または不当な行政活動もあるはずだ。

たとえば飲食店が、その提供した食事が原因でないのも関わらず食中毒を引き起こしたとして営業停止処分を受けることもあり得る。

後に他に原因があったことが判明し、その原因をつくり出した者が処分を受けたとしても先の営業停止処分が適法かつ妥当であったかが問われない限り同じ過ちが繰り返され国民が損害を被る危険性が消えない。

また言われない処分を受けた国民の人権を救済する必要がある。

このような行政活動の行為によって国民の生命、身体や財産に損害が生じた場合に侵された国民の権利利益の救済を図る制度が整備されていなければならない。

そこで行政救済の制度が定められている。

現行の行政救済制度は大別して(1)行政権による救済制度と(2)司法権による救済制度とに分かれる。

(1)には行政不服審査法が(2)には行政事件訴訟法国家賠償法損失補償制度がある。

これらの制度を救済を行う機関および救済の手法という観点から分類すると以下の通りになる。

[行政救済の法体系]
行政機関】(行政不服審査法)行政行為の効力を覆す
裁判所】(行政事件訴訟法)行政行為の効力を覆す
     (国家賠償法)行政行為の効力事態は争わず金銭により解決する
     (損失補償制度)行政行為の効力事態は争わず金銭により解決する

②行政救済の対象

行政救済法の対象となる行政活動は行政機関による公権力による行使といえる行為(公法上の行為)だ。

たとえば行政庁の処分などだ。

これに対し、たとえ行政機関によってなされる行為であっても私法上の行為であれば行政救済法の対象とはならず私法が適用されることとなる。

行政不服審査法

①行政不服申立てとは

行政不服申立てとは行政庁の処分その他公権力の行使にあたる行為に関して不服がある者が行政機関に対して不服を申し立て、その違法または不当を審査させ違法または不当な行為の是正や排除を請求する手続をさす。

たとえばタクシー事業を始めようとして行政機関に許可の申請をしたところ許可を受けるのに必要な条件を満たしていたのに許可が下りなかったとする。

この場合に許可を受けられなかった国民は納得がいかないだろう。

このような場合に国民の対処として直ぐ思いつくのが行政を相手に裁判を起こすことだろう。

勿論そのための裁判制度も用意されている。(行政事件訴訟法)

しかし、これとは別に行政機関に対して不服を申し立てる制度も用意されている。

これにより国民の権利利益はより厚く保護されるといえる。

[行政不服申立ての裁判に対するメリット]
(1)裁判に比べ費用がかからないこと
(2)三審制度をとる裁判に比べ解決までの時間が短いこと
(3)裁判では判断が下されない行政処分の不当性についても判断がなされること etc.

この反面、不服申立ては行政機関による判断を求めるもので裁判所のような第三者機関が判断するものではないので中立で公平な判断がさなれるかどうかという懸念は生じる。

行政不服審査法は行政庁の違法または不当な処分に対する個人の権利利益の簡易迅速な手続による救済と行政の適正な運営を確保することを目的として1962年(昭和37年)9月に制定された行政不服申立てに関する一般法だ。

[重要条文]
この法律は行政庁の違法または不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し国民に対して広く行政庁に対する不服申立てのみちを開くことによって簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済を図るとともに行政の適正な運営を確保することを目的とする。(ふょう性不服審査法1条1項)

[行政不服審査法の目的のポイント]
(1)個人の権利利益の簡易迅速な救済
(2)行政の適正な運営の確保

②行政不服申立ての対象

私たちが生活の中で行政に不満を抱いたとしても、そのすべてが不服申立ての対象となるわけではない。

つまり行政不服審査の対象は行政庁による「処分」と「不作為」の2つに限られる。

処分とは行政庁が法令に基づいて優越的な立場において国民に対し権利を設定し義務を課す、その他具体的な法律上の効果を発生させる行為をさす。

処分は違法な処分のみでなく不当な裁量処分も不服申立ての対象とすることができる。

なお処分には講学上の行政行為の他に人の収容など、これに準ずる事実行為が含まれる。(行政不服審査法2条1項)

[重要条文]
この法律にいう「処分」には各本条に特別の定めがある場合を除くほか公権力の行使に当たる事実上の行為で人の収容物の留置その他その内容が継続的性質を有するもの(以下「事実行為」という)が含まれるもととする。(行政不服審査法2条1項)

不作為とは行政庁が法令に基づく申請に対して相当の期間内に何らかの処分その他公権力の行使にあたる行為をすべきにも関わらず、これをしないことをさす。(行政不服審査法2条2項)

③行政不服申立ての種類

不服申立てには(1)異議申立て(2)審査請求(3)再審査請求3種類がある。(行政不服審査法3条)

異議申立てとは行政庁の処分または不作為に対して処分庁ないし不作為庁に不服を申し立てる手続をさす。

審査請求とは行政庁の処分または不作為に対して処分庁ないし不作為庁以外の行政庁に不服の申立てをする手続をさす。

この場合において審査庁は不服申立てをした国民と処分庁の両方の言い分を聞いて審査する。

再審査請求とは審査請求の裁決(判断結果)に不服のある者が更に不服を申し立てる手続をさす。

行政庁の処分に対して不服申立てをする場合に異議申立てと審査請求のどちらを選ぶべきか、また同時に両方を申し立てることはできるか異議申立てと審査請求との関係はどうなっているのか。

異議申立てと審査請求とは相互に独立の関係に立っている。

つまり一つの処分に対して不服申立てをする場合は選択的にどちらかを申し立てるしかないのが原則だ。

このような考え方を相互独立主義とよぶ。

処分に対する不服申立ては行政庁自身に申立てをしてその処分の再考を促すよりも処分庁以外の行政庁に対して申し立てた方が公正な判断が期待できるかもしれない。

そこで処分庁に対して上級の行政庁がある場合には原則として審査請求によることになる。(行政不服審査法5条)

これを審査請求中心主義とよぶ。

審査請求中心主義の例外として異議申立てによらなければならない場合がある。(行政不服審査法6条)

[審査請求中心主義の例外:異議申立てによる]
(1)処分庁に上級行政庁がない場合→この場合は、そもそも審査請求することが出来ないのだから異議申立てをする他ない。
(2)処分庁が主任の大臣または宮内庁長官もしくは外局もしくはこれに置かれる庁の長である場合→この場合は各処分庁の職務上の独立性を尊重するために異議申立てを原則とする。
(3)個別法に異議申立てをすることができる旨の定めがある場合

行政不服審査法以外の法律つまり個別法によって異議申立てをすることが許されている場合には原則として異議申立てをした後でなければ審査請求をすることができない。(行政不服審査法20条)

これを異議申立て前置主義とよぶ。

その趣旨は審査請求による公正な判断よりも異議申立てによる迅速な権利救済を重視する点にある。

ただし以下の3つの場合には異議申立てを経ることなしに審査請求をすることができる。

[異議申立て前置主義の例外]
(1)処分庁が当該処分について異議申立てをすることができると教示しなかった時→この場合は、そもそも国民が異議申立てを経なかったこともやむお得ないといえるため
(2)当該処分につき異議申立てをした日の翌日から起算して3か月を経過しても処分庁が当該異議申立てについて決定をしない時→この場合は、いつまでも異議申立てに対する決定を国民が待っていられないため
(3)その他異議申立てについての決定を経ないことについて正当な理由のあるとき

不作為に対する不服申立てだが行政庁の不作為については異議申立てまたは審査請求のいずれかを自由に選択することができる。(行政不服審査法7条)

これを自由選択主義とよぶ。

不作為について自由選択主義が採用されているのは不作為庁に対して不服申立てをして事務処理の促進を直接に申し立てた方が迅速かつ適切な処理を期待できる場合があるからだ。

たとえば不作為庁が単に処理を忘れていたとか申請の件数が膨大にありすぎて処理しきれないだけという事もかんがられる。

その場合には申請の処理に必要な人員の増強や審査体制を充実して対処することができるわけだ。(補助機関の充実強化)

不作為に対する不服申立てにも処分に対する不服申立てと同様、相互独立主義が適用される。

つまり不作為に対し異議申立てと審査請求とを同時に申し立てることができない

④不服申立ての手続

行政庁に不服を申し立て審理をしてもらうには、まず決められたルールに従った不服申立てがなされることが必要だ。

このルールのことを不服申立て要件という。

不服申立て要件が定められている趣旨はルール違反の不服申立てについても審理をしなければならないとすると結果的に審理が無駄となったり処分庁および審査庁などの行政機関の機能が停止状態となったりする恐れがあるからだ。

したがって要件を満たさない不服申立てについては内容について審査することなく却下とすることで真に審査すべき不服申立てに時間と労力を割けるようにした。

[不服申立て要件の判断]
不服申立て
  ↓
不服申立て要件の審理
  ↓
(要件を満たさない)(要件を満たす)
  ↓         ↓
却下】      【内容について審理に入る

[不服申立ての要件]
(1)行政庁の処分または不作為があること
(2)不服を申し立てる権限がある者によって不服申立てがなされていること
(3)権限を有する行政庁に対して不服申立てがなされていること
(4)不服申立ての形式と手続が守られていること
(5)不服申立て期間内になされていること

不服も仕立ての対象は行政庁の処分と不作為だが処分の中でも不服申立てを許すもとそうでなうものが選別される。

不服申立てをどのような処分に認めるかについて以下の2つの考え方がある。

列記主義】法律が特に列記した事項についてのみ不服申立てを認める考え方
概括主義】法律に例外の定めのある場合を除き原則としてすべての処分について不服申立てを認める考え方

現行の行政不服審査法は異議申立て審査請求について概括主義を採用している。(行政不服審査法4条1項本文)

その理由は列記主義は複雑高度な現代社会における不服の申立てに対応する方法としては立法技術上困難であるからだ。

つまり行政国家現象の著しい現代にあって不服申立ての対象とするべき処分をいちいち列記することは困難だからだ。

これに対し再審査請求については列記主義を採用している。

審査請求に対する裁決に不服がある場合には重ねて他の行政機関の判断を求めるより行政とは無関係な第三者である裁判所に行政事件訴訟を提起して救済を求める方が権利救済にとって効果的だからだ。

[再審査請求できる場合]
法律、条例に再審査請求できる旨の定めがあるとき
審査請求できる処分について、その処分をする権限を有する行政庁(原権限庁)が、その権限を他に委任した場合に委任を受けた行政庁がその委任に基づいた処分に係る審査請求について原権限庁が審査庁として裁決をしたとき
法律で除外された処分つまり異議申立てと審査請求ができない処分には、どのようなものがあるだろうか。

まず行政不服審査法によって不服申立てが出来ないと定められたいるものがある。

以下の11項目だ。(行政不服審査違法4条1項但書)

[行政不服審査法により除外される処分]
(1)国会の両院もしくは一院または議会の議決によって行われる処分
(2)裁判所もしくは裁判官の裁判により、または裁判の執行として行われる処分
(3)国会の両院もしくは一院もしくは議会の議決を経て、またはこれらの同意もしくは承認を得たうえで行われるべきものとされている処分
(4)検査官会議で決すべきものとされている処分
(5)当事者間の法律関係を確認し、または形成する処分で法令の規定により当該処分に関する訴えにおいてその法律関係の当事者の一方を被告とすべきものと定められているもの
(6)刑事事件に関する法令に基づき検察官、検察事務官または司法警察職員が行う処分
(7)国税または地方税の犯則事件に関する法令に基づき国是庁長官、国税局長、税務署長などが行う処分
(8)学校、講習所、訓練所または研修所において教育、講習、訓練、研修の目的を達成するために学生、生徒、児童、幼児もしくはこれらの保護者、講習生、訓練生または研修生に対して行われる処分
(9)刑務所、少年刑務所等において収容の目的を達成するために、これらの施設に収容されている者に対して行われる処分
(10)外国人の出入国または帰化に関する処分
(11)もっぱら人の学識技能に関する試験または検定の結果についての処分

次に行政不服審査法以外の法律で不服申立てを除外している処分がある。(行政手続法など)

更に行政不服審査法に基づいて行われる処分がある。(行政不服審査法4条1項括弧書)

これについては、たとえば証拠物件の提出命令、出頭命令、証拠閲覧の拒否や裁決・決定などがある。

不服申立てができるのは行政庁の処分なのに関して不服がある者だ。

これには自然人はもちろん法人も含まれる。

さらに権利能力なき社団や財団でも代表者や管理人の定めがあれば、その名で不服申立てができる。(行政不服審査法10条)

また行政庁の処分により直接、自己の権利利益を侵害された者であれば処分の相手方に限らず第三者についても不服申立てを認める。

多数の者が共同して不服申立てをしようとする場合に3人を超えない人数の総代を互選することができる。(行政不服審査法11条)

手続を簡素化するためだ。

したがって総代が選ばれたとき共同不服申立人は総代を通じてのみ不服申立てに関する行為をすることができる。(行政不服審査法11条4項)

行政庁から共同不服申立人への通知その他の行為は総代のうち1人の総代に対して行えば足りる。(行政不服審査法11条5項)

総代は各自が他の共同不服申立人のために当該不服申立てに関する一切の行為をすることができる。

ただし不服申立ての取下げは、することができない。(行政不服審査法11条3項)

総代の資格は書面で証明する必要がある。(行政不服審査法13条1項)

総代が資格を失った時は不服申立人は書面にて、その旨を審査庁(異議申立ての場合は処分庁または不作為庁、再審査請求の場合は再審査庁)に届け出なければならない。(行政不服審査法13条2項)

なお共同不服申立人は必要があると認める時は総代を解任することができる。(行政不服審査法11条6項)

不服申立ては代理人によってすることができる。(行政不服審査法12条1項)

[代理人を使った不服申立ての場合]
(1)代理人によって不服申立てをすることができる
(2)代理人は各自、不服申立人のために当該不服申立てに関する一切の行為をする権限がある。
(3)不服申立ての取下げは特別の委任を受けた場合に限ってできる。
(4)代理人の資格は書面で証明する必要がある。
(5)代理人の資格を失った場合に不服申立人は書面でその旨を審査庁(異議申立ての場合は処分庁または不作為庁、再審査請求の場合は再審査庁)に届け出る必要がある。

不服申立てを処理する権限を有する行政庁は、すでに行政不服申立ての種類でみた処分庁、不作為庁、審査庁そして再審査庁だ。

それぞれに不服申立てがなされることが必要だ。

不服申立ては原則として書面を提出して行う。(不服申立書)(行政不服審査法9条1項)

ただし他の法律(条例に基づく処分については条例を含む)に口頭ですることができる旨が定められていれば口頭による不服申立てが可能だ。

書面は異議申立ての場合には1通だが、それ以外の不服申立ては2通を提出する必要がある。(行政不服審査法9条2項)

この2通は正本と副本という位置づけだ。

たとえば審査請求の場合には審査庁は副本を処分庁に送付し、その後、処分庁の言い分を弁明書として受け取ることになる。(行政不服審査法22条1項)

このような理由があるため処分庁への送付分も含めて2通が必要となる。

なお電子情報処理組織を使用しての審査請求がなされた場合には審査請求書の正副2通が提出されたものとみなされる。(行政不服審査法9条3項)

不服申立てが要件を満たさず不適法な場合で補正ができるときは処分庁および審査庁は相当の期間を定めて、その補正を命じなければならない。(行政不服審査法9条3項)

不服申立書には以下に掲げる事項を記載する必要がある。(行政不服審査法15条1項1号-6号)

[不服申立書の記載事項]
(1)審査請求人の氏名および年齢または名称ならびに住所
(2)審査請求に係る処分
(3)審査請求に係る処分があったことを知った年月日
(4)審査請求の趣旨および理由
(5)処分庁の教示の有無およびその内容
(6)審査請求の年月日

[不服申立ての期間]
不服申立ての期間】不服申立書を郵送または信書便で提出した場合は送付に要した日数は不服申立ての期間に算入されない。(行政不服審査法14条4項、48条、56条)《審査請求処分があったことを知った日の翌日から起算して60日以内。ただし異議申立てが前置された場合は当該異議申立てについての決定があったことを知った日の翌日から起算して30日以内(行政不服審査法14条1項本文)《異議申立て処分があったことを知った日の翌日から起算して60日以内(行政不服審査法45条)《再審査請求審査請求についての裁決があったことを知った日の翌日から起算して30日以内(行政不服審査法53条)
期間の例外】天災その他やむを得ない理由により期間内に不服申立てをしなかったっ場合に、その理由がやんだ日の翌日から起算して1週間以内であれば不服申立てをすることができる。(行政不服審査法14条1項但書、2項、48条、56条)
期間制限処分(異議申立てが前置された場合は当該異議申立てについて決定)があった日の翌日からきさんして1年を経過した時は審査請求をすることができない。(行政不服審査法14条3項、48条、56条)
期間制限の例外】正当な理由がある時は期間制限を超えても不服申立てをすることができる。(行政不服審査法14条3項但書、48条、56条)

不作為についての不服申立ては、その性質から申立期間の定めはない。

何もしないという状態が続くのが不作為である以上、起算スタート時点を定めることができない。

また不作為は違法な状態の継続だから、それが続きている以上、不服申立てができて当然だからだ。

⑤審理

行政不服申立ては処分庁または上級行政庁などの監督権限をもつ行政庁が行政処分の適法性と妥当性とを審査する手続だ。

このことから審査の対象は処分または不作為の適法・違法の問題(法律問題)のみならず当・不当の問題(裁量問題)までも含むことになる。

審理の方式は原則として書面審理による。(行政不服審査法25条1項本文)

そして原則として審査庁の職権で進められる。

また審査庁は申立人の主張にとらわれないため申立人の主張していない事項についても審理をし、これに対して裁決をすることができる。

行政不服申立てによる救済は手続の簡易性と迅速性が求められるからだ。

ただし例外がある。

審査請求人または参加人の申立てがあった場合には審査庁は申立人に口頭で意見を述べる機会が必ず与える必要がある。(行政不服審査法25条1項但書)

つまり当事者には口頭での意見陳述権が認められている。

審査庁は審査請求書が提出された場合に、まず不服申立要件を確認する。

そして適法な審査請求である場合には審査庁は審査請求書の副本を処分庁に送付し、その後で処分庁に弁明書の提出を請求することができる。(行政不服審査法22条1項)

弁明書の提出は正副2通の提出を要する。(行政不服審査法22条2項)

審査庁は処分庁から弁明書の提出を受けた時は審査請求の全部を容認すべき場合を除き弁明書の副本を審査請求人に送付しなければならない。(行政不服審査法22条5項)

審査請求人は弁明書の副本の送付を受けた時は、これに対する反論書を提出することができる。(行政不服審査法23条)

証拠調べをする手続も原則として審査庁の職権によって進められる。

[職権証拠調べの例]
(1)参考人の陳述および鑑定の要求審査庁は審査請求書が提出された場合に、まず不服申立要件を確認する。(行政不服審査法27条)
(2)関係物件の提出要求(行政不服審査法28条)
(3)検証の実施(行政不服審査法29条)
(4)審査請求人または参考人の審尋(行政不服審査法30条)

審査庁が職権で証拠調べができるといっても独断を防止するための方策は必要だ。

そこで以下の表に掲げる独断防止のための手段が当事者に用意されている。

[審査請求人および参加人の権利]
(1)証拠等の提出権(行政不服審査法26条)
(2)審査庁の証拠調べ手続の発動を促す権利(行政不服審査法27条-30条)
(3)検証に立ち会う権利(行政不服審査法29条2項)
(4)提出物件の閲覧を請求する権利(行政不服審査法33条2項)

利害関係人は審査庁の許可を得ること参加人として審査請求に参加することができる。(行政不服審査法24条1項)

また審査庁は必要があると認めた時は利害関係人に対して参加人として審査請求に参加するよう求めることができる。(行政不服審査法24条2項)

異議申立ての手続は審査請求手続きとほとんど同じだ。

しかし異議申立てにおいては審査庁が存在しない

したがって審査庁に対する弁明書の提出規定は準用されていない。

また処分庁から審査庁にたいしてなされる証拠物件の提出やその閲覧も準用されない。

不服申立てがなされたからといって、すべての処分の効力がなくなったり処分の執行が止まったりするわけではない。

むしろ処分は存続するのが原則だ。

不服申立てがなされたとしても処分庁は原則として処分の執行または手続を妨げられない。(執行不停止の原則)(行政不服審査法34条1項、48条)

執行不停止を原則としても不服申立人の権利ないし地位を保全して、その救済を図る必要はある。

そこで以下に掲げる一定の要件を満たした場合には執行停止が認められる。(行政不服審査法34条2項-4項)

[執行停止が認められる場合]
(1)審査庁が処分庁の上級行政庁である場合→審査庁は必要があると認める時は審査請求人の申立てまたは職権により執行停止をすることができる。(行政不服審査法34条2項)
(2)審査庁が処分庁の上級行政庁以外の行政庁である場合→審査庁は必要があると認める時は審査請求人の申立てにより処分庁の意見を聴取したうえで執行停止のうち処分の効力、処分の執行または手続の続行の全部または一部の停止をすることができる。(行政不服審査法34条3項)
(3)執行停止義務がある場合→審査請求人の申立てがあった場合は処分、処分の執行または手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があると認める時は以下に掲げるっ倍を除き審査庁は執行停止をしなければならない。(行政不服審査法34条4項)a)公共の福祉に重大な影響を及ぼす恐れがあるとき b)処分の執行もしくは手続の続行ができばくなる恐れがあるとき c)不服申立てについて理由がないとみえるとき

執行停止をした後に処分の執行もしくは手続の続行を不可能とすることが明らかとなるなど事情が変更した時は審査庁は、その執行停止を取り消すことができる。(行政不服審査法35条)

⑥裁決および決定

裁決とは審査請求または再審査請求に対して審査庁が裁断する行為のことだ。

決定とは異議申立てに対して処分庁が裁断する行為のことだ。

審査手続は不服申立人が不服申立てを取り下げる場合のほか審査庁の裁決または処分庁の決定によって終了する。

なお不服申立ての取下げは書面でしなければならない。(行政不服審査法39条2項)

[裁決および決定の種類]
(1)却下裁決(却下決定)…不服申立てが不服申立要件を欠いて不適法であるとき本案審理に入ることを拒否する裁決(決定)のこと。(行政不服審査法40条1項、47条1項等)
(2)棄却裁決(棄却決定)…不服申立てに理由がないとして、その不服申立てを退ける裁決のこと。(行政不服審査法40条2項、47条2項等)なお不作為に対する異議申立てを棄却する場合には不作為庁は書面で不作為の理由を示す必要がある。(行政不服審査法50条2項)
(3)事業裁決(事情決定)…請求に理由があれば認容して行政処分を取り消すのが原則である。しかし行政処分を取り消すことで公の利益に著しい障害を生ずる場合もある。このような場合に一定の要件を満たすことを条件に審査庁または行政庁が請求を棄却する裁決(決定)のこと。(行政不服審査法40条6項、48条、56条)棄却裁決(棄却決定)の一種。
(4)認容裁決(認容決定)…不服申立てに理由がある場合において不服申立てを認める裁決(決定)のこと。

[許容裁決(認容決定)の効果]
事実行為を除く処分に対する不服申立ての認容
事実行為としての処分に対する不服申立ての認容
不作為に対する不服申立ての認容

裁決(決定)は要式行為だ。

以下の方式が定められている。(行政不服審査法41条1項、48条、52条、56条)

[裁決(決定)の方式]
(1)書面(裁決書、決定書)によって行う。
(2)裁決書(決定書)に裁決(決定)に対する判断を主文として揚げる。
(3)裁決書(決定書)に判断に至った理由を明示する。
(4)審査庁(処分庁)か裁決書(決定書)に記名押印する。

裁決(決定)は不服申立人への送付によって効力が生じる

その送達の仕方は送達を受けるべき者に対して裁決書(決定書)の謄本を送付することで行う。

謄本…原本の内容をそのまま謄写した書面

ただし不服申立てが処分の相手方以外の者から提起された場合で認容裁決(決定)がなされた時は不服申立人に送達するだけでなく処分の相手方に対しても送達することが必要となる。(行政不服審査法42条1項)

その趣旨は処分の相手方が認容裁決(決定)によって直接に影響を受けるからだ。

行政不服審査法は裁決(決定)の効力として拘束力に関する規定を設けている。(行政不服審査法43条1項)

しかし効力は拘束力のみに限られるという趣旨ではない。

裁決(決定)もまた行政行為の1種類だ。

したがって当然無効とされる場合以外は他の行政行為と同様に公定力、自力執行力、不可争力、不可変更力まで認められる。

⑦教示制度

教示制度とは行政庁から国民に対して不服申立ての方法を教える制度のことだ。

国民の側からみれば不服申立ての制度を存在や利用方法を教えてもらわないと活用のしようがない。

そこで不服申立制度を国民に対して知らしめるために設けたのが教示制度だ。

行政庁は審査請求もしくは異議申立てまたは他の法令に基づく不服申立てをすることができる処分をする場合において処分の相手方に対して当該処分につき不服申立てをすることができる旨ならびに不服申立てをすべき行政庁および不服申立てをすることができる期間書面で教示しなければならない。(行政不服審査法57条1項)

ただし当該処分を口頭で行う場合には教示の義務はない。(行政不服審査法57条1項ただし書)

行政庁は利害関係人から当該処分が不服申立てをすることができる処分であるかどうか、ならびに不服申立てをすることができる場合における不服申立てをすべき行政庁およびすることができる期間については教示を求められた時は当該事項を教示しなければならならない。(行政不服審査法57条2項)

教示の方法は処分の相手方に教示する場合と利害関係人への教示の場合とで異なる。

[教示の方法(行政不服審査法57条1項-3項)]
処分の相手方への教示】書面で教示しなければならない。
利害関係人への教示】(原則)口頭の教示でよい(例外)利害関係人が書面で教示を求めた場合は書面でしなけれなならない。

行政庁が教示義務を違反して教示をしない場合が考えられる。

この場合は不服申立人不服申立書を当該処分庁に提出することができる。(行政不服審査法58条1項)

この場合の処分庁は教示義務に違反した行政庁のことだ。

不服申立てをしようとする者に対して誤った教示がされた場合に、その間違った教示通りに不服申立てがなされるのは当然であり不服申立人に不利益を与えてはいけない。

そこで誤った教示を受け、その通りに不服申立てをした者に不利益が生じないような制度を設けた。

不服申立てができない処分であっても行政事件訴訟の提起による救済を受けられるが行政事件訴訟には出訴の期間が決められている。

誤った教示に従い不服申立てをなしたところ、その間に出訴期間が経過してしまった場合に、もはや行政事件訴訟法による救済を受けられないとするのは余りに酷だ。

そこで、このような場合の救済方法として不服申立てをした者に対しては当該不服申立てに対する裁決(決定)つまり却下裁決(決定)があったことを知った日から出訴期間を計算して裁判所に出訴することができるとされている。(行政事件訴訟法14条3項)

不服申立てをすべき先の行政庁を誤って教示されると誤った行政庁に不服申立書を提出してしまう。

そこで提出を受けた行政庁は当該不服申立書の正本や副本を本来の権限ある行政庁に送付し、その旨を不服申立人に通知しなければならないとされている。

この場合は正本が権限ある行政庁に送付された時に、はじめから適法な不服申立てがあったものとみなされる。(行政不服審査法18条、46条)

処分庁が誤って法定の期間よりも長い期間を不服申立期間として教示する場合が考えられる。

この場合は、その教示された期間内に不服申立てがなされた時は法定期間をたとえ経過していた時でも法定期間内に不服申立てがなされたものとみなされる。(行政不服審査法19条、48条)

[誤った教示をした場合の措置]
教示を怠った場合】不服申立人は不服申立書を当該処分庁に提出することができる。
不服申立てのできない処分に対して、できる旨を教示した場合】不服申立てをした者に対して当該不服申立てに対する却下裁決(決定)があったことを知った日から出訴期間を計算して裁判所に出訴することができる。
不服申立てをすべき先の行政庁を誤って教示した場合提出を受けた行政庁は当該不服申立書の正本や副本を本来の権限ある行政庁に送付し、その旨を不服申立人に通知する。
不服申立期間を誤って教示した場合】教示された期間内に不服申立てがなされた時は法定期間をたとえ経過していた時でも法定期間内に不服申立てがなされたものとみなされる。

2章 行政法 レッスン7 行政事件訴訟法-行政救済②-

行政事件訴訟法の概要

①行政事件訴訟とは

行政事件訴訟とは行政に関する争いについての裁判をいう。

この行政事件訴訟の手続を定めた法律のことを行政事件訴訟法とよぶ。

すでにみた不服申立制度は費用がかからない等、国民にとってさまざまなメリットがあった。

しかし不服申立制度があればこれで国民の権利利益の保護として万全かというと必ずしもそうとはいえない。

不服申立制度は行政庁の行った処分などについて、その適否や当否を、いわば身内である他の行政庁や処分などを行った行政庁自身に判断させるものだ。

公正かつ公平な判断がなされたかについて問題なしとはいえないだろう。

身内意識が高じて手心を加えるまでとはいかなくとも国民に対して消極的な判断をすることは十分考えられる。

その結果、行政活動によって国民に生じた損害について救済が不十分になる恐れがある。

そこで憲法は、このような事態を考慮して行政機関に対して「適法か違法かの最終判断」をする権限を与えなかった。(憲法76条2項)

行政事件についても最終的には裁判所が判断することになった。

行政事件訴訟法は、その手続法として制定されるに至った。

なお訴訟法といっても行政事件は以下の表に示すように民事上の争いとは異なる特徴を有している。

その意味で行政事件訴訟法は民事訴訟法の特別法に位置付けられる。

したがって行政事件訴訟について行政事件訴訟法に規定のない事項に関しては一般法である民事訴訟法の規定が適用される。(行政事件訴訟法7条)

[民事訴訟法と行政事件訴訟法の比較]
民事訴訟法
対立)私人 対 私人
原則)私的自治の原則
目的)当事者の意思表示の発見
制度)当事者主義
行政事件訴訟法
対立)私人 対 行政庁
原則)法律による行政の原理
目的)法律に適合した行政か否かの発見
制度)当事者+職権主義(職権証拠調べ)

②行政棄権訴訟の種類

行政事件訴訟法は訴えの種類として以下の図に示すものを定めている。

これらのうち法定抗告訴訟の種類である「処分の取消しの訴え」や「裁決の取消しの訴え」といった取消訴訟については後に詳しく説明する。

現実になされる行政事件訴訟の大部分は取消訴訟であり重要だからだ。

[行政事件訴訟の種類]
(行政事件訴訟)(主観訴訟)(当事者訴訟)
              (抗告訴訟)(法定訴訟)(処分の取消しの訴え)
                          (裁決の取消しの訴え)
                          (無効等確認の訴え)
                          (不作為の違法確認の訴え)
                          (義務付けの訴え)
                          (差止めの訴え)
                    (法定外抗告訴訟)
              (客観訴訟)(民衆訴訟)
                    (機関訴訟)

主観訴訟…個人の利益の保護のために提起される訴訟。

客観訴訟…個人の利益の保護に関係なく社会の利益のために提起される訴訟。

抗告訴訟…公権力の行使に関する不満を争う訴訟。

当事者訴訟とは行政側と国民とが対等の当事者の立場で互いの権利義務をめぐって争う訴訟をいう。

主観訴訟は抗告訴訟とこの当事者訴訟とに分かれる。

一方当事者が行政であるため行政事件訴訟法に規定が設けられているが対等の当事者として争うのだから当事者訴訟の審理手段は通常の民事訴訟とほぼ同じになっている。

当事者訴訟は(1)形式的当事者訴訟と(2)実質的当事者訴訟とに分かれる。

形式的当事者訴訟とは当事者間の法律関係を確認し、または形成する処分または裁決に関する訴訟で法令の規定により、その法律関係の当事者の一方を被告とする訴訟のことだ。(行政事件訴訟法4条前段)

実質的当事者訴訟とは公法上の法律関係に関する確認の訴え、その他の公法上の法律関係に関する訴訟のことだ。(行政事件訴訟法4条後段)

2004年(平成16年)の改正によって公法上の法律関係に関する確認の訴えが明文化された。

従来、確認の訴えは判例により認められてきたため本条後段はこの判例の流れを確認し明文化したものだ。

抗告訴訟とは公権力の行使に対する不満を争う訴訟をいう。

抗告訴訟は法定抗告訴訟と法定外抗告訴訟とに分かれる。

法定抗告訴訟には処分と裁決の取消しの訴えのほか無効等確認の訴え、不作為の違法確認の訴え、義務付けの訴えおよび差止めの訴えがある。

無効等確認の訴えとは処分もしくは裁決の存否または、その効力の有無の確認を求める訴訟をいう。(行政事件訴訟法3条4項)

本来、行政処分が不存在または無効であれば公定力、不可争力などは生じないので、そのまま放置しおけばよいはずだ。

したがって国民はあえて処分の無効等の確認を裁判所に求めるまでもなく、これを無視して処分が無効であることを前提に直接自己の権利を主張することができるはずだ。

しかし実際には無効な行政処分であっても行政庁はあくまでも有効なものとして行政活動を続行することがある。

そこで裁判所によって行政行為の無効を確認してもらい、さらなる行政活動の続行を止める必要があるのだ。

これが無効等確認の訴えが認められる趣旨だ。

無効等確認の訴えは取消訴訟とは違い出訴期間の制限はない。(行政事件訴訟法38条1項は14条を準用せず)

不作為の違法確認の訴えとは行政庁が法令に基づく申請に対し相当の期間内に何らかの処分または裁決をすべきであるにもかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟をいう。(行政事件訴訟法3条5項)

たとえば国民の側で許認可等を申請したのに対し行政庁があまりにも長期にわたり申請を放置している場合に、その不作為の違法を確認し事務処理の促進を図ることを目的とした訴訟のことだ。

[不作為の違法確認の訴えのその他のポイント]
原告適格】処分または裁決について申請をした者に限る → 申請の握りつぶしを防ぐ趣旨を実現すればよいから
審理手続】取消訴訟とほぼ同じ流れ(ただし出訴期間の制限なし)
裁決内容】不作為の違法を確認するのみ → 申請の握りつぶしを防止できればそれで足り、「~という処分をせよ」と一律に義務ずけることは三権分立に反する

義務付けの訴えとは行政庁に一定の処分または裁決をせよと判決を求める訴訟のことだ。

2004年(平成16年)改正によって新たに法定された訴訟の類型だ。

義務付けの訴えのメリットは特定の処分を求めることが可能になったため国民の権利利益の救済が直接的かつ迅速に実現できるというところにある。

義務付けの訴えと不作為の違法確認の訴えとは以下の点で異なる。

義務付けの訴え】特定の処分を求める → 一定の処分または裁決をするべき旨を命ずることができる
不作為の違法確認の訴え】不作為の違法を確認するのみ → 特定の処分の義務付けはできない

義務付けの訴えは申請を前提としない第一号義務付け訴訟と申請を前提とする第二号義務付け訴訟とに分かれる。(行政事件訴訟法3条6項1号、2号)

義務付けの訴えは特定の処分の発動を求めるものなので裁判所による処分内容の決定権限をもつ行政庁への干渉となりかねない。

そこで一定の要件を満たす必要がある。(行政事件訴訟法37条の2、37条の3)

[第一号義務付け訴訟と第二号義務付け訴訟の比較]
どのような場合か】(第一号)行政庁が一定の処分をすべきであるにもかかわらず、しない時(第二号)国民の申請に基づき行政庁が一定の処分または裁決をすべきであるにもかかわらず、しない時
提起することができる者】(第一号)行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者(第二号)法令に基づく申請または審査請求をした者
要件】(第一号)一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずる恐れがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がない時(第二号)a.法令に基づく申請または審査請求に対し相当の期間内に何らかの処分または裁決がなされた時 b.当該法令に基づく申請または審査請求を却下または棄却する旨の処分または裁決がされた場合において当該処分または裁決が取り消されるべきものであり、または無効もしくは不存在である事

差止めの訴えとは行政庁が一定の処分または裁決をすべきでないにも関わらず、これがされようとしている場合に行政庁がその処分または裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟のことだ。(行政事件訴訟法3条7項)

2004年(平成16年)改正によって新たに法定された訴訟の類型だ。

国民の権利利益の救済という観点からは権利利益が侵害される前に救済をするものだから、より望ましい救済方法といえる。

しかし、いまだに公権力の行使がなされていない段階で予防的に訴訟を認めると行政庁の判断権限を侵すことにつながる。

そこで両者の調和を図るために要件が定められている。(行政事件訴訟法37条の4第1項)

[差止めの訴えの要件]
(1)一定の処分または裁決がされることにより重大な損害を生ずる恐れがある場合
(2)その損害を避けるために他に適当な方法がない事

義務付け訴訟や差止訴訟を提起しても、その判決を待っていたのでは訴えの提起をした者や申請者が必要なときに必要な処分を受けることが困難となる場合がある。

そこで仮の救済処分として、それぞれ仮の義務付けや仮の差止めという制度が設けられている。(行政事件訴訟法37条の5)

法定外抗告訴訟とは抗告訴訟のうち法定の場合のほかに認められる公権力の行使に対する不満を争う訴訟のことだ。

客観訴訟とは個人の利益の保護に関係なく社会の利益のために提起される訴訟のことだ。

民衆訴訟機関訴訟とがある。

[民衆訴訟と機関訴訟]
民衆訴訟国または公共団体の機関の法規に適合しない行為に対する是正を求める訴訟 (例)公職選挙法に基づく当選訴訟、地方自治法上の住民訴訟など
機関訴訟国または公共団体の機関相互における権限の存否または、その行使に関する紛争を判断する訴訟 (例)地方公共団体の長と議会の間での議決または選挙に関する訴訟

③教示制度

従来、行政事件訴訟法に教示制度は設けられてなかった。

しかし行政事件訴訟は国民にとって馴染みの薄い訴訟制度だ。

どのような処分や裁決に取消訴訟を提起できるのか誰を被告とするべきなのか、どの段階で訴えを提起できるのかなど教示の制度がないで生ずる不利益は大きく国民の権利利益の保護の観点から不十分との指摘がなされてきた。

そこで2004年(平成16年)改正により教示制度が設けられた。(行政事件訴訟法46条)

[教示制度の内容]
教示】行政庁は取消訴訟を提起することができる処分または裁決をする場合は当該処分または裁決の相手方に対して次の事項を書面で教示しなければならない。ただし口頭で処分を行う時は教示をしなくてよい
教示事項】(1)当該処分または裁決に係る取消訴訟の被告とすべき者 (2)当該処分または裁決に係る取消訴訟の出訴期間 (3)法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがある時は、その旨 (4)法律に処分についての審査請求に対する裁決に対してのみ取消訴訟を提起することができる旨の定めがある場合において当該処分をする時は当該処分の相手方に対し法律にその定めがある旨

取消訴訟

①取消訴訟の概要

行政権の行為に対して国民が不満を抱いたからといって、すべての行政権の行為について取消訴訟の対象にすることはできない。

そこで取消訴訟に適する行政権の行為として「行政庁の処分その他公権力の行使にあたる行為(処分という)」と「審査請求、異議申立てその他の不服申立てに対する行政庁の裁決、決定その他行為(裁決という)」とが対象とされている。(行政事件訴訟法3条2項、3項)

処分とは「行政作用」において学習した行政行為とほぼ同じ意味だ。

処分に含まれないもの
法律、命令および条例の制定や行政契約、行政指導などは国民に直接不利益を強いるものでないため原則として処分にあたらず取消訴訟を提起することはできない。

処分に含まれるもの
処分異は国民の自由を拘束する権力的かつ継続的な事実行為を含む。国民に対して不利益を強いる直接強制や即時強制による身体、財産への強制行為などだ。処分にはこれらが含まれるので行政作用での行政行為とは違う面がある。

判例上、処分にあたるかが争われたもの
a.処分にあたるとされた例
(1)行政代執行法の戒告
(2)関税定率上の輸入禁制品(現在は関税法上の輸入してはならない貨物)に該当する旨の通知
b.処分にあたらないとされた例
(1)通達 → 行政の内部行為にすぎず処分性なし
(2)ごみ焼却場の設置処分 → 非権力的な事実行為だから

不服申立てに対する裁決や決定も取消訴訟の対象だ。

憲法76条2項は法の支配の見地から行政機関が終審として裁判を行うことを禁止しているから裁判所に最終の判断権を与えたのだ。

たとえば行政による処分の違法を主張して審査請求で行政庁と争ったが、それが棄却されたとする。

この場合に、国民としては審査請求の対象とした原処分を争う方法と、その審査請求の裁決を争う方法とが考えられる。

この場合において原処分の取消しの訴えによるべきとする考え方を原処分主義といい棄却裁決の取消しの訴えによるべきとする考え方を裁決主義という。

処分の取消しの訴えと裁決の取消しの訴えとの関係は以下に示す通りだ。

[処分の取消しの訴えと裁決の取消しの訴えとの関係]
原則】どちらを選択しても良い。 → 裁決の取消しの訴えを選択した場合に当該訴えにおいては処分の違法を理由としての裁決の取消しを求めることはできない。
例外】特別法で裁決の取消しの訴えのみを認めている場合 → 裁決の取消しの訴えを提起しなければならない(裁決主義
処分の取消し)処分固有の瑕疵がある場合 → 処分の取消しの訴えで争う(原処分主義
裁決の取消し)裁決固有の瑕疵がある場合 → 裁決の取消しの訴えで争う(裁決主義

②取消訴訟提起の要件

国民が取消訴訟を提起すると行政不服申立ての場合と同様に、まずは訴え自体が適法になされているかが調査される。

違法な訴えによって裁判を開いたり訴訟の相手方を裁判所に出頭させたりする時間や労力の無駄が生じないようにする趣旨だ。

[取消訴訟提起後の流れ]
(取消訴訟の提起)→(訴訟要件の審理)→(要件を満たさない)→(却下)                    (要件を満たす)  →(内容について審理に入る)

訴訟要件すなわち訴えを適法にするために要求される要件は以下に揚げる通りだ。

訴訟要件を満たさない訴えは行政不服申立ての場合と同様、内容の審理に入ることなく却下される。

[取消訴訟の訴訟要件]
(1)行政庁の処分、裁決または決定が存在すること
(2)原告適格であること
(3)訴えの利益があること
(4)出訴期間内に訴訟提起がなされたこと
(5)被告適格があること
(6)審査請求前置の場合に不服申立てに対する裁決を経たこと

取消訴訟の対象のところでみた取消訴訟の対象となる処分、裁決または決定を訴訟の対象としている場合には、この要件を満たすことになる。

取消訴訟は訴訟を提起する権限のある者によって訴訟提起がなされる必要がある。

原告適格とは取消しを求める訴えを提起することができる資格をいい取消訴訟では「法律上の利益」を有する者に限って認められる。

原告適格を有する者は(1)不利益処分を受けた相手方および(2)形式的には処分の相手方ではないが実質的にみれば当事者と同視される者だ。

このうち(2)に関して問題となった判例を以下にまとめた。

[原告適格に関する判例]
他人に対する処分によっていわば反射的に不利益を受けた第三者
公衆浴場法に基く許可制度を適正な運営によって保護される既存業者の営業上の利益は同法によって保護される法的利益であるから既存業者は新規業者に対する許可の取消しを求める法律上の利益を有する(最判S37.1.19)
不特定多数が対象となる処分によって不利益を受けた者
a.新潟空港訴訟において新潟空港周辺の住民には空港の設置許可を争う原告適格がある(最判H1.2.17)
b.都市計画法上の開発許可によって崖崩れ等の危険にさらされる者は開発許可の取消しを求める原告適格を有する(最判H9.1.28)

行政庁の処分または裁決により国民の権利や地位が侵害されている場合であっても取消訴訟によって侵害されていた権利や地位を回復することができなければ、そもそも訴えをおこす実益がない。

訴えの利益とは処分または裁決が取り消された場合に現実に法律上の利益の回復が図られる状態にあることをいう。

たとえば取消判決が下されても、もはや原告の救済が無意味であるならば訴えの利益は認めたれない。

ただし「処分または裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった後においてもなお処分または裁決の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する者」には法律上の利益を認めている。(行事事件訴訟法9条1項かっこ書)

つまり回復すべき利益は処分または裁決により直接侵害された権利や地位のみに限られない。

訴えの利益が問題となった判例の否定例と肯定例を以下にまとめた。

[訴えの利益に関する判例]
否定例
(1)建築確認処分の取消しを求める利益は建築物の建築工事の完了によって失われる(最判S59.10.26)
(2)皇居外苑使用許可申請の不許可処分の取消しを求める訴えの利益は訴訟係属中に使用日が経過することによって失われる(最判S28.12.23)
(3)生活保護法に基づく保護変更決定の取消しを求める利益は原告の死亡によって消滅する(最大判S42.5.24)
肯定例
(1)公務員は公職選挙に立候補すると辞職したものとみなされる(公職選挙法90条)から免職処分を受けた公務員が公職に立候補した場合は、この規定により公務員たる地位を回復できなくなるが免職処分に伴い給料請求権その他の権利利益が害されたままになっているという不利益状態の存在する余地がある以上、なお当該免職処分の取消しを求める訴えの利益を有する(最大判S40.4.28)
(2)自動車の運転免許有効期間の定めは免許が現在取り消されており、その取消しの適否が訴訟で争われている場合についてまで適用を予定したものとは解し難く当該期間の経過は何ら免許取消処分取消しの訴えの利益の存続に影響しないと解する(最判S40.8.2)

取消訴訟は処分または裁決があったことを知った日から6か月以内提起しなければならない。(行政事件訴訟法14条1項)

ただし正当な理由がある時は期間経過後の提起も可能だ。

また取消訴訟は処分または裁決の日から1年を経過した場合には提起することができない

ただし正当な理由があった時は期間経過後であっても取消訴訟を提起することが可能だ。(行政事件訴訟法14条2項)

被告適格とは訴えの相手方を誰にするべきかという問題だ。

この点について行政事件訴訟法は原則として処分の取消訴訟は処分をした行政庁の所属する国または公共団体を被告とすべきと定めた。(行政事件訴訟法11条1項)

なお原告が被告を誤って訴えを提起した場合については救済規定が置かれている。

取消訴訟において原告が故意または重大な過失によらないで被告とすべき者を誤った時は裁判所は原告の申立てにより決定をもって被告を変更することを許すことができる。(行政事件訴訟法15条1項)

行政処分に対して不服申立てをすることが許されている場合に国民にとって処分の効力を争う方法として(1)不服申立てと(2)行政事件訴訟の2つの手段がある。

この両者の関係についていは以下に示す通りだ。(行政事件訴訟法8条)

[不服申立てと行政事件訴訟との関係]
原則】どちらも選択してよい(自由選択主義) → 必要があれば同一の処分について両方を同時に選択することもできる。
例外】不服申立てに対する裁決を経た後でなければ訴訟を提起することができないとされる場合は裁決を経ていること(審査請求前置主義) → 審査請求前置主義の場合であっても以下の場合には裁決を経ることなく行政事件訴訟を提起できる。
審査請求前置主義の例外
a.審査請求があった日から3か月を経ても裁決がない時
b.処分、処分の執行または手続の続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要がある時
c.その他、裁決を経ないことについて正当な理由がある時

③取消訴訟の審理

取消訴訟を提起されると、ます裁判所は訴えが訴訟要件を満たししているか審理する。

仮に訴訟要件を欠いている場合には訴えは不適法であるとして却下判決が下される。

訴えが訴訟要件を満たしている場合には裁判所は処分の取消しを求める請求が妥当かどうかの審理を行う。

取消訴訟の審理の対象は処分の適法性だ。

すなわち行政処分の主体、手続、内容の各側面から処分の適法性が審理される。

この点、不服申立てとは異なり裁量の当・不当は審理の対象とはならない

裁判所は裁量の当・不当を判断する立場にないからだ。

行政庁の自由裁量処分については裁量権の範囲を超え、またはその濫用があった場合に限り裁判所はその処分を取り消すことができる。(行政事件訴訟法30条)

行政事件訴訟法では原則として当事者の主張と証拠に基づいて審理を行う。

このような手続上の原則を弁論主義という。

しかし行政上の法律関係は公共の利益と関係するために客観的に国民誰にとっても適法かつ公正な結果であることが求められている。

その意味で当事者間でのみ満足のいく解決で足りるものではない。

そこで行政事件訴訟法は民事訴訟手続にはない2つの制度を設けている。

まず裁判所は必要があると認める時は職権で証拠調べをすることがでいる。(行政事件訴訟法24条本文)

これを職権証拠調べという。

もっとも証拠調べにおける裁判所の独断は防止しなければならない。

そこで証拠調べの結果については当事者の意見を聴かなければならないとされている。(行政事件訴訟法24条但書)

次に釈明処分の特則が設けられている。

行政事件訴訟では当事者の情報収集能力などの点で行政庁と国民との間には大きな格差が存在する。

したがって事実や証拠の収集を当事者の権能かつ責任とする弁論主義の考え方では十分な審理がつくせないという事態が起きてきた。

そこで2004年(平成16年)法改正により弁論主義を補充するものとして民事訴訟法に定めた釈明権を強化し裁判所からのはららきかけを認めた。

つまり一般法である民事訴訟法の釈明権を踏まえ、さらに被告である国や公共団体に所属する行政庁に対して、その保有する資料等の提出を求めることができる。(行政事件訴訟法23条の2)

訴訟参加とは、すでに裁判所に係属している裁判について重大な利害関係を有する第三者が、その裁判に新たな参加することをいう。

この訴訟参加には(1)第三者の訴訟参加と(2)行政庁の訴訟参加の2つがある。(行政事件訴訟法22条、23条)

[第三者の訴訟参加と行政庁の訴訟参加]
第三者の訴訟参加】訴訟の結果により権利を害される第三者があるときは当事者もしくは第三者の申立てにより、または職権で決定をもって、その第三者を訴訟に参加させることができる。
行政庁の訴訟参加】処分また裁決をした行政庁以外の行政庁を訴訟に参加させることが必要であると認める時は当事者もしくは行政庁の申立てにより、または職権で決定をもって、その行政庁を訴訟に参加させることができる。

たとえば訴訟の当事者間に複数の争いがあったとする。

これらを別々に訴訟提起することも勿論可能だ。

しかし相互に関連する紛争については別々に訴訟するよりも同一の訴訟手続の中で審理する方が重複も防ぐことができるし複数ある裁判相互の矛盾が発生することも防ぐことができる。

そこで行政事件訴訟法は1つの訴訟で複数の請求を審理する「訴えの併合」(行政事件訴訟法16条、19条)や、ある訴訟を違う訴訟に変更する「訴えの変更」(行政事件訴訟法21条)という制度を設けている。

なお訴えの併合や変更に関する規定は取消訴訟だけでなく他の抗告訴訟にも準用されている。(行政事件訴訟法38条)

[訴えの併合と訴えの変更]
訴えの併合】1つの訴訟で複数の請求を審理
a.請求の客観的併合…取消訴訟には関連請求に係る訴えを併合できる。
b.原告による請求の追加的併合…原告は取消訴訟の口頭弁論の終結に至るまで関連請求に係る訴えをこれに編号して提起できる。
訴えの変更】ある訴訟を違う訴訟に変更
取消訴訟を国または公共団体に対する損害賠償請求に変更する場合→要件として請求の基礎に変更がないことが必要(審理を複雑にし遅延させることを防止)

取消訴訟が提起されたとしても処分の効力、処分の執行または手続の続行は妨げられない。

これを執行不停止の原則という。(行政事件訴訟法25条1項)

たとえ訴訟が提起されても取消判決が出るまでは執行処分は有効として扱い処分手続きを進めるのだ。

このようにしないと、たとえば処分を受けた者が根拠なく裁判を起こして一方的にでも処分の進行を止めて、その間に営業等を継続することができてしまう。

このような濫訴による行政活動の停滞を防止するためだ。

執行不停止の原則を厳格に貫くと処分を受けた国民に酷な結果となる場合もある。

そこで一定の要件を満たしたっ倍には執行を例外的に停止できるとした。(行政事件訴訟法25条2項、4項)

[執行不停止の例外:25条2項ー4項]
処分の取消しの訴えの提起があった場合において処分、処分の執行または手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要がある時は裁判所は申立てにより決定をもって処分の効力、処分の執行または手続の続行の全部または一部の停止をすることができる。ただし処分の効力の停止は処分の執行または手続の続行の停止によって目的を達することができる場合は、することができない。
→ 裁判所は重大な損害を生ずるか否かを判断するにあったては損害の回復の困難の程度を考慮するものとし損害の性質および程度ならびに処分の内容および性質をも勘案する。
→ 執行停止は公共の福祉に重大な影響を及ぼす恐れがある時、または本案について理由がないと見える時は、すことができない。

執行停止の申立てがあった場合に内閣総理大臣は裁判所に対し異議を述べることができる

この異議は執行停止の決定の前後を問わず述べることができる。(行政事件訴訟法27条1項)

内閣総理大臣に異議を述べる権利を認めた趣旨は行政も最高責任者としての内閣総理大臣に行政上の法秩序安定の手段を認めることにある。

もっとも、この異議権については三権分立に反するのではないかとの問題も指摘されている。

そこで異議権が濫用されることのないよう要件が定められている。(行政事件訴訟法27条2項、3項、6項)

内閣総理大臣が異議を述べる要件については以下に掲げる通りだ。

[異議を述べる要件]
(1)異議には理由を付さなければならない
(2)理由においては内閣総理大臣は処分の効力を存続し処分を執行し、または手続を続行しなければ公共の福祉に重大な影響を及ぼす恐れがある事情を示すこと。
(3)やむを得ない場合でなければ異議を述べてはならない。
(4)異議を述べた時は次に国会において国会にこれを報告しなければならない。

内閣総理大臣の異議があった場合には裁判所は執行停止をすることができない。

すでに執行停止の決定をしている時は、これを取り消さなければならない。(行政事件訴訟法27条4項)

この結果、行政行為は続行する。

なお内閣総理大臣の異議について裁判所は理由があるかどうかを審査することはできない。

④取消訴訟の判決

判決とは訴えに対する裁判所の裁断行為をいう。

取消訴訟における各種の判決について意味と特徴を以下に整理する。

[判決の種類]
却下判決】訴えが訴訟要件を欠いており、その不備を補正できない場合に訴えを不適法として却下する判決をいう。
a.却下判決は本案の審理を拒絶するものだがら裁判所は口頭弁論を経ないで却下判決をすることができる。
b.却下判決は本案について何も判断していなにのだから、これによって処分の適法性が確定するわけではない。
本案判決】請求の当否を判断する判決をいう。
認容判決)処分の取消しを求める請求に理由があると認め処分を取り消す判決をいう。
棄却判決)処分の取消しを求める請求に理由がないとして、これを排斥する判決をいう。
a.棄却判決に不満がある場合に原告は上訴することができる。
b.原告の上訴がない場合に処分の適法性が確定する。
事情判決)処分または裁決が違法ではあるが、これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において原告の受ける損害の程度、その損害の賠償または防止の程度および方法その他一切の事情を考慮したうえ処分または裁決を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認める時は裁判所は請求を棄却することができる。(行政事件訴訟法31条1項)この場合の棄却判決のことをいう。
a.事情判決をする場合に当該判決の主文において処分または裁決が違法であることを宣言しなければならない。
b.事情判決は原告にとって敗訴を意味するが訴訟費用の負担において被告である行政側が負担する。
c.事情判決に対しては原告側は処分の取消しを求めて上訴することができる。また被告側も違法宣言に不服があれば処分の適法であることを確定するために上訴することができる

裁判所は口頭弁論の全趣旨および証拠調べの結果を判断して自由な心証により事実認定を行い、この事実に法律を適用して法的判断をして、これに基づいて判決を下す。

これを自由心証主義という。

つまり裁判における事実の認定を審理に提出された一切の資料や状況に基づいて自由に形成する具体的な確信に委ねるという考え方だ。

裁判官は誰にも拘束されず自由に具体的な確信をもって判決を下せる。

なお判決は当事者への言い渡しによって効力を生じる。(行政事件訴訟法7条、民事訴訟法250条)

取消訴訟の判決が確定すると以下に示す4種類の効力が生じる。

[判決の効力]
即判力】裁判の蒸し返しを防ぐ効力(行政事件訴訟法7条、民事訴訟法114条) → 判決が確定することで、すでに争った事項に関しては2度と争うことができなくなる。
(1)請求許容判決=取消判決があった場合
a.即判力によって当該処分の違法性が確定する。
b.行政庁は当該処分の違法を理由とした国家賠償請求訴訟などにおいて処分が適法であったと主張することができなくなる。 → 処分が違法であったことを前提として審理されることになる。
(2)棄却判決がった場合
a.既判力によって当該処分の適法性が確定する。
b.原告は他の違法性を主張して再び処分の取消しを請求することはできない。
形成力】行政処分の取消判決があると当該行政処分の効力は行政庁が取り消すまでもなく遡及的に消滅し、はじめから当該処分が行われなかったのと同様の状態になる。
拘束力】処分または裁決をした当事者である行政庁その他の関係行政庁を拘束する。(行政事件訴訟法33条1項) → 行政処分の取消判決があったので、その処分が行われる前に戻り処分をやり直す。前と同じ処分はできない。
対世的効力】取消判決の効力は訴訟当事者のみならず第三者に対しても及ぶ。(行政事件訴訟法32条1項) → この対世的効力があるため訴訟の結果により権利を害される第三者について訴訟参加の制度が存在する。

2章 行政法 レッスン8 その他の行政救済-行政救済③-

国家賠償法

①国家賠償とは

たとえば警察官が犯人をパトカーで追跡中、第三者の運転する自動車に接触し損害を与えたとする。

この場合は警察官の行為は個人的なものではなく国や公共団体の行為だといえるし被害者の救済のためには警察官個人に対する損害賠償請求よりも国や公共団体に対する損害賠償請求を認める方が適切だと考えられる。

このような時にのために用意された仕組みが国家賠償制度だ。

すなわち国家賠償制度は公務員の不法行為によって国民が受けた損害を国または公共団体が賠償する制度だ。

公務員によって不法行為がなされた場合に、その不法行為をなした公務員個人は被害者に対して責任を負うのだろうか。

私人間の法律関係を規律する民法の不法行為制度では加害者個人が責任を負うのを原則としている。

しかし、この考え方をそのまま公務員の不法行為に持ち込むのは適当ではない。

前記の警察官のケースで説明した通り公務員の行為は個人的なものではないし公務員個人への責任追及は必ずしも被害者救済に資するとはいえないからだ。

したがって公務員によって不法行為がなされた場合には被害者は加害者である公務員に対して賠償責任を追及することはできないとされている。

被害者に対して賠償責任を負うのは公務員の使用者にあたる国または公共団体だ。

国家賠償責任の法的性格は本来は加害者である公務員の負う賠償責任を国または公共団体が代わりに負う代位責任であると考えられている。

[代位責任]
代位責任の意味】本来、加害者である公務員の賠償責任を、その使用者にあたる国または公共団体が代わりに負うこと。
代位責任の効果】加害者である公務員は故意または重大な過失がある場合は賠償責任を負担した国または公共団体から求償される。(国家賠償法1条2項)

このように国家賠償法は不法行為制度について定める民法709条-724条の規定の特別法ということになる。

したがって、まず国家賠償法が適用されることになり民法が適用される場合よりも責任追及が容易になっている。

つまり特別法としての国家賠償法を適用して責任追及を容易にすることで国民の基本的人権を保護し行政活動を積極的にコントロールしようとする日本国憲法の趣旨の表れている。

そして国家賠償法に規定のない事項については一般法である民法の規定が適用される。

たとえば過失相殺の規定や時効期間については民法の規定が適用される。

国家賠償法は公務員の不法行為に基づく賠償責任(国家賠償法1条)と公の営造物の設置・管理の瑕疵に基づく賠償責任(国家賠償法2条)の2種類の責任を規定している。

②公務員の不法行為に基づく賠償責任

公務員の不法行為は以下の表に掲げる要件を満たす場合に成立する。

公務員に不法行為が成立する場合は国または公共団体が、これにより生じた損害を賠償する責任を負う。(国家賠償法1条1項)

[公務員の不法行為の成立要件]
(1)国または公共団体の公権力の行使にあたる公務員の高位であること。
(2)公務員が、その職務を行うについての行為であること。
(3)公務員の故意または過失による行為であること。
(4)公務員が違法に他人に損害を加えたこと

公権力とは国や公共団体に属する権力のことで特に制限はないので立法権、司法権および行政権のいずれも該当し得る。

立法権や司法権について不法行為の成立が問題となった判例を以下に揚げる。

[立法権、司法権の行使と国家賠償]
立法権国会議員の立法行為
国会議員の立法行為は立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにも関わらず国会があえて当該立法行為を行うというような容易に想定し難いような例外的な場合でない限り国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けない。(最判S60.11.21)
司法権裁判官がした争訟の裁判
裁判官がした争訟の裁判につき国家賠償法1条1項の規定による国の損害賠償責任が肯定されるためには当該裁判官が違法または不当な目的をもって裁判をしたなど裁判官が、その付与された権限の趣旨に明らかに背いて、これを行使したものと認めるような特別の事情があることを必要とする。(最判S57.3.12)

公権力の行使とは契約などの私的な経済活動と公の営造物の設置管理作用を除いた国または公共団体の活動を指す。

したがって国または地方公共団体のすべての活動が国会賠償法上の公権力の行使に含まれるわけではない

具体的には行政行為や行政強制にどの市民の意思には関係なく一方的になされる権力的な作用だけでなく行政指導や国公立学校における教育活動のような公的事実行為等が公権力の行使に当たる。

なお公の営造物の設置作用が除かれるのは国家賠償法2条によって国家賠償請求の対象となるためだ。

結局、私的経済活動を除いた、すべての公権力活動が国家賠償請求の対象となる。

[国家賠償法の対象]
公務員とは公権力の行使の権限をもつ一切の者をいう。

国家公務員、地方公務員だけでなく公庫等のいわゆる特殊法人の職員や戸籍事務を扱う場合の機長や船長等の民間人も含む。

つまり公務員という一定の地位にある者のことではなく公権力を行使する権限を有する者のことを指す。

なお賠償請求において原則として、どの公務員が不法行為を個なったのかが明確にされる必要がある。(加害公務員の特定)

この加害者の特定は通常は被害者が行うことになる。

しかし警察機動隊員の実力行使により暴行を受けるなど公務員の集団的な加害行為から損害が生じた場合や一連の行為から損害が生じた場合のように加害公務員を明確に特定することが困難なことがある。

判例は、そのような場合に加害公務員の特定なしに国の損害賠償責任を認めることがある。(最判S57.4.1)

職務を行うについての行為であるか否かは行為の外形から客観的に判断され公務員が職務執行を行っているとの主観的な意図は不要だ。

つまり公務員が客観的に職務執行の外形を備えた行為を行っていれば職務を行うについての行為であると認められる。

[重要判例]
非番の経験が制服制帽を着用して強盗殺人を行った事件
判示 公務員が主観的に権限行使の意思をもってする場合にかぎらず自己の利をはかる意図をもってする場合でも客観的に職務執行の外形をそなえる行為をして、これによって他人に損害を加えた場合には国または公共団体に損害賠償の責を負わしめて、ひろく国民の権益を擁護することをもって、その立法の趣旨とするものと解すべきである。(最判S31.11.30)

故意とは「意図してわざと」という意味であり過失とは「誤って」という意味だ。

つまり過失は行為者に要求される注意義務を果たさず誤って損害の結果を発生させることだ。

この場合の過失は個々の公務員の能力に応じた注意義務に違反することではなく当該公務員に職務上要求される標準的な注意義務に違反することとされている。

そもそも過失は人の内面的な心理的要素だ。

外から見てその有無を判断するのは難しいといえる。

そこで過失の判断基準を客観的に判断できる「公務員に職務上要求される注意義務」として過失の認定を容易にしたのだ。

なお過失は重大な過失であることまでは要求されない

違法とは法秩序に反することをいう。

具体的な法令に違反することだけでなく社会通念等に照らして客観的に正当性を欠くことも含む。

違法について問題となるのが公務員の不作為だ。

不作為は原則として違法とされない。

ただし法令上、具体的な作為義務を課せられている公務員による権限の不行使が著しく不合理であると求められた時は、その不作為は違法と評価されることがある。

判例で公務員の不作為が違法とされた例として海浜に打ち上げられた旧陸軍の砲弾による人身事故のケースがある。(最判S59.3.23)

損害には生命、身体、財産が損なわれた場合はもちろん精神的な損害も含まれる。

公務員に不法行為が成立した場合に被害者は国または公共団体に対して不法行為により生じた損害の賠償を請求することができる。(国家賠償法1条1項)

公務員の選任または監督にあたる者と公務員の俸給、給与その他の費用を負担する者とが異なる場合は被害者はそのいずれに対しても損害賠償を請求することができる。(国家賠償法3条)

このような場合に国民の側からみると、いずれを被告として訴えればよいかわかり難いため被告の選択について被害者の救済の観点から便宜を図っているのだ。

国または公共団体が被害者に賠償責任を果たした場合において加害者である公務員に故意または重過失がった時は国または公共団体は公務員に対して求償権を行使することができる。(国家賠償法1条2項)

逆にいえば公務員に軽過失しか認められない場合は求償権を行使することができない。

また国または公共団体による加害公務員に対する求償について民法は適用されない。

民法が適用されるのは「国または公共団体の損害賠償の責任について」のみだからだ。(国家賠償法4条)

したがって国または公共団体が有する求償権には民法の過失相殺や短期消滅時効などの規定は適用されない。

なお国または公共団体は加害公務員に対して懲戒処分することもできる。

[公務員の不作為に基づく賠償責任の関係図]
実務上、責任追及の手続は民事訴訟手続によっている。

被害者が外国人である場合は相互の保証がある場合に限って国家賠償請求ができる

相互の保証がある」とは、その外国人の本国において日本人にもその国の損害賠償責任制度の利用が認められていることをさす。

これを相互保証主義という。(国家賠償法6条)

なお違法な行政処分により生じた損害につき国家賠償の請求をする場合であっても当該行政処分に対して取消しまたは無効確認の行政事件訴訟を提起する必要はない。

国家賠償制度は現実に生じた損害を賠償する制度であり行政事件訴訟とは目的を異にするからだ。

③公の営造物の設置または管理の瑕疵に基づく賠償責任

以下に掲げる要件を満たす場合において道路や河川などの公共施設から生じた損害について国または公共団体は、これを賠償する責任を負う。(国家賠償法2条1項)

この責任は公共施設において発生した危険について責任を負うのは国または地方公共団体である旨を定めたものだ。

[営造物責任の成立物]
(1)道路、河川その他の公の営造物であること
(2)公の営造物の設置または管理に瑕疵があったこと
(3)他人に損害が生じたこと

以下のようなものが公の営造物にあたる。

[公の営造物の例]
意味】国または地方公共団体が公用または公共の用に供している有体物(公物)
】不動産(橋、空港など)動産(公用車、椅子、拳銃など)自然公物(河川、池沼など)人工公物(道路、菅庁舎など)

設置または管理の瑕疵とは営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。

瑕疵があるか否かは営造物の構造、用法、場所的環境および利用状況などの事情を総合的に考慮して個別具体的に判断される。

[設置または管理の瑕疵が問題となった判例]
瑕疵を否定】改修計画に基づいて現に改修中である河川については改修計画が全体として格別不合理なものと認められない時は特段の事由がない限り未改修部分が未改修であるとの一事をもって河川管理に瑕疵があるということはできない。(最判S59.1.26)
瑕疵を肯定】幅員7.5mの国道の中央線近くに故障した大型貨物自動車が約87時間駐車していたままになっていたにも関わらず道路管理者がこれを知らず道路の安全保持に必要な措置を全く講じなかった時は道路の管理に瑕疵があるというべきである。(最判S50.7.25)

瑕疵についての管理者の故意または過失の有無は問われない。

つまり営造物責任は公務員の不法行為に基づく責任とは異なり無過失責任だ。

ただ無過失責任といっても不可抗力の場合や瑕疵が被害者の行為によって生じた場合にまで責任を負うものではない。

公務員の不法行為に基づく責任の場合と同様、生命、身体、財産などの損害や精神的な損害がこれにあたる。

公の営造物の設置または管理の瑕疵によって損害を被った者は国または公共団体に対して損害賠償を請求することができる。(国家賠償法2条1項)

営造物の設置または管理にあたる者と営造物の設置または管理の費用を負担する者とが異なる場合には被害者はそのいずれに対しても損害賠償を請求することができる。(国家賠償法3条)

この点につき国が補助金を交付している場合は国が費用負担者として責任を負うかが問題となる。

[国が補助金を交付している場合の判例]
法律の設定上営造物(国立公園)を設置しうる国が自らこれを設置するのに代えて特定の地方公共団体に対しその設置を認めたうえ営造物の設置費用につき地方公共団体の負担額と同等またはこれに近い経済的な補助(補助金)を供与する反面、地方公共団体に対し法律上当該造営物につき危険防止の措置を請求しうる立場にある時は設置費用の負担者に含まれる。(最判S50.11.28)
---------------------
判例が立てた要件
(1)法律上設置費用を負担する義務を負う者と同等もしくは、これに近い設置費用を負担している者であること。
(2)実質的に負担義務者と営造物による事業を共同して執行している者であること。
(3)営造物の瑕疵による危険を効果的に防止しうる者であること。

公の営造物の設置または管理の瑕疵により生じた損害を賠償した国または地方公共団体は損害の原因について責めに任ずるべき者が他にいる時は、この者に対して求償権を行使することができる。(国家賠償法2条2項)

実務上、公務員の不法行為に基づく責任と同様に責任追及の手続は民事訴訟手続によっている。

被害者が外国人である場合に相互保証主義を定めた国家賠償法6条が適用されることも同様だ。

損失補償制度

①損失補償制度とは

損失補償は国または公共団体の適法な活動によって生じた損失を補償する制度をいう。

憲法29条は1項で財産権の不可侵を定める反面、3項で私有財産を公共のために用いることができると規定している。

この場合は公共のために特定の個人に財産的損失を強いるのだから正当な補償が必要となり、これを実現するのが損失補償制度だ。

憲法は損失補償を保障しているが法律で損失補償制度を設けるようには特に要求してない。

そのため損失補償法というような一般法は制定されておらず財産権を制限するっ個々の法律に損失補償請求権についての規定が設けられている。

そのような規定が設けられていない場合であっても損失補償を請求することができないわけでなく判例は憲法29条3項の規定に基づいて損失補償を請求することができるといている。(河川附近地制限令違反事件、最大判S43.11.27)

②損失補償の要件

憲法は私有財産を正当な補償がなされることを条件に「公共のため」用いることができると定めている。

この「公共にために」用いるとは広く公益のために財産に損失が与えられる場合をいう。

たとえば土地を収用したり(公用収用)私用を制限したり(公用制限)する場合だ。

もっとも私有財産を公用目的で用いる場合に常に損失補償が必要というわけではない。

財産上、特別の犠牲を強いられる場合に限り補償が必要となるのだ。

この特別の犠牲とは特定人に対する制約であって財産権の本質を害するような強度な制約を行うこととされている。

具体的には以下に示す要件を満たす場合だ。

[特別の犠牲に該当する場合]
(1)公共の安全・秩序の維持のための制限ではないこと。 → 公共の安全・秩序の維持のための制限は当然に必要であるから補償は不要(具体例)建築基準法や消防法による建築の規制
(2)損失が特定人のみに生じていること。 → 損失が一般的なものであれば補償は不要だが特定人にのみ損失が生じていれば平等原則(憲法14条)との関係で補償が必要となる。(具体例)ダム建築のための土地の公用収用
(3)損失が受忍限度を超えること。 → 特定人にのみ損失が生ずる場合であっても受忍限度を超え財産権の本質を侵害するほど強度の損失を与える場合にのみ補償が必要

[損失補償に関する判例]
(1)ため池の破損、決壊を防ぐために堤とうでの耕作を禁止することは災害を防止し公共の福祉を保持するための社会生活上やむを得ない制約であるので、それは堤とうを使用しうる財産権を有する者が当然受忍しなければならない責務であり損失補償を必要としない。(奈良県ため池の保全に関する条例違反事件、最大判S38.6.26)
(2)行政財産の使用許可(市役所のける売店の設置など)がされた後、当該行政財産本来の用途・目的に供する必要が生じたため使用許可を取り消す時は使用権の喪失に伴う積極的な損失について補償する必要はない。(最判S49.2.5)

③損失補償の内容

憲法29条3項にいう「正当な補償」は損失補償が財産権を保障するためのものである以上、原則として完全な補償を意味する。

しかし常に完全な補償を必要とせず相当な補償で足りるというのが判例の傾向だ。

この点につき完全補償説と相当補償説とを整理する。

[判例の傾向:完全補償説と相当補償説]
【完全補償説】正当な補償とは当該財産の客観的な市場価格を全額補償すべきであるとする考え方
(1)土地収用法における補償価格の算定について完全補償説を採用(最判S48.10.18)
【相当補償説】正当な補償とは当該財産について合理的に算出された相当な額であれば市場価格を下回ってもよいとする考え方
(1)終戦直後の農地改革における農地買収価格について相当補償説を採用(最大判S28.12.23)
(2)土地有償法の合憲性が争われた事案について相当補償説を採用(最判H14.6.11)「憲法29条3項にいう『正当な補償』とは、その当時の経済状態において成立する考えられる価格に基づき合理的に算出された相当な額をいうのであって必ずしも常に上記の価格の完全に一致することを要するものではない」

損失補償は金銭での賠償が原則となる。

ただし金銭による賠償だけでは不十分な場合もある。

そこで例外的に金銭以外での賠償が認められている場合がある。

補償の時期について憲法は何も定めておらず判例は補償が財産の供与と交換的にばされる同時履行までを保障するものではないとしている。(最大判S24.7.13)

収用の目的が消滅した場合には収用目的物は不要となるため被収容者に返還するべきあると考えられる。

しかし判例は当然に被収用者に返還しなければならないわけではないとしている。(最大判S46.1.20)

④国家賠償と損失補償の限界

たとえば違法な公権力の行使がなされたが公務員に過失がなかったとする。

この場合には要件を欠くため国家賠償請求ができない。

また損失補償の請求もできない。

損失補償の対象は「適法な」公権力の行使だからだ。

このような場合に、どのようにして被害者を救済するかという事が予防接種事故をめぐる訴訟で何度も争われてきた。

この点につき判例の中には過失の認定を緩めることで国家賠償請求を可能にして被害者を救済したものがある。(被害者が予防接種の禁忌者に該当することを推定し、そのことを予診で調べなかったことを過失とした判例、最判H3.4.19)

2章 行政法 レッスン9 地方自治法①-地方公共団体と住民の権利ー

地方自治制度の概要

①地方自治法の目的

日本国憲法は地方自治を憲法上の基本的な統治機構の一環として位置ずけている。

そして地方公共団体の組織と運営は「地方自治の本旨」に基づいて法律で定めると規定している。(憲法92条)

地方自治法1条は地方自治の目的について以下にように定めている。

[重要条文]
この法律は地方自治の本旨に基づいて地方公共団体の区分並びに地方公共団体の組織及び運営に関する事項の大綱を定め併せて国と地方公共団体との間の基本的関係を確立することにより地方公共団体にける民主的にして能率的な行政の確保を図ると共に地方公共団体の健全な発達を保障することを目的とする。(地方自治法1条)

②地方自治も本旨

地方自治の本旨とは地域住民の利益をっく補するため地方行政を実施していくのにあたって欠かせない本質的なものをさす。

一般に住民自治と団体自治の2つが地方自治の本質的要素とされる。

[住民自治と団体自治]
住民自治】地方行政が住民の意思に基づいて行われるという民主主義的な要素を基礎とする制度。つまり住民が地方の政治の担い手となること。
団体自治】地理的環境や生活環境などを共通する一定地域が国から独立して地域一体となって地域の実情に合ったより細かな行政を実施していくという自由主義的な要素を基礎とする制度。

このように地方自治法は住民自治と団体自治を前提にして地方公共団体の区分や組織および運用、国との関係等を定めるものだ。

つまり住民自治と団体自治に反するような区分や組織および運営、国との関係等を定めてはならないということだ。

③地方公共団体の種類

地方公共団体とは一定の地域とそこに住む住民を構成要素とし、その地域に関連する公共的役務を実施する地域共同体であって、その地域の住民および滞在者に対し包括的な支配権をもつ団体をいう。

地方自治法上の地方公共団体は大別して普通地方公共団体特別地方公共団体の2つに分類される。

[地方公共団体の種類]
《地方公共団体》
《普通地方公共団体》 《特別地方公共団体》
《都道府県》《市町村》《地方の公共団体の組合》《特別区》《財産区》
           《一部事務組合》《広域連合》 

普通地方公共団体とは市町村都道府県のことだ。(地方自治法1条の3)

市町村とは住民の日常生活に必要な公共役務を提供する基礎的な地方公共団体のことだ。

市町村は基礎的な地方公共団体として都道府県が処理するもとされているものを除き一般的に地域における事務およびその他の事務で法令により処理することとされるものを処理する。(地方自治法2条2項、3項)

[市となるべき普通地方公共団体の要件]
(1)人口5万人以上を有すること
(2)当該普通地方公共団体の中心の市街地を形成している区域内にある戸数が全戸数の6割以上であること
(3)商工業その他の都市的業態に従事する者およびその者と同一世帯に属する者の数が全人口の6割以上であること
(4)上記の要件のほか当該都道府県の条例で定める都市的施設その他の都市として要件を備えていること(地方自治法8条1項)

市町村の中には行政上の能力が都道府県に匹敵するものがる。

そこで地方自治法は、それらの大都市については通常の市町村とは異なる扱いを設けている。

具体的のは政令指定都市中核市特例市だ。

[政令指定都市、中核市および特例市の比較]
政令指定都市】人口50満員以上を有する政令で指定された市(地方自治法252条の19)(1)福祉、保健衛生、都市計画等通常は都道府県ないしその機関の事務とされている事務が指定部市の権限とされる(2)市町村が都道府県の許認可その他の監督を受けて実施している事務について、その監督をなくし、、または知事の監督に代えて直接大臣の監督に従う《行政区》設置義務がある
中核市】人口30万人以上を有すること(地方自治法252条の22)指定都市に委譲されている事務権限の一部が政令の定めに従って委譲されている《行政区》設置できない
特例市】人口20万人以上を有すること(地方自治法252条の26の3)中核市に権限が委譲されている事務のうち生活環境を守るための騒音、悪臭などを規制する権限、開発行為の許可などの権限が委譲される《行政区》設置できない

都道府県とは市町村を包括する広域的な地方公共団体のことであり広域にわたる事務、市町村に関する連絡調整に関するもの及びその規模または性質において一般の市町村が処理することが適当でないと認められるものを処理する。(地方自治法2条5項)

都道府県または市町村は、その事務を処理するにあたっては相互に競合しないようにしなければならない。(地方自治法2条6項)

そこで市町村と都道府県の事務配分をいかにすべきか問題となる。

まず市町村が実施できる事務は原則として市町村が行う。(市町村優先の原則

その趣旨は住民に最も近い市町村こそが多種多様な住民の要望に的確に応え住民の生活利益の確保および向上を図ることができるからだ。

また市町村と都道府県は法律上は原則として同格・同等であり上下主従の関係に立つものではない。

しかし都道府県は市町村を包括する団体であり都道府県内の行政の統一を図る観点から市町村よりも優位性が認められる場合がある。

つまり市町村および特別区は当該都道府県の条例に違反してその事務を処理してはならない

条例に違反して行った行為は無効となる。(地方自治法2条16項、17項)

また都道府県は市町村を包括する広域団体としての立場から包括する市町村間の連絡調整や市町村行政の細くないしは助成を行う。

[都道府県が行う市町村間の連絡調整や市町村行政の補足]
(1)複数の市町村にまたがる広域的な公共事務(道路、河川、港湾、産業廃棄物の処理等)
(2)市町村の連絡調整、格差の是正、争議の裁定等
(3)市町村の規模と能力を超える難しい大規模な公共施設の設置および管理等(医療、教育、社会福祉施設の設置等)
(4)小規模な市町村では実施することの困難な事務の補足

特別地方公共団体とは法律の定める特別の事務を処理するために設置される地方公共団体のことだ。

その種類は特別区地方公共団体の組合および財産区の3種類だ。

特別区とは東京都の23区をさす。(地方自治法281条1項)

特別区は市町村と同じく地域と住民を構成要素とし、しかも市町村に近い包括的な行政権限をもつ団体だ。

特別区は法律または政令により都が処理することとされているものを除き地域における事務ならびにその他の事務で法律または政令により特別区が処理することとされるものを処理する。(地方自治法281条2項)

また特別区は基礎的な地方公共団体として事務処理にあたることになっている。(地方自治法281条の2第2項)

地方公共団体の組合とは複数の地方公共団体が一部の事務を共同処理するために設ける団体だ。

その種類は(1)一部事務組合(2)広域連合の2つだ。(地方自治法284条)

[地方公共団体の組合]
一部事務組合】複数の地方公共団がその事務の一部を共同処理するためにその協議により規約を定め都道府県の加入するものにあっては総務大臣、その他のものにあっては都道府県知事の許可を得て設けることができる。→公益上必要がある場合に都道府県知事は関係市町村および特別区に対し設置を勧告できる。《設けられる団体》普通地方公共団体および特別区
広域連合複数の地方公共団体がその事務で広域にわたり処理することが適当であると認めるものに関し広域にわたる総合的な計画(広域計画)を作成し、その事務の管理および執行について広域計画の実施のために必要な連絡調整を図り、ならびにその事務の一部を広域にわたり総合的かつ計画的に処理するため、その協議により規約を定め都道府県の加入するものにあっては総務大臣その他のものにあっては都道府県知事の許可を得て設けることができる。→公益上必要がある場合に都道府県知事は関係市町村および特別区に対し設置を勧告できる。《設けられる団体》普通地方公共団体および特別区

財産区とは市町村および特別区の一部で財産を有し、もしくは公の施設を設けているもの、または市町村および特別区の廃置分合もしくは境界変更の場合における地方自治法または、これに基づく政令の定める財産処分に関する協議に基づき市町村および特別区の一部が財産を有し、もしくは公の施設を設けるものとなるものをいう。(地方自治法294条)

地縁による団体とは地方公共団体ではないが町または字の区域その他地町村内の一定の区域に住所を有する者の地縁に基づいて形成された団体をいう。(地方自治法260条の2)

地縁による団体は市町村長の許可によって規約に定める目的の範囲内において権利義務の帰属主体となることが可能だ。

地縁による団体が許可を受けるには以下に示す要件を満たしていなければならない。

[地縁団体が許可を受けるための要件]
(1)その区域の良好な地域社会の維持および形成に資する地域的な共同活動を行うことを目的とし現にその活動を行っていると認められること。
(2)その区域が住民にとって客観的に明らかなものとして定められていること。
(3)その区域に住所を有するすべての個人が構成員となることができ、その相当数の者が現に構成員となっていること。
(4)規約を定めていること。 → 規約に目的、名称、区域、構成員の資格・代表者・資産に関する事項等を定めてあること。

市町村長が認可をした時は告示をしなければならない。

なお認可を受けても、その地縁団体が公共団体その他の行政組織の一部を構成することにはならない

[地縁団体認可の効果]
(1)認可を受けた地縁団体は正当な理由がない限り、その区域に住所を有する個人の加入を拒否できない
(2)認可を受けた地縁団体は民主的な運営の下に自主的に活動をするものとし構成員に対し不当な差別的取扱いをしてはならない。
(3)認可を受けた地縁団体を特定の政党のために利用してはならない。

④地方公共団体の変更

区域の変更には廃置分合境界変更の2種類がある。

廃置分合は地方公共団体の新設や廃止を伴うものだ。

地方公共団体の合併、分割、分立を行うものだ。

境界変更は区域の変更を行うものだ。

都道府県は法律によって区域の変更を行う。(地方自治法6条)

市町村の区域の変更は関係市町村が都道府県知事に申請し都道府県知事が都道府県議会の議決を経て決定する。

その後ただちに都道府県知事が総務大臣に届け出る。(地方自治法7条1項)

ただし区域の変更のうち市の廃置分合の場合には都道府県知事は、あらかじめ総務大臣に協議し、その同意を得る必要がある。(地方自治法7条2項)

名称の変更は以下の手続で行うことができる。(地方自治法3条)

[名称変更の手続]
都道府県の名称変更】法律で変更できる。
市町村の名称変更】事前に都道府県知事との協議をしたうえで条例で変更できる。

[2つ以上の都道府県の廃止および、それらの区域の全部による1つの都道府県の設置または都道府県の廃止および、その区域の全部の他の1つの都道府県の区域への編入手続](地方自治法6条の2)
(1)関係都道府県の議会の議決を経る。
(2)関係都道府県の申請を総務大臣を経由して内閣が国会の承認を経て定める。

因みに2つ以上の都道府県の廃止等の手続は2004年改正によって追加された新しい変更手続である。

住民の権利

①選挙権および被選挙権

地方自治の実施については、その地方に住む住民の意思を反映させなければならない。(住民自治)

ここでいう住民とは、その区域内に住所を有する者をいう。

日本国籍を有しない者も含まれる。(地方自治法10条1項)

また住所とは各人の生活の拠点である場所のことだ。(民法22条)

選挙権とは選挙人となるための資格のことだ。

日本国民である満20歳以上の者で引き続き3か月以上市町村の区域内に住所を有する者は別に法律の定めることろにより、その属する普通地方公共団体の議会の議員および長の選挙権を有する。(地方自治法18条)

被選挙権とは公職の選挙において候補者となり当選人となりうる資格のことだ。

被選挙権については立候補の対象により、その要件が異なる。(地方自治法19条)

以下の表のように整理できる。

なお都道府県知事と市町村長については住所要件はなく他県や他市町村からの立候補が可能だ。

[地方公共団体における選挙権および被選挙権]
議員・長の選挙権】(年齢)20歳以上(住所)3か月以上(国籍)日本国民
都道府県知事の被選挙権】(年齢)30歳以上(住所)なし(国籍)日本国民
市町村長・特別区長の被選挙権】(年齢)25歳以上(住所)なし(国籍)日本国民
議会の議員の被選挙権】(年齢)25歳以上(住所)3か月以上(国籍)日本国民

②直接請求

地方政治は地域住民の直接利害にかかわるものが多い。

そこで直接請求が認められている。

直接請求とは住民が一定の事項について議員等を通じてではなく、そのまま直接地方公共団体の機関に請求することだ。

直世請求には6つの種類がある。

大きく有権者の50分の1以上の連署によって請求することができるものと3分の1以上の連署をもって請求することができるものとに分かれる。

[直接請求の分類]
要件有権者の1/50以上の連署種類】条例の制定または改廃請求【請求先】地方公共団体の長
要件有権者の1/50以上の連署種類】事務の監査請求【請求先】地方公共団体の長
要件有権者の1/3以上の連署種類】議会の解散請求【請求先】選挙管理委員会
要件有権者の1/3以上の連署種類】議員の解職請求【請求先】選挙管理委員会
要件有権者の1/3以上の連署種類】長の解職請求【請求先】選挙管理委員会
要件有権者の1/3以上の連署種類】役員の解職請求【請求先】地方公共団体の長

請求の対象は条例だが例外として地方税の賦課徴収ならびに負担金、使用料、手数料の徴収に関する条例については請求できない。

普通地方公共団体の長は請求を受理した日から20日以内に議会を招集し意見をつけて、これを議会に付議し、その結果を代表者に通知すると共に公表しなければならない。

該当地方公共団体の区域で衆議院議員、参議院議員または地方公共団体の議会の議員もしくは長の選挙が行われることとなる時は政令で定める期間、当該選挙が行われる区域内においては請求のための署名を求めることはできない。

監査請求の対象は事務の適否一般に及び広く認められている。

監査委員は監査請求を受理した場合は請求に係る事務の執行について監査し、その当否を合議で決定して、その結果を住民の代表者に通知しかつ公表する。

それと共に議会および長ならびに関係のある教育委員会、選挙管理員会等の関係機関に報告書を提出しなければならない。

選挙管理員会は請求が法定要件を満たしている場合は解散の適否について選挙人の投票に付す。(住民投票)

投票で過半数の同意があった場合議会は解散される

なお当該議会の議員の一般選挙があった日から1年間および解散投票のあった日から1年間は解散請求はできない。

選挙管理委員会は請求が法定要件を満たしている場合は議員の解職の適否について選挙人の投票に付す。(住民投票)

投票で過半数の同意があった場合議員は解職される

なお議員の就職の日から1年間および解職投票があった日から1年間は解職請求できない。

ただし公職選挙法100条6項による無投票当選者については就職の日から1年以内でも請求することができる。

選挙管理委員会は請求が法定要件を満たしている場合は長の解職の適否について選挙人の投票に付す。(住民投票)

投票で過半数の同意があった場合長は解職される

長の就職の日から1年間および解職投票のあった日から1年間は解職請求できない。

ただし公職選挙法100条6項による無投票当選者については就職の日から1年以内でも請求できる。

解職請求の対象となる役員は以下の者だ。

[解職請求の対象となる役員]
(1)副知事
(2)副市長村長
(3)選挙管理員
(4)監査委員
(5)公安員会の委員

地方公共団体の長は役員の解職請求があった時は議会に付議し、その結果を代表者および関係者に通知すると共に公表しなければならない。

役員の解職は住民投票手続を経るのではなく議会の議決による。

役員が住民の直接選挙で選出されるものではないからだ。

役員は当該普通地方公共団体の議会の議員の3分の2以上の者が出席し、その4分の3以上の者の同意があった時は、その職を失う。(地方自治法88条)

[解職請求をすることができない期間]
副知事・副市長村長】就職の日から1年間および解職に係る議会の議決から1年間
選挙管理員・監査委員・公安員会の委員】就職の日から6か月および解職に係る議会の議決から6か月

③住民監査

住民監査請求とは地域住民に、その所属する普通地方公共団体の違法または不当な財務会計上の行為について監査委員に対して監査、当該行為の防止または是正等の必要な措置を講ずべきことを請求することができる権利だ。(地方自治法242条)

地方財政の健全性を図る観点から認められている。

住民監査請求は違法または不当な財務会計上の行為のあった日から原則として1年を経過した時はすることができない。

ただし正当な理由がある場合は1年を経過した後も請求することができる。

監査請求があった場合に監査委員は合議によって監査を行い請求に理由がないと認める時は理由を附して、その旨を書面にて請求人に通知するとともに、これを公表しなければならない。

請求に理由があると認める時は当該普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関または職員に対し期間を示して必要な措置を講ずべきことを勧告する。

この勧告と共に当該勧告の内容を請求人に通知し、かつこれを公表しなければならない。

監査および勧告は監査請求があった日から60日以内に行わなければならない。

住民が住民監査請求をしたとしても監査委員が監査・勧告を行わなかったり、あるいは監査委員が勧告をしたにも関わらず議会、長その他の執行機関が勧告に従わなかったりした時は住民の監査請求の実効性が損なわれる。

そこで地方自治法は、このような場合に監査請求をした住民が裁判所に訴訟を提起して監査委員に対して適切な監査の実施を促したり議会、長その他の執行機関に対し違法な財務会計上の行為を是正するように請求したりする権利を認めた。

これが住民訴訟だ。(地方自治法242条の2)

住民訴訟は普通地方公共団体の住民が自己の法律上の利益と関わりなく、もっぱら当該地方公共団体の財務会計上の行為の適正化を図る目的で公共団体の機関の法律に適合しない行為の是正を求めて提起する訴えだ。

つまり住民訴訟は行政事件訴訟法5条の「民衆訴訟」の一種だ。

住民訴訟の手続は以下の通りだ。

[住民訴訟の手続]
(1)訴えを提起できる者
当該地方公共団体の住民であれば1人でも提起できる。自然人か法人かを問わず納税も要件ではない。
(2)監査請求前置主義
住民訴訟を提起する前に監査請求をしなければならない。監査請求の結果について不満がある場合に初めて住民訴訟の提起ができる。
(3)住民訴訟の対象
財務会計上の違法な行為不当な行為は含まない)であり、かつ公共団体の財政に損害を与える行為。
(4)請求ができる対象
a.当該行為の全部または一部の差止め
b.取消しまたは無効の確認
c.違法の確認
d.損害賠償、不当利得の返還
(5)提起の期間
a.監査の結果または勧告に不服のある場合は監査の結果または勧告の内容の通知があった日から30日以内
b.監査委員の勧告を受けた機関または職員の措置に不服がある場合は、その措置の通知があった日から30日以内
c.監査委員が請求の日から60日を経過しても監査または勧告を行わない場合は60日を経過した日から30日以内
d.監査委員の勧告を受けた機関または職員が措置を講じない場合は当該勧告に示された期間を経過した日から30日以内

憲法95条は「1の地方公共団体のみに適用される特別法は法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の得票において、その過半数の同意を得なければ国会は、これを制定することができない」と定めている。

その趣旨は国会が法律制定を通じて地方自治を侵害することを防止することにある。

住民投票手続について地方自治法は以下のように規定されている。(地方自治法261条)

[住民投票の手続]
(1)国会の議決
1の普通地方公共団体のみ適用される地方自治特別法の国会による議決
(2)衆議院議長または衆議院議長からの通知
最後に議決した議院の議長が当該法律を添えて、その旨を内閣総理大臣に通知する。
(3)総務大臣へ通知
内閣総理大臣は直ちに当該法律を添えて、その旨を総務大臣に通知する。
(4)総務大臣から関係普通地方公共団体の長に通知
a.総務大臣は、その通知を受けた日から5日以内に関係普通地方公共団体の長に、その旨を通知する。
b.当該法律その他関係書類を移送する。
(5)長は賛否の投票を行わせる
関係普通地方公共団体の長は総務大臣からの通知があった日から31日以後60日以内に選挙管理委員会をして当該法律について賛否の投票を行わしめる。
(6)長から総務大臣への結果報告
投票の結果が判明したとき関係普通地方公共団体の長は、その日から5日以内に関係書類を添えて、その結果を総務大臣に報告する。
(7)総務大臣から内閣総理大臣への結果報告
総務大臣は直ちに、その旨を内閣総理大臣に報告しなければならない。
(8)公布手続
投票の結果が確定した旨の報告があった時は内閣総理大臣は直ちに当該法律の公布の手続をとるとともに衆議院議長および参議院議長に通知しなければならない。

2章 行政法 レッスン10 地方自治法②-地方公共団体の機関ー

地方公共団体の議会

①地方公共団体の議会とは

普通地方公共団体がい脚決定をして活動するための機関として普通地方公共団体には議会が置かれる。(地方自治法89条)

地方議会は住民の意思を反映する普通地方公共団体の議決機関として活動する。

地方公共団体においては、その長も住民が直接選挙することを憲法93条が保障している。

したがって議会と長とは対等の関係に立ち法定された権限を自らの判断と責任の下に相互に独立して行うことになる。

つまり地方公共団体の議会は国における国会と異なり地方公共団体の最高機関とは位置づけられない。

地方自治法は議会の招集と会期について以下の通り定めている。

[議会の招集と会期]
議会の招集】(地方自治法101条)
普通地方公共団体の議会は普通地方公共団体の長が召集する。次の場合において請求を受けた長は請求のあった日から20日以内に臨時会を招集しなければならない。
(1)議長は議会運営委員会の議決を経て当該普通地方公共団体の長に対し議会に付議すべき事件を示して臨時会の招集を請求することができる。
(2)議員定数の4分の1以上の者は当該地方公共団体の長に対し議会に付議すべき事件を示して臨時会の招集を請求することができる。
会期】(地方自治法102条)
普通地方公共団体の議会には定例会と臨時会がある。
(1)定例会…毎年、条例で定める回数これを招集しなければならない。
(2)臨時会…必要がある場合は、その事件に限り招集する。
議会の会期および、その延長、議会の開閉に関する事項は議会が決める。
議長および副議長】(地方自治法103条-108条)
普通地方公共団体の議会は議員の中から議長および副議長1人を選挙しなければならない。
(1)議長は議場の秩序を保持し議事を整理し議会の事務を統理し議会を代表する。
(2)議長は委員会に出席し発言することができる
(3)議長および副議長の辞職
a.議長および副議長は議会の許可を得て辞職することができる。
b.副議長は議会の閉会中において議長の許可を得て辞職することができる。

議会でさまざまな議案を処理するために議員は日々研鑽を積む必要がある。

私たちの社会はあらゆる分野で高度化かつ専門化しているからだ。

そこで議会は議案を専門化に対応するために委員会制度を採用している。

すなわち普通地方公共団体の議会は条例で(1)常任委員会(2)議会運営委員会(3)特別委員会を置くことができる。

委員会に関し必要な事項は地方自治法に定めるほか条例でこれを定めるとされている。

地方自治法が委員会について定める事項を表にまとめると以下に揚げる通りになる。(地方自治法109条-110条)

[委員会:各委員会の種類、権限、公聴会など]
権限】《常任委員会》(1)その部門に属する当該普通地方公共団体の事務に関する調査(2)議案、陳情等の審査(3)議案の提出
議院運営委員会》(1)次の事項の調整 a.議会の運営に関する事項 b.議会の会議規則、委員会に関する条例等に関する事項 c.議長の諮問に関する事項(2)議案、陳情等の審査(3)議案の提出
特別委員会》(1)議会の議決により付議された事件の審査(2)議案の提出
閉会中の審査議会の議決により付議された特別の事件について閉会中もなおこれを審議することができる。
公聴会開催、参考人】(1)予算その他重要な議案、陳情等について公聴会を開き真に利害関係を有する者または学識経験を有する者等から意見を聴くことができる。(2)必要があると認める時は参考人の出頭を求め、その意見を聴くことができる。

[委員会:委員の選任と任期]
常任委員会》(1)議員は少なくとも1つの常任委員となる。(2)常任委員は会期のはじめに議会において選任し条例に特別の定めがある場合を除き議員に任期中在任する。
議会運営委員会》(1)議会運営委員は会期のはじめに議会において選任し条例に特別の定めがある場合を除き議員の任期中在任する。(2)議会の閉会中において議長が条例で定めるところにより議会運営委員を選任することができる。
特別委員会》(1)特別委員は議会において選任し委員会に付議された事件が議会において審議されている間、在任する。(2)議会の閉会中においては議長が条例で定めるところにより特別委員を選任することができる。

②議会の運営および権限

議会は普通地方公共団体の議決機関として活動するため、どのように運営され、どのような権限を有しているのだろう。

代表的な権限は普通地方公共団体の意思を決定する議決権だ。

地方自治法には議会を合理的に運営するために必要な事項が定められている。

[議案の提出および議事に関する事項]
議員の議案提出権】(地方自治法112条1項)
(1)普通地方公共団体の議会の議員は議会の議決すべき事件につき議会に議案を提出することができる。ただし予算については提出権がない
(2)議案提出の要件
a.議員定数の12分の1以上の者の賛成が必要
b.議案の提出は文書でなければならない。
定足数】(地方自治法113条1項本文)
普通地方公共団体の議会は原則として議員定数の半数以上の議員が出席しなければ議会を開くことができない。
議員の請求による開議】(地方自治法114条1項)
議会の議員定数の半数以上の者から請求があるときは議長は、その日の議会を開かなければならない。
議事公開の原則、秘密会】(地方自治法115条1項)
議会の会議は原則として公開される。ただし議長または議員3人以上の発議により出席議員の3分の2以上の多数で議決したときは秘密会を開くことができる。
表決】(地方自治法116条)
議員がそれぞれ1票を投じ賛否を決する。
a.議会の議事は地方自治法に特別な定めがある場合を除いて出席議員の過半数で決する。
b.議長は議員として議決に加わる権利を有しない
c.可否同数の場合は議長の決するところによる。
議長および議員の除斥】(地方自治法117条)
議会の議長および議員は自己もちくは一定の者の一身上に関する事件または自己もしくは一定の者が従事する業務に直接の利害関係のある事件については、その議事に参与することはできない。ただし議会の同意があったときは会議に出席し発言することができる。
会期不継続の原則】(地方自治法119条)
会期中の議決の至らなかった事件は後会に継続しない。 → 委員会では議会の議決により付議された特定の事件については閉会中も審査できる。(会期不継続の原則の例外)
会議規則の設定】(地方自治法120条)
議会は会議規則を設けなければならない。

[長および委員等の出席に関する事項]
長および委員等の議場出席義務】(地方自治法121条)
普通地方公共団体の長、教育委員会・選挙管理委員会・人事委員会・公平委員会・公安委員会の委員長、労働委員会の委員、農業委員会の会長および監査委員その他法律に基づく委員会の代表者または委員ならびに、その委任または嘱託を受けた者は議会の審議に必要な説明のため議長から出席を求められたときは議場に出席しなければならない。
長の説明書提出義務】(地方自治法122条)
長は議会に予算に関する説明書その他当該普通地方公共団体の事務に関する説明書を提出しなければならない。

議会でどのような議事がなされたのか記録に残す。

議会の会議は公開が原則だが議事録の作成と会議の内容の記載または記録は当然の処置だ。

議事録は以下に示す手続に従って作成される。

[議事録の作成手続]
議事録の作成】(地方自治法123条1項)
議長は事務局長または書記長に書面または電磁的記録により議事録を作成させ、ならびに会議の次第および出席議員の氏名を記載させ、または記録させなければならない。
議事録への署名等】(地方自治法123条2項、3項)
書面で作成されている時は議長および議会において定めた2人以上の議員がこれに署名し電磁的記録で作成されている時は、これらの者が総務省令で定める署名に代わる措置をとらなければならない。
会議結果の長への報告】(地方自治法123条4項)
議事録が書面で作成されている時は、その写しを電磁的記録をもって作成されている時は記録された結果を記載した書面または記録した磁気ディスク等を添えて会議の結果を普通地方公共団体の長に報告しなければならない。

普通地方公共団体の議会に請願しようとする者は議員の紹介により請願書を提出しなければならない。(地方自治法124条)

議会の権限の中心は仏地方公共団体としての意思決定をすること、つまり議決権の行使だ。

議決権は地方自治法96条1項に列挙される事項に及び、なかでも重要なものは条例制定権だ。

これらを整理すると以下に揚げる通りとなる。

[議会の権限]
議決権
議会は96条1項に列挙された事件ならびに条例で指定された事件について議決権を有し地方公共団体の意思を決定する。執行機関が議会の決議を経ないで行為した場合に当該行為は無効となる。
--------------------------------
96条1項に定める議決事件
(1)条例を設けまたは改廃すること
(2)予算を定めること
(3)決算を認定すること
(4)法律または政令に規定するものを除くほか地方税の賦課徴収または分担金、使用料、加入金もしくは手数料の徴収に関すること
(5)その種類および金額について政令で定める基準に従い条例で定める契約を締結すること
(6)条例で定める場合を除くほか財産を交換し出資の目的とし、もしくは支払手段として使用し、または適正な対価なくしてこれを譲渡し、もしくは貸し付けること
(7)不動産を信託すること
(8)(6)(7)に定めるものを除くほか、その種類および金額について政令で定める基準に従い条例で定める財産の取得または処分をすること
(9)負担付の寄付または贈与を受けること
(10)法律若しくは、これに基づく政令または条例に特別の定めがある場合を除くほか権利を放棄すること
(11)条例で定める重要な公の施設につき条例で定める長期かつ独占的な利用をさせること
(12)普通地方公共団体がその当事者である審査請求その他の不服申立て訴えの提起、和解、あっせん、調停および仲裁に関すること
(13)法律上その義務に属する損害賠償の額を定めること
(14)普通地方公共団体の区域内の公共的団体等の活動の総合調整に関すること
(15)その他法律または政令(条例も含む)により議会の権限に属する事項
選挙権】(地方自治法97条1項)
普通地方公共団体の議会は法律または政令によりその権限に属する選挙を行わなければならない。
予算増額修正権】(地方自治法97条2項)
議会は予算について増額して議決することができる。
検閲および検査権】(地方自治法98条1項)
議会は当該普通地方公共団体の事務(一定の事務を除く)に関する書類および計算書を検閲し、長、教育委員会等の報告を請求して当該事務の管理、議決の執行および出納を検査することができる。
監査請求権】(地方自治法98条2項)
議会は監査委員に対し当該普通地方公共団体の事務(一定の事務を除く)に関する監査を求め監査の結果に関する報告を請求することができる。
関係行政庁への意見書提出権】(地方自治法99条)
議会は当該普通地方公共団体の公益に関する事件につき意見書を国会または関係行政庁に提出することができる。
100条調査権】(地方自治法100条)
議会は当該普通地方公共団体の事務(一定の事務を除く)に関する調査を行い選挙人その他の関係人の出頭および証言ならびに記録の提出を請求することができる。
懲罰権】(地方自治法134条、135条)
(1)議会は地方自治法ならびに会議規則および委員会に関する条例に違反した議員に対し議決により懲罰を科すことができる。
(2)懲罰の種類
a.公開の議場における戒告
b.公開の議場における陳謝
c.一定期間の出席停止
d.除名
(3)懲罰を行う要件
懲罰の動議を議題とするには議員定数の8分の1以上の者の発議によらなければならない。ただし除名については当該普通地方公共団体の議会の議員の3分の2以上が出席し、その4分の3以上の者の同意がなければならない。

条例とは地方公共団体の議会によって制定される自主立法のことだ。

憲法91条は「地方公共団体は、その財産を管理し事務を処理し及び行政を執行する権能を有し法律の範囲内で条例を制定することができる」と規定している。

すなわち地方公共団体は自主立法権として条例制定権を有することが定められている。

条例は可決されると議会の議長から長に3日以内に送付される。(地方自治法16条1項)

そして特別な規定がない限り公布の日から10日経過した日から施行される。(地方自治法16条3項)

③議員

議員の任期は4年だ。(地方自治法93条)

議員の定数は条例で定められる。(地方自治法90条1項、91条1項)

なお普通地方公共団体は議員に対して報酬を支給しなければならない。

また議員は職務を行うため要する費用の弁償を受けることができる。(地方自治法203条)

議員はその性質から職務に専念する必要がある。

そこで、たとえば公務であっても兼職は禁止されている。

すなわち議員は衆議院議員または参議院議員を兼ねることができない。

また他の地方公共団体の議員ならびに常勤の職員などを兼ねることもできない。(地方自治法92条)

議員は当該普通地方公共団体に対し請負をする者およびその支配人または主として同一の行為をする法人の無限責任社員、取締役、執行役もしくは監査役もしくは、これらに準ずべき者、支配人および清算人になることができない。(地方自治法92条の2)

このような企業との癒着を防止し公正な職務を担保するためだ。

議員は議会の許可を得て辞職することができる。

閉会中の場合は議長の許可を得て辞職することができる。(地方自治法126条)

地方公共団体の執行機関

普通地方公共団体の執行機関とは地方公共団体の事務を管理し執行する機関であり、その担当する事務について自ら意思決定を行い表示ができる機関をいう。

その意味では補助機関は執行機関に含まれない。

普通地方公共団体の執行機関には行政委員会および行政委員がある。

①普通地方公共団体の長

[長の地位](地方自治法139条-145条)
普通地方公共団体の長の種類
都道府県には知事、市町村には市町村長が置かれる。
任期
都道府県知事、市町村長ともに4年とされる。
兼職の禁止
長は衆議院議員、参議院議員、地方公共団体の議会の議員ならびに常勤の職員等を兼ねることはできない。
関係諸企業への関与の禁止
長は当該普通公共団体に対し請負をする者および、その支配人または主として同一の行為をする法人の無限責任社員、取締役、執行役もしくは監査役もしくは、これらに準ずべき者、支配人および清算人になることができない。
退職
長は退職しようとする時は、その退職しようとする日の都道府県知事にあっては30日前、市町村長にあっては20日前までに当該普通公共団体の議会の議長に申し出なければならない。ただし議会の同意を得た時は、その期日前に退職することができる。

普通地方公共団体の長には(1)普通地方公共団体を統括し代表する権限(2)普通地方公共団体の事務を管理し、これを執行する権限および(3)補助機関である職員を指揮監督する権限などを与えられている。

[普通地方公共団体の長の権限]
統括権および代表権
長は当該普通地方公共団体を統括し、これを代表する。
事務の管理および執行権
長は当該普通地方公共団体の事務を管理し執行する。
--------------------------
長の担当する事務(地方自治法149条) → 限定列挙ではなく、おもな事務を例示列挙したもの
(1)普通地方公共団体の議決を経るべき事件について、その議案を提出すること
(2)予算を調製し、およびこれを執行すること
(3)地方税を賦課徴収し分担金、使用料、加入金または手数料を徴収し、および過料を科すること
(4)決算を普通地方公共団体の議会の認定に付すること
(5)会計を監督すること
(6)財産を取得し管理し、および処分すること
(7)公の施設を設置し管理し、および廃止すること
(8)証書および公文書類を保管すること
(9)(1)~(8)を除くほか当該普通地方公共団体の事務を執行すること
規則制定権】(地方自治法15条)
長は法令に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し規則を制定することができ法令に特別の定めがあるものを除くほか普通地方公共団体の規則中に規則に違反した者に対し5万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。

地方公共団体の長と議会は執行機関と議決機関として位置づけられている。

両者の関係は国政で採用されている議院内閣制とは異なりアメリカの大統領制のような首長制が採用されている。

首長制においては長と議会とは、それぞれが独立した住民に責任を負いながら、かつ両者は互いに牽制しあって職務を果たすことが期待されている。

そこで長と議会の関係で意見が分かれた場合に、それを調整する方法が定められている。

[議会との関係(1)長の議会に対する牽制]
付再議権
(1)一般的付再議権(地方自治法176条1項):任意的
普通地方公共団体の議会における条例の制定もしくは改廃または予算に関する議決について異議がある時は当該普通地方公共団体の長は地方自治法に特別の定めがあるものを除くほか、その送付を受けた日から10日以内に理由を付して再議に付することができる。 → 議会が出席議員の3分の2以上の者の同意を得て再議に付された議決と同じ議決をした時は、その議決は確定する。
(2)特別的付再議権義務的
a.違法な議決または選挙に対する付再議権(地方自治法176条4項)
普通地方公共団体の議会の議決または選挙がその権限を超え、または法令もしくは会議規則に違反すると認めた時は当該普通地方公共団体の長は理由を示してこれを再議に付し、または再選挙を行わせなければならない
→ 再議決または再選挙がなお、その権限を超え、または法令もしくは会議規則に違反すると認める時は都道府県知事にあっては総務大臣、市町村長にあっては都道府県知事に対し当該再議決または再選挙があった日から21日以内に審査を申し立てることができる。
→ 審査申立てに係る裁定に不服がある時は議会または長は裁決のあった日から60日以内に裁判所に出訴することができる。
b.執行不能な収支に関する議決に対する付再議権(地方自治法177条1項)
普通地方公共団体の議会の議決が収入または支出に関し執行することができないものがあると認める時は当該普通地方公共団体の長は理由を付して、これを再議に付さなければならない。
c.経費削減に関する議決に対する付再議権(地方自治法177条2項)
議会において次に揚げる経費を削除し、または減額する議決をした時は、その経費およびこれに伴う収入についても当該普通地方公共団体の長は理由を付してこれを再議に付さなければならない。
------------------------------
法令により負担する経費、法律の規定に基づき当該行政庁の職権により命ずる経費その他の普通地方公共団体の義務に属する経費
------------------------------
非常の災害による応急もしくは復旧の施設のために必要な経費または感染症予防のために必要な経費 → この場合において議会の議決がなお経費を削除し、または減額した時は当該普通地方公共団体の長は、その議決を不信任の議決とみなすことができる。
------------------------------
議会の解散権】(地方自治法178条)
議会が長の不信任の議決をした時は、ただちに議長からその旨を長に通知しなければならない。 → 長は、その通知を受けた日から10日以内に限り議会を解散することができる。
長の専決処分
長の専決処分とは法律上、議会によって議決または決定すべき事項であるにも関わらず長が議会の議決または決定を経ないで処分することが認められていることをいう。
(1)法律の規定による専決処分(地方自治法179条)
以下の場合において普通地方公共団体の長は議会の議決すべき事件を処分することができる。
a.議会が成立しない時
b.議会を開くことができない時
c.議会の議決すべき事件について特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認める時
d.議会において議決すべき事件を議決しない時
→ 法律の規定による専決処分をした場合は長は議会に報告承認を求めなければならない。
(2)議会の委任による専決処分(地方自治法180条)
議会の権限に属する軽易な事項で、その議決により特に指定したものは普通地方公共団体の長において、これを専決処分とすることができる。 → 議会の委任による専決処分をした場合に長は議会に報告しなければならない。

[議会との関係(2)議会に対する牽制]
長に対する不信任議決権】(地方自治法178条)
議会は議員数の3分の2以上の者が出席し、その4分の3以上の者の同意をもって長の不信任の議決をすることができ以下の場合に長はその職を失う。
(1)長が議長から不信任決議の通知を受けた日から10日以内に議会を解散しない時 → 10日の期間が経過した日にその職を失う
(2)長が議会を解散した後はじめて招集された議会において議員数の3分の2以上の者が出席し、その過半数の同意をもって再び不信任の議決があり議長からその旨の通知がった時 → 議長から通知があった日にその職を失う
同意権および承認権
(1)長が副知事または副市長村長を選任する時 → 議会の同意が必要(地方自治162条)
(2)長が監査委員を選任する時 → 議会の同意が必要(地方自治法196条)
(3)長が法律の規定による専決処分をした時 → 議会に報告し承認を求めなければならない。(地方自治法179条)

補助機関とは長の職務執行を補助する機関のことだ。

都道府県と市町村に、それぞれ以下の期間が置かれる。(地方自治法161条-175条)

[補助機関(1)設置]
都道府県】(知事、市町村長の補佐)副知事、条例で置かないこともできる(会計事務責任者)会計管理者、一人を置く
市町村】(知事、市町村長の補佐)副市町村、条例で置かないこともできる(会計事務責任者)会計管理者、一人を置く

[補助機関(2)任期、任命および解職]
任期】(副知事、副市長村長4年会計管理者)なし
任命手続】(副知事、副市長村長)普通地方公共団体の長が議会の同意を得て選任する(会計管理者)普通地方公共団体の長の補助機関である職員のうちから長を命ずる
解職】(副知事、副市長村長)普通地方公共団体の長は任期中においても解職できる(会計管理者)できない(一般職員であるため)

②行政委員会・行政委員

行政員会とは複数の委員によって構成される合議制の執行機関のことだ。

行政委員とは原則として単独で職務を行う独任制の執行機関のことだ。

行政委員会は行政の中立性の確保や専門的知識の確保の必要性等の要請から長から独立して行うべき事項について長の政治的な影響力の外に置く必要がある。

そこで長から独立した立場で事務を管理し執行する機関として認められた。

行政員会および行政委員の種類は、すべての普通地方公共団体に置かなくてはならないもの都道府県にのみ置くもの市町村にのみ置くものと3分類することができる。(地方自治法180条の5)

この分類を整理すると以下に掲げる通りとなる。

[行政委員会および行政委員の種類]
行政委員会および行政委員
   【すべての地方公共団体に置かなくてはならないもの
    (1)教育委員会
    (2)選挙管理員会
    (3)人事委員会または公平委員会
    (4)監査委員
   【都道府県のみに置かれるもの
    (1)公安委員会
    (2)地方労働委員会
    (3)収用委員会
    (4)海区漁業調整委員会
    (5)内水面漁場管理委員会
   【市町村のみ置かれるもの
    (1)農業委員会
    (2)固定資産評価審査委員会

[行政委員会および行政委員の権限]
行政委員会の規則制定権】(地方自治法138条の4第2項)
普通地方公共団体の委員会は法律の定めるところにより法令または普通地方公共団体の条例、規則に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し規則その他の規程を定めることができる。  → 長の定める規則とは以下の2点で異なる。
(1)法律の個別の授権が必要である。
(2)違反者に過料を科すという罰則を設けることはできない
委員会および委員の権限に属しない事項】(地方自治法180条の6)
普通地方公共団体の委員会または委員は法律に特定の定めがない限り以下に掲げる事項について権限を有しない。
(1)普通地方公共団体の予算を調製し、およびこれを執行すること
(2)普通地方公共団体の議会の議決を経るべき事件につき、その議案を提出すること
(3)地方税を賦課徴収し分担金もしくは加入金を徴収し、または過料を科すること
(4)普通地方公共団体の決算を議会の認定に付すること

監査委員は普通地方公共団体の財務に関する事務の執行および経営に係る事業の管理を監査する独任制の執行機関だ。

都道府県と市町村とを問わず、すべての普通地方公共団体に置かれる。(地方自治法195条1項)

監査委員の定数、選任、任期、退職、特別欠格事由および職務については以下のに掲げる。

[監査委員]
定数】(地方自治法195条2項)
都道府県および政令で定める市 → 4名
その他の市および町村 → 2名
→ ただし条例で、その定数を増加することができる
選任】(地方自治法196条1項)
監査委員は普通地方公共団体の長が議会の同意を得て人格が高潔で普通地方公共団体の財務管理、事業の経営管理その他行政運営に関し優れた見識を有する者および議員のうちから選任する。
任期】(地方自治法197条)
見識を有する者のうちから選任される者 → 4年
議員のうちから選任される者 → 議員の任期
退職】(地方自治法198条)
監査委員は退職しようとする時は普通地方公共団体の長の承認を得なければならない。
特別欠格事由】(地方自治法198条の2第1項)
普通地方公共団体の長または副知事もしくは副市長村長と親子、夫婦または兄弟姉妹の関係にある者は監査委員となることができない。
職務】(地方自治法199条)
(1)対象
普通地方公共団体の財務に関する事務の執行および地方公共団体の経営に係る事業の管理を監査する。
(2)時期
毎会計年度少なくとも1回以上期日を定めて行う。 → ただし必要があると認める時は、いつでも監査することができる。
(3)普通地方公共団体の長から事務の執行に関し監査の要求があった時は、その要求に係る事項について監査しなければならない。
(4)必要があると認める時または普通地方公共団体の長からの要求がある時、当該普通地方公共団体が補助金、交付金、負担金、貸付金、損失補償、利子補給その他の財政的支援を与えているものの出納その他の事務の執行で当該財政的支援に係るものを監査することができる。

監査委員は監査のため必要があると認める時は関係人の出頭を求め、もしくは関係人について調査し関係人に対し帳簿、書類その他の記録の提出を求めることができる。(地方自治法199条8項)

監査委員は監査の結果に関する報告を決定し、これを普通地方公共団体の議会および長ならびに関係のある教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会もしくは公平委員会等に提出し、かつこれを公表しなければならない。(地方自治法199条9項)

外部監査制度とは弁護士、公認会計士等の外部の専門家に監査を依頼するものだ。

これは普通地方公共団体の監査の厳正と公正を期するため1997年(平成9年)に導入された制度だ。

外部監査制度は普通地方公共団体と外部監査人との外部監査契約に基づいて設定される。

[外部監査制度の種類]
対象】(包括外部監査制度)財務に関する事務の執行および団体の経営に係る事業の管理のうち2条14項および15項の規定の趣旨を達成するため外部監査人が必要と認める特定の事件(個別外部監査制度)長、議会、住民が地方自治法に基づき監査委員の監査を請求することができる事項 → 監査委員の監査に代えて個別外部監査によることができる旨の条例が必要
契約】(包括外部監査制度)包括外部監査契約 → 連続して4回、同一の者と締結してはならない(個別外部監査制度)個別外部監査契約 → 長が、あらかじめ監査委員の意見を聴くとともに議会の議決を経て締結する
設置義務】(包括外部監査制度都道府県、政令指定都市、中核市は必ず設置しなければならない → 上記以外の市町村は条例で外部監査を受ける旨を定めれば設置可能(個別外部監査制度)なし
両者の関係】異なる制度なので併用することができる
監査委員制度との関係】監査委員は必要的設置機関なので外部監査制度を設けても廃止はできない → 外部監査制度と監査委員制度は併存する

[外部監査契約を締結できる者]
普通地方公共団体の財務管理、事業の経営管理その他行政運営に関し優れた識見を有する者で以下のいずれかに該当する者
(1)弁護士(弁護士となる資格を有する者を含む)
(2)公認会計士(公認会計士となる資格を有する者を含む)
(3)国の行政機関において会計検査に関する行政事務に従事した者または地方公共団体において監査もしくは財務に関する行政事務に従事した者であって監査に関する実務に精通しているものとして政令で定めたもの
(4)税理士(税理士となる資格を有する者を含む) → (4)は普通地方公共団体が外部監査契約を円滑に締結し、またはその適正な履行を確保するため必要と認めるときに限る

住民監査請求とは、その所属する普通地方公共団体の機関または職員の違法または不当な財務会計上の行為について必要な措置を講ずべきことを請求することができる権利をさす。(地上自治法242条)

また住民訴訟とは監査請求をした住民が、さらに裁判所へ訴訟を提起することをいう。(地方自治法242条の2)

住民が監査請求しても監査委員が監査や勧告を行わなかったり勧告しても議会または長その他の執行機関がそれに従わなかったりした時は住民の監査請求が無意味になってしまう。

そこで訴訟の提起が認められている。

③地域自治区

地域自治区とは市町村長の権限に属する事務を分掌し地域の住民の意見を反映させつつ、これを処理する目的で条例により設置される市町村の特定の区域のことだ。(地方自治法202条の4)

市町村の合併により市の区域が拡大し地域の意見が市の運営に反映されない恐れが出てくることを想定し2004年(平成16年)法改正により、この制度が設けられた。

地域自治区には地域協議会が置かれる。(地方自治法202条の5)

地域協議会は地域自治区の事務に関する事項などのうち市町村の機関から諮問されたもの、または必要と認めるものについて審議し意見を述べることができる機関だ。

[地域自治区および地域協議会]
地域自治区の設置
市町村は条例で、その区域を分けて定める区域ごとに地域自治区を設けるkとができる
事務所の設置
地域自治区には事務所を設けるものとし事務所の位置、名称および所管区域は条例で定める
地域協議会
(1)構成員
地域自治区の区域内に住所を有する者のうちから市町村長が選任する → 市町村長は地域協議会の構成員の構成が地域自治区の区域内に住所を有する者の多様な意見が適切に反映されるものとなるよう配慮しなければならない
(2)任期
4年以内において条例で定める期間
(3)報酬の定め
構成員に報酬を支給しないこととすることができる
(4)権限
次に揚げる事項のうち市町村長その他の市町村の機関より諮問されたもの、または必要と認めるものについて審議し市町村長その他の市町村の機関に意見を述べることができる
a.地域自治区の事務所が所掌する事務に関する事項
b.市町村が処理する地域自治区の区域に係る事務に関する事項
c.市町村の事務処理にあたって地域自治区の区域内に住所を有する者との連携の強化に関する事項
(5)市町村長の義務
a.条例で定める市町村の施策に関する重要事項であって地域自治区の区域に係るものを決定し、または変更しようとする場合はあらかじめ地域協議会の意見を聴かなければならない
b.市町村長その他の市町村の機関は地域協議会の意見を勘案し必要があると認める時は適切な措置を講じなければならない
(6)組織および運営
地方自治法に定めるもののほか地域協議会の構成員の定数その他の地域協議会の組織および運営に関し必要な事項は条例で定める

2章 行政法 レッスン11 地方自治法③-地方公共団体の権能ー

地方公共団体の権能

①地方公共団体の事務

従来は地方公共団体の事務として自治事務(公共事務、団体委任事務、行政事務)と機関委任事務(国から都道府県知事や市町村長の機関に委任された国の事務)とがあった。

このうち機関委任事務は国が地方公共団体の機関を、あたかも国の下部機関のように活用し国の事務を行わせるものだ。

そのため事務の遂行について国の包括的な指揮監督を受けてきた。

このような機関委任事務は国の地方に対する中央集権的な管理体制の象徴であり日本国憲法が認めた地方自治制度の理念にそぐわないのではないかという問題意識が予てからあった。

そこで国と地方公共団体の関係を従前の上下・主従の関係から対等な協力関係に転換することなどを目的として1999年(平成11年)に地方自治法の大改正が行われた。

具体的には機関委任事務の全面的な廃止だ。

従前の機関委任事務の多くは地方公共団体に委譲され地方公共団体の独自の事務いわゆる自治事務に移された。

また本来は国が行うべきだが国民の利便や事務処理の効率化等の理由から地方公共団体に実施させるのが妥当と判断できる事務もある。

このような事務については法律または政令で地方公共団体の機関ではなく地方公共団体そのものにその実施させることになった。

これを法定受託事務という。

[自治事務と法定受託事務]
意義】(法定受託事務)国または都道府県が本来果たすべき役割に係るものであって国または都道府県において、その適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律または政令により特に地方公共団体が処理することとされる事務をいう。(地方自治法2条9項)(自治事務)地方公共団体が処理する事務のうち法定受託事務以外のものをいう。(地方自治法2条8項)
性質】(法定受託事務)国または都道府県が本来果たすべき役割に係るものであり国または都道府県において、その適正な処理を特に確保する必要のある事務(自治事務)地方公共団体の自主性・自立性が特に尊重されるべき事務
具体例】(法定受託事務)国政選挙、旅券の交付、国の指定統計、国道の管理、戸籍事務等(自治事務)病院および薬局の開設許可、飲食店営業の許可、土地改良区の設立認可、都市計画の決定等
【種類】(法定受託事務)(1)第一号法定受託事務 → 国が本来果たすべき役割に係るものであって地方公共団体が処理することとされる事務(2)第二号法定受託事務 → 都道府県が本来果たすべき役割に係るものであって市町村が処理することとされる事務(自治事務)(1)法定自治事務 → 法律に基づく事務(2)非法定自治事務 → 条例、規則に基づく事務
条例】いずれについても条例を制定することができる
監査委員の監査】(法定受託事務)原則としてできる → 国の安全を害する恐れがあること、その他の事由により監査委員の監査の対象とすることが適当でないものとして政令で定めるものは除かれる(自治事務)原則としてできる → 労働委員会および権限に属する事務で政令で定めるものは除かれる
国の関与】(法定受託事務)(1)助言または勧告(2)資料の提出の要求(3)同意(4)許可、認可または承認(5)指示(6)代執行(7)協議(自治事務)(1)助言または勧告(2)資料の提出の要求(3)是正の要求(4)協議

②条例および規則の制定

地方公共団体は国の制定した法令を執行して行政の実施にあたっている。

しかし国の法令は原則として全国一律の基準の下で規制が行われるため地域によっては適切な規制が行われない場合があり得る。 

そこで地域の実情に合わせて、より緻密な規制が必要となる場合には法律の範囲内で条例および規則を制定することが認められている。(地方自治法14条、15条)(憲法94条)

条例は法律の範囲内で制定することができるといっても、その範囲は一義的に明確なわけではない。

この点につき判例は、ある条例が法律の範囲内で制定されたかを評価するにあたり単に形式的な文言のみを対比して判断していない。

条例が国の法令に違反するかどうかは両者の制定の趣旨、目的、内容および効果などを実質的な観点で比較対照し両者の間に矛盾抵触があるか否かにより決せられる。

そこで、いわゆる上乗せ条例横出し条例も許容される場合がある。

この点について判断した判例をみてみよう。

[上乗せ条例・横出し条例のイメージ]
上乗せ条例)法律より厳しく規制
 ↑
法律)→(横出し条例)法律より規制対象を拡大

[重要判例]
徳島市公安条例事件(最大判S50.9.10)
道路における集団行進等に対する道路交通秩序維持のための具体的規制が道路交通法77条および、これに基づく公安員会規則と条例の双方において重複して定められていることが問題とされた事件
判示条例が国の法令に違反するかどうかは両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、それぞれの趣旨、目的、内容および効果を比較し両者の間に矛盾抵触があるかどうかによって、これを決しなければならない。(中略)特定事項について、これを規律する国の法令と条例とが併存する場合でも後者が前者とは別の目的に基づく規律を意図するものであり、その適用によって前者の規定の意図する目的と効果をなんら阻害することがないときや両者が同一の目的に出たものであっても国の法令が必ずしも、その規定によって全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨ではなく、それぞれの普通地方公共団体において、その地方の実情に応じて別段の規制を施すことを容認する趣旨あると解される時は国の法令と条例との間には、なんらの矛盾抵触はなく条例が国の法令に違反する問題は生じえないのである。

[条例を制定することができる場合]
場合1】国の法令が全く規制を設けていない分野(未規制分野)であること【例1】道路上で歩行しながら喫煙する行為を条例で規制すること
場合2】法律が規制している対象であっても法律の規制とは別の目的であること【例2】刑法の処罰対象である、わいせつ行為につき近隣の迷惑防止の観点から迷惑防止条例で規制すること

[条例と規則の異同]
意義】(条例)議会が定立する自主法(規則)普通地方公共団体の長が定立する自主法
制定権の範囲】(1)法令に違反しないこと(2)普通地方公共団体の事務に関する事項であること
権利の制限】(条例)義務を課し、または権利を制限するには法令に特別の定めがある場合を除き条例によらなければならない(地自法14条2項)具体例:青少年保護条例、公害防止条例等(規則)原則としてできない
罰則の制定】(条例)普通地方公共団体は法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に以下の罰則を設けることができる
(1)2年以下の懲役もしくは禁錮(2)100万円以下の罰金(3)拘留(4)科料(5)没収(6)5万円以下の過料(規則)普通地方公共団体の長は法令に特別の定めがあるものを除くほか普通地方公共団体の規則中に規則に違反した者に対し5万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる
両者の関係】(原則)それぞれが独立の管轄領域を有しており相互に対等な関係にある(例外)(1)競合する領域→条例が規則に優位する(2)条例を執行するために規則が制定される場合→規則は条例に従属する
制定手続】(条例)(1)議決→議会の議長から長に議決の日から3日以内に送付(2)公布→再議その他の措置を講ずる必要がなければ送付を受けた日から20日以内に交付(3)施行→原則として公布の日から10日経過した日から施行規則)(1)議会の議決なくして公布、施行(2)公布の日から10日を経過した日から施行

③地方公共団体の財務

会計年度における歳出は、その年度の歳入をもって充てなければならない。(地方自治法208条2項)

これを会計年度独立の原則という。

財政健全化のために必要な考え方だ。

普通地方公共団体の会計年度は毎年4月1日に始めり翌年3月31日に終わるものとされている。(地方自治法208条1項)

注意会計年度は翌年3月31日に終わるが出納(すいとう)は翌年5月31日をもって閉鎖する。(地方自治法235条の5)

普通地方公共団体の会計は一般会計特別会計とされる。(地方自治法209条1項)

特別会計は普通地方公共団体が特定の事業を行う場合など特定の歳入をもって特定の歳出に充て一般の歳入歳出と区分して経理する必要がある場合に条例でこれを設置することができる。(地方自治法209条1項)

[予算の内容](地方自治法215条)
(1)歳入歳出予算
(2)継続費
(3)繰越明許費(めいきょ)
(4)債務負担行為
(5)地方債
(6)一時借入金
(7)歳出予算の各項の経費の金額の流用

総計予算主義の原則(地方自治法210条)とは一般会計年度における一切の収入および支出は、すべてを歳入歳出予算に編入しなければならない。

予算の調製および議決(地方自治法211条)とは普通地方公共団体の長は毎会計年度、予算を調製し年度開始前に議会の議決を経なければならない。

予算の調製は長のみ認められている。

用語予算の調製…予算を作成すること。

これに対して議会は長が提出した予算を否決することができる。

さらに減額や増額の修正もできる。

継続費(地方自治法212条)とは普通地方公共団体の経費をもって支弁する事件で、その履行に数年度を要するものについては予算の定めるところにより、その経費の総額および年割額を定め数年度にわたって支出することができる。

繰越明許費(地方自治法213条)とは歳出予算の経費のうち、その性質上または予算成立後の事由に基づき年度内にその支出を終わらない見込みのあるものについては予算の定めるところにより翌年度に繰り越してしようすることができる。

債務負担行為(地方自治法214条)とは歳出予算の金額、継続費の総額または繰越明許費の金額の範囲内におけるものを除くほか普通地方公共団体が債務をする行為をするには予算で債務負担行為として定めておけねばならない。

地方債の起債(地方自治法230条)とは普通地方公共団体は別に法律で定メル「場合において予算の定めるところにより地方債を起こすことができる。

地方債の起債の目的限度額起債の方法、利率および償還の方法は予算で定めなければならない。

一時借入金(地方自治法235条の3)とは普通地方公共団体の長は歳出予算内の支出をするため一時借入金を借り入れることができる。

予算の執行(地方自治法220条)は普通地方公共団体の長は政令で定める基準に従って予算の執行に関する手続を定め、これに従って予算を執行しなければならない。

予備費(地方自治法217条)とは予算外の支出または予算超過の支出に充てるため歳入歳出予算に予備費を計上しなければならない。

ただし特別会計には予備費を計上しないことができる。

[収入]
地方税
普通地方公共団体の定めによるところにより地方税を賦課徴収することができる。 → 道府県税、市町村税
分担金等
分担金、使用料、加入金および手数料に関する事項については条例で定めなければならない。
(1)分担金
特定の者に対し利益のある事件に関し、その必要な費用に充てるため特に利益を受ける者から受益の限度において徴収する金銭
(2)使用料
許可を受けてする行政財産の使用または公の施設の利用について徴収する金銭
(3)加入金
公用財産の使用の許可を受けた者から徴収する金銭
(4)手数料
普通地方公共団体の事務で特定の者のためにするのについて徴収する金銭
地方債
普通地方公共団体は別に法律で定める場合において予算の定めるところにより地方債を起こすことができる。

[支出]
経費の支弁等
普通地方公共団体は当該事務を処理するために必要な経費その他法律または、これに基づく政令により当該普通地方公共団体の負担に属する経費を支弁する。
寄付または補助
普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合においては寄付または補助をすることができる。
支出負担行為
普通地方公共団体の支出の原因となるべき契約その他の行為は法令または予算の定めることろに従い、これをしなければならない。
支出の方法
会計管理者は普通地方公共団体の長の政令で定めることろには命令がなければ支出をすることができない

会計管理者は毎会計年度、政令の定めるところにより決算を調製し出納の閉鎖後3か月以内に証書類その他政令で定める書類と合わせて普通地方公共団体の長に提出しなければならない。(地方自治法233条1項)

普通地方公共団体の長は決算および証書類等を監査委員の審査に付し、その意見をつけて次の通常予算を議する会議までに議会の認定に付さなければならない。(地方自治法233条2項、3項)

普通地方公共団体の長は議会の認定に付した決算の要領を住民に公表しなければならない。(地方自治法233条6項)

売買、貸借、請負その他の契約は一般競争入札指名競争入札随意契約または、せり売りの方法により締結するものとする。

一般競争入札】不特定多数の者を入札に参加させ契約の相手方とするために競争させる方法
指名競争入札】資産、信用その他について予め適切と認める特定多数の者を通知によって指名し入札により競争させる方法
随意契約】競争の方法によらないで特定の相手方を任意に選択して締結する方法
せり売り】入札の方法によらないで不特定多数の者を口頭または挙手によって競争させる方法

指名競争入札、随意契約または、せり売りは政令で定める場合に該当する時に限り、これによることができる。

都道府県は政令の定めるところにより金融機関を指定して都道府県の公金の収納または支払いの事務を取り扱わせなければならない。(地方自治法235条1項)

市町村は政令の定めるところにより金融機関を指定して市町村の公金の収納または支払いの事務を取り扱わせることができる。(地方自治法235条2項)

普通地方公共団体の歳入歳出に属する現金は政令の定めるところにより最も確実かつ有利な方法により、これを保管しなければならない。(地方自治法235条の4第1項)

普通地方公共団体の所有に属しない現金または有価証券債権の担保として徴するもののほか法律または政令の規定によるのでなければ保管することができない。(地方自治法235条の4第2項)

金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利は時効に関し他の法律に定めがあるものを除くほか5年間これを行わない時は時効により消滅する。(地方自治法236条)

④公の施設

公の施設とは住民の福祉を増進する目的をもって、その利用に供するための施設のことだ。(地方自治法244条)

たとえば市民体育館や図書館、保養所などが、これにあたる。

普通地方公共団体は世討とうな理由がない限り住民が公の施設を利用することを拒んではならず住民が公の施設を利用することについて不当な差別扱いをしてはならない。

普通地方公共団体は適用と認める時は利用料金を徴収することができるが利用料金に関する事項は条例で定めなければならない。

普通地方公共団体は法律または政令に特別な定めがあるものを除くほか公の施設の設置および管理に関する事項は条例で定めなければならない。

また普通地方公共団体は条例で定める重要な公の施設のうち条例で定める特に重要なものについて、これを廃止し、または条例で定める長期かつ独占的な利用をさせようとするする時は議会において出席議員の3分の2以上の者の同意を得なければならない。

なお普通地方公共団体は公の施設の設置の目的を効果的に達成するために必要があると認める時は条例の定めるところにより法人その他の団体であって当該普通地方公共団体が指定するもの(指定管理者)に当該公の施設の管理を行わせることができる。

この場合のり用料金は公益上必要があると認める場合を除くほか条例の定めるところにより指定管理者が定める。

普通地方公共団体は、その区域外においても関係普通地方公共団体との協議により公の施設を設けることができる。(地方自治法244条の3第1項)

また普通地方公共団体は他の普通地方公共団体との協議により当該他の普通地方公共団体の公の施設を自己の住民の利用に供させることができる。(地方自治法244条の3第2項)

普通地方公共団体の長がした公の施設を利用する権利に関する処分に不服がある者は都道府県知事がした処分については総務大臣、所長村長がした処分については都道府県知事に審査請求をすることができる。(地方自治法244条の4第1項)

この場合においては異議申立てをすることもできる

国と地方公共団体との関係・地方公共団体相互間の関係

①国と地方公共団体との関係

明治憲法下では中央集権国家体制がとられていたため国が主、地方が従の関係にあるとされていた。

日本国憲法は中央集権的国家体制を改め国と地方の主従関係が対等の関係へと再構築された。

この理念を徹底するため1999年(平成11年)に「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律(地方分権一括法)」が成立し、その施行により地方自治法も関係委任事務の廃止および自治事務や法定受託事務の導入など大改正を受けたことは前記の通りだ。

このように地方公共団体は国とは別個の存在として国の干渉を受けることなく自治権を有し、これを行使する。

しかし、いくた自治権を有しているとはいっても国と完全に独立した関係にあるわけではない。
国の制度の中で地方自治が存在していることは確かだ。

そこで地方自治法は国と地方公共団体との基本的な関係を定めている。

すなわち原則として国は国が本来果たすべき役割を重点的に担当し他方、地方公共団体は地域における行政を自主的に実施する役割を担当することとした。

地方自治法は地方公共団体の自治が守られるように国の関与の方法および手続の点について以下に掲げる3つの原則を定めている。

[国の関与の原則]
関与の法定主義
普通地方公共団体は、その事務の処理に関し法律または、これに基づく政令によらなければ普通地方公共団体に対する国または都道府県の関与を受け、または要することとされることはないとする原則(地方自治法245条の2)
必要最小限度の原則
国が関与する場合であっても目的を達成するために必要最小限度のものとするとともに普通地方公共団体の自主性および自立性に配慮しなければならない。(地方自治法245条の3)
公正・透明の原則
国の普通地方公共団体への関与の客観化を図り各地方公共団体に対する差別的、不利益的な取扱いを回避するための諸原則(地方自治法246条-250条の6)
(1)書面主義
国の行政機関または都道府県の機関は普通地方公共団体に対し助言、勧告その他これらに類する行為を書面によらないで行った場合において当該普通地方公共団体から当該助言等の趣旨および内容を記載した書面の交付を求められたときは原則として、これを交付しなければならない。
(2)許認可等の判断基準
国の行政機関または都道府県の機関は普通地方公共団体からの申請または申出があった場合において許可、認可、承認、同意その他これらに類する行為をするかの判断基準を定め、かつ原則として、これを公表しなければならない。
(3)標準処理期間の設定
国の行政機関または都道府県の機関は申請等が、その事務所に到達してから許認可等をするまでに通常要すべき標準的な期間を定め、かつ、これを公表するように努めなければならない。
(4)到達主義
国の行政機関または都道府県の機関は申請等が法令により提出先とされている機関の事務所に到達したときは延滞なく当該申請等に係る許認可等をするための事務を開始しなければならない。
(5)書面による理由の提示
国の行政機関または都道府県の機関は普通地方公共団体に対して許認可等を拒否する処分をするとき、または許認可等の取消し等をするときは許認可等を拒否する処分または許認可等を取消し等の内容および理由を記載した書面を交付しなければならない。

普通地方公共団体の事務の処理に関し国の行政機関や都道府県の機関は原則として以下の行為を行う。(地方自治法245条-250条の6)

[国の関与の方法]
助言または勧告
(1)各大臣は、その担当する事務に関し普通地方公共団体に対し適切と認める技術的な助言、勧告をすることができる。
(2)普通地方公共団体の長その他の執行機関は各大臣に対し、その担当する事務の管理、執行について技術的な助言、勧告または必要な情報の提供を求めることができる。
資料の提出の要求
各大臣は、その担当する事務に関し普通地方公共団体に対し適切と認める技術的な助言、勧告をするため、もしくは普通地方公共団体の事務の適正な処理に関する情報を提供するため必要な資料の提出を求めることができる。
是正の要求
(1)各大臣は、その担当する事務に関し都道府県の自治事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、または著しく適正を欠き、かつ明らかに公益を害していると認めるときは当該都道府県に対し当該自治事務の処理について違反の是正または改善のため必要な措置を講ずべきことを求めることができる。
(2)普通地方公共団体は各大臣から求めを受けたときは当該事務の処理について、その違反の是正または改善のための必要な措置を講じなければならない。
指示
各大臣は、その管轄する法律または、これに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理が法令に違反していると認めるとき、または著しく適正を欠き、かつ明らかに公益に害していると認めるときは当該都道府県に対し当該法定受託事務の処理について違反の是正または改善のため講ずべき措置に関し必要な指示を行うことができる。
代執行
各大臣は、その所管する法律もしくは、これに基づく政令に係る都道府県知事の法定受託事務の管理もしくは執行が法令の規定もしくは当該各大臣の処分に違反するものがある場合において、または当該法定受託事務の管理もしくは執行を怠るものがある場合において代執行以外の方法によって是正を図ることが困難であり、かつ、それを放置することにより著しく公益を害することが明らかであるときは所定の手続を経て当該都道府県知事に代わって当該事項を行うことができる。
例外的な関与
その他、同意、許可、認可または承認、協議等、一定の行政目的を実現するため普通地方公共団体に対して具体的かつ個別的に関与する行為が定められている。

国と地方公共団体とは、すでにみたように対等の関係にあると位置づけられている。

したがって国と地方公共団体の間で生じた紛争は対等な関係で解決することが求められている。

そこで地方分権改革の趣旨に沿って導入されたのが紛争解決処理制度だ。(地方自治法250条の7-250条の20)

その中核となるのは国地方紛争処理委員会であり第三者機関として紛争解決にあたる。

国地方紛争処理委員会とは普通地方公共団体に対する国の関与に関する審査の申出について地方自治法の規定により、その権限に属する事項を処理する委員会のことだ。

[国地方紛争処理制度のイメージ]
[国地方紛争処理制度の流れ]
審査の申出】(地方自治法250条の13)
普通地方公共団体の長その他の執行機関は、その担任する事務に関する次に掲げる国の関与に不服があるときは国の関与があった日から30日以内に国地方紛争処理委員会に対し当該国会の関与を行った国の行政庁を相手方として文書で審査の申出をすることができる。
(1)是正の要求、許可の拒否その他の処理その他公権力の行使にあたるもの
(2)国の不作為
(3)国との協議が調わないとき
審査】(地方自治法250条の14)
国地方紛争処理委員会の審査は審査申出の日から90日以内に行わなければならず関係行政機関を手続に参加させ証拠調べをする等の方法で行う
調停 国地方紛争処理委員会は相当であると認めるときは職権により調停案を作成して両当事者に示し、その受諾を勧告するとともに理由を付して、その要旨を公表することができる
審査後
(1)国の関与が自治事務に関して違法もしくは不当であるとき、または法定受託事務に関して違法であるとき
→ 国地方紛争処理委員会は国の行政庁に対し理由を付し、かつ期間を示して必要な措置を講ずべきことを勧告するとともに当該勧告の内容を普通地方公共団体の長その他の執行機関に通知し公表しなければならない
→ 勧告を受けた国の行政庁は当該勧告で示された期間内に当該勧告に即して必要な措置を講ずるとともに、その旨を委員会に通知しなければならない
→ 委員会は当該通知に係る事項を普通地方公共団体の長その他の執行機関に通知し、かつ公表しなければならない
(2)国の関与が適法かつ正当であるとき
→ 国地方紛争処理委員会は普通地方公共団体の長その他の執行機関と国の行政庁に対して理由を付して通知し法表しなければならない
訴訟の提起】(地方自治法251条の5)
審査の申出をした普通地方公共団体の長その他の執行機関は次に揚げる場合において審査の結果もしくは勧告の内容の通知または措置に関する委員会から通知があった日から30日以内に高等裁判所に対し当該審査の申出に係る違法な国の関与の取消し、または当該審査の申出に係る国の不作為の違法の確認を求める訴訟を提起できる(審査申出前置主義)
(1)国地方紛争処理委員会の審査の結果または勧告に不服がある場合
(2)国の行政庁の措置に不服がある場合

[国地方紛争処理員会の組織](地方自治法250条の7-12)
設置
国地方紛争処理委員会は総務省に置く
委員の任命
両議院の同意を得て総務大臣が任命する
委員の人数
5名
委員の任期
3年
委員長の権限と議事
(1)委員の互選で委員長を選出する
(2)委員会は委員長が召集する
(3)委員長と委員2名以上の出席がなければ会議を開き議決をすることができない
(4)議事は出席者の過半数で決する
(5)可否同数のときは委員長が決する

②地方公共団体相互間の関係

普通地方公共団体には都道府県と市町村がある。

両者は同格・同等の関係にあるが都道府県は市町村に対して関与することが認められている。

自治紛争処理員とは市町村に対する都道府県の関与に関する審査や地方自治法による審査請求、再審査請求、審査の申立て、または審決の申請に係る審理を処理する機関をさす。(地方自治法251条)

[自治紛争処理制度(審査)のイメージ]

[自治紛争処理制度の流れ]
調停】(地方自治法251条の2)
普通地方公共団体相互の間または普通地方公共団体の機関相互の間に紛争があるときは地方自治法に特別の定めがあるものを除くほか都道府県または都道府県の機関が当事者となるものにあっては総務大臣、その他のものにあっては都道府県知事が当事者の文言による申請に基づき、または職権により紛争の解決のため自治紛争処理委員を任命し、その調停に付することができる。 
→ 自治紛争処理委員は調停案を作成し、これを当事者に示し、その受諾を勧告するとともに理由を付して、その要旨を公表することができる。 
審査】(地方自治法251条の3)
総務大臣は市町村長その他の市町村の執行機関が、その担当する事務に関する都道府県の所定の関与に不服があり、または協議が調わないことにつて関与があった日から30日以内に文書により自治紛争処理委員の審査に付することを求める旨の申出をしたときは、すみやかに自治紛争処理委員を任命し当該申出に係る事件をその審査に付さなければならない。
→ 自治紛争処理委員は都道府県の関与が違法(もしくは不当)であるときは都道府県の行政庁に対し理由を付し、かつ期間を示して必要な措置を講ずべきことを勧告するとともに当該勧告の内容を市町村長その他の市町村の執行機関に通知し公表しなければならない。
訴訟の提起】(地方自治法252条)
審査の申出をした市町村長その他の市町村の執行機関は次に掲げる場合において審査の結果もしくは勧告の内容の通知または都道府県の行政庁の措置に関する総務大臣からの通知があった日から30日以内に高等裁判所に対し当該申出に係る違法な都道府県の関与の取消し、または当該申出に係る都道府県の不作為の違法の確認を求める訴訟を提起できる。(審査申出前置主義)
(1)自治紛争処理委員の審査の結果または勧告に不服がある場合
(2)都道府県の行政庁の措置に不服がある場合

[自治紛争処理委員の組織]
独任制の原則
委員1名ずつが独任制の機関である、ただし委員の合意によることとされ事項を除く
委員の任命
委員は事件ごとに総務大臣または都道府県知事がそれぞれ任命する
委員の人数
3名

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

ユーキャンの行政書士通信講座
価格:63000円(税込、送料無料) (2021/9/18時点)


3章 民法 レッスン1 民法総論

民法の概要

①民法の体系

私たちは日常生活で、さまざまな行動を行っている。

たとえば朝、家を出て学校や職場に向かうため電車やバスに乗る。

その途中、駅の売店で新聞や飲み物を買ったりする。

週末に温泉旅行へ出かけることもある。

また家族から独立してアパートを借りたりマイホームを購入したりすることも一生のうちにはあるかもしれない。

さらに運命の人と人生を共にすることを誓って結婚したり両親が亡くなったり生まれた子供が親の跡を継ぐと言い出して親の仕事を手伝ったりといった出来事も起こる。

こうした日常生活での何か問題が生じた際に私たちに問題解決の基準を示してくれる法律が民法だ。

民法は私たちの日常生活に起こる契約や家族関係のルールを定めた法律だ。

このように一般私人どうしの関係に適用される法律の部類を「私法」といい民法は会社関連など商人に適される商法と共に私法の代表的な法律だ。

民法は第一編総則かた第五編相続まで5つの編で構成されており、これらは、どのような生活関係に適用されるか等を基準に大きく3つに分類することができる。

[民法のかたち]
(1)全体を通じたルール(第1編 総則
(2)おもに取引に関するルール(第2編 物権)(第3編 債権
(3)家族関係に関するルール(第4編 親族)(第5編 相続

②権利・義務

先ほどの駅の売店で新聞を買う行為など私たちが日常生活で行っている行為の多くは法律にかかわりのある関係だ。

こうした法律に関わるある関係を法律関係というが法律関係は具体的には権利と義務の関係として表される。

権利…相手方に一定の行為をする(しない)ように法によって主張することができる力。

義務…相手方から一定の行為をする(しない)ように法によって強制されること。

私的自治の原則

①私的自治の原則とは

私たちが売買などの契約を結ぶ際、契約を結ぶ当事者が自由に判断して相手との関係を決めることができる。

たとえば弁当と雑誌を買うつもりでコンビニに行き結局は弁当だけを買ったとしても誰にもとがめられない。

このように私たちは私的な関係を自分の意思に基づいて自由に形づくることができるのが原則だ。

これを私的自治の原則という。

私的自治の原則特に取引の場面では契約自由の原則として具体化される

②契約自由の原則とその修正

契約自由の原則とは誰とどのような内容の契約を結ぶこととしても自由であるという原則

[契約自由の原則の内容]
(契約締結の自由)契約を締結するか否かを自由に決定できる。
(相手方選択の自由)誰と契約を締結するかを自由に決定できる。
(契約内容の自由)どのような内容の契約を締結するかを自由に決定できる。
(契約方式の自由)どのような方式(書面を作成するか否かなど)で契約を締結するかを自由に決定できる。

対等な力関係に立つ当事者間であれば契約自由の原則を、そのまま当てはめても問題ない。

しかし現実は大企業と一消費者のように契約の当事者間の力の差がある場合がある。

その場合は単に契約自由としていては強者の要求を一方的に弱者に押しつけることになってしまう。

そこで弱者保護の立場から契約自由の原則を修正する特別法(借地借家法など)をつくり家賃を払うなどの義務を果たしている借主の立場を守っている。

3章 民法 レッスン2 権利の主体・客体

権利の主体

①権利能力

私たち日頃当たり前のように店でパンを買ったりインターネットオークションで不要になった物を売ったりしている。

これは私たち自身が主体となって契約などにより権利を得たり義務を負ったりすることを認められているということを意味する。

このように権利義務の主体となることができる資格を権利能力という。

権利能力を有するのは生身の人すなわち自然人と会社などの法人だ。

[自然人の権利能力の始期]
原則出生の時(民法3条1項)
例外】胎児がすでに生まれたとみなされる場合(1)不法行為による損害賠償請求(民法721条)(2)相続(民法886条)(3)遺贈を受ける場合(民法965条)

[自然人の権利能力の終期]
(1)死亡(2)失踪宣告(民法30条)不在者につき生死不明の状態が継続した場合に一定の条件の下で、その者を死亡したものとみなして法律関係を安定させる制度

失踪宣告には普通失踪と特別失踪がある。

普通失踪】生死の不明が7年間継続した場合
特別失踪】戦地に行った者や沈没船にいた者等、危難に遭遇した者で生死不明が1年間継続した場合

②意思能力・行為能力

他人と契約を結ぶ場合には、その契約によって自分がどのような権利を取得し義務を負うか判断する能力が必要になる。

そのような能力があれば契約自由の原則に則って自分で決めて行ったことだから責任をとりなさいということができる。

そこで民法では契約する人にはまず意思能力が必要だとしている。

意思能力とは自分の行った行為の結果を正常に判断することができる精神能力をさす。

この意思能力がない者を意思無能力者といい意思能力者の行為は無効だ。

行為能力とは契約などの法律行為を1人で有効に確定的に行う高度の判断能力をさす。

契約を行う場合は契約を有効にするためには意思能力のほか行為能力も必要だ。

③制限行為能力者

ところで民法はなぜ意思能力の他に行為能力も必要というように能力を2つに分けて考えるのだろうか。

初対面の人に意思能力があるかないか間違うことなく判断するのが困難な場合もあるだろう。

また意思能力者の側が行為の時に意思能力があったことを、そのつど証明するのも大変だろう。

そこで民法は意思能力のない者やその不十分な者を画一的に制限行為能力者と定め取引の相手方に契約前から判断しやすくして取引の安全を図っている

同時に、これらの者に保護者をつけて取引能力の不足を補い、この者が1人で行った契約を解消しやすくして制限行為能力者と取引の相手方との利害調整を図っている。(制限行為能力者制度

制限行為能力者は未成年者成年被後見人被保佐人被補助人の4種類だ。

(自然人)(行為能力者)
       (制限行為能力者)(未成年者
               (成年被後見人
                  (被保佐人
                  (被補助人

未成年者とは20歳未満の者をさす。(民法4条)

例外として20歳未満でも婚姻した人は成年者とみなされる。(民法753条)

未成年者が保護者の同意を得ずに1人でした法律行為は取消すことができる。(民法5条1項、2項)

ただし保護者の同意がある場合のほか以下の行為は例外として未成年者が1人でして問題がないので有効となり取り消すことができない。

[保護者の同意が不要な未成年者の行為]
(1)単に権利を得または義務を免れる行為(例)何の負担もない贈与を受ける、借金を免れる
(2)処分を許された財産の処分(例)もらったお小遣いでパソコンを買う
(3)許可を受けた営業に関する行為(例)親の跡を継いで家業を行う

未成年者には保護者(法定代理人)として親権者また未成年後見人がつく。

法定代理人の権限には以下の4種類がある。

[法定代理人の権限]
(1)同意権未成年者の行為にあらかじめ同意を与える行為
(2)取消権未成年者が同意を得ずに行った行為を取り消す権利
(3)追認権未成年者が同意を得ずに行った行為を追認する権利
(4)代理権未成年者の代わりに行為する権利

成年被後見人とは精神上の障害によって判断能力を欠く常況にある者で家庭裁判所で後見開始の審判を受けたをさす。(民法7条、8条)

成年被後見人が1人で行った法律行為は原則として取消することができる。(民法9条)

ただし成年被後見人が行う日用品の購入その他日常生活に関する行為は1人で有効に行うことができるので取消ができない。(民法9条ただし書)

成年被後見人は判断能力が普段から欠けている状態にあるが、それでもなお日常の身の回りのことは本人の自由な意思に任せようという考え方だ。

成年被後見人の保護者として成年後見人がつく。(民法8条)

その権限は(1)取消権(2)追認権(3)代理権があるが(4)同意権は与えられてない

なお、すでに成年後見人が選任されている場合でも更に成年後見人を選任することができる

さらに成年被後見人に対する保護が厚くなるからだ。

被保佐人とは精神上の障害で判断能力が著しく不十分な者で家庭裁判所の保佐開始の審判を受けたをさす。(民法11条)

被保佐人は原則として1人で法律行為を行うことができる

例外として、たとえば不動産の売買契約など重要な財産上の法律行為は保護者である保佐人の同意を得ずにした時は取消ができる。(民法13条1項、4項)

ただし成年被後見人と同様に日用品の購入その他日常生活に関する行為については1人で有効に行うことができるので取り消すことができない。(民法13条ただし書、2項ただし書)

被保佐人の保護者である保佐人には(1)取消権(2)同意権(3)追認権がある。

さらに家庭裁判所の審判により特定の法律行為につき保佐人に(4)代理権を与えることができる。(民法876条の4)

被補助人は精神上の障害によって判断能力が不十分な者で家庭裁判所で補助開始の審判を受けたをさす。(民法15条1項)

被補助人は原則として1人で法律行為を行うことができる

例外として重要な財産上の法律行為について定めた民法13条1項の各行為のうち被補助人の精神状態を判断し家庭裁判所が決めた特定の法律行為について1人でできない。(民法17条1項)

この場合、保護者である補助人の同意を得ずにした法律行為は後に取消ができる。(民法17条4項)

被補助人の保護者である補助人は家庭裁判所の審判により特定の法律行為について(1)取消権(2)同意権(3)追認権を与えられる。

さらに家庭裁判所の審判により特定の法律行為につき補助人に(4)代理権を与えることができる。(民法876条の9)

制限行為能力者または保護者から法律行為の取消しがなされるとどうなるのか。

取り消された法律行為は行為の時にさかのぼって無効となる。(民法21条本文)

なお制限行為能力を理由とした取消しの場合には制限行為能力者は、その行為によって現に利益現存利益を受けている限度で返還の義務を負う。(民法121条ただし書)

制限行為能力者の保護を考えて返還義務の範囲を限定したのだ。

④制限行為能力者の相手方の保護

このように制限行為能力者は手厚い保護を受けるが制限行為能力者と取引をする相手方は、どのような配慮がされるのだろうか。

民法は4つの方法を定めて突然の取消しを受ける可能でがある取引の相手方を保護する。

(1)催告権

制限行為能力者の取引の相手方は制限行為能力者側に対して取り消すのか追認するのか確答を求めることができる。

これを催告という。(民法20条)

制限行為能力者の保護者や能力を回復した後の本人行為能力者)に対して催告を行った場合には、その者たちが無視すれば追認したものとみなされる

(2)制限行為能力者の詐術

制限行為能力者が自分を行為能力者であると信じさせるため詐術を用いたときは制限行為能力者を保護する必要がないため取り消すことができない。(民法21条)

(3)法定追認

はっきりと追認すると言わなくても常識から考えて追認したと認めている事実がある場合には法律上、追認したと同じ効果を認める

これが法定追認だ。(民法125条)

(4)取消権の期間制限

いつまでも取消権があると相手方は不安定な立場のままだ。

そこで追認ができる時から5年、行為に時から20年経つと取消権が消滅すると定められている。(民法126条)

[制限行為能力者]
未成年
要件)20歳未満の者(原則)保護者の同意を得ずに1人でした法律行為は取消ができる。(例外) 次の行為は取り消すことができない。(1)単に権利を得または義務を免れる行為(2)処分を許された財産の処分(3)許可を受けた営業に関する行為(保護者の名称および権限)<親権者または未成年後見人>(1)同意権(2)取消権(3)追認権(4)代理権
成年被後見人
(要件)精神上の障害によって判断能力を欠く常況みある者で家庭裁判所で後見開始の審判を受けた者(原則)成年被後見人が1人で行った法律行為は取り消しができる。(例外)日用品の購入その他日常生活に関する行為は取り消すことができない。(保護者の名称および権限)<成年後見人>(2)取消権(3)追認権(4)代理権
被保佐人
(要件)精神上の障害によって判断能力が著しく不十分の者で家庭裁判所で保佐開始の審判を受けた者(原則)被保佐人が1人で行った法律行為は取り消すとことができない。(例外)重要な財産上の行為(民法13条1項)について補佐人の同意を得ずにした法律行為は取り消すことができる。(保護者の名称および権限)<保佐人>(2)取消権(3)同意権(4)特定の法律行為についての代理権
被補助人
(要件)精神上の障害によって判断能力が不十分な者で家庭裁判所で補助開始の審判を受けた者(原則)被補助人が1人で行った法律行為は取り消すとことができない(例外)民法13条1項の各行為のうち家庭裁判所が決めた特定の法律行為について補助人の同意を得ずにした法律行為は取り消すことができる。(保護者の名称および権限)<補助人>特定の法律行為について(1)同意権(2)取消権(3)追認権(4)代理権

法人

①法人とは

自然人以外に権利主体となるのが法人だ。

現代社会では自然人と別に、さまざまな団体や組織が重要な社会経済活動を行っている。

そこで、このような存在に権利能力を与え契約の当事者となったり財産を保有したりすることを認めている。

②法人の種類

公法人とは国や法人格をもつ公共団体をさす。

都道府県や市町村といった地方公共団体が代表例だ。

私法人とは公法人以外の法人をさす。

私法人は社団法人と財団法人、公益法人と営利法人に分かれる。

公益…不特定多数の人の利益を目的とする。
営利…活動によって得た利益を構成員に分配する。

社団法人とは自然人が集まった団体に権利能力を与えたものだ。

財団法人とは財産に権利能力が与えられたものだ。(例)財団法人行政書士試験研究センター

社団法人や財団法人の根本規則を定款と呼ぶ。

公益法人とは学術、技芸、慈善その他の公益に関する事業を目的とする法人をさす。

営利法人とは営利事業を営むことを目的とする法人をさす。(例)会社

③権利能力なき社団

権利能力なき社団とは法人と同様の社団としての実質を備えながら法人格をもたない団体だ。(例)設立手続中の会社

その名の通り権利能力なき社団には権利能力が認められない。

権利の客体

①不動産・動産

自然人や法人は財産をめぐって取引行為をする。

つまり権利の客体は財産だが民法は権利の客体として「」について規定している。(民法85条)

ものは不動産動産に分かれる。

不動産とは土地および、その定着物をいう。(民法80条1項)

土地の定着物の典型は建物だ。

たとえば建物は土地と分離して不動産取引の対象なる。

動産とは不動産以外の物をいう。(民法86条2項)

②主物・従物

物の中には、たとえば刀とさや、屋敷の母屋と離れというように、それぞれは独立している物がいわば主従の関係に立つ場合がある。

このように物の所有者が、その物(主物)の常用に供するため、これに付属させた自己の所有物を従物という。(民法87条1項)

そして主従関係に立つ物どうしの処理の基準は「従物が主物の処分に従う」ことになる。(民法87条2項)

③天然果実・法定果実

物は、それがもととなって利益を生み出すことがある。

たとえばミカンの木は収穫期にミカンの実を実らせるし賃貸マンションは賃料を生み出す。

ミカンの実のように元物から自然にとれる物のことを天然果実という。

これに対し賃貸マンションの賃料にように元物の利用に対する対価にことを法定果実という。

3章 民法 レッスン3 法律行為

意思表示

①意思表示とは

たとえば店に入って弁当を買おうとする。

気に入った弁当を持ってレジへ並び店員に「この弁当を下さい」と言って弁当の売買契約を結ぶことになる。

ここで「この弁当を下さい」ということが意思表示だ。

意思表示とは一定の法律効果を発生させる意思を外部に表すことをさす。

これを細かく分析すると弁当を買いたいとも思い、それを店員に伝えようと決めて「この弁当を下さい」と言ったわけだ。

つまり意思表示は、このような3つの段階を順を追って進んで行く事がわかる。

以下の図で示す通り、それぞれの段階を「効果意思」「表示意思」および「表示行為」という。

ちなみに「昼食の時間だから何か弁当でも買おうかな」という段階は効果意思の手前の動機であり意思表示の段階に入ってない。

しかし意思表示がいつも問題なく相手に伝わるとは限らない。

たとえば真意でない意思表示をしたり騙されたり脅されたりして意思表示をすることもあり得る。

このような場合に契約が成立したことを理由として、そのような意思表示をした人に対して契約を強制的に守らせてよいのだろうか。

この点は民法では問題のある意思表示をした人を保護する制度が定められている。

具体的には「心裡留保」「虚偽表示」「錯誤」「詐欺」および「強迫」の5つの形態を定め、そのぞれの場合の法律効果を規定する。

動機…お昼だから弁当でも買おう。
       ↓        
効果意思…この弁当を買いたい。     
 ↓     ↓            
表示意思…よし買うと言おう。
 ↓     ↓            
表示行為…すいません。このお弁当下さい。

②心裡留保

心裡留保とは意思表示をする者(表意者)が真意でないことを知ってする意思表示をさす。

つまり表示行為に対する効果意思がないことを知りながら、あえて行う嘘の意思表示だ。

この心裡留保については表意者を保護する必要は全くないため原則として有効となる。(民法93条本文)

ただし相手方が表意者が行った意思表示が真意でないことを知っているか(悪意)またはその行為の当時に通常の注意すれば知ることができた場合(有過失)には、その相手方を保護する必要もないので無効となる。(民法93条但し書き)

言い換えれば、この場合、相手方が「善意かつ無過失ならば有効ということだ。

(追記 2021.9.8)

出た!!法律用語の極み。

日常会話には全くでない言葉のオンパレードだ。(これも最近言わないか)

この辺に非常な抵抗感がある内は攻略は無理だ。

③虚偽表示

虚偽表示とは相手方と通じてした真意でない虚偽の意思表示をさす。

たとえば借金が返せなくなり自分の名義のままでは財産を差し押さえられてしまうため、これを回避するために名義だけを相手方のものにしておいて差押えを免れようとする場合だ。

虚偽表示が原則として無効だ。(民法94条1項)

ただし虚偽表示は善意の第三者に対して無効を主張(対抗)できない。(民法94条2項)

たとえばAはBとの間でAの債権者じゃらの差押えを免れるため自己所有の不動産をBの名義にしておいたところBがこの不動産を事情を知らない第三者Cへ売ってしまうような場合だ。

この場合、虚偽表示をしたAと比較して善意のCは不動産の権利が手に入らない気の毒なので民法はCを保護するのだ。
④錯誤

表意者が、いわゆる勘違いで真意とは異なる意思表示を行うことを「錯誤による意思表示」という。

錯誤とは意思表示のうち表示に対応する意思が欠けており、かつ欠けていることに表意者が気づいてないことをさす。(民法95条)

表意者を保護するため錯誤による意思表示は無効とされるが、すべてが無効となるわけではない。

以下の要件を満たさないと表意者は無効を主張できない

[錯誤で無効を主張するための要件]
(1)法律行為の「要素に錯誤がある」こと
(2)表示者に「重過失がない」こと

また錯誤の要件を満たしたとしても表意者本人が無効を主張する意思がない場合には原則として他人が無効主張することはできない
⑤詐欺と強迫

詐欺も強迫も表示行為と効果意思は一致しているが効果意思が生ずるプロセスに問題がある場合であり「瑕疵ある意思表示」にあたる。

詐欺による意思表示とは人に騙されてした意思表示のことだ。

詐欺とは人をだまして(欺罔という)錯誤に陥らせる行為をいう。

詐欺による意思表示は取り消すことができる。(民法96条1項)

ただし善意の第三者には取消を主張(対抗)できない。(民法96条3項)
強迫による意思表示とは人に脅されてした意思表示のことだ。

強迫とは人を脅して相手に恐怖心を起こさせ(畏怖という)それによって意思表示をさせることだ。

強迫による意思表示は取り消すことができる。(民法96条1項)

(注釈 2021.9.8)

人を脅す行為には民事上の責任のほか刑事上の責任も問題となるので表記を「脅迫」でなく「強迫と別とする

そして詐欺と違い善意の第三者に対しても取消を主張(対抗)できる。(民法96条3項の反対解釈)
第三者が口を出してきて詐欺や強迫をする場合も考えられる。

第三者の詐欺による意思表示は通常の詐欺の場合と同様に善意の相手方に取消を主張できない。(民法96条2項)

つまり意思表示をするにあたっては第三者でなく契約の相手方の言うことを聞いて判断すべきであり第三者の言うことを聞いて騙されても善意の相手方は不利益を受けないのだ。

なお第三者の強迫の場合は善意の相手方に対しても取消しを主張できる

[意思の不存在と瑕疵ある意思表示]
意思の不存在
 《心裡留保》(民法93条)
意味)真意でないことを知ってする意思表示(効果)〈原則〉有効〈例外〉相手方が悪意または有過失ならば無効
虚偽表示》(民法94条)
意味)相手方と通じてした真意でない虚偽の意思表示(効果)〈原則〉無効〈例外〉善意の第三者に対しては無効を主張できない
錯誤による意思表示》(民法95条)
(意味)いわゆる勘違いでした真意とは異なる意思表示(効果)〈原則〉無効〈例外〉表意者に重過失がある場合は無効を主張できない
瑕疵ある意思表示
詐欺による意思表示》(民法96条)
意味)人に騙されてした意思表示(効果)〈原則〉取り消せる〈例外〉善意の第三者には取消しを主張できない
強迫による意思表示》(民法96条)
意味)人に脅されてした意思表示(効果)〈原則〉取り消せる〈例外〉-

⑥無効と取消し

前記のとおり民法上、表意者には心裡留保、虚偽表示および錯誤について無効の主張が詐欺および強迫については取消しの主張が一定の場合に認められている。

無効とは最初から効力がはっせいしてないことをさす。

取消しとは一応有効に成立した法律行為を取消権者が取り消すことで行為の時を遡って無効にすることだ。(民法121条)

[無効と取消し]
無効】(主張できる者)基本的に誰でも可能(効力)初めから生じる(期間の制限)ない
取消し】(主張できる者取消権者のみ可能(効力)取消しによって行為の時に遡って無効になる(期間の制限)追認できる時により5年、行為の時より20年経過で消滅

代理

たとえば、あなたが別荘を買いたいと思ったとする。

しかし日頃は仕事が忙しく別荘地に自ら出向いて探す暇がないとする。

そのような時は誰か不動産に詳しい人に自分の代わりに希望の条件に見合う別荘を探して契約をしてもらい、その結果だけ得ることができれば便利だ。

代理は、そのような要望をかなえる制度だ。

さらに既に制限行為能力者のところで学んだが、たとえば無成年者の代わりに親がバイクの売買契約を締結してあげるように制限行為能力者の保護者の権限として代理権が認められる場合もある。

①代理とは

代理とは代理人が本人のためにすることを示して法律行為をなし、その効果を直接本人に帰属させる制度をさす。
代理が成立するためには3つの要件が必要となる。

[代理の成立要件]
(1)代理人に代理権がある。
(2)代理人が本人のためにすることを示す。(顕名けんめい)
(3)有効に法律行為が行われる。

これらの要件が満たされた場合に代理が成立し効果は本人に直接帰属する。(民法99条)

②代理権

代理権は、どのように発生するのだろうか。

これは先にみたように本人が取引行為を他人に頼むような場合のように契約によって代理権が発生する任意代理と制限行為能力者の保護者のように法律の規定により代理権が発生する法定代理とがある。

任意代理とは本人の意思によって他人に代理権を与えることによる代理をさす。

法定代理とは本人の意思に基づかず法律の規定によって代理権を与える代理をさす。

[代理権の発生原因とその範囲]
任意代理】(発生原因)本人の意思によって代理権が与えられる(範囲)本人と代理人との間の代理権授与行為(契約)で決まる。権限の定めない代理人は一定の行為のみできる。
法定代理】(発生原因)法律の規定によって代理権が与えられる(範囲)法律の規定により決められている。

復代理とは代理人が自分の権限内の行為を行わせるために自己の名で代理人(復代理人)を選任し本人の代理をさせることだ。

たとえば代理人が急病などで代理人としての行為を行うに耐えられない事情が発生したような場合に自分の権限内の行為を他人に行わせるための制度だ。

なお復代理人が選任されても代理人の代理権は消滅しな

選任された復代理人は、あくまで本人の代理人であって代理人の代理人となるのではない

[復代理まとめ]
意味および効果】復代理とは代理人が選任する本人の代理のこと。
(1)本人の代理であって代理人の代理人ではない。
(2)復代理人を選任して代理人の代理権は消滅しない。
(3)代理人の代理権が消滅すれば復代理人の代理権も消滅する
(4)復代理人の代理権の範囲は代理人の代理権の範囲内に限る。
復任権はあるのか
任意代理》(民法104条、105条)原則としてなし
例外本人の許諾がある場合②やむを得ない事由がある場合どちらかがあれば選任できる《法定代理》(民法106条)常にあり
代理人の責任
任意代理》(民法104条、105条)原則選任および監督上の責任を負う
例外)本人の指名に従って復代理人を選任した場合 復代理人が不適切・不誠実であることを知っているのに本人に通知せず、または解任を怠った場合のみ責任を負う
法定代理》(民法106条)原則全責任を負う
例外)やむを得ない事情により復代理人を選任した場合(病気等)
 選任および監督上の責任のみ負う。

代理人は本人のために代理行為を行うのだから、その代理人が破産したり後見開始の審判を受けたりするようなことがあっては職務を全うできない。

逆に本人に破産や後見開始の審判があっても代理権は消滅しない。

[代理権の消滅原因(民法111条)]
 〇消滅 ×未消滅
死亡
任意代理)本人〇 代理人〇
法定代理)本人〇 代理人〇
破産手続開始決定
任意代理)本人〇 代理人〇
法定代理)本人✖ 代理人〇
後見開始の審判
任意代理)本人✖ 代理人〇
法定代理)本人✖ 代理人〇
解約告知
任意代理)本人〇 代理人〇
法定代理)本人- 代理人-

たとえばAからA所有の土地を売却することを代理権を与えられたBがCと売買契約を締結する際にCから受領する売買代金で自己の借金を返済する意図をもっていたとする。

Cは注意を払ってBの意図を知ることができなかった場合に三者間の法律関係はどのようになるだろう。

このように代理人が本心では自分第三者の利益を図る意図をもって客観的には顕名(本人の為に代理行為をすること)をして代理の要件を満たした権限内の行為をすることを代理権の濫用とよぶ。

[代理権の濫用の場合の効果]
原則】形式上は顕名もなされ有効な法律行為もあるから代理が成立し本人に効果が帰属する。
例外】代理人の意図を相手方が知り、または知ることができた場合は悪意または有過失の相手方を保護する必要はなく代理行為を無効とし本人に効果は帰属しない。(民法93条但し書きの類推適用、最判S42.2.20)

③代理行為

代理行為とは代理人が本人のためにすることを示して法律行為をすることだ。

顕名とは代理人が本人のために代理行為を行うことを相手方に示すことだ。(民法99条1項)

[顕名をしなかった場合]
原則】代理行為とならず代理人が自らのために行為したとみなされる。(民法100条1項)
例外】相手方が代理人が本人のために行為するのを知っていたか知ることができたときは有効な代理行為となる。(民法100条但し書き)

代理人は制限行為能力者であってもよいのだろうか。

たとえば未成年者であっても20歳に満たないだけで取引に関する能力は大人顔負けの者もいたりする。

そのような者の実務能力を見込んで本人の判断で代理人として何らかかまわない。

なぜなら代理制度では代理人の行為は直接本人に効果が帰属し代理人が法律行為の結果として不利益を受けことはない

したがって制限行為能力者を代理人とすることもできる。(民法102条)

代理においては契約当事者の一方として本人と代理人とがかかわっている。

そこで当事者の意思表示の瑕疵、善意や悪意が問題となる場合は原則として、その事実の有無代理人について判断することになっている。(民法101条1項)

しかし特定の法律行為を頼まれた場合に代理人が本人の指図に従って、その代理行為をしたときは本人が知っていた事情について代理人が、それを知らなくても本人は代理人が知らなかったことを主張できない。(民法101条2項)

本人の指図で動いている以上、本人について、その事情の有無を判断すべきだからだ。

④無権代理

無権代理とは代理権を有しない者が代理人と称して行った行為をさす。

代理権がないのに代理人と称して行為する者を無権代理人とよぶ。

無権代理人の場合は原則として本人に効果は帰属しない。(民法113条1項)

勝手に売買などされてしまい本人に、その効果が帰属するのは余りに乱暴すぎる話だからだ。

しかし無権代理人の行為が、たまたま本人にとって都合が良い場合は本人が追認することより代理の効果は契約時にさかのぼって本人に帰属する。(民法116条)

逆に無権代理人の行為を認めたくない場合には追認を拒否することができる。

追認拒否により代理行為の効果が本人に帰属しないことが確定する。

無権代理の相手方は、どうすればよいのだろうか。

ここでは相手方の善意または悪意といった事情(主観的な事情)によって保護の厚みを変えて対応する。

まず、たとえ相手方が無権代理人であることについて悪意であっても本人が追認してくれるかもしれないので追認するか否かの催告権を相手方はもつ。(民法114条前段)

次に相手方が無権代理行為について善意の場合は取消権を行使できる。(民法115条)

この取消権は本人が追認するまでに行使する必要がある。

最後に相手方が無権代理行為について善意無過失の場合に本人が追認しないときは相手方の選択により権代理人に対し履行または損害賠償を請求できる。(民法117条)

[無権代理の相手方の保護]
催告権】(主観的な要件)善意悪意関係なし
     (その他の要件)-
取消権】(主観的な要件)善意であること
     (その他の要件)本人が追認するまで
無権代理人への責任追及(履行または損害賠償請求)】
     (主観的な要件)善意無過失であること
     (その他の要件)無権代理人が制限行為能力者でないこと

⑤表見代理

無権代理人とあっても本人と無権代理人との間に何らかの関係がある結果、相手方に代理権があると信じさせる特別な事情が認められる場合には通常の代理と同じ効果を発生させ相手方を保護する。(表見代理

[表見代理の種類(民法109条、110条、112条)]
代理権授与の表示による表見代理
どういう内容)実際には代理権を与えてないがAがBに代理権を与えたとの表示を相手方Cにしたような場合(例)委任状を渡す
要件)①他人に代理権を与えたと表示する②表示された無権代理人が表示を受けた相手方と表示の範囲内の代理行為をしたこと③相手方が善意無過失
権限外の行為の表見代理
どういう内容)家を貸す代理権を与えたのに売却してしまったような場合
要件)①契約等の法律行為をすることの基本代理権があること②基本代理権を越えて代理行為があったこと③相手方の正当な理由(善意無過失)
代理権消滅後の表見代理
どういう内容)代理権が期限切れ等で消滅したにもかかわらず代理行為をしたような場合(要件)①代理権があった者の代理権②相手方が代理権の消滅につき善意無過失

条件・期限および時期

契約が有効に成立したとしても効力が発生してない場合がある。

たとえば賃貸アパートを借りる契約を締結したとしても借り始める時期が翌週であれば家主にすぐに住まわしてくれと要求できないでしょう。

また家主の転勤が決まったら貸すという契約の場合に転勤が決まっていない時期から部屋を明け渡して貸してくれとはいえないだろう。

このように契約に条件や期限などがついた場合においては、どのような契約が処理されるのだおるか。

①条件

条件とは将来発生するかどうか不確実な事実に法律行為の効力の発生や消滅を係らせることをさす。

たとえば「転勤が決まったら自宅を貸す」とか「行政書士試験に合格したら車をプレゼントする」というような場合だ。

条件には停止条件解除条件の2種類がある。

停止条件とは条件が実現すること(成就)で法律効果が発生する条件だ。(民法127条1項)

先ほどの例で転勤が決まるという条件、行政書士試験に合格するという条件が成就すれば、それぞれ効果として建物賃貸契約の効力や自動車贈与契約の効力が発生するから、これらは停止条件等ことになる。

解除条件とは条件が成就することで、すでに発生していた法律効果が消滅する条件だ。(民法127条2項)

たとえば大学を卒業したら仕送りを止めるという条件がついていた金銭贈与契約は大学の卒業という条件が成就することで贈与契約の効力が消滅するので解除条件といえる。

停止条件と解除条件を次の図でイメージしてくれ。
[さまざまな条件と法律行為の効力]
既成条件】(民法131条)
意味
法律行為の時にすでに成否が客観的に確定している事実を条件とする場合
条件の内容
条件がすでに成就している場合《停止条件》無条件《解除条件》無効
条件の不成就が確定している場合《停止条件》無効《解除条件》無条件
不法条件】(民法132条)
意味
条件がつけられることによって法律行為全体が不法性を帯びる場合
条件の内容
不法の条件である場合《無効》不法な行為をしない条件である場合《無効》
不能条件】(民法133条)
意味
将来において実現が不可能である事実を条件とする場合
条件の内容
停止条件》無効《解除条件》無条件
純粋随意条件】(民法134条)
意味
当事者の一方が欲しさえすれば条件を成就させることができる場合
条件の内容
単に債務者の意思のみに係る時《停止条件》無効
単に債権者の意思のみに係る時《停止条件》有効
単に債務者の意思のみに係る時《解除条件》有効
単に債権者の意思のみに係る時《解除条件》有効

②期限

期限とは将来発生することが確実な事実に法律行為の効力の発生や消滅を係るせることをさす。

私たちはよく約束をするとき期限を決める。

たとえば「100万円を来年の3月31日に返済する」という契約の場合は来年の3月31日が期限(返済期限)ということになる。

期限には確定期限不確定期限の2種類がある。

確定期限とは将来発生する期日が確定している期限をいう。

たとえば先ほどの例のように期限が定められている場合や今日から1か月後というように年月日で指定する場合だ。

不確実期限とは将来発生することは確実だが、その時期がいつ到来するかは不確実な期限をさす。

たとえば「僕が死んだらこの家をあげよう。」という贈与の約束はいつ亡くなるか不確実だが確実に到来するので不確定期限となる。

③期限の利益

たとえば「1年度に返済する」という約束でお金を借りた場合、お金を借りた債務者は期限が到来するまでの間つまり1年間はお金を返す必要がない。

このように期限が到来しないことによって当事者(この例だと債務者)受ける利益期限の利益という。

期限の利益は放棄することができ債務者は返済期限が到来する前に借りたお金を債権者である貸主に返済することができる。

ただし、これによって相手方の利益を害することはできない。(民法136条2項)

したがって期限までの利息をつけてお金を返済する約束でお金を借りた場合、債務者が期限の利益を放棄して期限到来前に返済するには原則として期限までの利息をつける必要がある。

債権者は期限までの利息を受け取ることができると期待しているからだ。

なお以下の場合には債務者は期限の利益を主張することができない。(民法137条)

(1)債務者が破産手続開始の決定を受けるとき
(2)債務者が担保を滅失させ損傷させ、または減少させたとき
(3)債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しない

④期間の計算

期間とは1週間、1年間という、ある時点からある時点までの継続した時の区分をさす。

たとえば「家を3年間貸します」といわれた場合には具体的にいつからいつまで使えるのか明確にする必要がある。

その基準を民法は定めている。

「日・週・月・年」を基準として期間を定めた場合には原則として初日を期限に数えない。(初日不算入の原則)(民法140条)

たとえば契約した時間が午前10時だとすると、その日は丸々24時間使えないだけだ。

よって初日を算入しないことにして公平を図っている。

7月1日から4日間、車を借りたと
すると7月2日から数えて始め7月5日の夜12時まで使えることになる。

この原則に対する例外が1日を丸々使えるように決めた場合だ。

つまり期間が午前0時から始まる場合だ。(民法140条ただし書)

たとえば6月30日に「7月1日から4日間あなたから車を借りる」と決めた場合、7月1日からカウントし7月4日の夜12時まで使えることになる。

「週・月・年」の長さは暦に従い計算し期間の起算日に対応する日の前日が終了の日となる。(民法143条)

たとえば7月1日の1年後といった場合に7月1日の午前0時から開始する契約ならば翌年の6月30日の夜12時をもって期間は満了する。

初日不算入ならば7月2日から開始することになり翌年の7月1日の夜12時をもって期間が満了する。

⑤年齢の計算

年齢の計算については民法の特別法として「年齢計算ニ関スル法律」が適用される。

この法律によって人の年齢は出生した日から起算する。

つまり年齢の計算は初日不算入の原則の例外となる。

3章 民法 レッスン4 時効

時効制度総論

①時効制度とは

たとえ真実はA所有の土地であってもBがまるで所有者であるかのような事実状態が長く続いている。

Bを所有者として社会が信用しているのに、それをくつがえてしまうと一度築かれた社会秩序が混乱してしまいかねない。

そこで民法は時効制度をつくり現在の事実状態をそのまま尊重するようにした。

Bは時効制度を利用して土地の所有権を取得することができる。

このように時効とは一定の事実状態が一定期間継続した場合に、それが事実の権利関係と一致するかどうかを問わず、そのまま権利関係として認める制度をさす。

②時効の基本的概念

時効には消滅時効取得時効の2種類がある。

消滅時効
一定の期間権利が行使されなかった事実状態を根拠に権利が消滅する制度
取得時効
一定の期間権利者であるかのような権利行使をしている事実状態を根拠に権利を取得する制度

時効は一定の期間、継続した事実状態を尊重する制度だから、その期間が途中で一定の事由によって途切れてしまうと継続性が絶えてしまうので、そこまで継続した事実状態をいったんもとに戻すことにしている。

このように時効期間を断ち切ってしまい進行した期間を振出しに戻すことを時効の中断という。

[事項の中断事由](民法147条)
請求
裁判上の請求とは裁判所に訴えることで権利の主張をすること。後に訴えが却下されたり自分で取り下げたりすると請求がなかったことになるため時効は中断しない
催告とは相手方に債務の履行を求めること。催告したままでは時効の中断とはならず6か月以内に裁判上の請求をする必要がある。→6か月以内に裁判上の請求をすれば催告の時点に遡って時効中断の効力が生ずる
差押え・仮差押え・仮処分
差押えとは債務者が財産の処分を禁止する手続のこと。
仮差押えとは、すぐに強制執行ができないときに執行を保全するため暫定的に財産の処分を禁止する手続のこと。
仮処分とは金銭以外の物の保全または仮の地位を確保するための処分のこと。
承認
債務者のほうから債権者に対して権利の存在を認めること。

時効が成立するのに必要な一定の期間が経過すると時効は完成する。

そして時効の効力は起算日に遡って発生する。(民法144条)

ただ期間が経過したからといって権利の取得あるいは義務の消滅という効力が確定的に生ずるわけではない。

時効の効果を確定的に発生させるには時効の援用が必要だ。

時効の援用とは時効によって利益を受ける者が、その利益を受けると意思表示することをさす。(民法145条)

時効の援用は時効によって直接利益を受ける者が行うことができる。

また時効の利益を放棄することもできる。

ただし時効の完成前に予め放棄することはできない。(民法146条)

たとえば金を借りる時に貸主が時効の利益を放棄することを条件に契約すると言われたら借主のほうは借りたい一心で受け入れてしまうだろう。

そうすると時効制度が使われることがなくなり無意味になってしまうからだ。

消滅時効

①消滅時効とは

消滅時効とは一定の期間、権利が行使されなかった事実状態を根拠に権利が消滅する制度をさす。

たとえばAさんが100万円の債権をBさんに対して持ちながら権利行使しないまま放置したとする。

このような者は法律の保護に値しないと考えられる。

そこで一定の要件の下で消滅時効が認められる。

また実際には借金を返済したいが、その証拠である領収証を失くしてしまい相当な期間が経った後、二重払いを請求されることも考えられる。

つまり債権はすでに消滅時効にかかったと主張できる。

②消滅時効の期間

消滅時効が完成する期間である時効期間については時効にかかる権利の種類で2つに分かれる。

[消滅時効期間と権利](民法167条)
10年】債権
20年】債権および所有権を除く財産権

債権によっては権利関係を早く確定させるため10年より短い期間で時効が成立し権利が消滅する場合もある。(短期消滅時効

たとえば工事施工業者の工事に関する債券は工事終了時から3年だ。(民法170条2号)

旅館の宿泊料や飲食店の飲食料は1年だ。(民法174条4号)

また取消権の追認できる時から5年で時効にかかる。(民法126条)

ただし本来は短期消滅時効にかかる債権であっても確定判決によって確定し、かつ確定当時すでに返済期間(弁済期)が到来している債権の消滅時効期間は一律10年となる。(民法174条の2)

裁判で権利の存在が確定した以上あえて短い時効期間を認める必要はなく一律に扱うのが社会秩序からみてふさわしいからだ。

③時効期間の起算点

消滅時効は権利を行使することができる時から進行を始める。(民法166条1項)

この時効期間が進行を始める時を時効の起算点という。

[消滅時効の起算点]
【確定期限の定めのある債権】
期限が到来した時
【不確定期限の定めのある債権】
期限が到来した時
期限の定めのない債権
債権が成立した時
【停止条件付き債権】
条件の成就した時
【返還時期の定めのない金銭消費貸借の債権】
債権成立後、相当の期間の経過後
【債務不履行に基づく損害賠償請求権】
本体の債務の履行を請求できる時
【不法行為に基づく損害賠償請求権】
被害者が損害および加害者を知った時

取得時効

①取得時効とは

取得時効とは一定の期間権利者であるかのような権利行使をしている事実状態を根拠に権利を取得するという制度をさす。

②取得時効の要件

取得時効が成立するための要件は(1)所有の意思をもって(2)平穏かつ公然に(3)他人の物を占有したこと(4)時効の期間の経過の4つだ。(民法162条)

所有の意思とは所有者としてその物を使う意思があることだ。

このような所有の意思のある占有を自主占有という。

逆に他人の物を借りて使っている人の占有を他主占有という。

たとえば借家人などは家主にその家の所有権があることを認めながら占有しているから他主占有だ。

他主占有をいくら続けても取得時効は成立しない

平穏かつ公然とは暴力的な手段で占有を手に入れたのではなく、かつ隠蔽工作をしていないオープンな状態をいう。

他人の物は不動産または動産を問わず取得時効の対象となる。

取得時効の期間は占有を始めた時に善意無過失であったか否かで10年または20年の2通りがある。

占有開始時に悪意であったり善意だが過失があったりした者に早く時効を認める必要はないため20年とされている。

[取得時効の期間](民法162条)
10年】善意無過失
20年】善意無過失でない場合(悪意または善意有過失)

占有の承継した者は自分の占有期間だけ主張しても良いし前の占有者の占有期間を合わせて主張することもできる。

ただし占有期間をあわせて主張する場合においては善意または悪意および過失の有無も引き継ぐことになる。(民法187条)

[CがAの占有期間をあわせて主張する場合]
(1)A善意無過失C善意無過失→時効期間10年(Cが所有権を時効取得)
(2)A繊維無過失C悪意または有過失→時効期間10年(Cが所有権を時効取得)
(3)A悪意または有過失C善意無過失→時効期間20年(時効成立まであと10年)
(4)A悪意または有過失C悪意または有過失→時効期間20年(時効成立まであと10年)

3章 民法 レッスン5 物権総論

物権の概要

①物権とは

物権とは特定の物を直接的・排他的に支配する権利をさす。

物権には以下のような本質が認められる。

[物嫌の本質]
排他性】一つの物に対して同一内容の物権は併存できない。
直接性】物権を行使するときは他人の力を借りる必要はない。

債権は特定の人に対して特定の行為を要求する権利だ。

債権は特定人に対して同一内容の債権が多数併存することが可能だ。

たとえば一つの不動産を売る契約を何人との間でも結べてしまう。

つまり物権とは違い債権には排他性が認められない。

②物権の種類

物権は直接的・排他的な権利なので、その種類を限定して内容を明確にしないと取引上困る。

そこで法律で認められてない新しい物権や法律の規定と異なる内容の物権を当事者の合意によって創設することは原則としてできないとされている。(民法175条)

これを物権法定主義という。

物権は大きく占有権と本権に分かれる。

占有は自己のためにする意思で物を所持する事実状態のことである。

本権は占有を正当化することのできる権利の総称だで所有権と制限物権とに分かれる。

所有権は物を自由に使用、収益および処分する権利だ。

制限物権は所有権に一定の制限を加える物権の総称であり用益物権と担保物権に分かれる。

用益物権は他人の物を利用することを内容とする物権だ。

担保物権は債権の担保のために物の価値を把握する物権だ。

[物権の全体像]
物権
  [占有権]
  [本権]
     [所有権]
     [制限物権]
        [用益物権]
           [地上権]
                   [永小作権]
                   [地役権]
                   [入会権]
                [担保物権]
        [法定担保物権]
        [留置権]
        [先取特権]
                    [約定担保物権]
        [質権]
        [抵当権]
物権は直接的・排他的な権利で、その効力として(1)優先的効力(2)物権的請求権が認められる。

まず物権相互の間では先に成立した物権が後に成立した物権に優先する。

たとえばAのために既に所有権が成立している土地に他人の所有権は成立しない。

次に同一物に物権と債権とが併存する場合には物権が優先する。

たとえば建物を賃借して利用している間に所有者が建物を第三者に売却した場合に建物の買主が所有権に基づいて賃借権を否定して退去を求めることが挙げられる。

また他人からの不当な干渉を受けて所有者の自由な支配が妨害されている場合には、その妨害を排除して所有権の内容を実現させることができる。

そのための救済手段を物権的請求権という。

物権的請求権としては(1)物権的妨害予防請求権(2)物権的妨害排除請求権(3)物権的返還請求権が認められる。

[物権的請求権]
物権的妨害予防請求権
将来、物権侵害が生ずる可能性が高い場合に、その予防を請求する権利
具体例
隣家の老木が根本から腐って自宅の壁を直撃しそうな場合に添え木等の対策を請求する場合
物権的妨害排除請求権
物を奪われる以外の方法で物権の侵害が生じている場合に、その侵害の除去を請求する権利(具体例
隣地の所有者が建設残土を勝手に自己の土地の上に堆積させている場合に、その除去を請求する場合
物権的返還請求権
物権を有する者が物を奪われ物の占有を全面的に排除された場合に、その物の引渡しや明渡しを請求する権利
具体例
賃貸借契約終了後も賃貸人が賃貸建物を不法占拠している場合に建物所有者が建物の明渡しを請求する場合

物権変動

①物権変動とは

物権変動とは物権の発生、移転、変更または消滅をさす。

たとえばAがBに自宅を売る契約をするとする。

この場合Aの自宅の所有権がAからBへ移転する。

では、どのような事実があれば物権変動は生ずるのだろうか。

物権変動が生じさせるものの一つが売買契約などの契約が成立することが挙げられる。

しかし契約のよらずに発生する場合もある

たとえば取得時効によって不動産の所有権を取得する場合や相続によって被相続人から相続人に不動産の所有権が移転する場合がある。

契約による物権変動については当事者間で特に約束(特約)をしない限り契約が成立した時点で所有権の移転などの物権変動が生ずる。

②意思主義

物権変動が生ずるために何か特別な手続は必要なのだろうか。

これについては2つの考え方がある。

まず物権変動が生ずるために当事者の意思表示だけでよく他に何も特別な手続は必要ないという考え方意思主義と、もう一つは意思表示だけでなく登記や引渡し等の一定の形式がなければ物権変動は生じないとする考え方形式主義がある。

民法は176条で「物権の設定および移転は当事者の意思表示のみによって、その効力を生じるとしており意思主義の立場に立つものと考えられている。

③不動産物権変動

契約は同一の目的物について複数締結することができるので同じ土地に譲渡する契約が締結されるのを防ぐことができない。

たとえばAがBにA所有の土地を譲渡した後、同じ土地を二重にCにも譲渡する契約が締結されるのを防ぐことはできない。

また動産と違って不動産は誰の所有物がは外から見ただけではなかなかわかり難い。

この場合に土地の買主であるBとCは、どちらが物権変動によって所有権を取得したかをはっきりと決めてもらわないと困る。

このような問題を解決する基準が不動産物権変動の対応要件だ。

つまり一つの物の権利をめぐって「私が真の権利者だ」と主張し合うことを対抗問題というが、これを解決する基準が対抗要件だ。

そして不動産物権変動の対抗要件は登記だ。

民法は「不動産に関する物権の得喪および変更は不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ第三者に対抗することができない。」(民法177条)と定めている。

このように不動産物権を取得した者は登記をすることによって不動産物権を第三者に対抗することができる。

そして不動産の買主には売主に対して「登記の申請に協力せよ」という請求権が認められている。

これを登記請求権という。

それでは登記がなければ対抗することができない「第三者」とは一体どのような者だろうか。

第三者といえば一般に「当事者以外の者」を広く指す。

しかし登記がなければ不動産物権変動を対抗できない「第三者」はもっと限定的にとらえられている。

すなわち177条の「第三者」は当事者(相続人などの包括的な承継人も含む)以外の者で不動産の物権変動につき登記がないことを主張する正当な利益を有する者であるとされている。

登記がなくても物権変動を対抗できる第三者には以下に示す者がいる。

[登記がなくて対抗できる第三者]
(1)無権利者
(2)不法占拠者または不法行為者
(3)詐欺や強迫によって登記申請を妨げた第三者または他人のために登記申請をする義務のある者
(4)前主と後主の関係にある者
(5)相続人
(6)背信的悪意者

無権利者とは何も権利を有していない者だ。

たとえば虚偽表示の相手方のように本来権利を有していないのに登記簿上の名義人になっている者や無効な登記がされた場合の登記名義人のような者をさす。

不法占拠者とは何らの正当な権限もなく他人の不動産を使用している者だ。

不法行為者は他人の家屋を勝手に壊すなどの行為をする者だ。

詐欺強迫によって登記申請を妨げた第三者または他人のために登記申請をする義務のある者については不動産登記法の規定がある。

たとえばAがBとCに自分の土地を二重に譲渡しBが登記の申請をしようとしたところCがBを欺いたり強迫したりしてBの登記申請を妨げている間にCが先に登記を得たとする。

この場合においてBは登記がなくても土地の所有権をCに対抗できる。

また不動産の登記の申請を依頼された者が自分の名義で登記をしてしまう背任行為は許されない。

したがって、この場合も真の権利者は登記がなくても不動産の所有権を対抗することができる。

土地がAからB、BからCへと順次に譲渡された場合にAとCとは前主後主の関係になる。

この場合にはAとCは所有権を争う関係になくAはBC間の物権変動を否定しても何ら権利を得られるわけではないのでCに登記がないことを主張する正当な利益を有しているとはいえない。

したがって、この場合のCはAに対して登記がなくても所有権を主張できる。

たとえば土地の売主Aが買主Bに登記を移転する前に死亡した場合に土地の買主Bが自己の所有権を売主Aの相続人Cに対抗できるかどうかが問題になる。

この場合に相続人は売主と同視でき当事者となるので第三者にはあらたない。

したがって先の例では買主Bは売主Aの相続人Cに対して登記がなくても土地の所有権を主張できる。

背信的悪意者とは単なる悪意ではなく第三者を害する目的をもって取引をした第三者をさす。

たとえばAがBに、その自宅を売り渡したがまだBは登記をしていない場合に、そのことをCが知りBを困らせるためだけの目的でAから二重譲渡を受け登記をしたときのCが背信的悪意者にあたる。

このような者に登記がないことを主張させると社会秩序に反することになるため背信的悪意者に対しては登記がなくても権利を主張できるとされている。

登記がなければ対抗できない第三者は(1)二重譲渡の譲受人(2)差押債権者などが該当する。

二重譲渡の譲受人とは、たとえばAがBに土地を譲渡したが登記をしていないところをAB間の契約の存在を知りながらCがより有利な条件で土地の売買契約を締結させ登記を先に得た場合などだ。

この場合の第二譲受人Cは悪意ではあるが対抗問題として処理され先に登記を備えたCが優先する。

差押債権者は単なる債権者でなく差押手続までしている債権者は、その不動産に対して強い利害関係をもっている。

たとえばAがBに自宅を売却した後、Aの債権者のCがAの自宅を差し押さえ場合にBは登記がなければ自分が買い受けたことを差押債権者Cに主張できない。

177条の規定は、すべての物権変動に登記を必要としている。

具体的に(1)取消しと登記(2)契約の解除と登記(3)相続と登記(4)取得時効と登記の4つの場面をみてみる。

制限行為能力や詐欺または強迫によって意思表示をした者は後に意思表示を取り消すことができる。

意思表示が取り消される場合に、これに利害関係を有する第三者が登場することがる。

この第三者と取消しの効果との関係を第三者が登場した時期によって分け、まとめると以下に示す通りだ。

[取消しと登記]
取消しの第三者
制限行為能力)(強迫
すべての第三者に取消しを対抗可能(民法121条)
詐欺
悪意の第三者にのみ取消しを対抗可能(民法96条3項)
取消しの第三者
制限行為能力)(強迫)(詐欺
対抗問題(民法177条)→登記を先に備えた者が優先する。

たとえばAが自己所有の建物をBに売却しBは更にCへ転売した後にBの売買代金不払い(債務不履行)を理由にAがAB間の売買契約を解除したとする。

Aが解除を理由として登記を取り戻す前に第三者Cが先にその建物の登記を備えた場合にはAとCのどちらが保護されるだろうか。

解除前に第三者が登場した場合は解除によって第三者の権利を害すことはできない。(民法545条1項ただし書き)

ただし、この第三者が保護されるためには登記が必要となる。

上記の例だとCはAより先に登記を備えているのでCが建物の所有権を取得する。

これに対し解除後に第三者が登場した場合取消し後の第三者と同様に対抗問題として処理する。

つまり第三者Cと解除者Aの間の優劣は登記の先後で決まるのだ。

相続と登記の問題は(1)共同相続と登記(2)相続放棄と登記(3)遺産分割と登記の3つに分かれる。

Aが死亡しAの所有していた土地を相続人であるBとCの2人が相続した。

そして、この土地を共同相続人の1人であるCが単独で相続したようにして勝手に登記をし第三者Dに土地の全部を譲渡してしまったとする。

この場合、他の共同相続人であるBは登記なくして自分の持分を第三者Dに対抗することができる

先の共同相続の例でCが相続の放棄をしたので他の相続人Bが土地の所有権を単独で承継した。

しかしBが相続による登記をしないうちにCの法定相続分に対してCの債権者であるDが差押えをして登記を備えたとする。

この場合にBは不動産の所有権を差押債権者Dに対抗できないのだろうか。

相続の放棄をすると放棄をした者は最初から相続人とならなかったものとみなされる

したがってCの持分が存在することを理由としたDの差押えや差押えの登記は無効となる。

よって債権者Dは無権利者なので相続人Bは土地の所有権の全部を登記なくしてDに対抗することができる

Aが死亡しBとCが土地を共同相続した後、遺産分割の協議をした結果Bが単独所有することになったとする。

しかしBが遺産分割で単独所有となったことの登記をしないでいたところCがもともとの自己の持分をDに譲渡した場合においてDとBとは対抗関係になる。

つまり単独所有となったBより先にDがCの持分を取得した登記をすればCの持分の取得をBに対抗することができる

取得時効と登記の問題も時効完成前に第三者が登場するのか完成後の登場するのかで分けて考える。

A所有の土地をBが善意無過失で占有を始めたが時効完成前にAがその土地をCに譲渡しCに登記も移転したとする。

この場合において時効が完成した後Bが時効による所有権を取得をCに主張するためには登記が必要だろうか。

これが時効完成前の第三者と登記の問題だ。

またA所有の土地をBが善意無過失で占有し時効が完成したとする。

この時効完成後Aがその土地をDに譲渡した場合はBが時効による所有権の取得をDに対抗するためには登記が必要だろうか。

これが時効完成後の第三者と登記の問題だ。

これらの問題について判例は以下のようなルールで判断している。

[取得時効と登記]
当事者の関係
もとの所有者Aと時効取得者Bとは所有権を移転する売買契約の売主・買主と同様の関係 → 両者は物権変動の当事者としてBはAに登記なくして時効取得を対抗できる。
時効完成前の第三者との関係
時効完成前に所有者Aから不動産を譲り受けたCと時効取得者Bとの関係は売買契約の売主・買主の関係 → 両者は物権変動の当事者としてBはCに登記なくして時効取得を対抗できる。
時効完成後の第三者との関係
時効完成後に所有者Aから不動産を譲り受けたDは時効取得者Bと、お互い所有権の取得を争う対抗関係にある。 → BはDに対し登記なくしては時効取得を対抗できない。
※時効完成後、譲受人Dが登記をした時点から、さらにBが占有を継続すれば新たに時効が完成し時効取得者BはDに登記なくして時効取得を対抗できる。

④動産物権変動

動産の物権変動では「引渡し」が対抗要件となる。(民法178条)

たとえばカメラの売買契約においてはカメラ店から買主にカメラが手渡された時、対抗要件が備わったことになる。

対抗要件として認められる引渡しには(1)現実の引渡し(2)簡易の引渡し(3)占有改定(4)指図による占有移転の4つの方法が認められている。

現実の引渡しとは物理的に目的物の支配を移転することをさす。(民法182条1項)

たとえば時計店で時計を買い代金と引換えに手渡されることだ。

簡易の引渡しとは、すでに相手方が物理的に支配している物を相手方に渡すことをさす。(民法182条2項)

たとえば友人に時計を貸しており、その時計をそのまま友人に譲るようなケースだ。

占有改定とは譲渡人の下に物理的には物が置かれたままの状態で譲受人に引き渡すことをさす。(民法183条)

たとえば自分の使っている時計を友人に譲ったが同時に友人からその時計を借りて(使用貸借契約)そのまま自分自身が時計を持っているケースをさす。

指図による占有移転とは譲渡人が占有代理人に預けている物を預けたまま第三者に引き渡したことにすることをさす。(民法184条)

たとえばAがCに貸している時計をCに貸したままの状態でBに譲るケースをさす。

この場合はAがCに対し以後Bのために占有することを命じBがこれを了解すればBに占有が移転する。

動産は頻繁に取引の対象となるため動産を占有してる者が真の権利者でなければ誰も安心して取引できない。

そこで動産取引を安全に行えるよう即時取得の制度が民法で定められている。

即時取得とは動産取引に対する信頼を保護するため動産の占有者が無権利者であっても善意無過失でその者を権利者であると信じて取引をした者が動産の権利を取得できる制度をさす。(民法192条)

即時取得は相手方が権利者であると信じて取引をした者を保護する制度なので以下の各要件を満たさないと認められない。

[即時取得の要件]
客体
a.取引の客体が動産であること
取引行為
b.有効な取引行為があること 
c.無権利者や無権限者からの取引であること
占有者
d.平穏・公然・善意・無過失で占有を取得したこと 
e.取得者が占有を始めること

動産は日常ひんぱんに取引されるし真の権利者がこうむる不利益も不動産に比べると大きくないことから即時取得の対象となるのは動産に限られる

即時取得は動産取引の安全を確保するためのものだから有効な取引によって取得した者のみを保護するれば十分であるといえるからだ。

無権利者や無権限者は本来、他人とその動産を取引する権利をもってないからだ。

なお無権限者とは、たとえば動産の借主や預かり主をさす。

平穏・公然とは、おだやかに堂々と取得することをいう。

なお「平穏・公然・善意」については自分が占有をしていることにより推定される。(民法186条1項)

また「無過失」は前主である占有者が占有していたことにより推定される。(民法188条)

占有の取得方法には(1)現実の引渡し(2)簡易の引渡し(3)占有改定(4)指図による占有移転の4つの方法がある。

このうち占有改定だけは譲渡人の下に物理的に物が置かれたままの状態で譲受人に引き渡す方法なので占有の現れ方に変化が一切ない。

要するに外から見て占有が他人に移ったとは判断できない。

したがって占有改定による占有の取得方法だけは「取得者が占有を始める」とはいえず即時取得が認められない

[即時取得の効果と特則]
即時取得の効果
即時取得によって占有を開始した者は動産の所有権や質権といった権利を取得する
盗品または遺失物の特則
(1)占有を始めたその動産が盗品や遺失物であった場合は被害者または遺失者は盗難または遺失の時から2年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。(民法193条)(2)盗品または遺失物を善意で競売や一般の市場等で買い受け占有を開始した場合には被害者(または遺失者)は占有者が支払った代金を弁償しなければ、その物を回復することはできない。(民法194条)

3章 民法 レッスン6 さまざまな物権

占有権

①占有権とは

たとえば私たちは普段通勤や通学に使う定期券を自分が使う意思をもって所持している。

仮に他人の定期券を拾った者が警察に届けず違法に使ったとしても、その者も自分のため使う意思をもって所持していたことには変わりない。

このように占有とは自己のためにする意思をもって物を所持する状態をさす。

そして占有権とは占有(自己のためにする意思をもって物を所持)することで成立する権利をさす。(民法180条)

ただし物を所持するといっても物理的な意味で実際に携帯している必要はない。

代理人によって占有権を取得することもできる。(民法181条)

占有は、まず所有の意思があるかどうかによって2つに分かれる。

所有の意思をもってする占有を自主占有という。

たとえばAのように不動産の所有者は、その建物を自主占有しているといえるし物を盗んだ人もその盗んだ物を自主占有している。

これに対し所有の意思のない占有を他主占有という。

たとえばBのように物の貸借人や他人の物を預かっている者(受寄者)がこれにあたる。

次に占有は誰による占有かで2つに分かれる。

占有者本人が自ら物を所持する場合を自己占有をよぶ。(または直接占有

これに対し本人が代理人の占有を通じて取得する占有を代理占有と呼ぶ。(または間接占有

たとえばA自身もBを通じて甲を占有している。

したがって家の所有者である賃貸人は占有権を失うことはない

なお代理人によって占有をしている場合は、その代理権が消滅しただけでは代理人の占有権は消滅しない。(民法204条2項)

占有しているという事実状態は残っているからだ。

②占有権の効力

占有権を有する者は占有物から生じた利益を得ることがほか占有を他人に侵害された場合には廃除等を行うことができる。

善意の占有者は果実を収取する権利がある。(民法189条)

これに対し悪意の占有者は果実を収取する権利がなく収取した果実を返還するなどの義務を負う。(民法190条)

[果実収取権]
善意の占有者
占有物から生ずる果実の収取権あり
悪意の占有者
果実の返還義務あり。すでに消費したり過失により損傷したり収取を怠った果実の代価は償還する義務がある

たとえば知人から預かり自宅で保管していた絵画を無断で外に持ち出そうとしている者に対して「止めろ」と言えるのは当然のことだ。

このように占有が侵害された場合に、その占有の侵害の排除を請求する権利を占有訴権という。

占有訴権には(1)占有保全の訴え(2)占有保持の訴え(3)占有回収の訴えの3つがある。

占有保全の訴えとは占有を他人に侵害される恐れがある場合に予防または損害賠償の担保を請求することをさす。(民法199条)

占有保持の訴えとは占有を他人が妨害する場合に妨害を停止および損害賠償を請求することをさす。(民法198条)

占有回収の訴えとは占有を他人に奪われた場合に物の返還および損害賠償の請求することをさす。(民法200条)

所有権

①所有権とは

所有権とは法令の制限内で自由にその所有物の使用、収益および処分をする権利をさす。(民法206条)

たとえば自分が所有する土地は他人の干渉を受けず自由に使え他人に自由に売ることもできるのが原則だ。

ただし全く自由というわけではなく「法令の制限内」とう限界がある。

たとえば一定の地域にある土地には都市計画法などの法令により都市計画に適合した土地の使用が求められることが例として挙げられる。

また相隣関係に関する民法の規定も所有権を制限する規定の一つだ。

②相隣関係

土地が隣り合っていれば一方が改築工事を行ったり一方から他方に植木の枝が伸びたりして、それぞれの所有者の間に様々な関係が生じる。

このような隣接する土地の所有者相互の関係を相隣関係と呼ぶ。

民法には相隣関係を調整するための規定が定められている。(民法209条-238条)

土地の所有者は隣地との境界の近くで建物を構築し、または修繕するため必要な範囲内で隣地の使用を請求することができる。

ただし住家に立ち入るには隣人の承諾が必要だ。(民法209条1項)

他の土地に囲まれて公道に通じていない土地(袋地)の所有者は公道に出るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる

これを公道に至るための他の土地の通行権という。(民法210条)
通行する場所および方法は通行権を有する者のために必要であり、かつ他の土地のために損害が最も少ないものを選ぶ必要がある。(民法211条1項)

そして通行権を有する者は必要があるときは自分の費用をもって通路を開設することができる。(民法211条2項)

土地の所有者は隣地から水が自然に流れてくるのを防げてはならない。(民法214条)

水はけが悪いと地盤の崩壊など大災害の原因となりかねないため低地の所有者に水はけを妨害することを禁じている。

民法は隣地から竹木の枝や根が境界線を越えて自己の土地に出ている場合の処理についても定めている。

隣地の竹木の「枝」が境界線を越えている場合、その竹木の所有者にその枝を切除させることができる。(民法233条1項)

隣地所有者の承諾を得ずして切り取ってはいけない。

これに対し竹木の「根」が境界線を越えている場合、自らその根を切り取ることができる。(民法233条2項)

つまり隣地所有者の承諾を得ずに切っても良い。

③遺失物および無主物の取扱い

遺失物は遺失物法の定めに従い公告をした後3か月以内にその所有者が判明しない場合は拾得した者がその所有権を取得する。(民法240条)

また所有者のない動産(無主物)は所有の意思をもって占有した者が所有権を取得する。

これに対し所有者のない不動産は国の財産つまり国庫に帰属する。(民法239条)

④共有

たとえば友人どうしで別荘を共同購入することになったとする。

この場合それぞれ共有物に対し、どのような権利を持つのだろうか。

共有とは一つの物を複数の人で所有することをさす。

共有における各共有者は共有の目的物に一定の割合で権利をもつ。

各共有者が目的物に対して有する権利の割合を持分とよぶ。

たとえばA、BおよびCの3人がそれぞれ1,000万円ずつ出し合って別荘を不動産業者Dから買った場合は通常は3分の1ずつ等しく持分を有すると推定される。(民法250条)

もちろん当事者間で異なる内容の合意をすれば、その合意の通りとなる。

この持分は各共有者の個別の権利なので各自が自由に処分することができる

各共有者は共有物の全部について、その持分の割合に応じた使用をすることができる。

たとえばAが持分の5分の3を有していたとしてもBおよびCは、その持分に応じて別荘全体を使える。

各共有者は共有物を保存し利用し改良し変更を加えることができる。

このうち利用行為および改良行為を管理行為という。

これらのうち保存行為だけはほかの共有者の利益にもなるので各共有者が単独で行うことができる。(民法251条、252条)

[共有物の管理]
保存行為
共有物の現状を維持する行為
)修理、不法占拠者への立退き請求
要件)各共有者が単独でできる
利用行為・改良行為(管理行為)
共有物を利用して収益を上げたり改良を加えたりする行為
)別荘の他人への賃貸、別荘へのエアコンの設置
要件持分の価格の過半数で決める
変更行為
共有物を物理的に変化させたり法律的に処分したりする行為
)別荘の増改築、別荘の売却
要件)共有者全員の同意で決める

各共有者は、その持分に応じて管理費用を負担する。(民法253条1項)

したがって持分割合の大きな共有者は他の共有者に比べて多くの管理費を負担する。

目的物を複数の者で所有する共有関係は単独所有に比べトラブルが起こりやすい。

そこで民法は原則としていつでも単独所有の状態に戻れるよう規定している。

つまり各共有者は、いつでも共有物の分割を請求できる。(民法256条1項)

ただし5年を超えない期間内分割をしないという特約(不分割特約)をすることができる。(民法256条1項但書)

持分はこれを自由に処分できるので持分を放棄することも可能だ。

また共有者が死亡することもある。

このように共有者の一人が持分を放棄したとき、また死亡して相続人がいないときは、その持分は他の共有者に帰属する。(民法255条)

用益物権

用益物権とは他人の物を利用することを内容とする物権をさす。

[用益物権の内容と具体例]
地上権
工作物または竹木を所有するため他人の土地を利用する物権
具体例)建物、トンネル、橋などを所有するため他人の土地を利用させてもらう場合
永小作権
耕作または牧畜を行うため他人の土地を利用する物権。小作料の支払いが要件
具体例)他人の土地で農業を行う場合
地役権
ある土地の利用価値を高めるため他人の土地を利用する物権
具体例)通行のための地役権、眺望のための地役権
入会権
一定の地域に居住する住民が団体として山林や用水等を支配する物権。共有のような持分権や分割請求はない
具体例)ある山林を一定の村落が林業に利用する

3章 民法 レッスン7 担保物権

担保物権総論

①担保物権とは

担保物権とは債権者が自らの債権の履行を確保するために債務者または第三者が所有する財産から優先的に債権の弁済を受けるできる権利をさす。

たとえば知人にお金を貸してほしいと言われた場合「期限が来たらちゃんと返してくれるだろうか」と不安に思うこともある。

そこで確実に貸金債権などの債権を回収する手段として担保の制度が設けられている。

担保には人による担保の方法(人的担保、保証など)と物による担保の方法(物的担保、担保物権など)がある。

どちらが担保として優れているかといえば担保物権のほうだとされている。

人的担保の典型である保証も、つまるところ債権だ。

債権者は債務者の財産がすべての債権者の債権総額に足りない時は自分の債権額に応じて比例配分された金額しか回収できない。(債権者平等の原則

つまり債権の種類、内容および発生時期にかかわりなく各債権者は原則として債権額に応じて按分された額の弁済しか受けることができない。

このような債権者平等の原則に対し債権者がとり得る手段として保証人(人的担保)を多くつける方法もあるが根本的な解決とはならない。

そこで債務者等の特定の財産から自己の債権を優先的に回収できる手段である物的担保が重要視される。

②担保物権の種類

物的担保には法律の規定によって当然に生ずる法定担保物権と当事者間の契約によって設定する約定担保物権がある。

法定担保物権には留置権先取特権がある。

約定担保物権には質権抵当権がある。

[担保物権の種類]
担保物権
   (法定担保物権)法律の規定によって当然に生ずる
      (留置権)
  (先取特権)
 (約定担保物権)当事者の契約によって設定される
      (質権)
  (抵当権)

③担保物権の通有性

各担保物権には共通の性質があり、これを通有性という。

付従性とは債権が成立して初めて担保物権も成立し債権が消滅すれば担保物権も消滅するという性質をいう。

たとえば金銭消費貸借契約が無効となり成立してないのに担保物権だけが成立することはない。

また弁済を受ければ債権は消滅するため担保物権も消滅する。

随伴性とは債権が他人に移転した場合に担保物権も伴って移転するという性質をさす。

担保が設定されている債権が譲渡されると、これに伴って担保物権も新債権者に移転する。

不可分性とは担保物権を有する者は債権全部の弁済を受けるまで目的物の全部の上にその権利を行使することができるという性質をさす。

たとえば不動産に担保物権の設定を受けて金銭を貸し付けた者は最後の1円の弁済を受けるまで、その不動産全部について担保物権を行使できる。

物上代位性とは担保目的物の売却、賃貸および滅失等により債務者が受ける売買代金、賃料および保険金等の金銭等に対しても担保物権を有する者は権利行使ができる、という性質をさす。

この物上代位性は留置権以外の担保物権に認められる。

物上代位を行使するためには金銭が債務者に払い渡される前に差押えをすることが必要だ。

④担保物権の効力

留置的効力とは担保の目的物を債権者の手元に留め置く効力のことだ。

目的物を債権者の手元に置くことで債務者の心理に圧力をかけ債務の弁済を促す。

たとえば修理をするため時計を預かっている時計店の店主は時計の所有者に「修理代金を支払わなければ、この時計を返しません」と言うことができるわけだ。

優先弁済的効力とは弁済がない時は担保の目的物を売り払って現金化し(換価)その代金から他の債権者に優先して弁済を受けられる効力をさす。

担保物権の通有性や効力は担保物権すべてに認められるわけではない。

たとえば物上代位性は優先弁済的効力のある担保物権にのみ認められる。

優先弁済的効力のある担保物権は担保目的そのものよりも、それを金銭に変えたときの価値を把握しているためだ。
留置権

留置権とは物を留置することで債権者が債務者に義務を果たすことを間接的に強制する担保物権をさす。

たとえばAがBの店舗に引取りに行っても、すぐに腕時計を返してはもらえない。

当然、修理代と引換えだ。

仮にAが修理代金を支払わず腕時計を受け取ろうとしてもBは「修理代金を支払わなければ腕時計は返しません」とAに言って返還を拒むことができる。

このように目的物の返還を拒絶して債務者の心理に圧迫を加え間接的に債務の弁済を促すのが留置権だ。

なお留置権を行使していても被担保債権の消滅時効は中断しない

留置権の行使は物の引渡しを拒絶するだけなので被担保債権そのものを行使しているとはいえないからだ。

先取特権

①先取特権とは

先取特権とは法律が定める特別な債権をもつ者が債務者の財産から法律上当然に優先弁済を受ける担保物権をさす。(民法303条-341条)

先取特権には物上代位性がある。

たとえば先取特権の目的となっている建物が火災に遭い火災保険金が支払われる場合は、これに先取特権を行使することができる。

ただし行使にあたって金銭等が支払われる前に差押えが必要だ。

②先取特権の種類

先取特権には一般の先取特権、動産の先取特権、不動産の先取特権がある。

一般の先取特権の例として会社の従業員の給料特権がある。

会社に未払いの給与がある場合には従業員は債務者である会社の総財産に先取特権を行使しほかの債権者に優先して弁済を受けることができる。

動産の先取特権とは債務者の特定の動産を目的とする先取特権だ。

たとえば売買契約で動産を売った者は売買代金や利息について売り渡し動産の上に先取特権を有する

動産の先取特権には(1)不動産の賃貸借(2)動産の保存(3)動産の売買などの種類がある。

たとえばアパートの貸主は借主が持ち込んだ動産の上に先取特権を行使できる。

つまり借主が家賃を滞納したら借主のパソコンを競売にかけ、その代金から滞納賃料を回収することができる。(担保物権の通有性の効力)

不動産の先取特権とは特定の不動産を目的とする先取特権だ。

(1)不動産保存の先取特権(建物の雨漏りの修理等)(2)不動産工事の先取特権(宅地造成工事等)(3)不動産売買の先取特権の3種類だ。

③各先取特権の優先関係

たとえばAはB電器店で液晶TVを購入しCから賃借して居住しているアパートに設置した。

Aは2か月分の家賃を滞納しており液晶TVの代金もまだ払ってないとする。

このように動産先取特権が2つ成立する場合は、どちらを優先するればよいだろうか。

民法には各優先特権の順位が定めてあり不動産の先取特権は動産の先取特権に優先すとされている。(民法330条1項)

したがって、この場合はCがBに優先する。

質権

①質権とは

質権とは債権の担保として受け取った目的物(質物)を留置して履行を間接的に強制し履行がなければ留置している目的物を競売に付し、その代価から優先的に債権を回収することができる担保物権をさす。(民法342条)

②質権の設定

質権の設定は質権者と質権設定者が設定契約を締結し質物を質権設定者が質権者に引き渡した時に効力が生じる。(要物契約)(民法344条)

民法の定める占有移転の方法のうち現実の引渡し簡易の引渡しおよび指図による占有移転は「引渡し」にあるが占有改定だけは「引渡し」にあたらない

占有改定の方法だと質物が質権設定者の手元に残るので質権者の下に質物を留置することができないためだ。

また外からみても質権の目的となっているとわからず公示の役割を果たさないからだ。(占有改定)

質権者は質権によって担保される債権(被担保債権)の債権者だ。

質権設定者は通常は債務者だが債務者以外の第三者があることもできる。(物上保証人

③質権の目的

質権の目的とすることができるのは譲り渡すことができる物だ。(民法343条)

たとえば偽造通貨などの禁制品は譲渡が禁止されているので質権の目的とすることはできない。

質権は、その目的とするものの違いにより以下の3種類が民法で定められている。

(1)動産を目的とする動産質(民法352条-355条)
(2)不動産を目的とする不動産質(民法356条-361条)
(3)債権などの権利を目的とする権利質(民法362条-366条)

④質権の効力

質権は設定契約によって質物とされ引渡しがあったものにその効力が及ぶ。

たとえば従物であっても主物と一緒に引渡されなければ質権の効力は及ばない。

質権によって担保されるのは被担保債権の元本、利息、違約金、損害賠償などだ。(民法346条)

また質権者は質権の弁済を受けるまで質物を留置することができる。(留置的効力)(民法347条)

さらに質権者は第三者からお金を借りる時に質物を担保にすることができる。(転質)(民法348条)

[質権の整理:動産質・不動産質・権利質]
動産質
成立要件合意+引渡し(要物契約)
目的)譲渡可能な動産
対抗要件占有の継続
不動産質
成立要件合意+引渡し(要物契約)
目的)土地・建物
対抗要件)登記
権利質
成立要件合意
(注)債権のうち譲渡するのに証書の交付を要するものに質権を設定する場合は証書の交付を要する。
目的)債権その他の権利
対抗要件債務者への通知または債務者の承諾

抵当権

①抵当権とは

抵当権とは占有を移転せずに債務の担保に入れた目的物を抵当権設定者(債務者または第三者)の下に残しつつ履行がなければ目的物を競売にかけ、その代価から優先的に債権を回収することができる担保物権をさす。(民法396条)

②抵当権の設定

抵当権は抵当権者と抵当権設定者の間で抵当権を設定する契約を締結することによって成立する。(諾成契約

抵当権者は抵当権によって担保される被担保債権の債権者だ。

抵当権設定者となるのは通常は債務者だが抵当目的物の所有者であれば債務者以外の第三者が抵当権設定者になることもできる。(物上保証人

抵当権は登記をしなければ第三者に対抗することができない。(民法177条)

③抵当権の目的物

抵当権の目的物として民法上(1)不動産(2)地上権(3)永小作権の3つを定めている。(民法369条)

不動産は土地と建物に分かれるが抵当権は土地と建物のそれぞれに別個に設定できる。

また同一の被担保債権のため同時に複数の抵当権を設定することができ、これを共同抵当という。(民法392条)

したがって建物とその敷地を所有する者は土地または建物の一方のみに抵当権を設定することも両方に抵当権を設定することもできる。

④抵当権の効力

抵当権は設定契約に別段の定めがない限り、その目的不動産に「付加して一体となっっている物(付加一体物)に及ぼす。(民法370条)

付加一体物とは不動産と経済的な意味で一体となり、その効用を高めるものいい(1)符合物および(2)従物(従たる権利)がその内容となる。

なお土地とその土地上の建物は別個の不動産だから土地に設定された抵当権の効力は、その土地上の建物には及ばない

動産が不動産に結合して独自性を失ったことを付合という。(民法242条)

独自性を失っているので付合した時期にかかわらず当然に付加一体物となり抵当権の効力が及ぶ。

従物は主物の効用を助けるために付属させた独立性のある物で原則として抵当権設定当時に存在した従物には抵当権の効力が及ぶ

[抵当権の効力の及ぶ物]
付加一体物)(付合物:一体化し独立性を失う 例:増築部分)
       (従物:一体化するが独立性は失わない 例:エアコン)

複数の権利の間に主物と従物のような関係が認められる場合がある。

この場合に従属する立場の権利を従たる権利という。

抵当権の効力は主物に従属する従たる権利に及ぶ。

具体的には借地上の建物に抵当権を設定した場合、建物の従たる権利である借地権にも抵当権の効力が及ぶ

元物の設定された抵当権の効力は原則として果実には及ばない

抵当権を設定した後も抵当権設定者に目的物を使用、収益する権利があるからだ。

しかし被担保債権について債務不履行があった場合、その後に生じた抵当不動産の果実(法定果実、天然果実を問わない)には抵当権の効力が及ぶ。(民法371条)

また地代や家賃などの法定果実については被担保債権が債務不履行となっていなくても物上代位を行使し地代や家賃が支払われる前に差押えをすれば抵当権の効力を及ぼすことができる。(民法372条)

抵当権の被担保債権は元本、利息、損害賠償まで含まれる。

ただし利息損害賠償については後順位抵当権者等がいる場合は満期が到来した最後の2年分のみが被担保債権の範囲とされる。(民法375条)

抵当権は複数の被担保債権のため一つの不動産に複数設定することができる。

その場合、各抵当権の順位は登記をした前後による。(民法373条)

抵当権は設定された順に一番抵当権(第一順位の抵当権)二番抵当権(第二順位の抵当権)などと呼ばれる。

たとえばAはB銀行から金銭を借り受けて自らが所有する甲土地に抵当権を設定し登記をした。

その後、土地の担保価値がまだ残っているのでC銀行からも金銭を借り受けて甲土地に抵当権を設定し登記をしたとする。

この場合、B銀行はC銀行より先の抵当権の登記をしているため一番抵当権者となる。

C銀行はB銀行の次に抵当権の登記をしているので二番抵当権者となる。

そして抵当権が実行された場合は、まずB銀行が上記の被担保債権の範囲まで配当を受け残余があればC銀行が同様の配当を受け取ることになる。
⑤物上代位

抵当権は抵当目的物を使用、収益はぜず、その交換価値のみを確保する担保物権だ。

そこで抵当物の売却、賃貸および滅失等により債務者が受ける売買代金、賃料および保険金等の金銭その他の物に対しても抵当権を行使することができる。(民法372条)

物上代位を行使するには抵当権者は払渡しまたは引渡しの前に差押えをしなければならない。(民法372条)

⑥抵当権と利用権の調整

抵当権が設定されても抵当権設定者は抵当不動産の所有者であり使用、収益および処分ができることに変わりはない

抵当権不動産が自宅なら、そのまま住むことができるし賃貸したり売却しても構わない。

ただ抵当権者を害さないように利用権との間で調整がなされることがある。

土地と建物は別々に抵当権の目的となる。

そのため抵当権の実行によって土地と建物の所有者が別々となってしまうことがある。

たとえば同一の人が所有している土地とその土地上の建物に抵当権が設定された後、建物に設定された抵当権のみが実行され競売で第三者が建物を買い受けたとする。

この場合に土地所有者が建物買受人に「建物を壊して土地から出ていけ」と主張したら土地の利用権のない建物買受人はその通りにするしかないのか。

それは土地と建物は別々に抵当権の目的物とできるとした民法の考え方に反する。

そこで建物所有者が建物を維持できるように法定地上権が成立するとされている。(民法388条)

法定地上権は以下の要件を満たす場合に成立する。

[法定地上権の成立要件]
(1)抵当権設定当時、土地の上に建物が存在すること
(2)抵当権設定当時、土地と建物の所有者が同一であること
(3)土地と建物の一方または両方に抵当権が設定されてること
(4)競売の結果、土地と建物がそれぞれ別人の所有となったこと

建物が構築されてない土地(一般に更地)に抵当権を設定し後に建物が構築された場合には法定地上権は成立するのだろうか。

この場合には「(1)抵当権設定当時、土地の上に建物が存在すること」に該当しないので法定地上権は成立しない。

抵当権者が更地と評価して抵当権の設定を受けたのに後から建てられた建物が法定地上権の成立により保護されるとなると抵当権者が不測の損害を被るからだ。

しかし法定地上権が成立しないからといって建物を取り壊してしまうのでは社会的な損失は発生する。

そこで更地に抵当権を設定し後に建物を構築した場合には土地と一括して建物も競売することが認められている。(民法389条1項)

ただし一括競売を行った場合でも抵当権者が優先弁済を受けられるのは土地の代価からのみだ。

なお抵当権設定者が構築した建物に限らず第三者が構築した建物であっても一括競売をすることができる

建物に抵当権が設定され登記を経た後に抵当権設定者がその建物を第三者に賃貸した場合には賃借人は賃貸借契約の期間の長短に関わらず抵当権者にその賃借権を対抗できないのが原則だ。

しかし抵当権が実行されたことにより建物賃借人が直ちに追い出されるのは酷だ。

そこで競売手続の開始前から建物を使用または収益していた者など(抵当権建物使用者)は競売における買受人の買受けの時から6か月を経過するまで、その建物を買受人に引渡すことを猶予してもらえる。(民法395条1項)

抵当権設定後の賃貸借は抵当権者に対抗できないのが原則だ。

しかし例外として登記した賃貸借は登記前に設定登記をした抵当権者のすべての同意がありかつ同意の登記がある時は同意をした抵当権者に対抗することができる。(同意の登記の制度)(民法387条1項)

抵当不動産を買った第三者は自分の権利をどのように守ることができるのだろう。

これについては代価弁済抵当権消滅請求という2つの制度が認められている。

代価弁済とは抵当権不動産について所有権または地上権を買い受けた第三者(第三取得者)が抵当権者の請求に応じ、その代価を弁済した時は抵当権はその第三取得者のため消滅する制度だ。(民法378条)

抵当権消滅請求とは抵当不動産について所有権を取得した第三者が自ら適当と判断した金額を抵当権者に支払って抵当権の消滅を請求する制度だ。(民法379条)

抵当権者は照明請求を受け入れるか、これを拒否して競売を申し立てるかいずれか選択することになる。

抵当権は目的物の交換価値を把握する担保物権だから抵当権者としては抵当権の目的物に損傷を加えたりするなど価値を下げる行為を看過できない。

そこで抵当権者には妨害排除請求権が認められている。

たとえば抵当権が設定された山林の立木が不当に伐採されたり抵当権が設置された土地や建物が不法占拠された場合に抵当権は伐木の搬出を禁止したり不法占拠者に明渡し請求したりできる。

⑦根抵当権

根抵当権とは一定の範囲に属する不特定の債権を極度額を限度として担保するため設定される抵当権をさす。(民法398条の2)

根抵当権は付従性の緩和された抵当権で被担保権の元本が確定するまでは被担保権の残高がゼロになっても消滅しない。

日々債権額が増減する継続的取引の当事者の間で用いられる。

たとえばA商店がB銀行から事業資金を借り受ける場合、A商店としては事業を続ける限り必要な時期に必要な金額の融資を複数回受けたいと思うでしょう。

このような時に根抵当権を利用するれば一旦借受金を弁済したとしても根抵当権は消滅しないので次の借受けの際にも担保として利用することができる。
極度額とは増減する不特定の債権を担保する限度額のことをさす。

根抵当権は、この極度額まで債権額を担保し極度額までは複数の債権を被担保債権とすることができる。

根抵当権は極度額を限度として元本のほか利息や違約金等のすべてを担保する。(民法398条の3第1項)

普通抵当権のように利息や損害賠償金については2年分とする限定はない。

増減変動する根抵当権の担保すべき元本を確定することを元本の確定という。

元本が確定すれば普通抵当権の性質に根抵当権は限りなく近づく。

しかし元本の確定前は普通抵当権に認められる担保権の通有性つまり付従性が認められない。

これらがあると増減する不特定の債権を担保できなくなってしまうからだ。

具体的には元本の確定前には被担保債権が弁済等によりすべて消滅しても根抵当権は消滅しない。(付従性なし

また被担保債権が譲渡されたとしても根抵当権は移転しない。(随伴性なし

[根抵当権と普通抵当権の比較]
付従性(被担保債権が弁済等で消滅すると担保権も消滅するか)】
元本確定前の根抵当権)消滅しない(付従性なし)
※ただし元本確定後は消滅する(付従性あり)
普通抵当権)消滅する(付従性あり)
随伴性(被担保債権が譲渡されると担保権も移転するか)】
元本確定前の根抵当権)移転しない(随伴性なし)
※ただし元本確定後は移転する(随伴性あり)
普通抵当権)移転する(随伴性あり)

非典型担保

非典型担保とは民法等に規定がなく判例等により認められた物的担保をさす。

譲渡担保、仮登記担保、所有権留保の3つが代表例だ。

[非典型担保の代表例]
譲渡担保
いったん債権者に担保目的物を譲渡し弁済が済めばこれを返還するという形をとる債券担保方式。債権者に担保目的物の所有権が譲渡される形をとるので民法が規定する担保物権より債権者にとって強力な物的担保といえる
仮登記担保
履行がないときに備えて代物弁済の予約等をする際、第三者にこれを対抗できるよう所有権移転の仮登記をしておく担保方法
所有権留保
不動産や高額の動産を分割で売買する際、代金の完済まで所有権を売主に留保する担保方法

3章 民法 レッスン8 債権・債務

債権・債務総論

①債権・債務とは

債権とは、ある人が特定の人に対して特定の行為を要求する権利をいう。

債務とは特定の行為を特定の人へなすべき義務をさす。

たとえば土地を売買した場合に買主は売主に対して土地を引渡債権を取得する半面、代金債務を負う。

債権は特定の人に対して同一内容の債権が多数併存することができる。

たとえば一つの不動産の売買契約を複数の人と締結することができる。

つまり債権には物権にある排他性が認められない

また債権は債務者の行為を通じて債権内容を実現する。

つまり物権にある直接性も認められない

さらに物権はすべての人に対して権利の主張ができる。

しかし債権は特定の人(債務者)に対してだけ権利の主張を認められている

[物権と債権の違い]
排他性
物権)〇:一つの物に対して同一内容の物権は併存できない
債権)×:同じ特定の人に対して同一内容の債権が多数併存することができる
直接性
物権)〇:物権を行使するとき他人の力を借りる必要がなく直接行使できる
債権)×:債務者の行為を通じて債権内容を実現する
絶対性
物権)〇:すべての人に対して権利の主張ができる
債権)×:債務者に対してだけ権利を主張できる

②債権の種類

債権は目的(給付の内容)によって以下に分けられる。

(1)特定物債権
(2)不特定物(種類物)債権
(3)選択債権
(4)金銭債権

特定物債権とは具体的な取引において当事者が目的物の個性に着目し、その物の引渡しを目的とする債権をさす。

たとえば中古の一戸建て住宅の売買契約における家屋の引渡請求権や中古車売買契約における車の引渡請求権などだ。

不特定物(種類物)債権とは当事者が物の個性に着目せず一定種類に属する一定数量の物の引渡しを目的とする債権をさす。(民法401条)

たとえば新車の売買契約における車の引渡請求権やビール1ケースの売買契約におけるビールの引渡請求権などだ。

このような不特定物(種類物)債権も最終的には特定をする。

たとえばビール1ケースの配達という債務は民法上、債権者の住所で履行すべき債務となる。(持参債務

よって債権者の自宅等の住所地でビール1ケースを差し出して債権者が受け取れるようにした時に特定される。

そして特約がない限り目的物が特定した時に所有権も債権者に移転する

選択債権とは数個の給付の中から選択によって債権の目的を決定する債権をさす。

たとえばAという馬とBという馬のうち、どちらか1頭を引渡すことを内容とする債権で契約の時点ではまだどちらにするか決まったない場合だ。

選択債権の場合どちらにするかの選択権は特約で選択権者を定めない限り債務者に属する。(民法406条)

また弁済期にある債権については選択権者が選択しない時は相手方に選択権が移る。(民法408条)

金銭債権とは一定の金銭の給付を目的とした債権をさす。(民法402条1項)

たとえば3000万円で不動産を売買する契約を結んだ場合、売主が買主に売買代金3000万円の支払いを請求する債権が金銭債権だ。

[各債権と履行不能との関係]
特定物債権
特定物が滅失するか他へ確定的に譲渡された場合に履行不能となる
不特定物債権
一定の種類に属する目的物が市場に存在する以上、履行不能とはならない
金銭債権
ない。履行延滞となるだけ

債権者平等の原則

①債権者平等の原則とは

債権者平等の原則とは債務者に複数の一般債権者が存在し債務の総額が資産額を超える場合に各債権者は債権額に応じて按分(比例配分)された額で配当を受けるとする原則をさす。

たとえば債務者AがBから400万円、Cから600万円を借りたとする。

ところがAの総資産が500万円しかない場合には債権者BおよびCは債権者平等の原則により債権額に応じて按分した配当が受けられる。

Bは200万円、Cは300万円しか債権を回収できない。

②債権者平等の原則と物的担保

このように債権者平等の原則によれば債権の発生時期や内容等に関係なく各債権者が平等に扱われる。

よって債権者としては全額の弁済を受けられない恐れが生じる。

そこで債権者として自分の債権を他の債権者に先んじて回収できる手段として抵当権などの物的担保を設定することが重要となる。

ちょっと一息

債権と債務というと一見何かお金にまつわる話に聞こえてしまいます。

実は違います。

一般の人の日常会話では権利と義務に置き換えて一向に構いません。

これを法律用語にしてしまって債権と債務と呼んでいるに過ぎません。

たとえば選挙権は成人の権利ですが、これを債権と置き換えて構いません。

実際に選挙では投票用紙と引換えに通知が有権者に届きます。

これを行使する(交換する)かしないかは本人の自由です。

一方納税も成人の義務です。

これも源泉徴収は別として納税通知書が対象者に届きます。

これもりっぱな債務です。

これを期限までに行使しないと督促の後、追徴課税されます。

法律の勉強をしているとこんな事は珍しくありません。

つまり何か高尚な印象を持たせたいか法律家の癖みたいなものです。

また、いろんな本を読み漁ってもなかなかこの実情を正直に話してくれません。

困ったもんです。

3章 民法 レッスン9 債務不履行

債務不履行総論

①債務不履行とは

債務不履行とは債務者が債務の履行を果たさないことをさす。

たとえばAは不動産業者Bとの間でAが所有する自宅を3,000万円でBに売却する契約を結んだ。

しかし約束の期日が来てもAはBに自宅を引き渡さなかった。

この場合、AとBとは互いに売買契約によって負担した義務を果たすことになる。

これを債務の履行という。

しかしAは自己の果たすべき債務を約束の期日に果たせなかった。

これが債務不履行履行延滞)だ。

このように債務不履行とは債務者の債務の趣旨(債務の本旨)にかなった履行をしないことをいい債務不履行によって債務者が負う責任を債務不履行責任という。

②債務不履行の種類

債務不履行には履行延滞履行不能および不完全履行の3つの態様がある。

履行延滞とは履行が可能であるにも関わらず履行期に債務者が履行をしないことをさす。

履行不能とは履行が不可能になったことをさす。

不完全履行とは債務者の果たした義務が契約の内容からみて不完全であることをさす。

[債務不履行は3種類]
債務延滞】(債務の履行が可能か)可能←履行が遅れているだけ
履行不能】(債務の履行が可能か)不可能
不完全履行】(債務の履行が可能か)可能な場合と不可能な場合がある

③債務不履行の効果

債務者が債務を履行しない時には債権者は、その債務の履行を債務者に請求することができる。

債務者が任意に履行しなければ債権者は裁判所に債務の内容の実現を請求することができる。(強制履行履行の強制)(民法414条)

債務不履行があると、このほかにも債権者に損害賠償請求権(民法415条)と解除権が発生する。

債務不履行の類型

①履行延滞

履行延滞と言えるためには(1)履行期に履行が可能であること(2)履行期に遅れたこと(3)履行期に遅れたことが違法であることが必要とされる。

特に重要なのが(2)と(3)だ。

契約で決めた履行期に遅れて債務を履行されたも、その債務の本旨に従った履行とはいえない。

具体的に遅れたこと(延滞)になる時期について以下の3つの期限の種類に応じて分けることができる。

[期限の種類と延滞となる時期](民法412条)
確定期限債務
(例)7月7日に引渡す
(延滞となる時期)期限の到来時
不確定期限付債務
(例)今度雨が降れば長靴を買ってあげる
(延滞となる時期)債務者が期限の到来を知った時
期限の定めのない債務
(例)引渡時期を定めず売買契約を締結した
(延滞となる時期)債務者が請求をした時

売買契約など当事者の債務の価値がつり合っている契約(双務契約)では、お互いに相手方が履行の義務を果たすまでは自分も履行義務を果たさないと主張できる権利をもっている。

お互いの債務の履行は歩調を合わせて行う方が公平だからだ。

この権利を同時履行の抗弁権という。

同時履行の抗弁権をもっている場合には債務を履行しなくても違法でないので履行延滞にはならない。

②履行不能

履行不能といえるためには(1)履行が不可能であること(2)履行不能が違法であることが必要だ。

このうち(1)履行が不可能であることという点については履行が不可能になった時期は契約成立時よりも後でなければならない。

契約成立時より前であるなら債務不履行の問題でなくなる。

また履行が不可能かどうかの判断は一般的の常識(社会通念)によって決定する。

先に学習した不動産物権変動の事例で考えてみる。

AはBとの間で自己の所有する甲土地を3,000万円で売却する契約を締結した。

その後、CからAに「甲土地をぜひ5,000万円で譲ってもらいたい」との申入れがありAはCとの間でも甲土地の売買契約を締結しCへの登記を移転した。

この場合ではCへの所有権移転登記をした時点でBと締結した土地の売買契約は履行不能となる。

物理的には売買目的物の甲土地は存在するが社会通念で考えればCへ確定的の所有権が移転したのだから履行不能なるのだ。

③不完全履行

不完全履行は、たとえば目的物の数量が不測していたり瑕疵があったりという不完全な履行があった場合だ。

不完全履行といえるためには(1)不完全な履行がなされること(2)不完全な履行のなされたことが違法であることが必要だ。

債務不履行の効果

①履行の強制

債務者が契約に従って債務を履行しない時に債権者は、その債権の内容を強制的に実現するよう裁判所に請求することができる。(民法414条1項本文)

履行の強制の方法には直接強制代替執行および間接強制の3つがある。

なお芸術作品を創作する債務など履行を強制できない債務もある。

また履行の強制により債権の内容を強制的に実現しても、なお債権者に損害が生じている場合は債権者は、その賠償を請求できる。(民法414条4項)

[履行の強制の種類]
直接強制
意味)債務者の意思に関わらず国家権力により債権の内容を直接に実現する方法
対象となる債務)金銭の支払い、物の引渡しなど「与える債務
具体例)・売買代金債務→買主の財産を差し押さえて競売し売却代金から配当を得る
・売買目的物の引渡債務→執行官が売主から売買の目的物を取り上げ買主に引き渡す
代替執行
意味)債務者の費用で債務者以外の者に、その行為を代わってさせ債権の内容を実現する方法
対象となる債務)債務者の一定の行為を目的とする「為す債務」のうち他人が代わりに行えるもの
具体例)・自動車を修理する債務→債務者以外の修理業者に自動車を修理させ、その費用を債務者に請求する
・一定の土地に建物を建築しない債務→建築業者に約定違反の建物を取り壊させ、その費用を債務者に請求する
間接強制
意味)一定の期間内に債務を履行しなければ一定の金額を債権者に支払うよう債務者に命じ債務者への心理的強制を通じて債権の内容を実現する方法
対象となる債務)金銭債務(養育費など扶養義務に係る定期金等の債務を除く)以外の債務
具体例)・親権者が離婚した元配偶者を子と面接させる義務→これに違反した場合、親権者は違反1回につき5万円を元配偶者に支払う
・建物を暴力団の事務所として使用してはならないとする義務→これに違反する状況が継続する場合、債務者は違反1日につき100万円を債権者に支払う

②損害賠償請求

債務不履行に基づく損害賠償請求の要件は「債務不履行の事実があること」「債務者に帰責事由があること」および「債務不履行と因果関係のある損害が発生していること」の3つだ。

このうち「債務不履行の事実があること」については債務不履行の種類ごとに述べた通りであり、ここでは残り2つの要件について述べる。

債務者の帰責事由とは債務者の非難されるべき原因をさす。

具体的には債務者が履行が可能であるにも関わらず「わざと履行しない故意)」場合や債務者の立場にある一般的な者に要求される注意を払わず「不注意で履行しない過失)」場合に債務者に帰責事由がある。

たとえばビアノ店Aの従業員Bは顧客Cの自宅へピアノを搬入する時に誤ってC宅の玄関にピアノをぶつけ傷つけてしまった場合だ。

さらに債務者に代わって履行を行う者が別にいる場合は、その者(履行補助者)の故意または過失についても債務者は自分自身の故意または過失として責任を負う。

たとえば先の例の場合は従業員Bの過失はピアノ店Aの過失と同視される。

なお債務者の故意または過失の存在の存否が問題となった場合に債権者と債務者のどちらかがその証明をする必要があるのだろうか。

これについては債務者の方で自分の故意または過失がなかったと証明する責任(立証責任または証明責任)がある

なぜならば債務者はもともと債務の本旨に従って履行をするべき責任を負っているからだ。

債務者の方で敢えて自分は履行しないことについて悪くないと主張したいのなら自分でその根拠(故意または過失がなかった)を示すからだ。

損害とは債務不履行により債権者が被る財産上の不利益をさす。

損害は財産に対して加えられる財産的損害と、それ以外の非財産的損害に分かれる。

また財産的損害は現に有する財産が減少する積極的損害と本来なら取得できたはずの財産を取得し損ねる消極的損害に分かれる。

履行が遅れことで発生した損害について債権者は債務者に対して賠償請求ができる。

この場合の損害は遅延したことで被った損害だから遅延損害という。

履行が不能になったことで発生した損害について債権者は債務者に対して賠償を請求できる。

この場合の損害は本来の履行に代わる損害の賠償となるので填補賠償という。

不完全履行の効果は(1)完全に義務を果たすこと(追完)が可能である場合と(2)完全に義務を果たすことが不可能な場合とに分かれる。

たとえば大量生産される食品や文房具などの引渡債務において数量が不足していた場合には不足分を追って履行させて義務を完成させることが可能だ。

したがって追完可能な場合には改めて債務の完全な履行を請求することができる。

これを追完請求権という。

追完請求権を行使しても債務者が追完しなかったらどうなるか。

その場合には履行延滞に準じて考える。

つまり債権者は債務者に遅延賠償を請求することができる。

たとえばペットショップで犬を飼ったところペトショップの不注意が原因で引渡しの前に犬が病気で引渡し後すぐ死亡したような場合が考えられる。

この場合は履行不能に準じて債権者は債務者に填補賠償を請求できる。

損害賠償は別段の意思表示がないときは金銭をもってその金額を定める。(金銭賠償の原則)(民法417条)

つまり債務不履行の結果、現在の債権者の財産的な状況と債務不履行がなかったとしたら現在あっただろう財産的な状況との差額を金銭に評価して損害賠償請求するのが原則だ。

債務不履行があった場合、損害賠償請求が債権者から債務者側に対し認められるが、その損害賠償請求が認められるのどこまでの範囲だろうか。

たとえばAはBに自宅を3,000万円で売却した。

しかしAは自己が果たすべき「自宅の引渡責務」を約束の引渡日すぁる3月31日に果たさなかったとする。

このケースはAの履行遅延に当たる。

Bが一家を連れて今まで住んでいた借家を引き払い3月31日に引越してきたにも関わらずAの一家がまだ引越しを終えておらず引渡しまでにBは3日間のホテル住まいを余儀なくされたとする。

この場合はBはホテルの宿泊費3日分が出費となってしまい、その原因はAの引越しが遅延したことにあるのは明白だ。

したがってBはAに対してホテルの宿泊費用などAの履行延滞から生じた損害のうち通常生ずると考えられる損害の賠償を請求することができる。

このように債務不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害に賠償をさせることが目的だ。(民法416条1項)

ただし特別の事情によって生じた損害であって当事者がその事情を予見し、または予見することができた時は債権者は、その賠償を請求できる。(民法416条2項)

[損害賠償の範囲]
原則
通常損害
債務不履行によって通常生ずるべき損害の賠償を請求できる
例外
特別損害
債務者が特別の事情を予見し、または予見することができた時は債権者は、その特別な事情から生じた損害の賠償を請求できる

損害賠償の額を算定するにあたって、いつの時点を基準として算定するか問題となるが判例は原則として債務不履行時が基準となる。

履行延滞の場合は履行期が債務不履行時となる。

これに対し履行不能の場合は履行不能時が債務不履行時となる。

ただし例外として目的物の価格が上昇している場合、不履行不能時に債務者が価格上昇の事実を知り得た時は騰貴した現在の価格で算定することも認められている。

なお上昇前に他に処分したと予想される場合には処分予定時を基準に算定することになる。

損害賠償額の予定とは債務不履行があった場合に債務者が賠償するべき金額を予め当事者間の契約で定めておくことをさす。(民法420条1項前段)

損害賠償額の予定をした効果は債権者は債務不履行の事実さえ証明できれば損害発生や損害額を証明する必要がなく予定した賠償額が請求できる。

また相手方が予定賠償額に不満をもって裁判所に訴え出たとしても裁判所としては予定額を増減することはできない。(民法420条1項後段)

当事者間の意思で決定したことだからだ。

なお違約金の定めは損害賠償額の予定と推定される。(民法420条3項)

過失相殺とは債務不履行に関して債権者にも過失があった時は裁判所はこれを考慮して損害賠償の責任および額を定めることをさす。(民法418条)

債権者側の過失も考慮することで当事者間の公平を図っている。

裁判所は損害賠償の責任および額について必ず判断しなければならない。

その結果、賠償額を軽くするだけでなく事情によって賠償責任自体を全部否定することも可能だ。

たとえば代金債務や貸金債務のように金銭を目的とする債務については損害賠償の請求がたやすくできるように特則が定められている。(民法419条)

金銭はあらゆる財産の価値を表現し、また強い融通性をもっている。

また、あまねく国内に流通しており決済手段の代表だ。

したがって金銭債務を確実に履行させないと債権者が受領した金銭をまた自分の債権者の弁済に充てるということの流れを止めてしまいかねない。

そのようなことのないよう金銭債務の不履行に関して特則を定めて履行の確実性が高められている。

[要件委関する特則]
金銭債務の不履行の種類
履行不能はなく履行延滞のみ認められる
不可抗力
不可抗力によることを証明できても責任は免除されない
損害の証明
債権者は損害の証明をすることなく損害賠償を請求することができる

[効果に関する特則]
原則
損害賠償を請求できる金額は法定利率(年5%)により計算される
例外
当事者間で遅延賠償の予定を定めている場合には、その予定に従う

③解除

解除とは契約成立後、一方の当事者から意思表示によって契約をはじめからなかった状態に戻すことをさす。(民法541条、543条)

いくら待っても債務者が履行してくれないければ債権者は契約を解除をすることができる。

ただし履行期を過ぎればいつでも解除できる訳ではない。

履行延滞があった場合、債務者に相当の期間を定めて履行の催告をして、その期間内に履行がないときに債権者は契約の解除ができる

[解除をするまでの流れ:自宅の売買契約のケース]
(1)自分が負っている債務について弁済の提供をする
(例)買主が履行時期に代金を売主宅へ持参する
↓(債務者である売主が自宅を引渡さない)
(2)相当の期間を定めて履行の催告をする
(例)7月8日までに履行して下さい
↓(相当の期間が経過)
(3)期間内に履行がなければ解除ができる
(例)期間内に履行がなかったので解除します

履行不能の場合のも契約の解除ができるが履行遅滞の場合とは要件が異なる。

すなわち債務の履行は不可能なため催告は無意味であり債務者に履行の催告をすることなく債権者はただちに解除ができる。

不完全履行については損害賠償と同様、追完が可能である場合には履行遅滞に準じて考え解除をするにあたって債務者に履行を催告をする必要がある

これに対し追完が不可能である場合には履行不能に準じて考え債務者に履行を催告をする必要はない

[不完全履行の整理]
処理の方法
追完が可)履行遅滞に準ずる
追完が不可)履行不能に準ずる
追完請求権
追完が可)あり
追完が不可)なし
解除の場合の催告
追完が可)必要
追完が不可)不要

[債務不履行の3形態とそれぞれの要件および効果]
履行遅滞
意味
履行が可能であるにも関わらず履行期に債務者が履行しない
成立要件
(1)履行期に履行が可能である
(2)履行期に遅れた
(3)債務者に帰責事由がある
(4)履行期に遅れたことが違法である
効果
(1)履行の強制が可能
(2)損害賠償請求権が発生
(3)解除権の発生(催告が必要
履行不能
意味
履行が不可能になった
成立要件
(1)履行が不可能である
(2)債務者に帰責事由がある
(3)履行不能が違法である
効果
(1)損害賠償請求権が発生
(2)解除権が発生(催告は不要
不完全履行
意味
債務者の果たした義務が契約の内容からみて不完全である
成立要件
(1)不完全な履行がなされた
(2)債務者に帰責事由がある
(3)不完全な履行のなされたことが違法である
効果
追完可能
(1)追完請求権の発生
(2)損害賠償請求権の発生
(3)解除権の発生(催告が必要
追完不可能
(1)損害賠償請求権の発生
(2)解除権の発生(催告が不要

受領延滞

①受領延滞とは

受領延滞とは債務の弁済にあたって受領など債権者の協力が必要な場合に債務者が債務の本旨に従った弁済の提供をしたのに債権者が協力してくれず履行ができない状態になったことだ。(債権者延滞)(民法413条)

②受領延滞の要件

(1)債務者が債務の本旨に従った弁済の提供をすること
(2)債権者が弁済の提供の受領を拒絶し、あるいは受領不能の状態になること

③受領延滞の主な効果

(1)債務者は債務不履行の責任を負わない
(2)債務者は供託により債務を免れることができる
(3)債権者は同時履行の抗弁権を失う

3章 民法 レッスン10 債権者代位権・詐害行為取消権

責任財産の保全

①責任財産とは

責任財産とは強制執行の対象となる財産をさす。

債権は債権者から債務者に対して一定の行為を請求する権利だ。

たとえば金銭の消費貸借契約を締結した場合、履行期日に借主が元本等を弁済して始めて債権者は満足する。

ところが債務者が債務を履行しなければ債権者にとっては、その債権も経済的な価値がないのと一緒だ。

そこで債務者が任意に債務を弁済しない場合には債務者の財産に対して差押えをし裁判所の助力を得て換価の手続(強制執行)をし、そこから債権の回収を図ることになる。

②責任財産の保全

さて強制執行をする前提として債務者の責任財産が存在しなければならない。

債務者が責任財産がなくなる状態(無資力)になれば強制執行は空振りに終わってしまう。

そこで債務者の責任財産を確保するための手段として債権者代位権詐害行為取消権の制度が用意されている。

債権者代位権

①債権者代位権とは

債権者代位権とは債務者が自らの有する債権などの財産権を行使しない場合に債権者がその債権を保全するために債務者に代わってその権利を行使して債務者の責任財産の維持および充実を図る制度をさす。(民法423条)

たとえばAはBに200万円の売買代金債権を有しており他方、BはCに200万円の貸金債権を有している。

この貸金債権がBにとって唯一の財産であるがBが権利を行使しないまま、まもなくの消滅時効期間が経過しようとしているとする。

この場合にBが自分の貸金債権を行使せずに放置している場合、Aは手をこまねいているしかないのだろうか。

Bが権利行使をしないで放置しておくと消滅時効が完成してCに援用されてしまいBが債権を失ってしまうことが考えられる。

そこでAとしては裁判上の請求等により時効を中断させたいところでありAは債権者代位権を行使することにより、これを実現することができる。

債権者代位権は債権者が「自己の名をもって債務者の権利を代位行使する。

あくまで自己の名で行うのであって代理人として行使するのではない

②債権者代位権の要件

債権者代位権は債権者にとって便利な権利だが無条件に行使することができるわけではない。

無条件に債権者代位権の行使を認めてしまうと債務者の財産管理の自由に対する不当な干渉になってしまう恐れがあるからだ。

そこで債権者と債務者の利益調整を図る観点から債権者代位権が成立するためには以下の3つの要件が必要であるとされている。

(1)債権者が自己の債権を保全する必要があること(無資力要件)
(2)債務者が自らその有する権利を行使しないこと
(3)債権が原則として弁済期に達していること

債権者が保全しようとする債権(被保全債権)は原則として金銭債権であることが必要だ。

これに加えて金銭債権の場合には債務者が無資力であることが要件となる。

ただし例外的に本来の目的から離れて違う目的に使うことが認められる場合には(転用)金銭債権以外の債権を保全するためでもよく無資力であるという要件も不要だ。

転用の例としては以下の2つのケースが考えられる。

ケース2

建物賃借人Aは建物賃借権を保全するために建物の所有者である建物賃貸人Bに代位して不法占拠者Cに対し自分に直接建物を明け渡すよう請求した。

ケース3

甲土地がAからB、BからCへと順次に譲渡されたが、いまだに登記はAのもとにありBはAに対して登記を移転するよう請求しない。

CはBに対して有する登記請求権を保全するためBに代位してAに対しBに登記を移転するよう請求した。

権利の行使はあくまで債務者が行うべきだから債務者がすでに自ら権利の行使をしている場合には、その権利行使が不適切であったとしても債権者は債権代位権を行使できない

債権者が原則として弁済期に達しているという要件には以下の2つの例外がある。

(1)裁判上の代位(裁判所を通じて行うこと)の場合と(2)保存行為としての代位の場合だ。(民法423条2項)

具体例としては不動産で未登記の権利について代位として登記する場合や代位債権が消滅時効になりそうなので時効の中断をしておく場合がある。

③債権者代位権の効果

債権者代位権の行使によって以下の効果が生じる。

[債権者代位権の効果]
【①債務者がその権利につき処分権を失う
債務者は自己が有する債権について債権譲渡などできなくなる。
【②時効の中断
債務者の第三者に対する債権の時効は中断する。しかし債権者の債務者に対する被保全債権は時効中断しない。
【③代位権行使の効果の帰属
効果は債務者に直接帰属する。
代位の対象が物の引渡請求権の場合→受領拒絶の恐れがあるため債権者は直接自己へ引渡し請求することができる。
代位の対象が金銭債権の場合→代位債権者は債務者に対する受け取った金銭の返還債務と自己の債務者に対する債権とを相殺することで事実上優先弁済を受けることができる。

詐害行為取消権

①詐害行為取消権とは

詐害行為取消権とは債務者が債権者を害することを知って法律行為をした場合に、その法律行為の取消しを債権者が裁判所に請求できる制度を指す。(民法424条)

ケース4

AはBに対して1,000万円の売買代金債権を有している。

BはAを害する行為であることを知りながら唯一の財産である自分の土地を第三者Cに贈与してしまった。

本来、債権者Aが権利行使するあたって責任財産となるのは債務者Bの財産だけだ。

すでに第三者Cへ譲渡された財産に関しては債権者Aは一切、強制執行ができないはずだ。

これでは強制執行されそうになった債務者が自己の財産を第三者にすべて贈与してしまうと事実上、容易に強制執行を免れることができてしまう。

そこで、このような場合に債権者が債務者に対して有する債権(被保全債権)を保全するために債務者と第三者(受益者)との間で行われた法律行為を債権者が取り消すことができる制度が定められている。

これが詐害行為取消権だ。

ケース4の場合、債権者Aは自分の債務者Bに対する売買代金債権を保全するために債務者Bと第三者Cとの間で行われた土地の贈与契約を取り消すことができる。

②詐害行為取消権の要件

詐害行為取消権は債務者がいったん行った契約などの法律行為を取り消す権利だ。

ただ、この権利行使を容易に認めると債務者の財産管理の自由を制限することになる。

したがって債権者を債務者の利益の調整を図る趣旨から民法は一定の要件を満たす場合に限り詐害行為取消権を行使できるとしている。

以下(1)客観的要件と(2)主観的要件の2つに分けて説明する。

客観的要件は更に4つの要件に分かれる。

(1)債務者の無資力
(2)債務者が債権者を害する法律行為をしたこと
(3)被保全債権が金銭債権であること
(4)被保全債権が詐害行為の前に成立したこと

[詐害行為取消権の客観的要件]
【①債務者の無資力
債務者に対する不当な干渉とならないようにするため債務者が無資力であることが必要とされる
【②債務者が債権者を害する法律行為をしたこと
対象とする行為は債務者のした法律行為であって財産権を目的とするものに限られる(民法424条2項)詐害行為取消権はあくまで責任財産の保全を目的としており、たとえば相続の承認または放棄など身分行為の取消しまで認めてしまうと債務者の人格的な自由まで不当に侵害することになるから
【③被保全債権が金銭債権であること
詐害行為取消権はあくまでも責任財産保全の制度であり被保全債権は強制執行される金銭が分配されることで満足する債権でなければならない
【④被保全債権が詐害行為の前に成立したこと
詐害工取消権は特定の金銭債権を保全することを目的としているため詐害行為が発生した後に発生した債権では、その詐害行為により債権が害されたとはいえない

なお②債務者が債権者を害する法律行為をしたことの要件に関連して離婚に伴う財産の分与について判例は財産分与が法律の趣旨に反して不相応に過大であり財産分与に仮託してなされた財産分与であると認められるような特段の事情のない限り詐害行為とはならないとした。(最判H12.3.9)

主観的要件には「債務者および受益者(転得者も含む)が詐害の事実を知っていること」および「詐害する意思を債務者と受益者の両方が有していること」が必要だ。

詐害行為取消権では取消しの対象となる法律行為に相手方(受益者、ケース4のおけるC)がいるので受益者のことも考慮しなければならない。

したがって債務者の財産管理の自由を保障するとともに受益者または転得者の取引の安全に対する配慮も必要になってくる。

そのため債務者および受益者(転得者)が債権者を害することを知らないで行為をした場合には当該行為を詐害行為として取消すことはできないとされている。

逆に言えば債務者および受益者(転得者)が債権者を害することを知りながら敢えて行為をした時は債権者としては詐害行為取消権を行使することができる。

③詐害行為取消権の行使

詐害行為取消権は必ず裁判を起こし、その手続の中で行使しなければならない。(民法424条1項)

取引の安全に与える影響が大きいので裁判所に請求して取消権を行使させるようにしたのだ。

詐害行為取消権の行使によって取消すことができるのは原則として詐害行為当時の被保全債権の債権額までとなる。

取消権者が損害を受ける限度でのみ取消しを認めるべきだからだ。

ただし例外として詐害行為の目的物が不可分の場合であれば債権額を超えて全部について取消すことができる。

詐害行為取消権の行使期間については取引の安全を考えて特に短い消滅時効が定められている。(民法426条)

[詐害行為取消権の行使期間の制限]
【債権者が取消原因を知った時から
期間2年間行使しないとき
効果)取消権が消滅する
詐害行為の時から
期間20年経過したとき
効果)取消権が消滅する

④詐害行為取消権の効果

詐害行為取消権の効果は、すべての債権者の利益のために生じる。(民法425条)

つまり詐害行為により債務者の責任財産から一旦外れた財産は詐害行為取消権の行使により債務者の責任財産の中に戻り総債権者の共同の担保財産となる。

詐害行為取消権は総債権者のために責任財産を保全する制度だから取消権を行使した債権者が優先弁済権を主張することはできない。

しかし動産や金銭については債務者が受領を拒絶する恐れがある。

そこで債権者は、これらの動産や金銭を受益者に対し直接自己に引き渡すよう請求することが認められる。

その上で債権者は債務者に対する受け取った金銭の返還債務と自分がもつ債務者への債権を相殺することで事実上、優先弁済を受けることができるのだ。

3章 民法 レッスン11 多数当事者の債権・債務

多数当事者の債権・債務の概要

①多数当事者の債権・債務とは

多数当事者の債権・債務とは債権者が2名以上いたり債務者が2名以上いたりする場合など当事者が3名以上の多数となる債権債務関係をいう。

②多数当事者の債権・債務の種類

多数当事者の債権・債務には以下の5種類がある。

[多数当事者の債権・債務の種類]
分割債権・分割債務
各債権者および債務者がそれぞれ等しい割合で権利を有し義務を負担する場合における債権・債務のこと。民法は別段の意思表示がないときは多数当事者の債権・債務は分割債権・分割債務となるとしている。(民法427条)
不可分債権・不可分債務
債権・債務がその性質または当事者の意思表示により分割できないものである場合において各債権者および債務者が他のすべての債権者および債務者のために履行をし、または債務を負担する場合における債権・債務のこと。
連帯債務
数人の債務者が同一の内容の給付について各自が独立して全部の給付をなすべき債務を負担し、そのうちの1人の給付があれば他の債務者の債務も消滅する場合における債務のこと。
不真正連帯債務
連帯債務のうち債務者の1人に生じた事由が他の連帯債務者には影響を及ぼさないもののこと。連帯債務と異なり連帯債務者間に密接な関係はない。
保証債務
主たる債務者がその債務の履行をしない場合に保証人がその債務を代わって履行する責任を負う場合における保証人の債務のこと。

連帯債務

①連帯債務とは

連帯債務とは数人の債務者が同一の内容の給付について各自が独立に全部の給付をなすべき債務を負担し、そのうちの1人の給付があればすべての債務者の債務が消滅するという多数当事者の債務をいう。

ケース1

AはB、CおよびDの3人に所有する別荘を3,000万円で売却することとした。

B、CおよびDは売買代金についてAに対し連帯債務をすることとした。

ケース1においてAはB、CまたはDのいずれに対しても3,000万円全額を請求することができる。

仮にB、CまたはDのAに対する債務が分割債務であればAはB、CおよびDに対して、それぞれ1,000万円ずつしか請求できない。

債権者にとっては分割債務より連帯債務のほうが有利だといえる。

ただし連帯債務の場合であってもAが弁済を受けることができる上限は勿論3,000万円だ。

②連帯債務の効果

債権者は連帯債務者のなかから任意に1人または数人を選んで、あるいは全員に対して給付の全部または一部を請求することができる。

ケース1の例でいえばAはBのみに3,000万円を請求することもBとCに1,500万円ずつ請求することもB、CおよびDの全員3,000万円を請求することもでる。

請求にあたっては債権者は数人に同時に請求するか順番に請求していくかについても自由に決めることができる。(民法432条)

本来、債務は債務者各人が個別独立に負担するものだ。

したがって原則として連帯債務者の1人について生じた事由は他の債務者に影響を与えない。(民法440条)

このように連帯債務者の1人について生じた事由の効力が他の連帯債務者に影響を及ぼさないことを相対的効力(相対効)とよぶことがある。

しかし連帯債務は契約などに基づいて複数の債務が関連づけられていることも確かだ。

そこで民法は債権の効力を強めたり債務者相互の関係を簡単にするため連帯債務者の1人について一定の事由が生じた場合に例外的に他の連帯債務者に影響を与えることを定めた

これを絶対的効力(絶対効)という。

絶対効が認められる事由として(1)弁済(2)代物弁済(3)供託(4)相殺(5)更改(6)請求(7)混同(8)免除(9)時効がある。

これらのうち(1)弁済(5)更改(6)請求(8)免除についてケース1の事例を使って説明する。

弁済
BがAに3,000万円の弁済をすると他の連帯債務者C、Dの債務も消滅する。
更改
AがBとの間で別荘の代金3,000万円を支払う代わりにBがB所有の3,000万円相当の宝石を引き渡す債務を負う旨の更改契約を締結した場合は他の連帯債務者C、Dも連帯債務を免れる。(民法435条)
請求
AがBに対し別荘代金の支払いを請求すれば請求による消滅時効の中断などの効果はBのみならず他の連帯債務者C、Dにも及ぶ。(民法434条)
免除
AがBに対して債務を免除した場合は他の連帯債務者C、DはBの負担部分についてのみ債務を免れる。(民法437条)

保証債務

①保証債務とその成立要件

ケース2

AがBに1,000万円を貸し付けるにあたりCがBの保証人となった。

保証債務とは主たる債務者がその債務の履行をしない場合に主たる債務者に代わって保証人が履行する債務をさす。(民法446条1項)

保証債務は債権者と保証人の間で保証契約を締結することにより成立する。

主たる債務者は保証債務の成立に関与しない

たとえばケース2の場合は保証契約の当事者はAとCでありBは保証契約の当事者とはならない。

また保証契約は書面でしなければ効力が生じない。(民法446条2項)

契約の内容を明確にし慎重な対応を促す趣旨だ。

②保証債務の性質

保証債務は主たる債務者が弁済しない場合に責任を負うという、あくまでも二次的な債務だ。

そこで保証債務には付従性随伴性および補充性という性質が認められる。

付従性
(1)主たる債務が存在しなければ保証債務は成立せず
(2)保証債務は主たる債務より重くはならず(民法448条)
(3)主たる債務が消滅すれば保証債務も消滅するという性質
随伴性
主たる債務が債務譲渡等によって第三者に移転した場合に保証債務も一緒に移転するという性質
補充性
保証債務は主たる債務が履行されないときにはじめて履行されるべき二次的な債務であるという性質。この補充性を具体化した権利として催告の抗弁権(民法452条)と検索の抗弁権(民法453条)がある。

[補充性を具体化した権利]
催告の抗弁権
債権者が主たる債務者に請求をせずに保証人に請求してきた場合に、まず主たる債務者に請求するように債権者に求めることができる権利
検索の抗弁権
債権者が保証債務の履行を請求してきた場合に執行が容易な財産が債務者にあることを債権者に証明して、まずその財産について執行をするよう債権者に求めることができる権利

③保証債務の範囲

保証債務の範囲には主たる債務の他に主たる債務に関する利息違約金損害賠償債務などが含まれる。(民法447条1項)

ケース2の場合はAは主たる債務者であるBが返済をしない場合に保証人Cに対し保証債務の履行を請求することができる。

Bが負う主たる債務に利息や違約金等が定められている場合はAはCに利息や違約金等の支払いも請求することができる。

なお債権者と保証人の合意により保証債務についてのみ違約金または損害賠償額を定めることができる。(民法447条2項)

保証債務の履行を確実にするためだ。

たとえばケース2でBが負う主たる債務に違約金等の定めがなくてもAC間の合意で保証債務にのみ違約金等を定めることができる。

④保証債務の効力

保証債務を負担した後、主たる債務者にある事由が生じた場合に保証人は影響を受けるだろうか。

また、その逆に保証人に生じた事由が主たる債務者に影響するだろうか。

主たる債務者に生じた事由の効力は原則としてすべて保証人に及ぶ。(絶対的効力

これは保証債務の付従性から導かれる。

主たる債務者の弁済や相殺などにより主たる債務が消滅すれば保証債務もまた消滅する。

また請求などにより主たる債務の消滅時効が中断されれば保証債務の消滅時効も中断する。(民法457条1項)

例外として(1)保証契約後に主たる債務が増額等により重くなっても保証債務は重くはならない(2)主たる債務の消滅時効が完成した場合に主たる債務者が時効の利益を放棄しても保証人は時効を援用できる。(相対的効力)

保証人について生じた事由の効力は原則として主たる債務者に及ばない。(相対的効力

例外として主たる債務を消滅させる行為の効力は当然主たる債務者に影響を及ぼす。

たとえば弁済、代物弁済、相殺および更改などがこの例外にあたる。

⑤連帯保証

連帯保証とは保証人が主たる債務者と連帯して保証債務を負担する場合をさす。

連帯保証には以下の特徴がある。

(1)補充性が認められないため連帯保証人には催告の抗弁権と検索の抗弁権がない。(民法454条)→連帯保証人は債権者から保証債務の履行を請求された場合には、ただちにこれを履行しなければならない。
(2)主たる債務を消滅させる弁済や代物弁済などのほか請求および混同についても主たる債務者に効力が及ぶ。(民法458条)
(3)連帯保証人には後述する分別の利益がないため複数の連帯保証人がいても主債務の全額を保証しなければならない

つまり連帯保証人は通常の保証人よりも重い主たる債務者と同様に責任を負う。

⑥共同保証

ケース3

AがBに1,000万円を貸し付けるにあたりCおよびDがBの保証人となった。

共同保証とは同一の主たる債務について複数の者が保証する場合をさす。

共同保証の場合に各保証人は原則として主たる債務の額を保証人の数で分割した額についてのみ保証債務を負担する。(民法456条)

これを分別の利益とよぶ。

たとえばケース3でCおよびDは、それぞれ500万円の保証債務を負う。

分別の利益は債権者と保証人との間の特約で排除することもできる。

特約により分別の利益を排除した保証を保証連帯という。

なお連帯保証人は分別の利益を有さない。

つまりケース3が保証連帯であった場合はCとDには分別の利益が認められないためAはBが主たる債務を履行しない時はCおよびDに、それぞれ1,000万円の支払いを請求することができる。

⑦根保証

根保証とは一定の期間、継続的に発生する主たる債務を保証することをさす。

根保証には金融機関との継続的な融資の契約等によって生ずる不特定の債務を保証する信用保証や労働契約で労働者が使用者に負担する損害賠償責務を保証する身元保証がある。

信用保証のうち保証人が個人である根保証契約で主たる債務の範囲に貸金等の債務が含まれるものを貸金等根保証契約という。

貸金等根保証契約については保証人が過大な責任を負わされないよう民法に以下のような特則が設けられている。

極度額の設定
貸金等根保証契約は極度額を定めなければその効力を生じない。(民法456条の2第2項)
元本確定期日の制限
貸金等根保証契約において元本確定期日を定める場合は契約締結の日から5年以内の日としなければならない。(民法465条の3第1項)
元本確定事由
(1)元本確定期日の定めがない場合において契約締結の日から3年が経過した時
(2)債権者が主たる債務者または保証人の財産につき強制執行または担保権の実行を申し立て手続が開始された時
(3)主たる債務者または保証人が破産手続開始の決定を受けた時
(4)主たる債務者または保証人が死亡した時(民法465条の3第2項、465条の4)

3章 民法 レッスン12 債権譲渡

債権譲渡の概要

①債権譲渡とは

債権譲渡とは債権者が債務者に対して有する債権を他人に移転する契約をさす。(民法466条)

契約だから債権者である譲渡人と、この債権を買う譲受人との間の合意がなれば債権譲渡は有効に成立する。

ケース1

AはBに対して1,000万円の貸金債権を有しており、その弁済期は1年後である。

Aは来月までに資金が必要となったためBに対する貸金債権をCへ譲り渡した。

②債権の譲渡性

債権は財産的な価値のある権利だから原則として不動産や貴金属などの動産と同じように取り扱うことができる。

債権者は弁済期まで待って弁済を受ける他、その債権を譲渡して債権取得のために投じた資本を回収することができる。

つまり債権は自由に譲渡できるのが民法の原則だ。

前記の通り債権は自由に譲渡できるのが原則だ。

しかし以下の場合には債権の譲渡が制限される。

債権の性質による制限
債権者が変わることにより義務や権利の内容が変わる場合には債権を譲渡することができない。たとえば会社が労働者に対して働くよう請求する権利がこれにあたる。(民法466条1項但書)
譲渡禁止の特約による制限
契約当事者の意思表示(特約)による譲渡の制限として譲渡禁止特約が認められている。(民法466条2項本文)譲渡禁止の特約に違反した債権譲渡は原則として無効であり譲渡の効力は生じない。
法律による制限
法律による譲渡が禁止されている場合の例として子が親に養ってもらう扶養請求権がある。(民法881条)

債権譲渡の対抗要件

①債務者に対する対抗要件

債権者が特定している債権を指名債権という。

ここでは一般的である指名債権の譲渡の対抗要件を説明する。

債権が譲渡された場合の債務者に対する対抗要件は債権者から債務者への通知または債務者の承諾だ。(民法467条1項)

債権譲渡の通知は債権が譲渡された事実を知らせる行為であり譲渡人である債権者から債務者に対してなされる

譲受人からの通知は対抗要件とならない

たとえばケース1においては譲渡人であるAが債務者Bに貸金債権をCに譲渡した旨を通知することとなる。

譲渡人は代理人に債権譲渡の通知をさせることができる

よって譲受人が譲渡人の代理となって債権譲渡の通知をすることはできる。

承諾は債務者が債権譲渡の事実を認識した旨の表明であり、その相手方は譲渡人または譲受人のいずれでも構わない

たとえばケース1においてはBが譲渡人Aか譲受人Cの、いずれかにAからCへの債権譲渡を承諾することとなる。

②異議をとどめない承諾

ケース2

AはBに対して1,000万円の貸金申請を有しておりBはそのうち500万円を弁済した。

その後AはBに対して有する貸金債権をCへ1,000万円で譲り渡した。

異議をどどめない承諾とは債務者が債権譲渡を無条件で承諾することだ。

本来、債務者は債権が譲渡されても譲渡人に対抗できる事由があるときは譲受人に対してもそれを対抗することができる。(民法468条2項)

しかし債務者が異議をとどめないで債権譲渡を承諾した場合は譲受人に対抗できる事由があっても譲受人に対しては対抗することができなくなる。(民法468条1項前段)

たとえばケース2においてAC間の債権譲渡についてBがCに異議をとどめないで承諾した場合はBはCに一部弁済を対抗できず1,000万円を弁済しなければならない。

なお、この場合に債務者は譲渡人に払い渡したものがある時は、これを取り戻すことができ(民法468条1項後段)BはAに支払った500万円を取り戻すことができる。

譲受人に対抗できる事由には一部弁済の他に債務の不成立、無効、取消しや同時履行の抗弁権が挙げられる。

③債権の二重譲渡(債務者以外の第三者に対する対抗要件)

債権の二重譲渡とは、たとえば譲渡人が譲受人に債権を移転させる契約をした後に別の譲受人に同じ債権を移転させる契約をする場合だ。

ケース3

AはBに対して有する500万円の売掛金債権をCへ譲渡した。

その後AはDにも、この売掛金債権を二重に譲渡した。

まず二重譲渡における譲受人どうしは互いに「第三者」なので譲受人は対抗要件を具備しなければ債権の譲受けを他の譲受人に対抗することができない。

この場合の債権譲渡の対抗要件は確定日付のある証書による債務者への通知または確定日付のある証書による債務者の承諾だ。(民法467条2項)

たとえばケース3でAがDへの債権譲渡についてのみ確定日付のある証書によりBに通知しBがAからCへの債権譲渡を承諾してない場合はDがCに優先し売掛金債権の譲受人となる。

確定日付
当事者が後で変更することができない確定した日付をさす。内容証明郵便の郵便記載の日付や公正証書における日付がその例だ。

次に第一譲受人と第二譲受人の両方が対抗要件を具備することもあり得る。

この場合には譲受人間の優劣は以下のように決まる。

[譲受人間の優劣を決する基準時]
確定日付のある証書による通知
通知が到達した日時
確定日付のある証書による承諾
承諾の日時

たとえばケース3でAがCおよびDへの債権譲渡を、それぞれ確定日付のある証書によりBに通知しCへの譲渡の通知は確定日付が4月1日でBもとに4月5日に到達したとする。

これに対しDへの譲渡の通知は確定日付が4月2日でBのもとに4月3日に到達したとする。

この場合は債権が譲渡された日時も債権譲渡通知に付された確定日付の日時もCの方が先だがBのもとへ先に先に到達したのはDへの債権譲渡通知だからDがCに優先し売掛金債権の譲受人となる。

ここで注意すべきは確定日付のある証書による通知が到達した日時が早いかそうかで優劣が決まる点だ。

つまり確定日付がいくら早くとも債務者に到達するのが遅ければ債権の譲受人になれないのだ。

3章 民法 レッスン13 債権の消滅

学習のポイント
債権は、その目的が実現された場合のほか目的の実現が不可能になり、または目的を実現させる必要がなくなった場合に消滅する。
弁済は①弁済する者 ②弁済を受領する者 ③弁済の内容 ④弁済の期日 ⑤弁済の場所 ⑥弁済の方法がそれぞれ要件を満たす場合に認められる。
債権者と債務者とが相互に同種類の債権を有し、両債権が相殺敵状にあれば一方的な意思表示でその債権を対当額で消滅させることができる。

債権の消滅の概要

債権の目的である給付内容が実現されると債権は消滅する。

このほか目的が実出来ないことが確定した場合も債権は消滅する。

また目的の消滅以外にも以下に示す原因により債権は消滅する。

[債権の消滅原因]
目的の消滅による場合
 《目的の実現による消滅》
   弁済:債務者が債務の目的である給付内容を債務の本旨に従って実現する行為
   代物弁済:本来の給付とは異なる他の給付を現実にすることによって債権を消滅させる債権者と債務者との間の契約
   供託:債務者が弁済すべき物を債権者のために供託所に寄託して債務を消滅させる行為
 《目的の実現不能による消滅》
         債務者の責めに帰することのできない事由により履行が不可能となった場合
目的の消滅以外の原因による場合
 《目的の実現が不必要となったことによる消滅》
   相殺:債権者と債務者とが相互に同種類の債権を有する場合に、それらを対当額において消滅させる一方的な意思表示
         更改:債権の要素を変更することによって新債権を成立させるとともに旧債権を消滅させる契約
         免除:債権を無償で消滅させる債権者の一方的な意思表示
         混同:同一の債権について債権者の地位と債務者の地位が同一人に帰属すること
 《一般的な権利の消滅事由》
   取消し解除消滅時効の援用 等

弁済

①弁済とは

ケース1
AはBに1,000万円を貸し付けた。

Bは約定の返済日に借入金の全額を弁済した。

弁済とは債務者が債務の目的である給付内容を債務の本旨に従って実現する行為をさす。

たとえばケース1のようにAがBに金銭を貸し付け返済期日にBがAに全額を弁済すればAの貸金債権は消滅する。

債務の本旨とは当事者間の契約内容等から定まる債務の本来の趣旨をさす。

②弁済の要件

弁済の効力が認められるためには以下に示す一定の要件を満たさなければならない。

(1)弁済をする者

債務を弁済するのは通常は債務者および弁済の権限を有する者だ。

ただし債権者としては弁済さえなされれば弁済する者が誰であっても良いという場合もある。

また債務者以外の第三者が債務者に代わって弁済したいと考えることもある。

そのため民法は原則として第三者が弁済することを認めている。(民法474条1項本文)

これを第三者の弁済という。

ただし以下の場合には第三者の弁済はできない

1)債務の内容が債務者自身でなければ目的を実現することができないものである場合
2)当事者が反対の意思表示をした場合
3)利害関係を有しない第三者が弁済する場合に、その弁済が債務者の意思に反する時

(2)弁済を受領する者

弁済を受領することができるのは原則として債権者だ。

しかし債権者ではない者にした弁済が有効とされる場合がある。(→ ⑤債権の準占有者に対する弁済)

(3)弁済の内容

弁済の内容は、まず当事者間の契約の趣旨により定まる。

なお譲渡につき行為能力の制限を受けた所有者(制限行為能力者つまり未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人)が弁済として物を引き渡した場合は、その弁済を取り消すことができる

ただし、その物を取り戻すには、さらに有効な弁済をしなければならない。(民法476条)

同様に他人の物を弁済として引き渡した者も、さらに有効な弁済をしなければ、その物を取り戻せない。(民法475条)

(4)弁済の期日

弁済の期日は通常、契約や法律の規定により定まる。

これらによって定まらない場合は一般の取引慣行や信義則に従って定めることとなる。

(5)弁済の場所

弁済をどこでなすべきかは通常、当事者間の契約で定められ、それに従うこととなる。

契約に定めがなければ以下のように民法の定めに従う。(民法484条)

ケース2
Aは中古車販売店Bで中古車を150万円で購入した。

特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所で行うこととされている。

したがって債権者がその場所まで目的物を受け取りに行くことになる。

このような債務を取立債務という。

たとえばケース2ではAB間に特に定めがなければAがBの店に行って中古車を引き渡してもらうことになる。

ケース3
Cは酒店Dにビール1ケースを注文した。

特定物の引渡債務以外の債務については債権者の現時の住所で弁済することとなる。

このような債務を持参債務という。

たとえばケース3ではCD間に特に定めがなければDはCの現時の住所までビールを配達することとなる。

[契約に定めがない場合の弁済の場所]
特定物の引渡し
債権発生の時にその物が存在した場所
上記以外の債務
債権者の現時の住所

(6)弁済の方法

債権の目的が特定物の引渡しである時は債務者は引渡しをするまで善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。(民法400条)

③弁済の効果

弁済がなされると債権は目的を達成して消滅する。

また第三者の弁済があった場合は、この第三者からの債務者への求償権を確保するため債権者が債務者に対して有していた担保権などの権利が弁済をした第三者に移転することがある。

これを弁済による代位という。

たとえばAがBに5,000万円を貸し付けるにあたりBが所有する甲土地に抵当権の設定を受けるとともにCをBの保証人としていた場合にCがAに弁済をすればAが設定を受けた抵当権がCに移転する。

弁済による代位には法定代位(民法500条)と任意代位(民法499条)の2種類がある。

④弁済の提供

弁済の提供とは債務者が給付を実現するために必要な準備をして債権者の協力を求めることをいう。

弁済の提供は原則として債務の本旨に従って現実の提供であることが必要だが一定の場合には口頭の提供で足りる。(民法493条)

現実の提供とは債権者が目的物を受け取る以外に何もする必要がないほどの提供をすることだ。

たとえばケース3でDの債務が持参債務である場合においてDがC宅へビール1ケースを届けCの目の前に差し出すことがあたる。

口頭の提供とは債務者が実現の提供をするのに必要な準備を完了して債権者に受領するよう催告することをさす。

債権者が予め目的物の受領を拒んでいる時または債務の履行について債権者の行為が必要な時は現実の提供は必要なく口頭の提供で足りる

「債務の履行について債権者の行為が必要」な例として取立債務の場合があげられる。

たとえばケース2でBの債務が取立債務である場合にBは中古車を引き渡す準備をしてAに来店を促す連絡をすれば口頭の提供がなされたことになる。

債務者は弁済の提供の時から債務の不履行によって生ずる一切の責任を免れる。(民法492条)

具体的には以下に示す通りだ。

[弁済の提供の効果]
(1)債務不履行を理由とする損害賠償責任を負わない。
(2)双務契約において同時履行の抗弁権を失わせる。
(3)債権者が年債を受けない場合または受けることができない場合には債権者は受領遅滞となる。

受領遅滞とは債務の履行に債権者の協力が必要な場合に債務者が弁済の提供をしているにも関わらず債権者が受領を拒否したり受領が不可能だったりすることだ。

⑤債権の準占有者に対する弁済

ケース4
AはB銀行に普通預金口座を開設していたところAの子CがAに無断で預金通帳と銀行印を持ち出しB銀行の窓口で預金の払戻しを請求した。

B銀行の窓口担当者はこれに応じCにA名義の預金の払戻しをした。

債権の準占有者に対する弁済とは債権者ではないが債権者らしい外観をしている者(準占有者)に弁済することだ。(民法478条)

たとえばケース4でCの請求に応じてB銀行が行ったA名義の預金の払戻しがこれにあたる。

債権の準占有者に弁済をしたものが弁済時に善意であり、かつ過失がなかった時は弁済は有効となる。

その結果、債務は消滅し債務者は債務を免れる。

たとえばケース4でB銀行は預金通帳と銀行印の呈示を受けてCに預金を払い戻しておりB銀行は善意無過失で弁済したといえるので預金の払戻しは有効となりB銀行はAから払戻しの請求を受けても二重払いをしなくてよい。

⑥供託

供託とは債務者が弁済すべき物を債権者のために供託所に寄託して債務を免れる行為のことだ。(民法494条)

債務者は(1)債権者が弁済を受領を拒み、または受領が不能な場合または(2)弁済者が過失なく債権者を確知できない場合に供託をして債務を消滅させることができる。

たとえばアパートの貸主が一方的に家賃の増額を主張し従来の額の家賃の受取りを拒否した場合に借主は従来の額の家賃を供託所に供託し債務を免れることができる。

⑦代物弁済

代物弁済とは本来の給付とは異なる他の給付を現実にすることによって本来の債権を消滅させる債権者と弁済者間の契約のことだ。(民法482条)

たとえばAがBに100万円の貸金債権を有している場合に、その返済に代えてB所有の自動車をAに引き渡し旨の契約をAとBとの間でしBがAに自動車を引き渡せばAの貸金債権は消滅する。

代物弁済は(1)実存する債権について(2)本来の給付に代えて(3)本来の給付とは異なる他の給付を実現に行い(4)債権者がこれらを承諾している時に弁済と同一の効力すなわち債権の消滅が認められる。

相殺

①相殺とは

ケース5
AがBに対して100万円の売買代金債権を有し、他方、BはAに対して100万円の貸金債権を有している。

相殺とは債権者と債務者とが相互に同種類の債権を有する場合に、その債権を相対額において消滅させる一方的な意思表示をいう。(民法505条)

たとえばケース5ではBがAに対し適法に相殺を行えば双方の債権が消滅する。

相殺は当事者に一方から相手方に対する意思表示によって行う。(民法506条1項)

相手方の同意や承諾は不要だ。

なお当事者間の法律関係が不安定となるため相殺の意思表示に条件をつけることができない。

また相殺には遡及効があるため期限をつけることもできない。(民法506条)

相殺を行うと対立する債権債務は相殺敵状が生じた時に遡って消滅する。(相殺の遡及効)(民法506条2項)

②相殺の要件

相殺は(1)当事者間の債権が相殺敵状にあり(2)相殺が禁止されてない場合に行うことができる。

(1)当事者間の債権が相殺敵状であること
債権が対立していること
2人が互いに債権を持ち合う
双方の債権が同種の目的をもつこと
同種の目的とは双方の債権がともに金銭債権である場合などをいう。目的が同種であれば良いので債権の履行期や履行地が同一であることは必要ない
自働債権が弁済期にあること
民法の条文では双方の債権が弁済期にあることが要求されているが自働債権さえ弁済期にあれば受働債権の弁済期はまだ到来していなくても期限の利益を放棄して相殺することができる

たとえばケース5でAの有する売買代金債権の弁済期は10月10日、他方、Bの有する貸金債権の弁済期は7月7日であった場合にBは自働債権の弁済期である7月7日を過ぎれば10月10日まで待つことなく相殺を行うことができる。
債務の性質が相殺を許すこと
たとえば自働債権に同時履行の抗弁金や保証人の催告・検索の抗弁権などがついている場合に相殺は許される。

(2)相殺が禁止されてないこと

ケース6
AはBに対して100万円の貸金債権を有していたところAの過失が原因で起きた交通事故でBを負傷させBに80万円の損害をこうむらせた。

相殺は(1)当事者間の特約(相殺禁止特約)や(2)法律の規定によって禁止されている場合がある。

たとえば不法行為によって生じた債権を受働債権とする相殺は被害者に現実の救済を受けさせるべきであること、また不法行為の誘発を防止することを理由に禁止されている。(民法509条)

ケース6の場合にAはBに貸金債権を有しているが、その後Bを負傷させ損害賠償債務を負担している。

したがってAは不法行為に基づく損害賠償請求権を受働債権として相殺を行うことはできない。

これに対し被害者であるBのほうから行う相殺、すなわち不法行為に基づく損害賠償請求権を自働債権として行う相殺はゆるされる。

さらに民法上、不法行為によって生じた債権のほか差押禁止債権(民法510条)や支払い差止めを受けた債権(民法511条)を受働債権とする相殺も禁止されている。

3章 民法 レッスン14 契約総論

学習のポイント
契約は申込みの意思表示と承諾の意思表示とが合致することによって成立する。
双務契約においては相手方がその債務の履行を提供しない場合に同時履行の抗弁権を行使して自己の債務を拒むことができる。
契約が締結された後も一定の事由がある場合には当事者の一方の解除の意思表示により、その契約をはじめから存在しなかったと同様の状態に戻すことができる。

契約の概要

①契約とは

契約とは2個以上の意思表示の合致した法律行為で法的拘束力が生ずるものをいう。

複数の者の意思が合致する点で契約は約束と似ている。

たとえば私たちは友人と映画を観に行くことを約束することがある。

しかし約束を破った場合に道義的に非難されることはあっても、その内容を強制的に実現させることはない。

これに対し契約を破ると裁判所の力を使って、その内容が強制的に実現される。

つまり契約は履行をしなかった場合に法的責任を問われる点で約束と異なる

②契約の種類

そもそも誰とどのような内容の契約を結ぶかは原則として自由に決めることがでる。(契約自由の原則

民法は典型的な契約として以下の13種類を定めている。

これらを典型契約有名契約)という。

もちろん契約の締結にあたっては、これらに縛られず、これらの複合的な性質を有する契約とするなど自由に契約内容を定めることができる。

典型契約にあたらない契約を非典型契約無名契約)という。

[典型契約]
移転型の契約(所有権の移転)
贈与(民法549条)売買(民法555条)交換(民法586条)
貸借型の契約(利用権の契約)
消費貸借(民法587条)使用貸借(民法593条)賃貸借(民法601条)
労務提供型の契約
雇用(民法623条)請負(民法632条)委任(民法643条)寄託(民法657条)
その他の契約
組合(民法667条)終身定期金(民法689条)和解(民法695条)

双務契約とは当事者双方が対価的な債務を負担する契約のことだ。

片務契約とは当事者の一方のみ債務を負担する契約をさす。

有償契約とは当事者双方が対価的な経済的価値を支出する契約のことだ。

無償契約とは当事者の一方のみが経済的価値を支出する契約をさす。

諾成契約とは当事者の合意のみで成立する契約のことだ。

要物契約とは合意のほか物の引渡し等がなければ成立しない契約をさす。

契約の成立

①契約の成立要件

ケース1
地主Aは不動産業者Bに自己の所有する甲土地を3,000万円で売りたいと申し込んだところBはこれを承諾した。

契約は申込みの意思表示と承諾の意思表示が合致することによって成立する

たとえばケース1では甲土地の売買にについてAの申込みの意思表示に対しBが承諾の意思表示をしているためAB間に甲土地の売買契約が成立する。

なお契約が成立するためには意思表示の合致の他にも、その前提として契約を行う契約当事者と契約の対象となる目的物とが必要だ。

[契約の成立要件]
申込みの意思表示と承諾の意思表示との合致
※前提
(1)契約当事者が存在すること。
(2)契約の目的物が存在すること。

当事者が対面して、または電話で話していれば意思表示の発信と到達はほぼ同時だ。

しかし離れた場所にいる者が手紙で意思表示をするような場合に発信と到着の間に時間的間隔が生じる。

民法上このような隔地者間の意思表示は相手方に到着した時から効力を生じる。(民法97条1項)

ただし隔地者間で契約をする場合は承諾の通知を発した時に契約が成立するとされる。(発信主義)(民法526条1項)

申込みがなされると申込みをした者は勝手にこれを撤回することができない。

これを申込みの拘束力という。

具体的には、まず承諾の期間を定めないで隔地者に対してした申込みは申込者が承諾を受けるのに相当な期間を経過するまで撤回することが出来ない。(民法524条)

また承諾の期間を定めて隔地者に対して申込みをした場合は、その期間内は申込みを撤回することができない。(民法521条)

なお承諾者が申込みに条件を付すなど変更を加えてこれを承諾した場合には、その申込みの拒絶とともに新たな申込みをされたものとみなされる。(民法528条)

②契約成立の効果

(1)契約の拘束力が生じ当事者の一方の意思だけでは原則として契約を解消することができない。
(2)当事者の一方が債務不履行の場合は、その相手方は強制執行手続をとることができる。
(3)当事者の一方が損害を与えた場合には、その相手方は損害賠償請求解除ができる。

契約の効力

双務契約において当事者の債務は対価的な相互依存の関係に立っている。

たとえば売買契約において代金を支払ってもらうからこそ商品を引き渡すというように一方の債務と他方の債務が強く結ばれた関係になっているのだ。

このような関係を牽連性という。

この牽連性は(1)成立上の牽連性(2)履行上の牽連性(3)存続上の牽連性に分けて考えることができる。

成立上の牽連性
双務契約において一方の債務がもともと不能(原始的不能)で成立していなければ他方も成立しないこと。
履行上の牽連性
双務契約において一方の債務が励行されない間は原則として他方も履行しなくてよいこと。
存続上の牽連性
双務契約において一方の債務が債務者の責めに帰することができない事由により消滅した場合は原則として他方も消滅すること。

①同時履行の抗弁権

同時履行の抗弁権とは双務契約において相手方がその債務の履行を提供するまでは自己の債務の履行を拒むことができる権利をいう。(民法533条)

双務契約における履行上の牽連性を具現化したものだ。

すなわち双方につり合いのとれた債務を負担する双務契約においては一方の債務が他方の債務と無関係に履行されるのでは不公平なので双方が同時に履行すべきとしたのだ。

たとえばA電器店がBにパソコンを販売したところBが代金を支払わずにパソコンの引渡しを請求してきた場合にA電器店はBが代金を支払うまで引渡しを拒むことができる。

[同時履行の抗弁権の要件]
(1)同一の双務契約から生じる両債務が存在すること。
(2)双方の債務がともに弁済期にあること
(3)相手方が自己の債務の履行の提供をしないで他方の債務の履行を請求してきたこと。

同時履行の抗弁権を行使した結果(1)自分の債務の履行の拒絶ができる(2)債務を履行しなくても履行遅滞の責任を問われない(3)相殺を受けないという3つの効果が生じる。

また同時履行の抗弁権は間接的に責務の履行を促す役割も果たしている。

その意味では同時履行の抗弁権が留置権と同様の機能を果たしている。

[同時履行の抗弁権と留置権]
同時履行の抗弁権
内容)履行拒絶
効力契約の相手方に対してのみ主張が可能
裁判上の効力引換え給付判決
留置権
内容)他人の物の留置
効力第三者に対しても主張が可能
裁判上の効力引換え給付判決

②危険負担

危険負担とは双務契約において一方の債務が債務者の責めに帰することができない事由によって履行不能となり消滅した場合に他方の債務は消滅するという問題をいう。

双務契約における存続上の牽連性を具体化したものだ。

債務契約は契約が存続すするうえで牽連性があると考えるのが自然だ。

したがって危険負担についての処理は原則として債務者主義になる。

債務者主義とは一方の債務が消滅すると他方の債務も消滅するという考え方のことだ。(民法536条1項、535条1項)

たとえばAがBに甲建物を賃貸していたところ甲が第三者Cの放火により全焼した場合、Aが甲を賃貸する債務は消滅する。

そして、この債務の消滅に関する危険は債務者が負担するのでAはBに家賃を請求することができなくなる。

債権者主義とは一方の債務が消滅しても他方の債務は消滅しないで存続するという考え方のことだ。(民法534条、535条2項、536条2項)

この債権者主義が適用になる主な場面は特定物に関する所有権、地上権や永小作権等の物権の設定や移転の場合だ。

特定物売買がその典型例だ。

たとえばAがBに自己の所有する甲建物を売却したところ、その後に甲が第三者の放火で全勝してしまったとする。

この場合にAが甲を引き渡す債務は消滅するが危険は債権者が負担するので売買代金債務は存続する

つまり買主Bは甲が焼失しても代金を支払わなくてはならない

この点については「利益の存するところに損失も帰する」「所有者が危険を負担するべきだ」「危険は買主にあり(ローマ法の沿革)」という言い方で説明されているが社会常識からみて納得はできないだろう。

そこで実務では当事者間の特約でこの債権者主義をとらす特定物の売買契約であっても債務者主義を採用している。

特定物に関する売買や地上権、永小作権等の物権の設定または移転を目的とする双務契約が停止条件付きである場合は、どのように処理されるのだろうか。

停止条件付きの契約で条件の成否が未定の場合にまで買主に李家気があり買主が危険をすべて負担すべきだと考えるのは厳しすぎるのではないかと考えられる。

そこで民法は目的物が損傷した度合いに応じて調整している。

[停止条件付き売買契約と危険負担]
【①滅失した場合
債務者主義:代金を払わなくて良い
【②損傷した場合
債権者主義:代金を全額支払う

③第三者のためにする契約

第三者のためにする契約とは契約当事者の一方が第三者に直接に債務を負担することを相手方と約束する契約のことだ。(民法537条)

たとえばAとB保険会社との間でCを受取人として生命保険契約を締結するような場合だ。

この場合の契約当事者はAとBでありAは要約者、B社を諾約者といい、また第三者であるCを受益者という。

第三者のてめにする契約といっても独立した契約の種類というわけでない。

契約によって発生した法律効果の一部を第三者に帰属させるという契約だ。

[第三者のためにする契約の成立要件]
(1)要約者、諾約者間に有効な契約が成立すること。
(2)第三者に直接、権利を取得させる趣旨が契約の内容となっていること。

受益者の権利は受益者が諾約者に対して契約の利益を享受する意思を表示した時に発生するとされている。(受益の意思表示)(民法537条2項)

したがって受益の意思表示は契約の成立要件ではなく、さらに受益者が契約当時に存在している必要もない。

契約の解除

①契約の解除とは

契約の解除とは契約の締結された後に、その一方の当事者の意思表示によって、その契約をじゃじめから存在しなかったと同様の状態に戻す効果を生じさせることをいう。

双務契約において債務者が任意に履行をしない場合は債権者は契約を存続させて自分の債務を履行すると共に強制執行をしたり損害賠償を請求したりできる。

しかし債権者としては自分自身の債務から解放され、すでに履行した物を取り返し契約をしなかった時点と同じ状態に戻してもらった方が良いと考える場合もあるだろう。

そこで債権者を保護するため一定の要件を満たす場合に契約を解除することが認められている。

たとえばAが所有する甲建物をBが購入したところ約定の引渡期日になってもAが甲を引き渡さない場合にはBは所定の要件の下、Aとの間の売買契約を解除でき支払った手付などがあれば取り戻すことができる。

②解除の要件

契約を解除するための要件は履行延滞の場合(民法541条)と履行不能の場合(民法543条)とで異なる。

[解除の要件]
履行延滞で解除する場合
(1)履行が可能なこと
(2)履行期を経過したこと
(3)履行期を遅れたことが違法であること
(4)債務者に帰責事由があること
(5)相当な期間を定めた履行の催告がなされたこと
(6)解除の意思表示をしたこと
履行不能で解除する場合
(1)履行期に履行することが不能となったこと
(2)履行不能が違法であること
(3)債務者に帰責事由があること
(4)解除の意思表示をしたこと

履行遅滞における相当な期間を定めた履行の催告については(1)期間をそもそも定めず催告した場合(2)定めた期間が相当な期間でなかった場合の2つが問題となる。

これらについては、いずれも催告として有効だ。

債権者は催告の時から客観的にみて相当な期間が経過した時は契約を解除することができる。(大判S2.2.2、最判S31.12.6)

また債務者の方で催告に対して履行を拒絶する意思を明確に表示した場合相当の期間が満了することを待たずに債権者は直ちに契約を解除できるとされている。(大判S7.7.7)

③解除の方法

解除は解除権を有する当事者の一方から相手方に対する意思表示によって行う。(民法540条1項)

相手方の同意や承諾は不要だ。

[解除の方法]
意思表示
相手方に対する一方的な意思表示で行い相手方の同意や承諾は不要
撤回の可否
相手方を保護するため出来ない(民法540条2項)
契約当事者が複数の場合
解除する側が複数全員から解除
解除される側が複数全員に対して解除
期限を付すことの可否
遡及効があるため期限を付すことはできない

④解除の効果

契約によって生じた債権債務は始めに遡って消滅する。

当事者双方は互いに相手方を契約成立前の原状に回復する義務を負う。(原状回復義務

金銭を返還する場合は受領した時からの利息を付ける必要がある。(民法545条)

解除により第三者の権利を害することはできない。(民法545条1項但書)

たとえば不動産の売買契約が後に代金債務の不履行で解除された場合に第三者が解除される前にその不動産の登記を得ていれば解除の効果を第三者に対抗できない。(最判S33.6.14)

3章 民法 レッスン15 移転型の契約

学習のポイント
書面によらない贈与契約は履行の終わった部分を除き各当事者が撤回することができる。
売買契約においては当事者の公平の観点から売主に各署の担保責任が課される。売主の担保責任は売主の過失の有無に関わらず課される無過失責任である。

贈与契約

①贈与契約とは

ケース1
AはBに自己の所有する別荘をもらって欲しいと申し込んだところBがこれを承諾した。

贈与契約とは贈与者が受贈者に対して無償で自己の財産を相手方に与えることを目的とする契約をいう。(民法549条)

贈与契約は「無償・片務・諾成」契約だ。

たとえばケース1ではAB間に別荘の贈与契約が成立する。

贈与というと無償で何かをあげるイメージから贈与者の一方的な行為と考えがちだが民法上は契約であり贈与者と受贈者の合致が必要だ。

また契約の成立によって贈与者の義務は発生するが受贈者には義務は発生しないので贈与契約は片務契約だ。

②贈与契約の種類

書面によらず贈与契約をした場合に各当事者は契約を撤回することができる。(民法550条本文)

贈与は無償契約だし書面によらない場合は贈与者の意思が必ずしも明確でない。

そこで軽率な贈与がなされないように書面によらない贈与はいつでも撤回できるとされている。

ただし受贈者の保護のため履行の終わった部分については撤回することはできない。(民法550条但し書)

問題は何をもって「履行」が「終わった」とするかだが、これについては以下の通りだ。

不動産の贈与
不動産が贈与された場合は履行として引渡しと登記とがなされるが、そのうちいずれか完了すれば履行が終わったものとされる。
引渡しの方法
ここでいう引渡しには現実の引渡し以外に簡易の引渡しや占有改定も含まれる。
条件付き贈与
たとえばケース1で「Aの海外赴任が決まったら別荘を贈与する」という条件が付いている場合は条件が成就するまでは、たとえ別荘を引き渡していても撤回することができる

負担付贈与とは受贈者にも一定の義務を負担させる贈与契約をいう。

たとえばケース1でAがBに別荘を贈与する代わりに別荘の敷地を含む山林の管理を依頼するような場合だ。

負担付贈与も片務契約だが実質的に考えると一定の負担をする限りで両者が対価的な関係にあると捉えることができる。

そこで民法は負担付贈与にも、その性質に反しない限り双務契約に関する規定(同時履行の抗弁権、解除、危険負担など)を準用すると定めている。(民法553条)

したがって負担した義務の履行を受贈者が怠る時は贈与者は契約を解除することができる

死因贈与とは贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与をいう。(民法554条)

死因贈与は契約だが死亡を効力発生要件とする点など実質的に遺贈によく似ている。

したがって死因贈与には、その性質に反しない限り遺贈に関する規定が準用される。

売買契約

①売買契約とは

売買契約とは当事者の一方(売主)が、ある目的物(財産権)を相手方(買主)に移転することを約束し、これに対して買主が代金を支払うことを約束する契約をさす。(民法555条)

売買契約は「有償・双務・諾成」契約だ。

売買契約が成立することにより契約当事者にそれぞれ義務が発生する。

売主に発生するおもな義務は(1)財産権移転義務(2)果実引渡義務(3)担保責任だ。

財産権移転義務
売主が負う義務の中心である。財産権とは財産的価値のある権利の事をさし性質上または法律上、譲渡不可能なものを除いて売買の目的物とすることができる。
果実引渡義務
まだ引き渡されてない売買の目的物が果実を生じた場合に、その果実は売主に帰属する。(民法575条1項)引き渡されてない理由は問わない。ただし売主が代金の支払いを受けた時以降に生じた果実は買主に帰属し売主は買主にこれを引き渡さなければならない。

買主に発生する主な義務は(1)代金支払債務(2)利息支払債務だ。

なお買主は引渡しを受けても代金の支払期限までは利息を支払う必要はない。(民法575条2項但し書)

②売主の担保責任

売主の担保責任とは売買の目的物に欠陥瑕疵があり、これがあるため買主が契約時に予測した結果に反する場合の売主の責任をいう。

担保責任が認められるのは売買契約は契約当事者双方が相互に経済的な負担を負う有償契約なのに売買の目的物と代金との間のバランスが崩れたままでは不公平だからだ。

そこで目的物と代金の均衡を保つために設けられたのが担保責任の制度だ。

言ってみればバランスの崩れた秤のバランスをとり直すようなものだ。

目的物の価値が軽くなってしまった事を金で賠償させるか代金を減額させるか契約を解除するかの3択で解決するのだ。

この担保責任は売主の故意過失とは関係なく課される

公平の観点から認めた法定の制度だから売主は無過失責任を負担するのだ。

民法で定める担保責任は全部で6種類がある。

他人の権利の売買における担保責任は更に全部他人物の場合の担保責任と一部他人物の担保責任とに分類される。

全部他人物売買とは売買目的物の全部が売主以外の第三者の所有物である場合だ。

たとえばAがBにCが単独で所有する甲土地を売却する契約がこれにあたる。

このような他人の物を売る契約を締結した場合において、その契約は有効だ。

そのうえで売主はその権利を他人から取得して買主に移転する義務を負担するとしている。(民法560条)

この場合は他人物であることにつき善意の買主は契約の解除と損害賠償請求ができる。

これに対し悪意の買主は契約の解除のみが認められる。(民法561条)

悪意の買主には権利を何ら認めなくてもよさそうだが、この場合の買主は他人物とは知っていても履行期までに売主が所有者から目的物を取得し自分に権利を移転してくれることを期待して契約を結んでいる。

そうであれば、その契約時の期待が予想外の結果になった以上、解除だけは認め契約の拘束力から解放されることは認められるのだ。

他方、権利の移転は無理だと予測することはできるから損害賠償請求を認める必要はない。

一部他人物売買とは売買目的物の一部が売主以外の第三者の所有物である場合だ。

この場合に売主が履行期までに一部の権利を取得することができなければ一部他人物であることにつき善意の買主は損害賠償の請求のほか代金の減額請求が認められている。

欠けている一部につき均衡をとる趣旨だ。

また一部が他人物であるために契約をした目的が達成できない場合には契約を解除することができる。(民法563条、564条)

悪意の買主は解除と損害賠償は認められないが代金減額請求だけは認められる

つまり代金額について均衡をとることだけは認められている。

数量不足の売買とは数量支持売買の場合に支持された数量が不足していたことを意味する。

数量指示売買とは目的物が実際に有する数量を確保するため、その一定の面積、容積、重量等があることを売主が契約において表示し、かつ、この数量を基礎として代金額が定められた売買のことだ。(最判S43.8.20)

この場合は数量不足であることにつき善意の買主は損害賠償請求のほか代金減額請求も認められるし契約をした目的が達成できない場合には契約の解除もできる。(民法565条)

これは先程の一部他人物売買の場合と同様だ。

しかし悪意の買主は解除、損害賠償請求および代金減額請求のいずれも認められない

悪意の買主は指示された数量よりも不足していることを知った上で契約をしている訳だから数量不足を理由とする代金の減額も認める必要がない。

なお目的物が一部消滅した場合も同様となる。

地上権等がある場合の担保責任は売買契約の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権または質権の目的である場合目的不動産に存在すると称した地役権が存在しない場合登記をした貸借権があった場合の担保責任だ。(民法566条)

この場合は地上権等により目的物を使用する者がいたり目的物の使用に必要な権利がなかったりするため買主は予期していた使い方ができない。

そこで善意の買主は損害賠償を請求することができる。

さらに契約をした目的が達成できない場合には善意の買主は契約を解除することもできる。

他方、悪意の買主には何らの権利も認められない。

抵当権等がある場合の担保責任は売買契約の目的物に抵当権や先取特権が存在しており、これらの権利行使により買主が所有権を失った場合の担保責任のことだ。(民法567条)

この場合に買主損害賠償請求解除ができる。

この担保責任については買主の善意悪意が問われず悪意の買主であっても権利行使ができる点がポイントとなる

瑕疵担保責任とは売買の目的物に隠れた瑕疵がある場合の売主の担保責任だ。

瑕疵とは目的物に存在する欠陥のことだ。

また「隠れた」とは買主が取引に一般的に要求される注意をしても発見できないことをさす。

瑕疵担保責任の内容は目的物に地上権等がある場合の担保責任と同様だ。

すなわち善意の買主は損害賠償の請求と契約目的が達成できない場合の解除が認められる。(民法570条)

悪意の買主には何ら権利は認められない。

[売主の担保責任]
全部他人物
善意)代金減額請求×損害賠償請求〇解除〇期間制限なし
悪意)代金減額請求×損害賠償請求×解除〇期間制限なし
一部他人物
善意)代金減額請求〇損害賠償請求〇解除〇期間制限知った時から1年
悪意)代金減額請求〇損害賠償請求×解除×期間制限知った時から1年
数量不足、一部滅失
善意)代金減額請求〇損害賠償請求〇解除〇期間制限知った時から1年
悪意)代金減額請求×損害賠償請求×解除×期間制限-
地上権等がある場合
善意)代金減額請求×損害賠償請求〇解除〇期間制限知った時から1年
悪意)代金減額請求×損害賠償請求×解除×期間制限-
抵当権等がある場合
善意)代金減額請求×損害賠償請求〇解除〇期間制限なし
悪意)代金減額請求×損害賠償請求〇解除〇期間制限なし
瑕疵担保
善意)代金減額請求×損害賠償請求〇解除〇期間制限知った時から1年
悪意)代金減額請求×損害賠償請求×解除×期間制限-

③手付

手付とは売買契約の締結の際に当事者の一方(買主)から他方(売主)へ支払われる一定金銭をいう。

手付は交付する目的によい(1)証約手付(2)違約手付(3)解約手付の3種類に分かれる。

[解約手付の整理]
解約手付の意味
手付額の損失を覚悟すれば相手方に債務不履行等がなくても契約を解除することができるという趣旨で交付される手付
買主側の解除
交付した手付の放棄
売主側の解除
受領した手付額の倍額の返還
時期の制限
解約の相手方が履行に着手するまで

④買戻し

買戻しは債権の担保に用いられる手法の一つで不動産の売主が買主に目的物を売却するにあたり同時に買主が支払った代金および契約費用を返還して売主が後日売買を解除する旨を特約することをさす。(民法579条)

つまり買戻しの特約は売買契約と同時にしなければならない

交換契約

①交換契約とは

交換契約とは当事者は互いに金銭の所有権以外の財産権を移転する契約をさす。(民法586条1項)

たとえばAが大阪に所有する宅地をBが長野に所有する山林と、それぞれが相手方に渡すような場合である。

②交換契約の性質

交換契約は「有償・双務・諾成」契約だ。

売買契約は目的物との交換で金銭を渡すが交換は物々交換になっただけであり売買契約と非常に形態が似ている。

したがって当事者は特約がない限り売買に関する規定が準用される。(民法559条)

3章 民法 レッスン16 貸借型の契約

学習のポイント
消費貸借契約では借主は返還時期を定めたか否かに関わらず、いつでも返還できる。
使用貸借契約は当事者間の信頼関係に基づく契約であるから借主の死亡により終了する。
賃貸借契約において賃借人は賃貸人の承諾を得なければ、その貸借権を譲り渡し、または貸借物を転貸することができない。

消費貸借契約

①消費貸借契約の意味

消費貸借契約とは金銭その他の代替物を借りて後にこれと同種・同等・同量の物を返還する契約をさす。(民法587条)

消費貸借契約は利息を付けない場合は「無償・片務・要物」契約だ。

利息付きの場合は「有償・片務・要物」契約だ。

②金銭消費貸借契約の特徴

ケース1
AはB銀行から1,000万円の融資を受けた。

消費貸借契約のうち私たちの社会経済生活において大きな役割を果たしているのは金銭を目的とした消費貸借契約だ。

この金銭消費貸借契約は先にみた消費貸借契約の性格である「無償性・要物性」が修正されて締結される。

まず金銭は運用して利息を得ることができるので、これを目的とした消費貸借契約も利息を付けることが一般的だ。

たとえばケース1のように金融機関との間で締結される金銭消費貸借契約は、ほぼ例外なく利息の約定がなされる。

当事者間で利息を付ける旨の合意があれば有償契約となる。

次に消費貸借が成立するためには当事者間の合意のほか目的物の授受が必要だが、これを厳格に求めようとすると取引社会の実情に合わない。

たとえば金を実際に渡さないと契約が成立しなとすると常にその契約締結の場に現金を用意せねばならず取扱い上も危険が伴う。

そこで判例は金銭の授受がなくとも現実に授受したのと同一の利益が借主に与えられていれば金銭消費貸借契約の成立を認めている。

たとえば金銭の代わりに貸主が借主へ「預金通帳と印鑑を交付」することで金銭の授受をしたと同一の利益を与えることができるので、これをもって金銭消費貸借契約が成立したと認められる。

これを要物性の緩和という。

③準消費貸借契約

準消費貸借契約とは消費貸借によらず金銭その他の物を給付する義務を負っている者が相手方との契約により、その物を消費貸借の目的とすることを約束した時に成立したものとみなされる契約をさす。(民法588条)

たとえばA社がB販売店から大型トラックを買ったものの購入代金を支払時期に払えない事情が発生したとする。

このような場合にA社がB販売店に交渉し代金債務を消費貸借の目的とすることを約束してもらい決められた返還時期に金銭を返還するというような処理を可能とするのが準消費貸借契約だ。

④消費貸借における返還時期

借主は返還時期を定めたかどうかに関わらず、いつでも返還することができる。(民法591条2項)

ただし利息付き消費貸借契約の場合には返還時期の定めがあればその期限までの利息を定めなければ実際に返還する時までの利息を付すことになる。

⑤貸主からの返還請求

返還時期の定めがない場合】(民法591条1項)
貸主は、いつでも返還請求をすることができるが同種・同等・同量も物を借主が調達する時間を与えるため相当の期間を定めて催告することが必要となる。(民法591条1項)
返還時期の定めがある場合
原則)債務者である借主に期限の利益があるため期限が到来するまでへんかんせいきゅうすることができない。
例外)借主が期限の利益を放棄したり喪失したりした場合。たとえば借主が破産開始の決定を受けた場合に借主は期限の利益を喪失する。(民法137条1号)

⑥貸主の担保責任

利息付きの消費貸借において貸した物に隠れた瑕疵があった場合には貸主は瑕疵がない物に取り替えなければならない。

さらに瑕疵の存在によって借主に損害を与えた場合には貸主は損害賠償義務を負う。(民法590条1項)

他方、無利息の消費貸借の場合に借主は瑕疵ある物の価額を返還すれば良いとされている。

ただし貸主が瑕疵を知ってこれを借主に告げなかった場合には利息付き消費貸借と同様の責任を負う。(民法590条2項)

使用貸借契約

①使用貸借契約の意味

使用貸借契約とは貸主が借主に無償で貸すことにして目的物を引き渡し借主が使用収益した後に返還する契約をさす。(民法593条)

使用貸借契約の法的性質は「無償・片務・要物」契約だ。

②貸主の担保責任

使用貸借契約は無償契約だから目的物に瑕疵があり借主がそれによって損害を被っても貸主の責任とならない。

ただし貸主が瑕疵を知っていながら借主に告げなかった時は損害賠償責任を負う。(民法596条)

③借主の権利義務

借主は契約または目的物の性質により定まった用法で目的物を使わなければならない。(民法594条1項)

また信頼関係が基礎にある契約なので貸主の承諾を得ずに第三者に勝手に使用収益させることはできない。(民法594条2項)

④借主の死亡による終了

使用貸借は借主の死亡によってその効力を失う。(民法599条)

使用貸借は無償であり信頼関係に基づく契約だから借主の死亡によって消滅することとした。

したがって相続人への権利の承継はない。

これに対して貸主が死亡しても使用貸借契約は終了しない

賃貸借契約

①賃貸借契約の意味

賃貸借契約とは賃貸人がある物を賃借人に使用収益をさせ、これに対して賃借人が使用収益の対価としての賃料を支払う契約をさす。(民法601条)

その法的性質は「有償・双務・諾成」契約だ。

賃貸借の目的物に特に限定はない。

レンタルショップでDVDなどを借りる契約も賃貸アパートで部屋を借りる契約も基本的には民法の賃貸借の規定が適用される。

特に土地や建物の賃貸借の場合には民法の特別法である借地借家法が適用される。

②賃貸借契約の効力

賃貸借の存続期間は民法上20年を超えることができないとされている。

これより長い期間を契約で定めても20年となる。(民法604条1項)

所有権に対する制約が余りに長期間となることを防ぐためだ。

賃貸借契約を締結すると両当事者に権利および義務が発生する。

賃貸人の権利は賃料請求権だ。

賃貸人の義務としては
(1)目的物を使用収益させる義務
(2)目的物を修繕義務と費用償還義務がある。

賃貸人は賃借人に対して目的物を使用収益させる義務を負うことから目的物が使える状態でないと時には目的物の修繕義務を課せられる。(民法606条1項)

この修繕は義務であると同時に所有者として目的物の保存行為を行う権利でもある。

したがって賃借人は賃貸人による修繕を拒むことはできない。(民法606条2項)

また賃貸人は賃借人が目的物にかけた費用を償還する義務がある。(民法608条)

たとえば賃借したアパートで水道が故障して水が止まらなくなった場合には貸主はこれを修繕する義務を負う。

反対に貸主が水道の故障した部屋を修繕するに際し賃借人が自分の部屋なのだからという理由で立入りを拒否することはできない。

そのまま放置すると水漏れで貸主の所有物が破損してしまうからだ。

費用には2種類ある。

まず使用収益のために必要な費用で、これを必要費という。

次に必ずしも必要ではないが賃貸目的物の価値を高めた費用で、これを有益費という。

[費用]
必要費
使用収益のために必要な費用
賃借人の償還請求支出後ただちに償還請求できる。
有益費
賃貸目的物の価値を高めた費用
賃借人の償還請求)賃貸借契約終了時に価格の増加が現存する場合に限って償還請求できる。

賃借人の権利は目的物を使用収益する権利だ。

賃借人の義務としては
(1)賃料を支払う義務
(2)契約や目的物の性質によって定まった用法に従い使用収益する義務
(3)目的物の保管義務
(4)目的物返還義務(契約終了時)がある。

賃料支払時期は特約がなければ動産、建物、宅地について毎月末に支払い、その他の土地は毎年末に支払うとされている。(民法614条)

③賃借権の対抗

たとえば友人から借りていたカメラをその友人が第三者に売却した場合に第三者が引渡しを要求してくれば、これに対抗することができない。

このような状態を「売買は賃貸借を破る」という。

ケース2
AはBに自己の所有する甲建物を賃借しBの賃借権が登記された後にAは甲を第三者Cに売却した。

不動産の賃借権は、これを登記した時は、その後その不動産について物権を取得した者に対して、その効力を生ずるとされている。(民法605条)

たとえばケース2でBはCから甲建物を明け渡すよう請求されてもBはCに賃借権を対抗し明渡しを拒むことができる。

ただ賃借権を登記するといって特約がない限り賃借権の登記に非協力的であることが実情なので、これでは対抗力を与えるといっても「絵に描いた餅」となってしまう。

そこで民法の特別法である借地借家法により賃借権の登記に代えて借地については借地上の建物の所有者(土地の賃借人)名義の登記、借家については借家の引渡しという賃貸人の協力が必要ない方法で対抗力を取得することが認められている。

④賃借権の譲渡・転貸

賃借人は賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、または賃借物を転貸することはできない。(民法612条1項)

賃借人が賃貸人に無断で第三者に賃借権を譲渡したり賃貸目的物を転貸したりした場合には原則として賃貸人は賃貸借契約を解除することができる。(民法612条2項)

しかし例外がある。

賃借人が賃貸人の承諾なく第三者に賃借権を譲渡したり賃借物を転貸したりした場合であっても、その行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情がある場合には解除権は発生しないのだ。(最判S28.9.25)

これを一般に信用関係破壊理論という。

賃借人が賃貸人の承諾を得て賃借権を譲渡したり賃借物の転貸をしたりした場合(適法な譲渡、転貸)には、その後の法律関係はどうなっているか。

賃借権の譲渡とは賃借人の地位を第三者に譲ってしまうことを意味する。

したがって賃借権の譲渡がなされた場合には以後、賃借権を譲り受けた第三者が賃借人となる。

これに対して賃借物の転貸がなされた場合には賃借人が賃貸人となり転貸借の相手方が転借人となる。

転貸後は原賃貸人と転借人とは直接には契約関係がないものの実際に賃借物を使用収益するのは転借人だから転借人は原賃貸人に直接、義務を負うことになる。(民法613条1項)

つまり転借人は原賃貸人に賃料支払義務や返還義務などを負う。

仮に転借人が転貸人にすでに賃料を支払っていたとしても原賃貸人が転借人に賃料請求してきたら転借人は賃料を転貸人に前払いしたことを対抗できない。(民法613条2項)

⑤賃貸借契約の終了

賃貸借に期間の定めがあれば期間を更新しない限りその期間が満了した時点で終了する。

期間の定めがなければ賃貸人および賃借人はいつでも解約の申入れをすることができる。(民法617条)

解約申入れがあると申入れの日から賃借目的物に応じて民法の定める時間が経過することにより賃貸借は終了する。

また債務不履行があった場合や賃借権の無断譲渡(民法612条)その他の一定の事由があった場合には賃貸借契約を解除することができる。

賃貸借契約の解除は将来に向かって効力を生じる。(民法620条本文)

転貸借は賃貸借を前提としているので賃貸借が期間満了により終了すれば転貸借も終了する

そのほか以下の事情が発生し賃貸借が終了する場合に転貸借がどうなるか整理する。

[原賃貸借の終了原因と転借人への対抗]
原貸借の期間満了
(対抗の可否)できる
(必要な手続)通知必要
賃貸借の合意解除
(対抗の可否)できない
(必要な手続)-
賃貸借の債務不履行解除
(対抗の可否)できる
(必要な手続)催告不要
賃貸人の解約申入れ
(対抗の可否)できる
(必要な手続)通知必要
賃借人による賃借権の放棄
(対抗の可否)できない
(必要な手続)-

3章 民法 レッスン17 その他の契約

学習のポイント
請負契約においては報酬を支払いと完成目的物の引渡しは「同時履行の関係」に立つ。
委任契約において受任者は委任契約の有償・無償を問わず善管注意義務を課せられる。
寄託契約において受寄者の注意義務は寄託契約が有償であるか無償であるにより異なる。

請負契約

①請負契約とは

ケース1
Aは結婚式に着るためオーダーメイドのウェディングドレスをB洋裁店に注文しB洋裁店がこれを請け負った。

請負契約とは請負人がある仕事を完成させることを約し注文者がその仕事の結果に対して報酬を与えることを契約することで成立する契約をさす。(民法632条)

その法的性質は「有償・双務・諾成」契約だ。

たとえばケース1でBが約定の期日までにウェディングドレスを完成させればAはこれに対し請負代金を支払うことになる。

②当事者の義務

請負人には契約の趣旨に従って仕事を完成させる義務がある。

完成した仕事に対して報酬を受領するので、その意味では仕事完成義務のほうが先に履行することになる。

さらにこの場合は委任契約とは違い完成させることが仕事内容なので請負人自らが完成させる場合のほか他人に手伝わせて仕事を完成させることもできる。

それが履行補助者や下請人の使用という問題だ。

まず請負契約においては原則として請負人自ら仕事を完成させるのは当然のことながら履行補助者を使って仕事を完成させることができる

たとえば手作り家具の製作を行い仕上げ前のニスを弟子に塗らせて家具を完成させることができる。

次に請負人が請け負った仕事を、さらに第三者に請け負わせることは原則として可能だ。

請負人に課せられた義務は仕事の完成だからだ。

ただし請負の仕事内容が個人の能力に重点を置いている場合や請負契約に特約がある場合には請負人は第三者に下請けさせることはできない

たとえば芸術家に絵画を描いてもらうような場合には第三者に絵画を描かせても仕事を完成させたことにならない。

仕事の完成だけでなく完成した目的物を引き渡す必要のある仕事もある。

たとえばケース1のBがドレスを仕立てる仕事や建物などの建築請負では請負人は完成物の引渡義務を負う。

完成した目的物の所有権は当事者に特約があればそれに従い注文者あるいは請負人に帰属する。

特約がなければ
(1)注文者が材料の全部または主要部分を供給した場合か
(2)請負人が材料の全部または主要部分を供給した場合か
で所有権の帰属が異なる。

[特約がない場合の完成目的物の所有権の帰属]
注文者が材料の全部または主要部分を供給した場合
完成と同時に注文者に帰属
請負人が材料の全部または主要部分を供給した場合
完成と同時に請負人に帰属
引渡しによって注文者に移転

注文者は完成した仕事に対して報酬を支払う義務を負う。

請負人が仕事の完成した目的物を引き渡す場合、当事者間に特約がない限り、この報酬の支払いと完成目的物の引渡しは「同時履行の関係」になる。(民法633条)

仕事の完成と同時履行ではない

③請負人の担保責任

請負人は完成した仕事の目的物に瑕疵があった時は注文者に責任を負わなければならない。

この請負人の担保責任は無過失責任とされている。

担保責任が発生する要件は仕事の目的物の瑕疵があることだ。

売買契約の瑕疵担保責任のように隠れた瑕疵であることは要求されない。

注文者は仕事の目的物に瑕疵がある時は請負人に対して
(1)瑕疵の修補請求
(2)契約の解除をする
ことができる。(民法634条、635条)

瑕疵修補請求権
請負人に対して相当の期間を定めて請求することができる。ただし瑕疵が重要でない場合に、その修補に過分の費用を要する時は修補を請求できない
賠償請求権
瑕疵の修補に代えて、またはその修補と共に損害賠償請求ができる。また瑕疵の修補が可能でも修補請求しないで直ちに修補に代わる損害賠償請求することができる
契約解除権
仕事の目的物に瑕疵があり、そのために契約をした目的を達成することができない時は注文者は契約を解除することができる。ただし請負の目的物が建物その他の土地の工作物の場合は、それが完成した以上は、どんなに重大な瑕疵があろうと解除することはできない

担保責任の存続期間は以下のように場合分けして規定されている。(民法637条、638条)

[担保責任の存続期間]
【①原則
引渡しまたは仕事の終了時から1年
【②建物その他土地の工作物、地盤
引渡し後5年
【③石造、土造、レンガ造、コンクリート造、金属造など
引渡し後10年
【④②③以前に工作物が滅失または損傷
滅失または損傷の時から1年

担保責任の規定は任意規定なので当事者間で担保責任を免除する特約をすることはできる。

しかし請負人が知りながら告げなかった事実については責任は免除されない。(民法640条)

④請負契約の終了

請負契約は仕事が完成した場合のほか以下の場合に終了する。

請負人が仕事を完成しない間は注文者は何時でも損害を賠償して契約の解除をすることができる。(民法641条)

契約成立後、何かの事情が発生して注文者がもはや請負人による仕事の完成を必要しなくなった場合に請負人に仕事を継続させることは意味がない。

そこで注文者は請負人に損害を賠償して解除することを認めた。

注文者の破産手続の開始による解除は請負人の報酬債権は仕事を完成した後に発生する(後履行)ので請負人の報酬債権を確保する目的で解除権が認められている。(民法642条)

つまり注文者が破産手続開始の決定を受けた場合には請負人や破産管財人は契約を解除できる

委任契約

①委任契約とは

ケース2
Aは自己の所有する甲土地を売却するようBに依頼しBがこれを引き受けた。

委任契約とは委任者が受任者に法律行為をすることを委託し受任者がこれを承諾することで成立する契約をさす。(民法643条)

委任契約は請負契約と違って特約がなければ報酬を受け取ることはできない

つまり、その法的性質は原則として「無償・片務・諾成」契約だ。

例外として報酬の支払いについて特約をすれば有償・双務・諾成」契約となる。(民法648条1項)

②受任者の権利および義務

(1)受任者の義務

受任者には以下の義務が課せられる。

善管注意義務
受任者の職業や社会的、経済的地位に応じて一般的に要求される程度の注意をさす。

たとえばケース2で土地の売却を依頼されたBは不動産の売買を仲介するのに必要な程度の注意を払う必要がある。

この善管注意義務は委任契約の有償・無償を問わず課せられる。(民法644条)

自ら事務を処理する義務
受任者は原則として自ら委任の事務を処理しなければならず他人に任せることはできない。

委任契約は当事者間の信頼関係を基礎とするからであり、この点が請負契約と異なる

ただし委任者の許諾がある場合とやむを得ない事由がある場合には自分が選んだ委任事務を処理させることができる。(復委任

報告義務
受任者は委任者の請求がある場合は、いつでも委任事務の処理の状況を報告し委任が終了した後は遅滞なくその経過および結果を報告しなければならない。(民法645条)

受取物の引渡義務
受任者は委任事務を行うにあたって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない

収取した果実があれば、それも渡す。(民法646条1項)

金銭消費の責任
受任者が委任者に引き渡すべき金銭を自分のために使ってしまった場合には、その使った日以降の利息を付けてすべて返還し損害がある場合は賠償責任を負うとした。(民法647条)

(2)受任者の権利

報酬請求権
当事者間に特約がある場合に認められる。(民法648条1項)

費用前払請求権
委任事務に必要な費用を事前に請求できる。(民法649条)

費用償還請求権
受任者が委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出した時は委任者に対してその費用および支出の日以降の利息の償還を請求できる。(民法650条1項)

代弁済請求権
受任者は委任事務を処理するため受任者が負担した債務を委任者に弁済するよう請求できる。(民法650条2項前段)

担保供与請求権
受任者は委任事務を処理するため負担した債務の弁済期が到来してない時は委任者に対して自分に担保を供与するよう請求できる。(民法650条2項後段)

受任者が自ら弁済することで発生しうる損害に対する担保を求めるのだ。

損害賠償請求権
受任者は委任事務処理のために被った損害について受任者に過失がない場合に委任者に対して損害賠償を請求できる。(民法650条3項)

③委任契約の終了

委任契約の終了原因は解除と解除以外の事由に分かれる。

解除
委任契約の当事者間の信頼関係が崩れてしまうと以後の委任事務を継続させることは無意味になる。

したがって、そのような場合には委任者・受任者双方から何ら特別の理由がなくても自由に解除することを認めた。(民法651条1項)

これを無理由解除という。

当事者の一方が相手方の不利な時期に解除した時は原則として損害を賠償しなければいけないが、やむを得ない事由があって解除した場合は賠償する必要はない。(民法651条2項)

[解除以外の終了原因]
死亡
委任者〇 受任者×
破産手続開始の決定
委任者〇 受任者〇
後見開始の審判
委任者× 受任者〇

寄託契約

①寄託契約とは

寄託契約とは当事者の一方が相手方のために保管をすることを約束して、ある物を受け取ることで成立する契約をいう。(民法657条)

たとえばハワイへの転勤が決まったAが帰国するまでの間、自己の所有するスキーセットをBに預かってもらうため引き渡した場合がこれにあたる。

寄託契約の法的性質は原則として「無償・片務・要物」契約だ。

しかし当事者の特約によって報酬を支払うことになれば「有償・双務・要物」契約となる。(民法665条)

寄託契約が有償であるか無償であるかによって受寄者の負う注意義務が異なる。

[受寄者の注意義務]
無償の受寄者
自己の財産に対するのと同一の注意をもって受寄物を保管すれば足りる。(民法659条)
有償の受寄者
善管注意義務を負う。(民法400条)

②寄託者の返還請求

当事者が寄託物の返還の時期を定めた場合であっても寄託者はいつでも返還請求ができる。(民法662条)

寄託は寄託者の利益のための契約だから本人が返還を求めてきたら何時でも返還を認めるべきだからだ。

③寄託物の返還時期

当事者が寄託物の返還時期を定めていない場合は受寄者はいつでもその返還をすることができる。(民法663条1項)

この場合には受寄者の負担も考えて、いつでも返せるようにしたのだ。

しかし返還時期を定めた場合には受寄者はやむを得ない事由がなければ期限前には返還ができない。(民法663条2項)

④消費寄託契約

消費寄託契約とは寄託の目的物が金銭その他の代替物である場合に寄託者が寄託中に目的物をいったん消費した後これと同種・同等・同量の物を返還することを約束する契約をさす。(民法666条)

法的性質は無利息の場合は「無償・片務・要物」契約だ。

しかし利息付きの場合は「有償・片務・要物」契約となる。

その他の契約

民法は他にも契約の種類を定めているが現代ではほとんど使われていない終身定期金のようなものもある。

また雇用のように特別法である労働法規(労働契約法、労働基準法など)が適用され民法の規定は一部の規定しか適用されないものもある。

逆に組合や和解のように現代でも重要な意味を持つものもある。

[その他の典型契約のまとめ]
雇用
当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約束し相手方がこれに対して報酬を与えることを約束することで成立する契約(民法623条)
「有償・双務・諾成」
組合
2人以上の当事者が共同の業務を達成する目的で相互に金銭その他の財産を出資または労務の提供を約束することで成立する契約(民法667条)
「有償・双務・諾成」
和解
当事者が互いに譲歩して争いを自治的に止めることを約束する契約(民法695条)
「有償・双務・諾成」
終身定期金
当事者の一方が自己、相手方または第三者の死亡に至るまで定期的に金銭その他の物を相手方または第三者に給付することを約束することで成立する契約(民法689条)
《対価あり》「有償・双務・諾成」
《対価なし》「無償・片務・諾成」

3章 民法 レッスン18 契約によらない債権・債務の発生

学習のポイント
事務管理が成立する要件と管理者および本人に生ずる権利義務を整理する。
一般不当利得が成立する要件と不当利得が成立した場合の返還義務の内容を理解する。
一般の不法行為が成立する要件を整理する。
特殊の不法行為の類型とそれぞれの内容を理解する。

事務管理

事務管理とは義務がないのに他人のために事務の管理をすることをいう。(民法697条)

たとえばAが不在であったため隣人Bが宅配業者CからA宛の荷物を預かる場合がこれにあたる。

この場合のAを本人、Bを管理者という。

管理者は事務管理を始めたことを遅滞なく本人に通知しなければならない。(民法699条)

また管理者は本人または相続人・法定代理人が管理できるに至るまで事務処理を継続しなければならない。(民法700条本文)

[事務処理の要件と権利義務]
要件
(1)管理者が他人のために事務の管理を始めること
(2)管理者に本人のためにする意思があること
(3)管理者に法律上の義務がないこと
(4)管理者の行為が本人の利益または意思に反しないこと
義務
管理者
(1)善管注意義務
(2)管理継続義務
(3)通知義務
本人
費用償還義務

2不当利得

①不当利得とは

不当利得とは法律上の原因なく他人の財産または労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼすことをいう。(民法703条)

不当利得は法律上の原因がないのに利益を受け他人に損失を及ぼした者に対して利得の返還をさせることで当事者間の公平を実現する制度だ。

不当利得には一般不当利得と特殊の不当利得がある。

②一般不当利得

[一般不当利得の要件と効果]
要件
(1)他人の財産または労務によって利益を得たこと
(2)そのために他人に損失を与えたこと
(3)受益と損失との間に因果関係があること
(4)法律上の原因がないこと
効果
不当利得の返還義務
(1)善意の受益者:利益の存する限度(現存利益)で利得を返還する義務を負う
(2)悪意の受益者:受けた利益の全額と利息を返還する義務を負う、また損害がある時は賠償責任を負う

③特殊の不当利得

たとえば債務の弁済をしたものの実は債務自体が存在しなかったという場合に弁済として給付をした者は不当利得の返還請求ができるはずだ。

しかし民法はその特則を定めて一定の場合には公平の立場から返還請求を否定する。

債務の弁済として給付をした者は、その時において債務の存在しないことを知っていた時は、その給付したものの返還を請求することができない。(民法705条)

弁済者が債務の不存在を知りながら弁済した場合は自ら不合理な行動をして損失を招いたのだから、そのような者を不当利得制度で保護する必要がないという理由だ。

債務者が弁済期にない債務の弁済として給付をした時は、その給付をしたものの返還を請求することができない。(民法706条本文)

期限前であっても債務者に債務が存在している以上は給付を受けた債権者に不当利得が成立しないことは当然だからだ。

ただし民法は例外的に債務者が期限の未到来なことを知らずに誤って弁済をした場合にのみ不当利得相当額の返還を請求できるようにした。(民法706条但書)

債務者でない者が錯誤によって他人の債務の弁済をした場合に債権者が善意で証書を滅失させ若しくは損傷し担保を放棄し、または時効によってその債権を失った時は、その弁済をした者は返還の請求をすることができない。(民法707条1項)

不法な原因のために給付をした者は、その給付をしたものの返還を請求することができない

ただし不法な原因が受益者にのみ存する時は返還請求ができる。(民法708条)

不法とは単に強行法規に反するだけでは足りず公序良俗(民法90条)に反することを要する。

3不法行為

①不法行為とは

ケース1
Aは自己の所有する乗用車を運転中、ハンドル操作を誤り近くを通行中の歩行者Bをはね負傷させた。

不法行為とは故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を違法に侵害して損害を加える行為をさす。(民法709条)

不法行為制度が設けられた趣旨は
(1)被害者を救済すること
(2)将来の不法行為の抑止
(3)損害の公平な分担という点にある。

②不法行為の要件

不法行為は以下の5つの要件をすべて満たすと成立する。

[不法行為の要件]
故意・過失
過失責任の原則に基ずく
責任能力
自己の行為が違法なものとして法律上非難されるものであることを弁識(判断)する能力があること
権利または法律上保護される利益の侵害
権利および権利とまで言えなくても法律上保護される程度の利益であれば保護の対象となる、また違法性阻却事由がないこと
※違法性阻却事由…正当防衛や緊急避難など一般的には違法と評価できる行為について特に違法性を否定する事由のこと。
損害の発生
財産的損害と非財産的損害とに分かれる
行為と損害の間の因果関係
ある原因行為がなければ、その結果が生じなかったという「条件関係」を前提にして、その行為があれば通常そのような結果が発生したであろうと一般的に予見できるという「相当因果関係」がある場合に認められる

③不法行為による損害賠償

不法行為が成立すると加害者には被害者に対する損害賠償義務が発生する。

賠償は原則として金による賠償であり(民法722条1項)例外として名誉や信用が毀損された場合には原状回復(民法723条)も認められる。

原状回復の方法としては裁判所が被害者の請求により損害賠償に代えてまたは損害賠償とともに名誉を回復するのに適用な処分を命ずることができる。

損害賠償請求権は損害の発生時に発生する。

加害者が賠償すべき損害の範囲は加害行為と相当因果関係に立つ損害だ。(民法416条類推適用)

損害の公平な分担を図るために損益相殺過失相殺という制度がある。

[損益相殺・過失相殺]
損益相殺
損害を受けながら他方で支出すべき費用の支出を免れたというように同一の原因によって利益を受けている場合に、この利益を損害額から控除して賠償額を算定すること。
過失相殺
被害者側にも過失があった場合に損害賠償額の算定にあって、その事情を考慮すること。→裁判所は被害者に過失があった時は、これを考慮して損害賠償の額を定めることができる。

不法行為の被害者が生きている場合は被害者本人が自己の受けた損害について賠償を請求できる。

被害者が死亡した場合には被害者の相続人が被害者の損害賠償請求権を相続して行使することができる。

また被害者の父母、配偶者および子は自己の財産権に関する損害の賠償や自己の精神的損害について賠償請求することができる。(民法711条)

胎児は損害賠償の請求権については、すでに生まれたものとみなされる。(民法721条)

胎児はまだ生まれてないので権利能力がなく損害賠償請求できないはずだ。

しかし生まれた後に不法行為があった場合には損害賠償が請求できることを考えると僅かな差で保護されるか否かが決まっては悲哀だ。

そこで胎児の利益保護のため生まれたものとみなして損害賠償請求権を取得させるのだ。

時間の経過によって責任の有無や損害額の立証や確定が困難になるから時効期間を定めている。(民法724条)

[損害賠償請求権の消滅]
誰が
被害者または、その法定代理人が
いつから
(1)損害および加害者を知った時から3年間行使ない時(消滅時効)
(2)不法行為の時から20年を経過したとき(除斥期間)

④特殊の不法行為

不法行為責任は過失責任者着と自己責任の原則を根底に定められた制度だ。

しかし科学の進歩や社会の高度に複雑化した現代では、これらの原則を修正しなければ特に被害者の救済をするという点で不十分な場面が生じてきた。

そこで、このような社会の進展に合わせて一般の不法行為とはことなった、さまざまな形態の不法行為責任が定めている。

これが特殊の不法行為だ。

他人に損害を加える行為をしても加害者が幼児や児童などの責任無能者であれば不法行為責任は負わない。

そこで、これら監督すべき法定の義務を負う監督義務者や代理監督者は責任無能力者が大遺産者に加えた損害を賠償する責任を負う。(民法714条1項本文)

監督義務者には親権者や未成年後見人が該当し代理監督者には幼稚園や小学校の保育士や教員などが該当する。

これら監督義務者等は自らが監督義務を怠らなかったことやその義務を怠らなくとも損害が生ずべきであったことの立証ができれば責任を免除される。(民法714条1項但書)

ケース2
Aタクシー会社に勤務する運転手Bは勤務中に前方不注意が原因で近くを通行中の歩行者Cをはね負傷させた。

ある事業のために他人を使用する者は被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。(民法715条1項本文)

これを使用者責任という。

ケース2におけるAタクシー会社のような使用者は運転手Bにような被用者を従事させることによって利益を上げている。

したがって被用者が事業の執行について第三者に損害を与えた場合には使用者もその責任を負うべきという考え方に基づき責任規定が設けられている。

使用者側は被用者の選任および事業の監督について相当の注意をしたこと、または相当の注意をしても損害が生じたことの立証をすれば責任が免除される。(民法715条1項但書)

一般に使用者が被用者の選任および監督につき相当の注意をしたこと等を立証することは困難だ。

そのため使用者責任は事実上無過失責任に近いといわれている。

請負契約における注文者は請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない

ただし注文または指図においてその注文者に過失があった時は賠償責任を負う。(民法716条)

ケース3
甲ビルの所有者Aは甲を英会話スクールBに賃貸していた。

BはAの承諾を得て甲の外壁に看板を設置していたところ、この看板が落下し付近を通行中のCに当たりCが負傷した。

土地の工作物の設置または保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じた時は、その工作物の占有者は被害者に対してその損害を賠償する責任を負う

ただし占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をした時は所有者がその損害を賠償する責任を負う。(民法717条1項)

土地の工作物とは人工的な作業によって土地に接着して設置されたものをいう。

建物などの土地の工作物は崩壊による危険をもたらす可能性が高く民法はそうした危険性のある土地工作物を支配している者(占有者や所有者)に損害賠償責任を負わせている。

土地工作物の瑕疵を原因として損害が発生した場合は貸借人などの占有者がまず第一次的に工作物の瑕疵から生じた損害について責任を負う。

しかし自ら損害の発生を防止するのに必要な注意をしたことが証明できた場合は占有者は免責される。

この場合は二次的に土地工作物の所有者が損害賠償責任を負う。

この所有者の責任は無過失責任だ。

ケース4
A社とB社は同一の河川の流域で工場を稼働させており、それぞれ処理済みの排水を河川に流していたところ両社の排水を含む河川の水がC所有の水田に流れ込みCは米を収穫することができなくなった。

数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えた時は各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う

共同行為者のうち、いずれの者がその損害を加えたかを知ることができない時も同様に責任を負う。(民法719条1項)

たとえばケース4の場合に不法行為の自己責任原則を貫くとA社およびB社は、それぞれ自己の行為と因果関係にある損害についてのみ賠償責任を負うことになる。

しかし、どちらの建物が流した排水が原因で損害が生じたかはっきりしない場合には因果関係が確定できないため、Cはいずれの会社にも責任を追及できないことになる。

そこで不法行為を共同で行った加害者が複数いる場合は加害者各人が被害者に対して共同不法行為と因果関係にある全損害について連帯して賠償責任を負うことになる。

その結果、被害者は全損害について加害者のうち一人に対して損害賠償請求ができるだけでなく同時または順次に全員に対して損害賠償請求することもできる。

なお行為者を教唆した者や幇助した者も共同行為者とみなされ連帯して責任を負う。(民法719条2項)

※教唆…他人をそそのかして不法行為を実行する意思を決定させること。

※幇助…不法行為の実行を容易にさせる行為をすること。

3章 民法 レッスン19 親権

学習のポイント
夫婦財産契約がない場合に夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は共有に属するものと指定される。
実子について嫡出子となる場合と嫡出でない子となる場合とを理解する。
養子について普通養子と特別養子の違いおよび特別養子となることができる要件を整理する。

親族の範囲

①親族法の対象

親族法とは親族関係をめぐる諸問題の解決基準を定める法分野のことだ。

親族法は身分関係を規律する。

身分とは親、子、夫、妻といった親族法での特定の地位をさす。

その特定の地位に基づいた親族法上の権利を身分権という。

身分上の法律効果を発生させる法律行為を身分行為という。

身分行為には以下のような特徴がある。

[身分行為の特徴]
要式性
婚姻、離婚や縁組など身分の創設や廃止を目的とする行為には届出が必要
必要とされる能力
身分行為では契約等の財産的法律行為の場合ほど高度な能力は必要ない。
意思の尊重
財産的法律行為における第三者保護規定のような修正はない
無効および取消し
身分行為では意思表示の規定の適用がない
代理の禁止
身分行為ではなるべく本人の意思を尊重すべきであり原則として代理は許されない

②親族の範囲

親族とは6親等内の血族配偶者3親等内の姻族をさす。(民法725条)

血族
(自然血族)自然血族関係は出生によって発生し死亡(失踪宣言)によって終わる。
(法定血族)法定血族関係は養子縁組によって発生し死亡、婚姻の取消し、離婚によって終わる。
配偶者
配偶者関係は婚姻によって発生し死亡、婚姻の取消し、離婚によって終わる。
姻族
姻族関係は婚姻により夫婦の一方と他方の血族との間で発生し離婚および婚姻の取消しによって終わる。
婚姻

①婚姻とは

婚姻とは婚姻意思があり婚姻障害事由がない者同士による婚姻届を提出した男女の関係をさす。

婚姻は形式的な要件実質的な要件の両方を満たして成立する。

婚姻は戸籍法の定めるところにより届け出ることでよって効力を生じる。(民法739条1項)

婚姻の実質的な要件は
(1)婚姻意思の合致
(2)婚姻障害事由がないことに分かれる。

婚姻意思としては婚姻届を出す意思のみならず夫婦として共同生活を送る意思も大事だ。

[婚姻障害事由]
婚姻適齢
男は18歳、女は16歳にならなければ婚姻できない。(民法731条)
重婚の禁止
配偶者のある者は重ねて婚姻することはできない。(民法732条)
再婚禁止の期間
女は前婚の解消または取消の日から6か月を経た後でなければ原則として再婚できない。(民法733条1項)
近親者の婚姻禁止
直系血族または3親等内の傍系血族の間では婚姻を認めない。(民法734条1項本文)
直系姻族間の婚姻禁止
直系姻族の間では婚姻できない。(民法735条)
養親子間の婚姻禁止
養子もしくはその配偶者または養子の直系卑属もしくはその配偶者と養親またはその直系尊属との間では離縁で親族関係が終わった後も婚姻はできない。(民法736条)
未成年者の婚姻への父母の同意
未成年の子が婚姻をするには原則として父母の同意がいる。(民法737条)

なお成年被後見人は成年後見人の同意がなくても婚姻できる。(民法738条)

婚姻に瑕疵がある場合は婚姻が無効になったり婚姻を取り消せる。

[婚姻の無効および取消]
婚姻の無効(民法742条)
(1)当事者に婚姻意思がない
(2)婚姻の届出をしない
婚姻の取消し
(1)婚姻障害事由に該当する(民法744条)
(2)詐欺または強迫による婚姻(民法747条)

なお財産的法律行為の取消しと異なり婚姻取消しの効果は遡及しない。(民法748条1項)

②婚姻の効力

婚姻後は男女は法律上も夫婦になり身分上の効力と財産上の効力が生じる。

[身分上の効力]
夫婦の同氏
夫婦は婚姻の際に定めるところに従い夫または妻の氏を称する。(民法750条)
同居・協力・扶助義務
夫婦は婚姻により共同生活を営むから夫婦は同居し互いに協力して扶助しなければならない。(民法752条)
成年擬制
所帯を構えて独立するに逐一親の同意が必要となるのでは困るため未成年者が婚姻したときは成年に達したとみなされる。(民法753条)
夫婦間の契約取消権
夫婦間でした契約は婚姻中いつでも夫婦の一方から取消すことができる。(民法754条)ただし第三者の権利を害する事は出来ない。

婚姻前に夫婦それぞれが有していた財産、婚姻中に取得した財産の扱いや共同生活にかかる費用の負担などについて問題が生じる。

これに民法は夫婦財産制という制度を設けている。

民法は婚姻の届出前に夫婦間で夫婦財産契約を締結した場合は、この契約に従うとしている。

夫婦財産契約を締結してない場合は民法が定める基準に従い処理される。(法定財産制

[法定財産制]
夫婦別産制
夫婦の一方が婚姻前から有する財産や婚姻中に自己の名で得た財産はその者の特有財産とされる一方、夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は共有に属するものと推定される。(民法762条)
婚姻費用の分担
夫婦は、その財産、収入その他一切の事情を考慮して婚姻費用を分担する。(民法760条)
日常家事債務
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは他の一方は生じた債務について連帯して責任を負う。ただし第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。(民法761条)

③婚姻の解消

婚姻の解消とは有効に成立した婚姻が法定の事由で消滅する事をさす。

婚姻は
(1)一方当事者の死亡
(2)失踪宣告
(3)離婚
などにより解消する。

離婚について民法は協議上の離婚と裁判上の離婚などを定めている。

協議上の離婚は協議、つまり離婚の意思の合致により行う離婚だ。(民法763条-769条)

裁判上の離婚は離婚の訴えを提起し判決により婚姻を解消することだ。(民法770条、771条)

[離婚の効果]
復氏
婚姻によって氏を改めてた夫または妻は離婚すると婚姻前の氏に復する。ただし離婚の日から3か月以内の届出によって離婚後も離婚前に称した氏を称することができる。(民法767条)
財産分与
離婚した者の一方は相手方に対して財産の分与を請求することができる。(民法768条)

親子

親子の関係は血のつながった自然血族関係に基づくものと法律上親子とされる関係つまり法定血族関係に基づくものとに分かれる。
①実子

実子とは自然血族関係に基づく親子関係をさす。

実子はさらに嫡出子嫡出でない子に分かれる。

嫡出子とは婚姻関係にある男女間に懐胎し生まれた子をさす。

嫡出子であることの証明が困難な場合があるため民法は一定の要件を満たす子を嫡出子と推定する旨の規定を設けている。

したがって嫡出子は推定される嫡出子推定されない嫡出子に分かれる。

また、この嫡出の推定を否認するなど親子関係についての争いは訴えの方法によらなければならない。

これらをまとめると下記の通りとなる。

[嫡出子の種類と各種の訴え]
種類
推定された嫡出子
内容
妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定され婚姻の成立の日から200日を経過した後または婚姻の解消・取消の日から300日以内に生まれた子は婚姻中に懐胎したものと推定される。(民法772条)
訴え
嫡出の推定を否認するには嫡出否認の訴えによらなければならない。(民法775条)
種類
推定の及ばない嫡出子
内容
婚姻中に懐胎したものと推定される期間内に生まれたが妻が夫によって懐胎することが不可能な事実があるときに生まれた子には嫡出の推定が及ばない。
訴え
父子関係を否定するには親子関係不存在確認の訴えによる。
種類
二重の推定が及ぶ場合
内容
再婚禁止期間に違反した婚姻の届出が誤って受理された場合に前婚の解消・取消の日から300日以内でかつ後婚の成立日から200日後に妻が子を生んだ場合は嫡出の推定が二重に及び父を定めることができない。
訴え
子の父が前夫が後夫かは父を定めることを目的とする訴え(民法773条)により裁判所が決定する。
種類
推定されない嫡出子
内容
婚姻成立後200日以内に生まれた子または婚姻解消・取消の日から300日後に生まれた子は上記の推定を受けない。
訴え
父子関係を否定するには親子関係不存在確認の訴えによる。

嫡出でない子(非嫡出子)とは婚姻関係にない男女間に生まれた子をさす。

嫡出でない子については母と子の親子関係自体は分娩の事実で発生するので明確だが父と子の親子関係は認知によってはじめて発生する。

認知(民法779条)
認知があれば親子関係が発生し親子の間に認められる効果が発生することになる。認知の効力は出生時に遡って発生する。(民法784条本文)
任意認知)父が認知届を出すことで行う認知
強制認知)父からの任意認知がない場合に子が父に対して認知の訴えをおこなうもの。
準正(民法789条)
非嫡出子が父母の婚姻によって嫡出子となること。認知の時期と婚姻の時期との先後により2つの種類がある。
婚姻準正)認知された子の父母が婚姻する場合
認知準正)父母の婚姻後に子が認知された場合

②養子

養子とは法定血族関係に基づく親子関係をさす。

つまり養子縁組によって養親の摘出子としての身分関係を取得した者だ。

養子には実方との親子関係が残る普通養と断絶する特別養子がある。

普通養子
(1)縁組意思の合致および
(2)縁組障害事由がないことが実質的要件と
(3)養子縁組の届出という形式的要件
を満たす場合に成立する。

[縁組障害事由]
(1)養親が成年に達してないこと(民法792条)
(2)養子となる者が専属または年長者であること(民法793条)
(3)後見人が被後見人を養子とする場合は家庭裁判所の許可が必要(民法794条)
(4)未成年者を養子とする場合
①原則として家庭裁判所の許可が必要であるが自己または配偶者の直系卑属を養子とする場合には不要(民法798条)
②配偶者のある者が未成年者を養子とするには原則として夫婦が共同して縁組しなければならないが配偶者の摘出子を養子とする場合および配偶者が意思表示できない場合は夫婦の一方のみが単独で未成年者と縁組できる。(民法795条)
(5)配偶者がある者が縁組をする場合は原則として配偶者の同意が必要であるが配偶者とともに縁組する場合および配偶者が意思表示できない場合は同意は不要。(民法796条)

特別養子とは原則として6歳未満の子について必の父母による監護が著しく困難または不適当であること、その他特別の事情があり、その子の利益のために特に必要があると認められる場合に家庭裁判所の審判により養親子関係を創設し、これにより養子と実方の父母および血族との親子関係が原則として終了する養子縁組をさす。

[特別養子制度の特徴]
形式的要件
養親となる者の請求による家庭裁判所の審判
実質的要件
(1)養親共同縁組の原則(民法817条の3)
原則として養親となる者が配偶者のある者であり夫婦が共同して縁組することが必要であるが夫婦の一方が他方の摘出子の養親となる(連れ子を特別養子とする)場合は夫婦の一方のみが単独で縁組できる。
(2)養親となる者の年齢(民法817条の4)
原則として満25歳以上でなければならないが夫婦の一方が25歳以上である場合は他方は20歳以上であればよい。
(3)養子となる子の年齢(民法817条の5)
原則として6歳未満でなければならないが6歳に達する前から継続して監護養育されてきた場合は8歳未満であればよい。
(4)実方の父母の同意(民法817条の6)
原則として実方の父母の同意が必要である。しかし
(ア)父母が同意の意思表示をできない場合または
(イ)父母による虐待、悪意の遺棄その他養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合は同意は不要である。
効果
(1)養子縁組一般の効果
→摘出子たる身分の取得
(2)特別養子縁組特有の効果
→特別養子と実方の父母および血族の間の親族関係の終了(民法817条の9)
離縁
原則として認められないが養親による虐待、悪意の遺棄その他養子の利益を著しく害する事由があり、かつ実父母が相当の監護をすることができる場合で養子を利益のために特に必要があると認められるときは家庭裁判所の審判で離縁させることができる。(民法817条の10)

③親権

親権とは親である父母が未成年の子を養育するために子の監護・教育や財産管理について親が子に対して行使する権利および義務の総称だ。

[親権を行使する者(民法818条)]
実子
実父母の双方または一方
養子
養父母

扶養

扶養とは特定の親族的な身分関係にあるもの双方に義務づけられる経済的給付だ。

直系血族および兄弟姉妹は互いに扶養する義務がある。(民法877条1)

3章 民法 レッスン20 相続

学習のポイント
法定相続人となる者の範囲とその順位、これらの者の法定相続分を整理する。
遺留分権利者とその割合を整理する。
相続の承認・放棄の種類およびその意味と、それぞれの手続を理解する。
遺言の各方式と遺言が効力を生ずるための要件を整理する。

相続の意味

①相続とは

相続とは特定の個人が死亡した時に、その者の有する権利および義務がその者と一定の親族関係に立つ者に包括的に承継されることをさす。

相続は死亡によって開始する。(民法882条)

死亡には自然死亡と失踪宣告によって擬制された死亡の2つがある。

相続が開始される場所は被相続人の住所だ。(民法883条)

被相続人の財産に属した一切の権利および義務が相続の対象となる。

財産には預金や不動産といった積極的な財産のみならず金銭債務など消極的な財産も含まれる。

また財産に限らず財産上の法律関係や法律上の地位も承継される。

たとえば被相続人が不法行為の被害者であれば相続人は慰謝料請求権も相続する。

ただし被相続人の一身に属したものは承継されない

たとえば委任契約上の権利義務や使用貸借における借主の地位などは相続により承継されない

②相続回復請求権

相続回復請求権とは真正の相続人でない表見相続人が相続人であると称して真正の相続人に帰属するべき相続財産を占有している場合に真正の相続人から表見相続人に対しその返還を請求する権利だ。(民法884条)

相続人

①法定相続人

相続が開始され遺言がない場合は法律で定められる者が相続人となる。

民法は誰がどのような順位で相続人となるか以下の通り定めている。(民法887条-890条)

[法定相続人とその順位]
第1順位
)実子と養子、嫡出子と嫡出でない子のすべてを含む
胎児は相続についてはすでに生まれたものとみなす
第2順位
直系尊属)被相続人に子がいない場合は被相続人の父母が相続人となる
※子も父母もいなければ被相続人の祖父母が相続人となる
第3順位
兄弟姉妹)被相続人に子も直系尊属もいない場合は被相続人の兄弟姉妹が相続人となる
配偶者は常に相続人となる。
※内縁の関係にある者は配偶者にあたらない。
②代襲相続

代襲相続とは被相続人の死亡以前(同時も含む)相続人となるべき子や兄弟姉妹が死亡しまたは欠格や廃除により相続権を失ったときに、その者の子がその者に代わって、その者が受けるはずだった相続分を相続する制度だ。(民法887条2項、889条2項)

なお相続放棄は代襲原因とはならない
また代襲者の子は更に代襲して相続人となることができる。

これを再代代襲相続という。(民法887条3項)

しかし兄弟姉妹を代襲した者(被相続人の甥・姪)の子は再代襲相続をしない。(民法889条2項)

③相続失格および廃除

相続欠格とは被相続人や他の相続人に対して民法の定める一定の悪質な行為をなし、またはしようとした者から相続人となる資格を奪う制度をさす。(民法891条)

また廃除とは被相続人からみて遺留分を有する推定相続人に相続させたくないと考えるような悪い行為がありかつ被相続人がその推定相続人に相続させたくないと考える場合に被相続人の請求に基づき家庭裁判所の審判によって相続権を奪う制度をさす。(民法892条-895条)

相続の効力

①相続分

相続分とは共同相続において各相続人が相続財産を承継する割合をさす。

各相続人の相続分は、ますは被相続人の意思により遺言で定めることができる

これを指定相続分という。(民法902条)

この指定相続分がなければ民法の定める相続分によるところとなる。

これを法定相続分という。(民法900条)

[法定相続分(配偶者と相続順位)]
配偶者と子
配偶者 :1/2 
子   :1/2
(1)子(養子、胎児含む)が複数いる場合その相続分は等分
(2)非嫡出子の相続分は嫡出子の1/2
配偶者と直系尊属
配偶者  :2/3 
直系尊属 :1/3
直系尊属が複数いる場合その相続分は等分
配偶者と兄弟姉妹
配偶者  :3/4 
兄弟姉妹 :1/4
(1)兄弟姉妹が複数いる場合その相続分は等分
(2)父母の一方を異にする兄弟姉妹の相続分は双方を同じくする者の1/2
相続人の組合せと法定相続分を押さえておく
②遺留分

遺留分とは相続人の生活安定のため相続財産の一定割合を一定の範囲の相続人に最低限相続することが保障されている部分をさす。(民法1028条-1044条)

被相続人による財産の処分の自由と相続人の生活の安定との利害を調整する観点から定めた制度だ。

遺留分を有する者を遺留分権利者という。

遺留分権利者と相続財産全体に対して有する遺留分の割合は以下の通りだ。

なお兄弟姉妹に遺留分はない

[遺留分利権者と遺留分の割合]
【直系尊属のみが相続する場合】
1/3
【配偶者が相続する場合】
1/2
【子が相続する場合】
1/2
【配偶者と子が相続する場合】
1/2
【配偶者と直系尊属が相続する場合】
1/2

遺留分も個人的な財産権だから本来は事前に放棄できるはずだ。

しかし無制限に放棄することを認めると、たとえば被相続人が、ある特定の相続人に放棄を強要するかもしれない。

そこで遺留分の放棄を相続開始前にするには家庭裁判所の許可が必要とされている。(民法1043条)

遺留分減殺請求権とは遺留分を有する者が遺贈および相続開始前1年間になされた贈与の効力を遺留分を保全するのに必要な範囲で否定する権利をさす。(民法1031条)

遺留分減殺請求権は受遺者または受贈者に対する意思表示で行える

必ずしも裁判上の請求による必要はない

③遺産の分割

遺産の分割がなされるまでは相続財産は相続人の共有となる。(民法898条)

遺産の分割とは相続開始とともに共同相続人の共同所有となっている相続財産を個別に各相続人のものとする手続きをさす。

遺産分割は遺言、共同相続人の協議または家庭裁判所の審判によって一定期間禁止できる。(民法907条3項、908条)

ただし遺言、協議による禁止の期間は5年を越えられない

また協議による禁止の場合は5年以内であれば更新が可能だ。(民法256条2項)

遺産分割の効果は相続開始時にさかのぼって生じる。(民法909条)

ただし遺産分割前に相続財産に利害関係をもった第三者の権利を害することはできない。

なお、この第三者が保護されるためには登記をしていることが必要だ。

[遺産分割の方法]
指定分割
被相続人が遺言で分割方法を指定する方法(民法908条)
被相続人が自ら指定するか相続人以外の第三者に分割方法の指定を委託することになる。
協議分割
共同相続人が協議によって分割する方法(民法907条1項)
審判分割
遺産分割について協議が整わないとき、または協議ができないとき各共同相続人は遺産分割を家庭裁判所に請求できる(民法907条2項)

相続の承認および放棄

相続財産といっても必ずしも積極財産ばかりとは限らない。

借金等の消極財産が存在することもある。

消極財産の方が積極財産を上回っている場合は相続人にとっては思わぬ負担になる。

また、たとえ積極財産が多かったとしても遺産をもらうこと自体を潔しとしない人もいるだろう。

そこで民法は相続の承認および放棄の制度を設けた。

つまり相続人には一応生じている相続の効果を確立させるか否かを決定する自由を与えられている。

①単純承認

単純承認相続人が被相続人の権利および義務を無限に相続することをさす。(民法920条)

単純承認は相続人の意思表示により行うことができるが単純承認の意思表示をしなくても以下の行為を行えば単純承認をしたものとみなされる。(民法921条)

これを法定単純承認という。

(1)相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき
(2)自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に限定承認または放棄をしなかったとき
(3)限定承認または放棄の後で相続財産の全部または一部を隠匿し私用に消費し悪意で相続財産目録にきさいしなかったとき。ただし、その相続人が相続を放棄したことによって相続人となった者が相続の承認をした後は単純承認とならない
②限定承認

限定承認とは相続によって得た財産(積極財産)の範囲内で被相続人の債務や遺贈を弁済すると留保して相続を承認することだ。(民法922条)

相続人が複数いる場合には限定承認は共同相続人の全員が共同してのみすることができる。(民法923条)

③相続の放棄

相続の放棄被相続人の権利および義務を一切相続しないことをさす。

相続を放棄した者は、その相続に関しては、はじめから相続人とならなかったとみなされる。(民法939条)

つまり相続放棄がなされると相続人は相続開始時にさかのぼって、はじめから相続しなかったのと同じ立場に置かれる。

なお遺留分の放棄と違い相続の放棄は相続開始前にすることはできない
[限定承認と相続放棄に共通な要件(民法915条、924条、938条)]
(1)相続開始があったことを知った時から3か月以内
(2)家庭裁判所に申述しなければならない

遺言

①遺言とは

遺言とは一定の方式で示した死後における財産上の権利や義務について個人の意思に死後その効力を発生させるものをさす。

個人は自分が死んだ後の財産をどうするか、その行方について自分の意思で自由に決めることができる。

これを遺言自由の原則という。

その遺言者の最終的な意思を尊重して一定の事項について遺言者の死後の法律関係が遺言で定められたとおりに実現していくことを法律が保証したのが遺言制度だ。

遺言は要式行為であり民法に定める方式に従わなければすることができない。(民法960条)

※要式行為…決められた方式に従わなければ効力が認められない法律行為

遺言は本人の独立した意思に基づいてなされる必要がある。

遺言は遺言者の最終的な意思を尊重し、できるだけ実現しようとする制度だから他人の干渉を受けるべきではない。

したがって代理による遺言は許されない

また遺言には制限行為能力制度の適用もない

制限行為能力者は以下の要件を備えれば遺言をすることができる。

[制限行為能力者の遺言]
未成年者
15歳に達した者は単独で遺言ができる(民法961条)
成年被後見人
事理を弁識する能力を一時回復した時において医師二人以上の立会いの下で遺言ができる(民法973条1項)
被保佐人・被補助人
保佐人、補助人の同意を得ずに単独で遺言できる(民法962条)

遺言は何時でも遺言の方式に従って遺言を撤回することができる。(民法1022条-1027条)

そのため遺言は二人以上の者が同一の証書ですることができない。(共同遺言の禁止、民法975条)

なお遺言は相手方のない単独行為という性質をもつ。

したがって遺言で他人に財産を処分する遺贈は贈与者の死亡によって効力が生ずる契約である死因贈与(民法554条)とは異なる。

[死因贈与と遺贈]
死因贈与
(法的性質)契約:受贈者の承認が必要
(未成年者)単独ではできない
(代理)可能
遺贈
(法的性質)単独行為:受贈者の承認が不要
(未成年者)15歳に達していれば単独でできる
(代理)不可

②遺言の方式

遺言は所定の方式に従って意思表示をしなければ効力が発生しない。(民法960条)

民法は遺言者が遺言をする際の状況に応じて7つの方式を定めている。

方式は大別して(1)普通方式(2)特別方式とがある。
[普通方式:各遺言の比較]
直筆証書遺言
定義)遺言者が全文、日付、氏名を自書し、これに押印して作成する遺言(民法968条1項)
証人の要否)不要
署名押印)本人のみ
印鑑の指定)なし
本人筆記の要否)必要
検認の要否)必要
保管)特に定めなし
秘密証書遺言
定義)遺言者が遺言証書に証明・押印のうえ封印し、その封紙に公証人が所定の記載をしたうえ、公証人、遺言者および2人以上の証人が署名・押印した遺言(民法970条)
証人の要否)2人以上必要
署名押印)本人、公証人、証人
印鑑の指定)本人は実印、証人は認印でも可
本人筆記の要否)本人または第三者でも可
検認の要否)必要
保管)特に定めなし
公正証書遺言
定義)2人以上の証人の立会いを得て遺言者が公証人に遺言の趣旨を口授し、公証人がこれを筆記して遺言者および証人に読み聞かせ、または閲覧させて遺言者および証人が筆記の正確なことを承認した後、各自がこれに署名・押印し公証人が方式に従って作成した旨を付記して署名・押印する方式をとる遺言(民法969条)
証人の要否)2人以上必要
署名押印)本人、公証人、証人
印鑑の指定)本人は実印、証人は認印でも可
本人筆記の要否)公証人が書くので不要
検認の要否)不要
保管)公証人が保管

③遺言の効力

遺言は遺言者の死亡の時から効力を生じる。(民法985条1項)

遺言に停止条件をつけた場合で、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは遺言は条件が成就した時から効力が生じる。(民法985条2項)

遺贈とは遺言で財産を処分することだ。

遺言者は包括または特定の名義で、その財産の全部または一部を処分することができる。

ただし遺留分に関する規定に違反することはできない。(民法964条)

[遺贈の種類]
包括遺贈
包括的に全部または一定割合でなされる遺贈のこと。受遺者は相続人に似た状況となるため相続人と同一の権利義務を有するとされる(民法990条)
特定遺贈
特定の財産についてなされる遺贈のこと

包括遺贈の放棄
受遺者は自己のために包括遺贈があったことを知った時から3か月以内に放棄できる(民法990条、915条)
特定遺贈の放棄
受遺者は遺言者の死亡後いつでも放棄できる(民法986条1項)

④遺言の執行

遺言の執行とは遺言者の死亡後、遺言の内容を実現するため必要な行為を行う手続のことだ。

遺言により1人または数人の遺言執行者を指定し、またはその指定を第三者に委託することができる。

⑤遺言の撤回

遺言者は、いつでも自由に遺言の全部または一部を遺言の方式に従って撤回することができる。(民法1022条)

これは遺言者の最終的な意思決定を尊重するためだ。

遺言者は遺言を撤回する権利を放棄できない。(民法1026条)

前になされた遺言が後の遺言と抵触するときは抵触する部分について後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。(民法1023条1項)

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

ユーキャンの行政書士通信講座
価格:63000円(税込、送料無料) (2021/9/18時点)


4章 商法 レッスン1 商法総論・商行為

学習のポイント
商人の定義を理解し商行為の種類とそれぞれの内容を理解する。
商業登記が取引社会で果たす役割と、その効力を理解する。
商号に伴う信用等を信じて取引した者を保護する制度を整理する。
商業使用人や代理商がそれぞれ、どのような権限を有し、どのような義務を負うかを整理する。

商法の法源

商法の法源には(1)商事制度法(2)商習慣法がある。

【商法の法源】
(1)商事制定法
      商法
      商事特別法
        商法施行法
        会社法
        手形法 etc.
(2)商習慣法

[商法の法源の適用順位]
(1)商事制定法:商法
 ↓(1)に規定がないときは
(2)商習慣法
 ↓(2)がないときは
(3)民法

商人

①商人とは

商人とは自己の名をもって商行為をすることを業とする者をさす。(商法4条1項)

この商人の定義にそのまま当てはまる者を固有の証人という。

これに対し商行為をすることを業としなくても一定の者は商人とみなされる。

すなわち店舗その他これに類する設備によって物品を販売することを業する者または鉱業を営む者は商行為を行うことを業としない者であっても商人とみなされる。(商法4条2項)

これを擬制商人という。

なお未成年であっても商人となることはできる。(商法5条)

ただし営業を行うためには登記をしなければいけない。

②商行為

商行為とは商人が行う行為をさす。

商行為は基本的商行為と附属的商行為に分かれる。

基本的商行為には絶対的商行為営業的商行為がある。

絶対的商行為とは行為の性質から誰が行っても営業としてでなく1回限り行われた時でも当然の商行為となる行為だ。

[絶対的商行為の例]
絶対的商行為
(1)投機購買とその実行
スーパーマーケットやコンビニエンスストアの販売行為などのように安く仕入れて(有償取得)高く売り利益を得る行為
(2)投機売却とその実行
あらかじめ高値で販売する約束をして動産などを安値で仕入れ利益を得る行為
(3)取引所においてする取引
有価証券などが大量に売買される市場つまり取引所で取引を行う行為
(4)手形その他の商業証券に関する行為
手形の振出しなど手形その他の商業証券に関する行為

営業的商行為とは営利の目的で継続的になされる時に初めて商行為とされる行為だ。

[営業的商行為の例]
営業的商行為
(1)投機貸借とその実行
不動産の賃貸業にように賃貸目的で不動産や動産を有償取得し、それを賃貸する行為
(2)他人のための製造または加工に関する行為
他人から材料の給付を受けて、これに製造または加工することを引き受け、これに対して報酬を受領することを約束する行為(グリーニング業など)
(3)電気またはガスの供給に関する行為
(4)運送に関する行為
物品や旅客の運送を引き受ける行為
(5)作業または労務の請負
土木業や建設業のように不動産上の工事を請け負う行為や労働者派遣業のように作業員その他の労働者の供給を請け負う行為
(6)出版、印刷、撮影に関する行為
(7)客の来集を目的とする場屋の取引
ホテル、映画館、遊園地、レストランなど公衆が来集するのに適する物的・人的設備を設けて利用させる行為
(8)両替その他の銀行取引
(9)保険
保険者が保険契約者から対価を受けて保険を引き受ける行為
(10)寄託の引き受け
倉庫業にように他人のために物の保管を引き受ける行為
(11)仲立ち・取次ぎ
仲立ちとは他人間の法律行為の媒介を引き受ける行為(宅地建物取引業など)をいう。取次ぎとは自己の名をもって他人の計算委おいて法律行為をすることを引き受ける行為(運送取扱人、問屋まど)をいう。
(12)商行為の代理の引受け
委託者のために商行為となる行為の代理を引き受ける行為
(13)信託の引受け

附属的商行為とは商人が営業のためにする補助的な行為をさす。

基本的商行為と違い行為自体に営利性はないが営業の手段として行うため商法を適用する。

例として営業資金を充てるため金融機関から借入れをする行為があげられる。

③商行為の特則

商人が行う取引は私たち一般人の行う取引と比べて以下のような特徴がある。

すなわち商人の取引は営利るまり利潤を上げることを目的として行われる。

最大限の利潤を獲得するためには反復継続して大量に取引ができる仕組みが求められ民法とは異なる取引のルールが必要となる。

そこで商法では民法で必要とされるルールを商法では不要としたり民法で定められている債権者保護を目的とする制度をより徹底したりするといった工夫がなされている。

商行為に関して定められている民法の規定とは異なる特則には以下に示すものがある。

[商行為の特則と民法の規定の比較(1)]
(1)代理に顕名は必要か
(商法)原則として不要(商法504条)
(民法)原則として必要(民法99条)
(2)数人の者がその1人または全員のために債務を負担したとき
(商法)連帯債務となる(商法511条1項)
(民法)分割債務となる(民法427条)
(3)連帯保証とする合意の要否
(商法)次の場合、合意がなくても当然に連帯保証債務となる(商法511条2項)
①債務が主たる債務者の商行為によって生じたものであるとき
②保証が商行為であるとき
(民法)連帯保証とする合意をした場合に限り連帯保証債務(民法454条)
(4)法定利率
(商法)年6%(商法514条)
(民法)年5%(民法404条)
(5)留置権
(商法)留置物と被担保債権の間の牽連性は不要(商法521条)
(民法)留置物と被担保債権の間の牽連性が必要(民法295条)
(6)消滅時効の期間
(商法)原則として5年(商法522条)
(民法)原則として10年(民法167条1項)

[商行為の特則と民法の規定の比較(2)]
(7)承諾期間の定めのない契約の申込みの効力について対話者間の処理(契約の成立①)
(商法)直ちに承諾しないと申込みは効力を失う(商法507条)
(民法)定めなし
(8)承諾期間の定めのない契約の申込みの効力について隔地者間の処理(契約の成立②)
(商法)相手方が相当の期間内に通知を発しないと撤回を待つことなく申込みは当然に効力を失う(商法508条1項)
(民法)承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過した後、申込者が撤回できる(民法524条)
(9)諾否の通知義務(契約の成立③)
(商法)平常取引をする者から自己の営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは遅滞なく諾否通知を発する義務を負い怠れば申込みを承諾したものとみなされる(商法509条)
(民法)申込みを受けても諾否の通知をする義務なし
(10)報酬請求権
(商法)商人の営業の範囲内で他人のために行為したときは相当な報酬当然に請求することができる(商法512条)
(民法)特約がなければ請求できない(民法648条等)
(11)利息請求権(消費貸借の例)
(商法)当然にあり(商法513条)
(民法)無利息が原則(民法587条)
(12)特定物の引渡し(履行の場所①)
(商法)行為の当時その物の存在した場所(商法516条)
(民法)債権発生当時その物の存在した場所(民法484条)
(13)その他の履行(履行の場所②)
(商法)債権者の営業所(営業所がなければ住所)※支店で取引がなされたときは、その支店が営業所として履行場所となる(商法516条)
(民法)債権者の現時の住所(民法484条)

商業登記

①商業登記とは

商業登記とは商法や会社法の規定に基づき商業登記法の定めに従い商業登記簿になされる登記をさす。

商人自身の利益および取引の相手方ないしは広く一般大衆の利益のために商業登記制度が定められている。

②商業登記の効力

商業登記には一般的効力不実の登記の効力とがある。

(1)一般的効力

登記すべき事項は登記後でなければ善意の第三者に対抗できないとする効力のことだ。(商法9条1項前段)

登記によって公示されない限りは事情を知っている者を除き第三者に登記事項の内容を主張できない。

反対に登記した後は原則として登記事項を善意の第三者に対しても対抗することができる。

これは登記によって第三者の悪意が擬制されるからだと解釈されている。

しかし登記後でも第三者が正当な事由によってその登記があることを知らなかった時は第三者に対抗できない。(商法9条1項後段)

(2)不実の登記の効力

故意または過失によって不実の事項を登記した者は、その事項が不実であることをもって善意の第三者に対抗することができない。(商法9条2項)

事実でない内容の登記は本来は無効のはずだが不実の登記を信頼した第三者を保護する必要があるため不実であることを第三者に対抗できないとされている。

禁反言または外観法理の考えから定めた。

※禁反言…他人にある事実を誤信させた者は、それを信じて行動した他人に対してそれと矛盾する事実を主張できない。
※外観法理…外観を信じた者を一定の場合に保護しようとする考え方。

③商業登記の手続

商人が登記所で一定の事項を申請すれば商業登記簿に登記される。

商号

①商号とその選定

商号とは商人が営業上、自己を表示するために用いる名称を指す。(商法11条1項)

そもそも商人は、どのような名称を使用して営業を行おうと本来、自由のはずだ。

そこで商法は商人がその営業の実体にかかわらず自由に商号を選定することができることとした。

これを商号選択自由の原則という。

しかし、いくら自由といっても営業主体を誤認させるような商号を使うことは許されない。

そこで何人も不正の目的をもって他の商人であると誤認される恐れのある名称または商号を使ってはいけない。(商法12条1項)

また会社については取引の相手方がどような会社であるかを認識できるよう商号の中に会社の種類を示す文字(株式会社、合名会社など)を用いなければならず他の種類の会社であると誤認される恐れのある文字を使ってはいけない。(会社法6条)

一方、会社でない者は、その名称または商号の中に会社であると誤認される文字を使ってはいけない。(会社法7条)

②名板貸人の責任

ケース1
洋菓子の製造で有名なAフーズはドーナツ専門店Bに「Aフーズ」の商号の使用を許しドーナツを製造販売させていた。
Bは「Aフーズ」の商号を使用してCスーパーにドーナツを納品していたがCスーパーは取引の相手方はAフーズだと誤認していた。

(1)名板貸人の責任

自己の商号を使用して営業または事業を行うことを他人に許諾した商人(名板貸人)は当該商人が当該営業を行うものと誤認して他人と取引をした者に対し、その他人と連帯して当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。(商法14条)

たとえばケース1ではBがCスーパーとの間の取引で負った債務についてAフーズも連帯して責任を負うことになる。

名板貸人の責任は商号に伴う信用を保護するものだから名板貸人として責任を負う者は商人に限られる。

(2)商号使用の許諾

名板貸人の責任が認定されるには名板貸人による商号使用の許諾のあることが必要だ。

この許諾は明示でも黙示でも問わない。

(3)営業または事業を行うことについての許諾

名板貸人の責任を認められるには商号を使って営業や事業を行うことに許諾が必要だ。

名板借人が取引と無関係な不法行為をした時は名板貸人は責任を負わない。

ただし不法行為といっても名板貸人が取引で詐欺行為をはたらいたような取引的不法行為では本条の適用がある。(最判S58.1.25)

③商号の譲渡

ケース2
Aドーナツ店は長年営んできたドーナツの製造・販売に関する営業をBに譲渡するにあたり「Aドーナツ」の商号も営業と共に譲渡することとした。

商人の商号営業と共にする場合または営業を廃止する場合に限り譲渡できる。(商法15条1項)

商号は長年使用することにより営業上の名声が蓄積されたり一般公衆に対する信用の証となったりするなど経済的利益を伴う場合が少なくない。

そこで商法は商号を一種の財産権ととらえ、その譲渡を認める一方、営業主体の変更を知らずに商号を使用して取引をする恐れのある一般公衆の利益を保護するため商号の譲渡につき制限を設けている。

この商号の譲渡は当事者間の意思表示のみで効力が生じるが登記をしなければ商号の譲渡を第三者に対抗はできない。(商法15条2項)

営業譲渡

①営業譲渡とは

営業譲渡とは一定の営業目的のために組織化された有機的一体として機能する財産の移転を目的とする契約をさす。

②営業譲渡の効力

(1)当事者間における効力

営業譲渡がなされると譲渡人は営業財産の移転義務を負い譲受人は対価の支払義務を負う。

また譲渡人には競業避止義務が課される。

すなわち営業を譲渡した商人は当事者間に別段の意思表示がない限り同一の市町村(東京23区や指定都市では区)の区域内および、これに隣接する市町村の区域内において、その営業を譲渡した日から20年間、同一の営業を行うことができない。(商法16条)

(2)譲渡人の債権者に対する効力

譲受人が譲渡人の商号を引き続き使用する場合と使用しない場合とで取扱いが異なる。

譲受人が譲渡人の商号を引き続き使用する場合

譲渡人の営業によって生じた債務について譲受人も弁済の責任を負う。(商法17条1項)

譲渡人の債務は譲受人に承継されないのが原則だが商号が継続使用される場合には営業譲渡を知らない譲渡人の債権者の信頼を保護する必要があるためだ。

また、この場合において譲渡人の営業上の債務者が譲受人に対してなした債務の弁済は債務者が善意無重過失であれば有効なものとされる。(商法17条4項)

譲受人が譲渡人の商号を使用しない場合

譲受人が譲渡人の営業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をした時は譲渡人の債権者は、その譲受人に対して弁済の請求をすることができる。(商法18条1項)

つまり譲受人の責任が生ずるというわけだ。

商業使用人および代理商

①商業使用人とは

商業使用人とは雇用契約によって特定の商人に従属し、かつ、その対外的な業務を補助する者をさす。

商業使用人には3種類ある。

(1)支配人(2)ある事業または特定の事項の委任を受けた使用人(3)物品の販売等を目的とする店舗の使用人だ。

②支配人とは

ケース3
A商店の営業主Bは、このたび商店の営業全般を任せるため支配人Cを選任した。

支配人とは営業主に代わり、その営業に関する一切の裁判上または裁判外の行為をなす権限(包括的代理権)を有する商業使用人のことだ。(商法21条1項)

商人(営業主)が支配人を選任した時は、その登記をしなければならない。

支配人の代理権が消滅した場合も登記が必要だ。(商法22条)

(1)支配人の代理権

商人の取引活動を円滑に進めると同時に第三者の取引の安全を図るため支配人には包括的代理権が与えられている。

(2)支配人の代理権の制限

支配人の包括的代理権に対して仮に営業主が制限を加えたとしても、これをもって善意の第三者に対抗することができない。(商法21条3項)

(3)支配人の義務

支配人は非常に広い範囲の代理権をもち、かつ営業上の機密に通じる地位を与えられているのが普通だ。

したがって、その地位を利用し営業主の取引先を奪うなどして営業主の利益を犠牲にし自己または第三者の利益を図る恐れがある。

そこで支配人には以下に示す一定の義務が課される。

[支配人の義務と禁止行為]
支配人は商人の許可を受けなければ次に掲げる行為をしてはならない。
競業避止義務
自己または第三者のためにその商人の営業の部類に属する取引を行うこと
精力分散防止義務
・自ら営業を行うこと
・他の商人または会社もしくは外国会社の使用人になること
・会社の取締役、執行役または業務を執行する社員になること

(4)表見支配人

支配人として包括的代理権を与えられてはいないが商人の営業所の営業の主任者であることを示す名称を付した使用人のことを表見支配人という。

表見支配人は当該営業所の営業に関し一切の裁判外の行為をする権限を有するとみなされる。(商法24条)

支配人であるかのような名称を信頼して取引に入った第三者を保護するため実体を伴わない外観をつくり出した営業主に責任を負わせている。

③代理商とは

ケース4
商人Aは商人Bとの間でBにAの商品売買について代理権を与える旨の代理商契約を締結した。
BはAを代理してC社にAの商品を販売した。

代理商とは商人のためにその平常の営業の部類に属する取引の代理または媒介をする者で、その商人の使用人ではない者をいう。(商法27条)

(1)代理商と商人との関係

代理商は独立した商人であり商人との間で委任または準委任契約(代理商契約)を締結する。

両者の間は契約に特別の定めがない限り委任に関する規定が適用される。

(2)代理商の義務

代理商は商人と継続的な信頼関係に立つと同時に自らは独立の商人であることから代理商には以下のような特別の義務が課せられる。

[代理商の義務]
代理商は商人(本人)の許可を受けなければ次に掲げる行為をしてはならない
競業避止義務
自己または第三者のためにその商人の営業の部類に属する取引を行うこと
その商人の営業と同種の事業を行う会社の取締役、執行役または業務を執行する社員となること

(3)支配人と代理商の比較

支配人と代理商は、ともに営業主である商人のために営業活動を補助する者だが相違点もいくつもある。

これらのうち主なものを比較すると以下の通りになる。

[支配人と代理商の比較]
商人への従属性
(支配人)従属している → 内部者
(代理商)従属してない(独立) → 外部者
契約
(支配人)雇用契約
(代理商)委任または準委任契約
法人の選任
(支配人)不可(自然人に限る)
(代理商)可(自然人か法人かを問わない)
義務
(支配人)精力分散防止+競業避止
(代理商)競業避止のみ

さまざまな商行為

商法は商人の行う取引について民法の定める各種の契約等に関する規定に対する特則を定めている。

ここでは、そのうちの主要なものについて説明する。

①商事売買とは

(1)商事売買の意味

商人間の売買のことを商事売買という。

ただ、ここで「売買」といっているが必ずしも売買業者の売買には限らない。

業種を問わず、また商人にとって附属的商行為である売買についても商事売買の規定が適用される。

(2)商事売買規定の趣旨

商事売買の規定は売主を保護するために置かれている。

商人である売主に対して取引の迅速かつ確実な締結およびその決済を保護する必要があるからだ。

(3)商事売買に関する特則の内容

売主の自助売却権】(商法524条)
買主に目的物の受領拒絶や受領不能の事実があった場合、原則として事前に相当の期間を定めて催告すれば競売をすることがでる。競売代金は供託を要するが代金債権の弁済期が来ていれば、その全部または一部を代金に充当することができる。
確定期売買】(商法525条)
一定期日または一定の期間内に履行がない場合、その経過後ただちに買主から特に履行の請求がない限り当然に契約解除の効果が生ずる。
買主の検査通知義務】(商法526条)
買主は受け取った目的物を延滞なく検査し、もし瑕疵または数量不足を発見した場合には、ただちに売主に対して通知を発する義務がある。これを怠った場合、売主が悪意の場合を除いて代金減額・解除・損害賠償の各請求権を失う。
買主の保管供託義務】(商法527条、528条)
売買目的物の瑕疵・数量不足を理由として契約解除がなされた場合および目的物が注文品と違いまたは数量超過のとき、その物品を売主の費用をもって保管または供託しなければならない。
緊急売却】(商法527条、528条)
物品に滅失・破損のおそれがあるときときは裁判所の許可を得て競売し代金を保管・供託しなければならない。

②その他の商行為の意義と効果

交互計算】(商法529条)
意味
商人間または商人と非商人間で平常取引を行う場合に一定の期間内の取引から生ずる債権債務の総額について相殺をなし、その残額の支払をするという契約
内容
一定の継続的取引関係にある当事者間で一定期間内に生じた債権債務を認めることにより決済の労力や費用を節約し、また相殺される範囲で他の債権者に優先して債権を回収することができる。
補足
その効果として当事者は債権を個別に行使・処分することができないなる。(交互計算不可分の原則
匿名組合】(商法535条)
意味
商人がその営業のために他の者から財産の出資を受け、これに対して営業から生ずる利益を分配すべきことを約する契約
内容
匿名組合員の権利としては利益分配請求権、出資額返還請求権が義務としては出資義務、損失分担義務が認められる。
補足
出資を行う者を匿名組合員、営業行為を行いそこから生ずる利益を分配する者を営業者という。
仲立営業】(商法543条)
意味
他人間の商行為の媒介をなすこと
内容
仲立を業とする者を仲介人といい仲介人は特約の有無を問わず報酬を請求できる。
補足
仲立人の報酬請求時期は当事者間に契約が成立し結約書を交付した後である。
問屋営業】(商法551条)
意味
自己の名において他人の計算(他人のための)で物品の販売または買入れをなすことを業とすること
内容
問屋は取得した物品または代金を委託者に交付することを要する。
補足
問屋は受任者であり善良な管理者の注意をもって販売または買入れをなす義務を負う。
商事寄託】(商法593条、594条)
意味
商人がその営業の範囲内で受けた寄託(受寄者が寄託者のために物を管理をなすことを約し、その物を受け取ることによって成立する契約)のこと
内容)商事寄託においては報酬を受けるか否かにかかわらず商人は善良な管理者の注意をもって目的物を保管する義務を負う。
補足
場屋営業者である場屋の主人は客より寄託を受けた物品の滅失または損につき不可抗力によることを証明しなければ損害賠償責任を免除されない。

4章 商法 レッスン2 株式会社総論

学習のポイント
会社は営利を目的とした社団法人である。つまり会社は営利性、社団性、法人性を有する。
株式会社の特徴として株式と間接有限責任という二大特質と所有と経営の分離、資本制度などを理解する。
公開会社と大会社の意味と会社法上の要件を理解する。

会社とは

①会社の特徴

会社は法人企業の代表であり個人企業とは異なる特徴をもっている。

会社では企業活動によって生じた利益は会社に帰属する。

反対に企業活動によって生じた債務も会社自身の債務となり経営者個人の債務とは別個に扱われる。

ただし会社の種類によって取引の相手方の保護を図るため倒産や清算の場合に会社の出資者である社員に債務の弁済を求めることができる場合もある。

②会社の基本概念

(1)営利性

営利とは事業活動によって経済的利益を得て、この利益を団体の構成員に分配することだ。

(2)社団性

社団は一定の目的のため集まった人が結合した団体だ。

ただし会社には常に複数の社員(出資者)がいることが要求されるわけではない。

社員が一人しかいない、いわゆる一人会社も後に社員が加入することで団体となる可能性があり社団性が認められる

社員…法律用語では社員とは、その会社に出資した者を指す。従業員ではない。

(3)法人性

会社は法人だ。(会社法3条)

法人とは自然人以外で権利義務の主体となることができる者をさす。

会社は法律で定めた手続きを履行することで法人格を取得する。(準則主義

法人には権利能力が認められるが自然人と異なり以下の通り権利能力が制限される場合がある。

[法人の権利能力の制限]
性質による制限
自然人と異なり生命身体がないため生命身体に関する権利義務や親権や相続権など身分上の権利義務をもとことはない。
法令による制限
法人は法律の範囲で権利能力を認められる。(民法34条)
目的による制限
会社は定款で定めた目的の範囲で権利能力を有すると解釈されている。しかし取引の安全を図る趣旨から判例は目的遂行に直接または間接に必要な行為は目的の範囲内に含まれ目的遂行に必要か否かは客観的抽象的に判断するとしている。

(4)法人格否認の法理

いくら会社が独立の法人格を有するといっても、その独立性を形式的に貫くことが正義や公平に反すると認められる場合がある。

このような場合に特定の事案の解決のために、その会社の独立性を否定し会社とその社員とを同一視する法理が法人格否認の法理だ。

判例により認められた法理だ。

③会社の種類

会社には株式会社、合名会社、合資会社、合同会社の4種類しかない。(会社法2条1号)

4種類の会社のうち合名会社、合資会社、合同会社を総称して持分会社とよぶ。

持分会社は株式会社と異なる特徴を有している。

株式会社では社員の責任は有限責任で、かつ間接責任としている。

これに対して持分会社では社員の個性が重要視され社員の個性が経営に反映されるので社員の責任は無限責任が原則となり、さらに直接責任となる。

[社員の責任の種類]
無限責任
社員が会社債務について無限に責任を負うこと。
有限責任
社員が会社債務について自ら出資した限度までしか責任を負担しないこと。
直接責任
社員が会社債務について債権者に直接責任を負うこと。
間接責任
社員が会社債務について債権者に直接責任を負わず出資行為を通して間接的にしか責任を負担しないこと。

[株式会社と持分会社の違い]
社員の地位
株式会社均一的な割合的単位(株式)
持分会社)各社員が単一で内容が出資の価額で異なる(持分単一主義)
社員の責任の有限性
株式会社有限責任
合名会社)無限責任
合資会社)無限と有限の社員が混在
合同会社)有限責任
社員の責任の間接性
株式会社間接責任
合名会社)直接責任
合資会社)直接責任
合同会社)間接責任

株式会社の歴史は古く16世紀にオランダ船が航海に必要な莫大な費用を賄うためリスクを分散するため考案された。

東インド会社では世界初で株式が発行され株数ごとの利益配当や有限責任が考案された。

(追記 2021.9.1)

中世の世界史を学ぶとき記憶に留めておかなければいけないことがある。

当時のヨーロッパは経済的には弱小だったことだ。

むしろ中国やインドといった東洋圏が列強だった。

ヨーロッパで交易が盛んだったのも自国の産業が乏しいため交易に活路を求めた為だ。

物資を航路で運び交易した際の通貨の差益が収入源だ。

故に基本的に資金が乏しい状態で航海しなくてはならず苦肉の策として株式会社が考案された。

逆に豊富な資金が手元にあったなら、こうした制度は生まれなかった。

後にこの制度が功を奏すのは30年戦争の後イギリスを中心に発生した産業革命により工業化が進んだからだ。

産業革命がイギリスで生まれたのも偶然ではない。

当時のイギリスは30年戦争で労働人口が極端に減少した。

その局面で苦肉の策として起死回生で機械化、工業化が発生した。

恐らくこれまでの農耕や家内制手工業が中心だった世界で、これだけの変革がスムーズに進んだのも30年戦争が如何に悲惨だったか物語る。

それを産業革命と呼んでいるだけだ。

更にその背景にはヨーロッパを中心にキリスト教が広く布教されていた面も見過ごしてはならない。

キリスト教の教典の性質上、非常に厳格性を重んじる性質がある。

つまり仏教など中間な曖昧な性質をいたく排除しがちな性質だ。

だから緻密で東洋人からしてみれば「そこまで厳格にしなくても」と思わず口にしそうな制度(複式簿記などその典型)を作りあげていった。

話は横道にそれる。

日本で戦後高度成長を成しえたのも敗戦と言う過去にない辛辣な体験を日本人はしたので今までにない自分を発揮して(不良少女が見事に更生して普通のOLをしてるようなもの)成しえたと思う。

つまり元はヤンキーだから高度成長が止まると元ヤン気質がまた顔を出し始めた。

今の菅政権とか眺めてると元ヤンだなとつくづく思う。

元ヤンに高校教師つらして幾ら説教じみたことを言っても聞く耳もたなにのはそのためだ。

話を戻す。

イギリスはインドから安価に綿花を輸入し工業化が進んだ工場で綿花を加工し製品として逆にインドに輸出した。

もともとインドは自国の綿花を自国で製品化し輸出することで膨大な利潤を得ていた。

インドの白い丸い大宮殿など当時のインドが大国だった象徴だ。
よって豊かだったインドにイギリスなどは綿花製品を大量に安価に売ることで発展していった。

だからヨーロッパ内でも交易が盛んだったスペインやオランダは弱体化しイギリスとかが列強化する格差があった。

ここでもう一点見過ごしてはいけないのが大陸を横断する陸路は何故発展しなかったかだ。

それは騎馬民族(ジンギスハンとか有名)がほぼ占有していたからだ。

つまりヨーロッパは陸路の交易は断念し航路に活路を見出したのだ。

更に言えば思想史的にヨーロッパの思想が現代に色濃く反映されがちなのも現代がヨーロッパの流れをくむアメリカが列強大国だからでしかない。

だとしたら何か高尚なもっともらしいことを優越的に言っているのも要は列強だからにほかならない。

本当は学校の教室の片隅の小さなグループのオタクっぽい連中が偶然に表舞台に上がる機会を得て得意げに与太話を意気揚々と喋ってるのをさも有難く拝聴しているだけかもしれない。

恥ずかしい。

[会社の種類]
株式会社
社員の地位が細分化された均一な割合的単位の株式の形をとる。社員の責任が間接有限責任である。大規模経営に適した共同企業の形態とされる。
合名会社
社員である出資者全員が直接無限責任を負担する会社。債務は社員が複数いても個々の社員は全額について連帯責任を負う。
合資会社
直接無限責任を負う社員と直接有限責任を負う社員の2つから構成される。有限責任の社員は責任の範囲が出資額を限度とする有限責任である点で無限責任の社員と違う。
合同会社
社員全員が間接有限責任を負う責任形態だが会社内部は組合的な規律が適用される。社員の出資については全額払込主義を採用する。(会社法576条4項、578条)

株式会社の仕組み

①株式会社の特質

株式会社は大きな利潤の獲得に適した大規模経営を前提とした仕組みを採用する。

つまり株式会社は多数から多額の資金を集め大規模な事業の経営ができるよう多数の者の出資を集めやすくする工夫が施されている。

特に株主の地位である「株式」と責任形態の「間接有限責任」は株式会社の本質的な特徴であり二大特質とされる。

②株式

株式とは細分化された均一な割合的単位の形をとる株式会社の社員の地位のことだ。

株式会社の社員株主という。

株主は持ち株数に応じて会社から平等に扱われる。(会社法109条1項)

これを株主平等の原則という。

③間接有限責任

株主の責任は間接有限責任だ。

つまり株主は引き受けた株式の引受価額を出資すれば、その責任を果たすことになる。(会社法104条)

④資本制度

株式会社においては株主が間接有限責任しか負わない結果、株主がいくら財産をもっていても会社債権者に対する担保とはならない。

したがって会社債権者のため会社財産を確保する必要がある。

会社財産を確保する基準として採用されたのが資本制度だ。

具体的には資本充実・維持の原則、資本不変の原則および資本確定の原則の3つに分かれる。

[資本の3原則]
資本充実・維持の原則
資本金は会社財産を確保するための基準であり一定の金額であり、その額が名目的に定まっているだけでなく、資本金の額に当たる財産が現実に会社に拠出され(資本金充実)かつ保有されなければならない。(資本維持)という原則。
資本不変の原則
いったん確定した資本金の額は任意に減額できない原則。実際上の必要性のため、厳格な手続き下に資本金の額を減少することが認められている
資本確定の原則
設立ないし増資の健全化を図るため、設立または資本金の増加には定款所定の資本金の額または増加資本金額にあたる株式全部を引受けなければならないという原則。会社法では資本金の額は定款の記載事項とされおらず(会社法27条)この原則は採用されてない。

⑤所有と経営の分離

株式会社が出資を広く大衆から得ようとすれば出資者と経営責任を分断する必要がある。

株式会社の種類

①公開会社

公開会社とは発行する株式の全部または一部の内容として譲渡による株式取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けてない株式会社をさす。(会社法2条5号)

つまりすべての株式に譲渡制限を付している会社以外は公開会社となる。

会社法は会社の実質にあった規律を行うことを目的とする。

その基準の一つとして会社が閉鎖的であるか否かがある。

つまり株式の譲渡制限の有無という基準だ。

また株式の譲渡制限は株式の内容の問題とされているため一つの株式会社が譲渡制限を付した株式と付してない株式の両方を発行することが可能だ。

この場合は譲渡制限を付していない株式を発行してさえいれば閉鎖的とはいえないので公開会社として扱われることになる。

②大会社

大会社の要件は資本金が5億円以上かまたは負債部計上額が200億円以上である株式会社をさす。(会社法2条6号)
     
4章 商法 レッスン3 株式会社の設立

設立の概要

①設立とは

株式会社の設立とは1つの営利社団法人が実態を形成するとともに法人格を取得するまでの手続きをさす。

[株式会社の設立手続の概要]
(1)発起人による定款の作成
(2)株主となるべき者の募集と確定
(3)発起人や設立時募集株式の引受人のよる出資の履行
(4)株手会社の機関の具備
(5)設立経過の調査【実体の形成】
【法人格の取得】株式会社の本店所在地での設立の登記

②設立の方法

株式会社の設立する方法は2つある。
(1)発起人設立(2)募集設立

発起人設立とは設立起案者の発起人が設立の時に発行する株式を全部引き受けて会社を設立する。(会社法25条1項1号)

募集設立とは発起人が会社の設立に際して発行する株式の一部を引き受けて残部については株主となる者を募集して会社を設立する。(会社法25条1項2号)

設立手続

①定款の作成

定款とは会社の根本規則をさす。

定款は発起人が作成する。(会社法26条)

発起人とは定款に発起人として署名または記名押印した者をさす。→署名しなくても発起人と同一の責任を負う者(疑似発起人

複数人のときは全員で署名する。(1人でも可能)

発起人には制限行為能力者法人もなれる。

定款は公証人の認証を受けて初めて効力を生ずる。(会社法30条1項)

[定款の記載事項の種類]
絶対的記載事項)必ず定款に記載すべきで未記載だと定款すべてが無効(1)会社の目的(2)商号(3)本店所在地(4)設立の際の出資される財産の価額またその最低額(5)発揮人の氏名また名称および住所(6)発行可能な株式総数

相対的記載事項)記載しなくとも定款の効力は有効だが記載しないとその事項の効力が生じない変態説立事項)(会社法28条)(1)現物出資(2)財産引受け(3)発起人の報酬その他の特別利益(4)設立費用

任意的記載事項定款に記載しなくとも効力が生ずるが一度記載されると変更には定款変更手続が必要(1)株式の名義書換え手続(2)定時株主総会の召集時期(3)株主総会の議長(4)取締役や監査役の員数など

[変態設立事項]
(1)現物出資…金銭以外の財産を出資の対象とする場合は出資者の氏名または名称、該当財産および価額その者に割り当てる設立時発行株式の数
(2)財産引受け…会社の設立後に譲り受けることを約した財産および価額その譲渡人の氏名または名称
(3)発起人の報酬その他の特別利益…会社の設立による発起人が受ける報酬その他の特別利益その発起人の氏名または名称
(4)設立費用…会社の負担する設立に関する費用

②株主の確定

(1)設立時発行株式に関する事項の決定…設立時発行株式に関する事項を定款に記載または記録しなかった場合、発起人全員の同意によって定める。(会社法32条、58条2項)

(2)株式の引受け…株式会社の設立に際して出資者となること。

③機関の形成

(1)設立時の役員等の選任…設立時の役員等は発起設立の場合は発起人の議決権の過半数によって選任する。(会社法40条1項)募集設立の場合は創立総会の決議で選任する。(貨車法88条)取締役設置会社では設立時代表取締役を選任し委員会設立会社では設立時委員を選任する。いずれも設立時取締役の過半数で選任する。(会社法47条3項、48条3項)

(2)創立総会の招集および決議募集設立する場合は発起人は設立時発行株式の払込期日または払込期日の末日のうち最も遅い日以後において延滞なく創立総会を招集する。(会社法65条1項)

[創立総会の決議要件]
(誰が行使できるか)決議権を行使することができる設立時の株主
(決議要件)その株主の決議権の過半数であって出席した該当設立時株主の決議権の2/3以上にあたる多数

④出資の履行

発起人は設立時発行株式を引き受け後、延滞なく引き受けた設立時発行株式につき出資に係る金銭を払い込みまた現物出資に係る財産を全部給付しないといけない。(会社法34条1項、63条1項)

発起人および募集株式の引受人が出資の履行を怠ると設立時発行株式の株主となる権利を失う。(会社法36条1項、63条3項)

払込みは発起人が定めた銀行や信託銀行等の払込取扱場所にて行う。(会社法34条2項、63条1項)

そして募集設立の場合は発起人は払込取扱機関に対し払込金の保管証明書の交付の請求をすることができる。(会社法64条1項)

払い込まれた金銭の返還について制限があったときも払込金保管場所責任をもって成立後の株式会社に対抗できない。(会社法62条2項)

⑤設立の登記

株式会社は設立手続により社団としての実体を形成され本店所在地にて設立の登記をすることで成立する。(会社法49条)

[株式会社の主な登記事項]
(1)目的(2)商号(3)本店および支店の所在場所(4)資本金の額(5)発行可能株式総数(6)発行する株式の内容(7)発行済株式の総数、種類および種類ごとの数(8)取締役の氏名(9)代表取締役の氏名および住所

設立の瑕疵

①設立無効

会社の設立の無効は設立無効の訴えをもってのみ主張できる。(会社法828条1項)

設立手続に重大な瑕疵があることが設立無効の事由となる。

[設立無効の原因]
(1)定款の絶対的記載事項の定めに重大な瑕疵があった。
(2)設立に際して出資された財産に最低額の出資がない。
(3)設立の登記が無効である。
(4)設立総会が開催されなかった。
(5)公証人による定款の認証がない。

[設立無効の提訴権者]
(1)設立した株式会社の株主
(2)取締役
(3)清算人
(4)委員会設置会社における執行役
(5)監査役設置会社における監査役

設立無効の訴えは会社成立の日から2年以内に提起しなければいけない。(会社法828条1項1号)

設立を無効とする判決が確定すると将来に向かって行為の効力が失われる。(会社法839条)

その判決は当事者のみならず第三者にも効力を有する。(対世効、会社法838条)

②会社の不成立

会社の不成立とは会社の設立が途中で挫折し設立登記が行われなかったまま終わることだ。

会社の不成立の場合発起人は設立に関してなした行為について連帯して責任を負い設立に関して支出した費用を負担する。(会社法56条)

③設立に関する責任

会社設立時の価額が定款に記載または記録された価額より著しく不足するときは発起人および設立時取締役は連帯して不足額を支払う義務を負う。(会社法52条1項)

発起人等の責任および発起人等の損害賠償責任は総株主の同意がなければ免除できない。(会社法55条)

4章 商法 レッスン4 株式

株式総論

①株式の意味

株式とは細分化された均一な割合単位の形をとる株式会社における社員の地位をさす。

株式会社の社員株主と呼ぶ。

②株主の権利

株式会社における株主の権利は大きく受益権と共益権とに分かれる。

株主が出資者として会社から経済的に利益を受けることを目的とする権利を受益権とよぶ。

株主が会社の管理運営に参加することを目的とする権利を共益権とよぶ。

[株主の権利(会社法105条1項)]
【受益権】余剰金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利
【共益権】株主総会における議決権

残余財産…会社が清算手続きに入り会社財務を弁済した後に残った財産

株主の権利を権利行使の要件という観点で分類すると単独株主権少数株主権に分かれる。

[単独株主権と少数株主権]
【単独株主権】一株のみを保有する株主でも行使できる権利
【少数株主権】総株主の議決権の一定割合または一定数の議決権を有する株主のみが行使できる権利

③株主平等の原則

株主平等の原則とは株式会社は株主としての資格に基づく法律関係については株主をその有する株式の内容および数に応じて平等に取り扱わなければならない原則をさす。(会社法109条)

株主平等の原則における「平等」とは各株式の内容が平等であり(内容の平等)さらにこれを前提に各株式の取扱いが平等であるということだ。(取扱いの平等)

しかし平等は絶対的ではなく例外が認められる。

たとえば資金調達を機動的に行うことを目的として異なる種類の株式(種類株式)を発行することが認められる。

非公開の株式会社においては定款の定めにより余剰金の配当など株主の基本的権利も株主ごとに異なる取扱いを定めることができる。(会社法109条2項)

株主平等の原則に違反した会社の行為(定款の定め、株主総会・取締役会の決議等)は無効だ。

しかし、この行為によって不利益を受ける株主が承認すれば無効とならない

④株式の併合および分割

株式の併合とは3株を1株とするように数個の株式をあわせて、それよりも少数の株式とする会社の行為をさす。(会社法180条1項)

株式会社は株式の併合をするときは、その都度株主総会の特別決議により併合の割合などの事項を決定しなければならない。(会社法180条2項、309条2項4号)

株式の併合を行うと1株に満たない端数が生じたり少数株主が株主の地位を失ったりする。

株主の権利に重大な影響を与えることがある。

株式の分割とは1株を10株にするように株式を細分化して従来より多数の株式にする会社の行為をさす。(会社法183条1項)

株式会社は株式の分割をおこなうときは株主総会の普通決議(取締役会設置会社にあっては取締役会決議)で決定すればよい。(会社法183条2項)

株式の併合と異なり分割しても株主の地位に何ら実質的な変動を生じさせないからだ。

株式の種類と形式

会社法は各株式の権利内容は同一であることを原則としながら例外も認めている。

一定の範囲と条件下で(1)すべての株式の内容として特別の定めをすること(会社法107条)(2)権利の内容の異なる複数の種類の株式を発行すること(会社法108条)が認められる。

①株式の内容について特別の定め

株式会社は発行する全部の株式の内容として3種類の株式を発行することができる。

これらを定款で定めなければならない。(会社法107条2項)

[譲渡制限株式・取得請求権利付株式・取得条項付株式]
譲渡制限株式】譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要すること(会社法107条1項1号)
取得請求権付株式株主が当該株式会社に対して当該株式の取得を請求することができること(会社法107条1項2号)
取得条項付株式当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件として当該株式を取得することができること(会社法107条1項3号)

②異なる種類の株式

株式会社は権利の内容の異なる複数の種類の株式を発行することができる。(会社法108条1項)

これら種類株式を発行するには定款で定めなければならない。(会社法108条2項)

[異なる種類の株式]
余剰金の配当および残余財産の配分についての種類株式】(優先株式)剰余金の配当・残余財産の分配につき他種類の株式より優先的な地位が与えられた株式(劣後株式)剰余金の配当・残余財産の分配につき他種類の株式より劣後的な地位が与えられた株式(混合株式)たとえば剰余金の配当については優先するが残余財産の分配については劣後するといった混合的な株式(会社法108条1項1号、2号)
決議権制限株式】株主総会の全部または一部の事項について議決権を行使することができない株式(会社法108条1項3号)
譲渡制限株式】譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する株式(会社法108条1項4号)
取得請求権付株式株主が当該株式会社を対して当該株式の取得を請求することができる株式(会社法108条1項5号)
取得条項付株式該当株式会社が一定の事由が生じたことを条件として当該株式を取得することができる株式(会社法108条1項6号)
全部取得条項付種類株式】株主総会の特別決議により、その種類の株式の全部を会社が取得することができるという株式(会社法108条1項7号)
拒否権付種類株式】株主総会・取締役会・清算人会において決議すべき事項について、その決議のほか当該種類の株式の種類株式を構成員とする種類株主総会の決議を必要とする株式(会社法108条1項8号)
取締役・監査役を選任できる種類株式】当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役・監査役を選任できる種類株式のこと(通常の株主総会では選任しない)〈発行できない会社〉委員会設立会社、公開会社(会社法108条1項9号)

③単元株制度

単元株制度とは定款で定めた一定数の株式をまとめたものを一単元とし一単元の株式について一個の議決権を与えるが単元株式数に満たない株式には議決権を与えないこととする制度をさす。(会社法188条1項)

単元株制度は以下の目的で利用される。

(1)株価引上げ策…株価の低い企業が株価を上げるため株式併合と同様の効果を実現する。
(2)株価引下げ策…株価の高い企業が株価を下げるため株式分割を行いながら分割前の一株に対応する数の株式を一単元とすることで株主の管理費用を分割前と同等にすることができる。

株式会社は単元株制度の導入を定款で定めることができる。(会社法188条1項)

定款変更手続は原則として株主総会の特別決議を要する。(会社法466条、309条2項11号)

単元株式数を減少または廃止する場合は取締役の決定(取締役会設置会社においては取締役会の決議)によって定款変更をできる。(会社法195条1項)

単元株式数に満たない株式を有する株主(単元未満株主)は議決権を除く株主の権利を有する。

ただし単元未満株主の権利を定款の定めにより制限できる。

[制限できない単元未満株主の権利]
(1)全部取得条項付種類株式の取得対価の交付を受ける権利
(2)株式会社による取得条項付株式の取得と引換えに金銭等の交付を受ける権利
(3)株式無償割当てを受ける権利
(4)残余財産の分配を受ける権利
(5)上記の他、法務省令で定める権利

株券および株主名簿

①株券

株券とは株式つまり株主の地位を表彰する有価証券をさす。(会社法214条-233条)

会社法は株券について不発行の原則としている。

つまり株式会社は株券を発行する旨を定款で定めない限り株券を発行できない。(会社法214条)

株券を発行するか否かは全種類の株式について統一的に定めないといけない。(会社法214条かっこ書)

株券を発行する会社(株券発行会社)では株式を発行した日以後延滞なく当該株式に係る株券を発行しなければならない。(会社法215条1項)

ただし非公開会社では株主から請求があるまで株券を発行しないことができる。(会社法215条4項)

[株券の不発行が原則とされている趣旨]
【非公開会社】株式の流通性に乏しく株券発行の必要性が少ない。
【公開会社】ポーパーレス化を進め株式取引の迅速化、確実性を図る。

株券失効制度とは盗難や遺失等により株券を喪失した時に株券が善意取得されることを防ぐため一定の手続を経て喪失株券を無効とする制度だ。(会社法221条-233条)

[株券失効制度の手続の流れ]
(1)株券を喪失した者が株券発行会社に対し株券喪失登録簿記載事項を株券喪失登録簿に記載または記録することを請求する。(会社法2234条)
(2)登録により当該株式について名義書換えができなくなる。(会社法230条1項)
(3)株券喪失登録日の翌日から1年経過した日に登録が抹消されていない場合は、その株券は無効となる。(会社法228条1項)
(4)株券が無効となった場合は株券発行会社は株券喪失登録者に対して株券を再発行する。(会社法228条2項)

②株主名簿

株主名簿とは株主および株券に関する事項を明らかにするため会社法の規定により作成することを要する帳簿をさす。(会社法121条)

絶えず変動する株主を会社との関係で明確化し固定化することで会社の事務処理の便宜を図る。

会社の事務処理が効率化することで経費も削減でき株主の利益にもなる。

株式会社は株主名簿を作成し以下の事項を記載または記録しなければならない。(会社法121条)

(1)株主の氏名または名称、住所
(2)株主の有する株数
(3)株主が株式を取得した日
(4)株券発行会社である場合は株券の番号

株式を取得した者は株式会社に対しその株式に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載または記録することを請求できる。(会社法133条1項)

株主および債権者は株式会社の営業時間内にいつでも株主名簿の閲覧または謄写を請求できる。(会社法125条2項)

会社は一定の場合を除き閲覧または謄写請求を拒むことができない。(会社法125条3項)

株式の譲渡

①株式譲渡自由の原則

株主は自己が所有する株式を自由に譲渡できる。(株式譲渡自由の原則)(会社法127条)

②株式譲渡の方法

株券発行会社では譲渡の当事者間で意思表示に加え株券を交付しなければ、その効力を生じないのが原則だ。

これに対し株券不発行会社では譲渡の当事者間の意思表示のみで譲渡の効力が生じる。

株式の譲渡を当事者以外の第三者に主張するには対抗要件を備える必要がある

株券発行会社では株券の交付が譲渡の効力要件であり会社以外の第三者に対する対抗要件でもある。

他方、会社に対する対抗要件は株主名簿への記載または記録となる。(会社法130条1項、2項)

株券不発行会社の場合は株主名簿への記載または記録が会社および第三者に対する対抗要件となる。(会社法130条1項)

③株式譲渡自由の制限

株式の譲渡が例外的に制限される場合として(1)法律による制限(2)定款による制限(3)契約による制限の3つある。

法律による制限には(1)時期による制限(2)自己株式の取得制限(3)子会社による親会社株式の取得制限がある。

定款による制限には譲渡制限株式がある。

[ケース2]
A株式会社の設立手続中、A社の株式受取人Bは会社成立前に株式引受人となる地位をCに譲渡した。

権利株の譲渡は会社に対抗できない。(会社法35条、50条2項、63条2項、208条4項)

ケース2ではCはA社が成立した後もBから権利株を譲り受けたことをA社に対抗できない。

ただし当事者間では譲渡は有効とされる

株券発行会社の場合には株券の発行前にした譲渡は会社に対して効力を生じない。(会社法128条2項)

子会社は、その親会社である株式会社の株式を原則として取得できない。(会社法135条1項)

ただし以下の場合には親会社株式の取得が認められる(会社法135条2項)

(1)他の会社の事業の全部を譲り受ける場合において当該他の会社の有する親会社株式を譲り受ける場合
(2)合併後消滅する会社から親会社株式を承継する場合
(3)吸収分割により他の会社から親会社株式を承継する場合
(4)新設分割により他の会社から親会社株式を承継する場合
(5)その他、法務省令で定める場合

このように親会社株式を適法に取得した場合であっても子会社は相当な時期にその有する親会社株式を処分しなけならない。(会社法135条3項)

④譲渡制限株式

株式会社は定款によって発行する全部または一部の株式の内容として譲渡による株式の取得について株式会社の承認を要すると定めることができる。(会社法107条1項1号、108条1項4号)

比較的小規模の会社では株主を人的な信頼関係にある者に限定したい要求が強く譲渡制限株式はそれに応じた制度だ。

譲渡制限株式の株主は、その株式を他人に譲り渡そうとするときは株式会社に対し、その譲渡を承認するか否かを決定するよう請求することができる。(会社法136条)

また譲渡制限株式を取得した者も会社に対し株式を取得したことについて承認するか否かを決定するよう請求することができる。(会社法137条1項)

会社が承認しない場合に株主または株式取得者は会社がその株式を買い取るか指定買取人を指定することを請求することができる。(会社法138条1項ハ、2号ハ)

株式譲渡の承認機関は原則として株主総会ですが取締役会設置会社においては取締役会となる。(会社法139条1項本文)

しかし定款でこれとは別の定めをすることができる。(会社法139条1項但し書)

譲渡の当事者間では有効とされるが会社に対して名義書換えの請求はできない。(会社法134条1項)

⑤自己株式の取得および保有

自己株式の取得とは会社が自社で発行した株式を有償で取得することをさす。

自己株式の取得には剰余資金を株主へ返却することが可能になる、新株発行に代えて自己株式を移転することで既存株主の持ち株比率に悪影響を与えず資金調達できる、敵対的買収への対抗策として用いることができる等のメリットがある。

反面、会社が自己株式を取得すると資本維持の原則に反する、株主平等の原則に反する、会社支配の公正を害する、株式取引の公正を害する等の弊害も生まれる。

会社法は自己株式の取得を限定的に認め取得の方法に応じて財源規制をすることで株主等を保護している。

また以下の場合には規制を受けずに会社は自己株式を取得できる。

(1)自己株式を無償で取得した場合
(2)他の会社から現物配当で自己株式の交付を受けた場合

なお会社は取得した自己株式を特に制限なく保有し続けることができる。

自己株式の取得により株主に対して交付する金銭など帳簿価格の総額は取得の効力発行日における分配可能額を超えてはいけない。(会社法461条)

会社が取得した自己株式については以下の通り基本的には会社は権利行使できない。(会社法308条2項、453条、454条3項、504条3項)

(1)共益権…(議決権)認められない
(2)自益権…(剰余金配当請求権)認められない(残余財産分配請求権)認められない

会社が自己株式を第三者に処分する場合は原則として募集株式の発行と同じ規制が加えられる。(会社法199条-213条)

また株式会社は自己株式を消却することもできる。

取締役会設置会社にあっては決定を取締役会の決議によらなければならない。(会社法178条2項)

[自己株式と子会社所有の親会社株式との比較]
        (自己株式)(親会社株式
議決権       ✖      ✖ 
剰余金配当請求権  ✖      〇

4章 商法 レッスン5 株式会社の機関①-株主総会と取締役・取締役会ー

株式会社の機関

①機関とは

機関とは法人の意思決定または行為をする者として法により定められている自然人や会議体をさす。

②機関の種類

株式会社の機関には株主総会、取締役、取締役会、代表取締役、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人、委員会設置会社における委員会および執行役がある。

③株式会社の機関設計

株式会社の機関設計の考え方は公開会社と非公開会社で大きく異なる。

公開会社では大規模経営をしやすくするため社員間の人的な信頼関係を重視せず機関を分化し機関相互の分担と抑制・均衡をはたらかせることとする。

非公開会社では特に大会社でなければ必要的機関の株主総会と取締役を設置すれば、それ以外の機関については比較的自由に設計する。

しかし会社法で定める機関設計のルールはある。

[機関設計のルール]
(1)すべての株式会社には株主総会と取締役を設置する。
(2)取締役会の設置は原則として任意である。
(3)取締役会を設置する場合は原則として監査役または委員会を設置しなければならない。
(4)監査役会または委員会を設置するには取締役会を設置しなければならない。
(5)監査役(監査役会)と委員会を同時に設置することはできない。
(6)会計監査人を設置するには監査役(監査役会)または委員会のいずれかを設置しなければならない。
(7)委員会を設置するには会計監査人を設置しなければならない。
(8)会計参与は、すべての株式会社に任意で設置できる。
(9)公開会社は取締役会を設置しなければならない
(10)大会社は会計監査人を設置しなければならない。
(11)公開会社である大会社は監査役会または委員会のいずれかを設置しなければならない。

以上のルールをまとめると以下の通りだ。
株主総会

①株主総会の位置づけ

株主総会とは株主により構成される会社の基本的な事項について意思決定をする必要的機関だ。(会社法295条-325条)

②株主総会の権限

取締役会設置会社でない会社における株主総会では会社法に規定する事項および株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議できる。(会社法295条1項)

これは株主が株主総会の決議を通じて会社経営に関与することが否定されてない意だ。

取締役会設置会社における株主総会では会社法に規定する事項および定款で定めた事項に限って決議することができる。(会社法295条2項)

所有と経営の分離を徹底して経営の合理化を図っている。

③株主総会の招集

定時株主総会は毎事業年度の終了後の一定の時期に召集しなければならない。(会社法296条1項)

しかし、それ以外でも株主総会は必要がある場合には、いつでも招集することができる。(会社法296条2項)

株主総会の所有は原則として取締役が行う。(会社法296条3項)

取締役会設置会社でない会社では取締役、取締役会設置会社では取締役会の決議で日時および場所、目的事項などを決め招集する。(会社法298条1項、4項)

招集通知は株主総会の日の2週間前までに発信するのが原則だ。(会社法299条1項)

[通知期間の比較]
公開会社総会の日の2週間前
非公開会社】【取締役会設置会社〇】総会の日の1週間前【取締役会設置会社✖】(原則)1週間前(例外)定款で定めれば1週間より短縮可

取締役会設置会社の場合は書面によって通知しなければならない原則だ。

ただし株主の承諾を得て電磁的方法で行うこともできる。(会社法299条2項1号、3項)  

④株主提案権

株主提案権とは会社が株主総会を招集する機会を利用して株主が一定の事項を会議の目的とする権利をさす。

株主は取締役に対して一定の事項を株主総会の目的とする請求できる。(会社法303条1項)

ただし当該株主が議決権を行使できる事項に限られる。

議題提案権を行使するには以下の要件が必要だ。

[議題提案権の行使要件]
取締役会設置会社✖】単独株主権
公開会社✖取締役会設置会社】総株主の議決権の1/100以上または300個以上の議決権を有する株主
公開会社】総株主の議決権の1/100以上または300個以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主

株主は株主総会において株主総会の目的である事項につき議案を提出することができる。(会社法304条)

株主は取締役に対し株主総会の会日の8週間前までに株主総会の目的である事項につき当該株主が提出しようとする議案の要領を株主に通知することを請求することができる。

ただし、この権利の行使については議題提案権と同一の要件が定められている。(会社法305条)

⑤議決権

議決権とは株主総会で決議を行う権利をさす。

株主は株主総会において原則としてその有する株式一株につき一個の議決権を有する。(一株一議決権の原則)(会社法308条1項)

まお以下に示す株式は議決権が認められない。

[一株一議決権の原則の例外]
議決権制限株式(会社法108条1項3号)】定款の定めにより議決権の行使を制限された事項につき議決権を行使できない
自己株式(会社法308条2項)】会社支配の公正さを担保するため自己株式について会社は議決権を行使できない
相互保有株式(会社法308条1項かっこ書】会社がその総株主の議決権の1/4以上を有することその他の事由を通じて会社がその経営を実質的に支配することが可能な関係にあるものとして法務省令で定める株主は所有株式について議決権を行使することができない
基準日後に発行された株式(会社法124条1項)】議決権につき基準日が定まっている場合に、その日に株主でない者は議決権を行使できない
特別利害関係を有する株主が有する株式(会社法140条3項、160条4項)】会社が自己株式を取得することを承認する株式総会における会社に株式を譲渡する株主にように特別利害関係を有する株主は株主間の公平を害するため議決権を行使できない
単元未満株式(会社法189条1項)】一単元に一議決権が与えられるので単元未満の株式に議決権は行使できない

議決権行使の機会の保障のため(1)議決権の代理行使(2)議決権の不統一行使(3)書面および電磁的方法による議決権の行使方法が認められている。

株主は代理人によってその議決権を行使することができる。(会社法310条1項)

株主は、その有する議決権を統一しないで行使することができる。(会社法313条1項)

取締役会設置会社にあっては不統一行使をする株主は総会の会日の3日前までに会社に対して、その有する株式を統一しないで行使する旨およびその理由を通知しなければならない。(会社法313条2項)

事務処理上の便宜や不真面目な議決権行使の防止のため会社は他人のために議決権を有する者でないときは不統一行使を拒絶することが認められている。(会社法313条3項)

株式会社では書面による投票、電磁的方法による投票(電子投票)が認められている。(会社法311条、312条)

⑥議事および決議

取締役、会計参与、監査役および執行役は株主総会で株主から特定の事項について説明を求められれば当該事項について必要な説明をしなければならない。(会社法314条)

もっとも正当な事由があれば、この説明義務を免除される。(会社法314条但し書)

株主総会の議事について法務省令の定めにしたがい議事録を作成する義務がある。(会社法318条1項)

作成した議事録は株主総会の日から10年間は本店に備え置くかねばならない。(会社法318条2項)

この議事録につき株主および債権者は株式会社の営業時間内はいつでも閲覧および謄写を請求できる。(会社法318条2項)

株主総会における決議にあたっては議決権の過半数で議事をけっするのが原則だ。

ただし会社法上で少数派株主を保護するなどの多数決原理の限界や修正が定められている。

たとえば強行法規に反するような内容の決議や株主平等の原則に反する決議はゆるされない。

仮にそのような決議をすると株主総会決議無効確認の訴えの対象となる。(会社法831条1項3号)

株主総会での決議には(1)普通決議(2)特別決議(3)特殊決議の3つがある。
取締役または株主が株主総会の目的である事項を提案した場合において当該提案につき議決権を行使できる株主の全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をしたときは当該提案を可決する旨の総会決議があったものとみなされる。(会社法319条1項)

⑦種類株主総会

会社が数種の株式を発行し場合は異なる種類の株主の間で各種の権利の調整が必要なため種類株主総会の制度がもうけられている。

種類株主総会は会社法に規定する事項および定款で定めた事項に限り決議することができる。(会社法321条)

⑧株主総会決議の瑕疵

株主総会の決議は会社内部だけでなく社外の取引関係者など多数の利害関係者に影響し決議を前提に多くの関係が進展しているので仮に瑕疵がある決議を一律に無効と扱うと法的安定性に悪い影響を及ぼす。

そこで瑕疵がある決議を類型ごとに瑕疵を争う訴えが認められている。

[株主総会決議に関する各種訴え]
決議無効確認の訴え】決議内容が法令に違反(提訴期間)制限なし
決議づ存在確認の訴え】決議の手続的瑕疵が著しく決議が法律上存在すると認められない(提訴期間)制限なし
決議取消しの訴え】(1)招集手続または決議方法が法令または定款に違反若しくは著しく不公正(2)決議内容が定款違反(3)特別利害関係人が議決権を行使したため著しく不当な決議(提訴期間)決議の日から3か月以内

取締役

①取締役とは

取締役とは取締役会設置会社でない会社にあっては会社の業務を執行し会社を代表する必要的機関のことだ。

取締役会設置会社にあっては取締役は全員で取締役会を構成するが会社の業務を執行し会社を代表するのは代表取締役となる。

以下の者は取締役になれない。(欠格事由)(会社法331条)

[取締役の欠格事由]
(1)法人
(2)成年被後見人または被保佐人
(3)一定の法律により刑に処せられ、その執行を終わり、またはその執行を受けることがなくなった日から2年を経過しない者

公開会社にあっては取締役が株主でなければならない旨を定款で定めることはできない。(会社法331条2項)

非公開会社であれば定款の定めにより取締役の資格を株主に限定できる。(会社法331条2項但し書)

取締役会設置会社でない会社であっては取締役は1人以上置けばよいとされる。(会社法336条1項)

取締役会設置会社にあっては3人以上でなければならない。(会社法331条4項)

②取締役の選任および終任

取締役は株主総会の決議によって選任される。(会社法329条1項)

その決議は普通決議だが定款の定めをもってしても、その定足数を議決権を行使することができる株主の議決権の1/3未満とすることはでいない。(会社法341条)

累積投票とは株主はその有する株式一株(単元株制度を採用している場合は一単元の株式)につき株主総会において選任する取締役の数と同数の決議権を有することとし、その議決権を一人の候補者に投票しても複数の候補者に分散して投票しても良い制度だ。

株主総会の目的である事項が2人以上の取締役の選任である場合に株主は定款に別段の定めがあるときを除いて会社に対して累積投票によることを請求することができる。(会社法342条)

取締役の任期は原則として2年だ。

ただし定款または株主総会の決議により人気を短縮することができる。(会社法332条1項但し書)

また非公開会社(委員会設置会社を除く)にあっては定款の定めにより選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長できる。(会社法332条2項)

取締役は以下の事由によってその任務を終える。

[取締役の終任事由]
(1)委任契約の終了原因の発生…取締役の死亡、破産手続開始、後見開始
(2)任期満了
(3)辞任
(4)欠格事由の発生
(5)解任決議
(6)解任の訴え
(7)会社の解散

③会社の業務の執行

取締役会設置会社でない会社における取締役は定款に別段の定めがある場合を除き原則として会社の業務を執行する。(会社法348条1項)

取締役が2名以上ある場合には会社の業務は定款に別段の定めがある場合の除き取締役の過半数をもって決定する。(会社法348条2項)

また一定の需要事項については、その決定を各取締役に委任することはできない。(会社法348条3項)

[各取締役に委任できない事項]
(1)支配人の選任および解任
(2)支店の設置、移転および廃止
(3)株主総会の招集の決定に掲げる事項
(4)内部統制システムの整備
(5)定款の定めに基づく役員等の会社に対する損害賠償責任の取締役の過半数の同意による免除

取締役会を構成するとともに取締役会を通じて会社の業務執行の意思決定および取締役相互の業務の監督を行う。(会社法348条1項、362条1項、2項)

つまり個々の取締役は取締役会の構成員という地位に置かれる。

④会社の代表

原則として取締役が株式会社を代表する。(会社法349条1項)

取締役が2人以上ある場合であっても取締役は各自が会社を代表する。(会社法349条2項)

ただし他に代表取締役その他会社を代表する者を定め、その者に会社を代表させることもできる。(会社法349条1項但し書)

委員会設置会社を除く取締役会設置会社では取締役会が取締役の中から代表取締役を選定しなければならない。(会社法362条3項)

⑤取締役と会社の関係

会社と取締役との関係は委任に関する規定に従う。(会社法330条)

つまり信頼関係を基礎とした委任契約から生ずる関係だ。(民法643条)

この結果、取締役は委任契約上の受任者として善管注意義務をもって事務処理にあたることを義務づけられる。

この善管注意義務を明確化し具体化したものとして忠実義務がある。(会社法355条)

取締役が自己または第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとする場合は株主総会(取締役会設置会社においては取締役会)において事前に当該取引について重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。(会社法365条1項1号、365条1項)

取締役会設置会社にあっては競業取引を行った取締役は当該取引後延滞なく取引について重要な事実を取締役会に報告しなければならない。(会社法365条2項)

取締役が競業避止義務に違反したとしても取引の効力には影響しない。

ただし会社は取締役の義務違反を理由に損害賠償請求をすることができる。

利益相反取引には直接取引と間接取引がある。

直接取引】取締役が自己または第三者のために会社との間で行う取引
間接取引】会社と第三者間の取引のうち会社と当該取締役との間で利益が相反する取引(代表例)会社が取締役の債務を保証すること

取締役は利益相反取引をしようとする時は株主総会(取締役会設置会社においては取締役会)において事前に当該取引について重要な事実を開示承認を受けねばならない。(会社法356条1項2号、3号、365条1項)

これらの取引を自由に行えるとすると会社の犠牲の下で取締役が自己または第三者の利益を図る恐れがあるからだ。

取締役会設置会社にあっては利益相反取引を行った取締役は当該取引後遅滞なく取引についての重要な事実を取締役会に報告せねばならない。(会社法365条2項)

取締役の報酬、賞与その他職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益(報酬等)について一定の事項は定款または株主総会の決議で定めなけれならない。(会社法361条1項)

取締役会

①取締役会とは

取締役会とは取締役の全員によって構成され会議における決議によって会社の業務執行に関する意思を決定し、また取締役の職務の執行を監督する機関をさす。(会社法327条1項)

②取締役会の権限

取締役会は以下の様な職務を行う。(会社法362条2項)
(1)取締役会設置会社の業務執行の決定
(2)取締役の職務の執行の監督
(3)代表取締役の選定および解職

取締役会は業務執行の決定を取締役へ委任することができるが以下の表に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定については取締役へ委任することはできない。(会社法362条4項)

合議体としての取締役会で決定する方が取締役1人に任せるより、より慎重な意思決定ができるからだ。

[取締役に委任することができない重要な決定事項]
(1)重要な財産の処分および譲受け
(2)多額の借財
(3)支配人その他の重要な使用人の船員および解任
(4)支店その他の重要な組織の設置、変更および廃止
(5)募集社債の総額その他の社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項
(6)内部統制システムの整備
(7)定款の定めに基づく役員等の会社に対する損害賠償責任の取締役会決議による免除

③取締役会の招集

取締役会は各取締役が召集する。

ただし取締役会を招集する取締役を定款または取締役会で定めたとき、その取締役が召集する。(会社法366条1項)

取締役会を招集する者は取締役会の日の1週間前(定款で短縮可能)までに各取締役(監査役設置会社にあっては各取締役および各監査役)に対して通知をしなければならない。(会社法368条1項)

ただし取締役(監査役設置会社にあっては取締役および監査役)の全員の同意があるときは招集の手続を経ることなく取締役会を開催できる。(会社法368条2項)

④議事および決議

取締役会の議事について法務省令で定めるところにより議事録を作成しなければならない。

議事録が書面をもって作成されている場合は出席した取締役および監査役は、これに署名し、または記名押印しなければならない。(会社法369条3項)

取締役会の決議は議決に加わることができる取締役の過半数(定款では加重可能)が出席し、その過半数(定款で加重可能)をもって行うことが原則だ。(会社法369条1項)

ただし、これには(1)書面決議(2)特別取締役に決議という決議という例がある。

取締役会設置会社は取締役が取締役会の決議の目的である事項について提案した場合において当該提案について決議に加わることができる取締役の全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をしたとき(監査役会設置会社あっては監査役が当該提案について異議を述べたときを除く)は当該提案の可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができる。(会社法370条)

委員会設置会社を除く取締役会設置会社が一定の要件を充たす場合に取締役会は予め選定した3人以上の取締役(特別取締役)のうち決議に加わることができるものの過半数が出席し、その過半数をもって一定の事項に関する取締役会決議を行うことができる旨を定款に定めることができる。(会社法373条1項)

取締役の数が多い大規模な会社において機動的な経営の意思決定ができるよう少数の特別取締役によって決議をし、それを取締役会決議とする制度を設けた。

[特別取締役による決議]
特別取締役を選定できる会社の要件】(1)委員会設置会社を除く取締役会設置会社であること(2)取締役の員数が6人以上で、かつ、取締役のうち1人以上が社外取締役であること
決議できる事項】(1)重要な財産の処分および譲受け(2)多額の借財
要件】3人以上の特別取締役のうち議決に加わることができるものの過半数が出席し(定足数)その過半数(決議要件)をもって決議を行う

代表取締役

①代表取締役とは

代表取締役とは株式会社を代表する取締役であり会社の業務執行を行う機関をさす。(会社法47条、349条)

代表取締役は業務執行機関であり取締役または取締役会の決定に基づき株式会社の業務を執行する。(会社法363条1項1号)

また株式会社の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する。(会社法349条4項)

仮にこの権限に制限を加えたとしても善意の第三者に対抗できない。(会社法349条5項)

②代表取締役の選任および終任

取締役会設置会社でない会社においては原則として取締役が株式会社を代表する権限を有する。(会社法349条1項)

取締役の全員が代表取締役となり取締役が2人以上ある場合でも各自が株式会社のだ表となる。(会社法349条2項)

ただし取締役の他に代表取締役その他株式会社を代表する者を定めた場合は、その者が株式会社を代表する。(会社法349条1項但し書)

代表取締役は定款、定款の定めに基づく取締役の互選または株主総会の決議によって取締役の中から選定することができる。(会社法349条3項)

委員会設置会社を除く取締役会設置会社においては取締役会は取締役の中から代表取締役を選定しなければならない。(会社法362条3項)

[代表取締役の終任事由]
(1)取締役である資格の喪失(任期満了、辞任、総会決議での解任等)
(2)定款等で定められた代表取締役の任期の満了
(3)代表取締役の辞任
(4)取締役会決議による代表取締役の解職

③表見代表取締役

株式会社が代表取締役以外の取締役に社長、副社長その他株式会社を代表する権限を有するものと認められる名称を付した場合には当該取締役がした行為について善意の第三者に対して責任を負う。(会社法354条)

[表見代表取締役の成立要件]
外観の存在代表権を有すると認められる名称の使用があること(例:社長、副社長、頭取、総裁、理事長)
外観の付与】会社が名称の使用を明示的ないし黙示的に求めた場合に限られる(最判S42.4.28)→無断使用の場合は成立しない
外観への信頼】相手方は善意無重過失であることを要する(最判S52.10.14)

4章 商法 レッスン6 株式会社の機関②-その他機関ー

会計参与

①会計参与とは

会計参与とは取締役と共同して計算書類等を作成することを職務とする会社の役員をさす。(会社法374条1項)

すべての株式会社は定款の定めによって会計参与を置くことができる。(会社法326条2項)

会計参与は公認会計士、監査法人、税理士、税理士法人のいずれかでなくてはならない。(会社法333条2項)

また会計参与は職務の独立性を確保するため株式会社またはその子会社の取締役、監査役、執行役、支配人その他使用人との兼任は禁止されている。(会社法333条3項1号)

②会計参与の選任および終任

会計参与は株主総会の決議によって選任される。(会社法329条1項)

取締役と同様に普通決議だ。

会計参与の任期については取締役の規定が準用される。(会社法334条)

つまり原則として選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとなる。

また定款または株主総会決議により任期を短縮すること、および非公開会社(委員会設置会社を除く)では定款の定めにより最長10年まで任期を伸長できる。

会計参与の終任事由も取締役と同じだ。

③会計参与の権限

[会計参与の権限および義務]
計算書類等の作成】取締役または執行役と共同して作成する
報告聴取・調査権】取締役または支配人等に会計に関する報告を求めることができる
閲覧・謄写権】会計帳簿等の資料を閲覧・謄写することができる
子会社調査権】職務に必要な場合は子会社に会計に関する報告を求め子会社の業務および財産の状況の調査をすることができる
不正行為の報告義務】取締役等の不正行為を発見した場合は監査役(監査役会、監査委員会)へ報告しなければならない
説明義務】株主総会において特定の事項について株主から説明を求められた場合は必要な説明をしなければならない
取締役会出席義務】取締役会設置会社の会計参与は計算書類を承認する取締役会に出席し必要があれば意見を述べなければならない
計算書類備置義務】会社とは別に法令省令の定めによるところにより計算書類等を5年間備え置き株主、会社債権者等の閲覧に供しなければならない

④会計参与の報酬等

会計参与の報酬は定款または株主総会の決議によって定められる。(会社法379条1項)

監査役

①監査役とは

監査役とは取締役(会計参与設置会社にあっては取締役および会計参与)の職務執行の監査をするための株式会社の機関をさす。(会社法381条1項)

株式会社は定款の定めによって監査役を置くことができる。(会社法326条2項)

監査役の設置は原則として任意だ。

例外として委員会設置会社を除く取締役設置会社および会計監査人設置会社は監査役を置かなければならない。(会社法327条2項、3項)

なお委員会設置会社は監査役を置いてはならないと定めている。(会社法327条4項)

取締役の資格等の規定が監査役に準用される。(会社法335条1項)

公開会社にあっては監査役が株主でなければならない旨を定款で定めることはできない。

非公開会社であれば定款の定めにより監査役の資格を株主に限定することができる。(会社法335条1項)

監査役は1人以上置けばよいとされているが監査役会設置会社にあっては3人以上で、そのうち半数以上が社外監査役でなければならない。(会社法335条3項)

監査役は株式会社もしくはその子会社の取締役もしくは支配人その他の使用人または当該子会社の会計参与もしくは執行役との兼任を禁止されている。(会社法335条2項)

監査する者とされる者が同一では公正な監査を期待できないし監査役の職務の独立性を確保するためだ。

②監査役の選任および終任

監査役は取締役や会計参与と同様、株主総会の普通決議によって選任される。(会社法329条1項)

監査役の任期は原則として選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとなる。(会社法336条1項)

取締役や会計参与の終任事由とほぼ同様だ。

ただし解任決議の要件は特別決議だ。(会社法343条4項、309条2項7号)

監査役の職務の独立性を確保するために容易には解任されないようにした。

③監査役の権限

[監査役の権限および義務]
報告聴取・調査権】取締役、会計参与または支配人等に事業の報告を求め、会社の業務および財産状況を調査することができる
会社と取締役との間の訴えにおける会社代表権、責任追及等の訴えに関する権限】会社と取締役(取締役であった者を含む)との間の訴えについて会社を代表する。責任追及の訴えに関する株主からの提訴請求等についても会社を代表する
子会社調査権】職務に必要な場合は子会社に事業の報告を求め子会社の業務および財産の状況の調査をすることができる
不正行為の報告義務】取締役等の不正行為を発見した場合は取締役または取締役会へ報告しなければならない
取締役会出席義務、意見陳述義務】取締役会設置会社の監査役は取締役会に出席し必要があれば意見を述べなければならない
違法行為の差止請求権】取締役が目的の範囲外の行為その他法令または定款違反の行為をし、またはする恐れがある場合で当該行為によって著しい損害を生ずる恐れのある時は当該取締役に対して当該行為を止める請求をすることができる

監査役は取締役の職務執行について監査権限を有するので原則として会社の業務全般の監査権限を有する。

④監査役の報酬等

監査役の報酬は定款または株主総会の決議によって定められる。(会社法387条1項)

監査役会

①監査役会とは

監査役会とは、すべての監査役で組織され常勤監査役の選定および解職、会社の業務および財産状況の調査方法その他監査役の職務の執行に関する事項の決定等を行う機関をさす。(会社法390条)

株式会社は定款の定めによって監査役会を置くことができる。(会社法326条2項)

監査役会の設置は原則として任意だ。

監査役設置会社において監査役は3人以上で、そのうちの半数以上は社外監査役でなければならない。(会社法335条3項)

さらに監査役の中から1人以上の常勤監査役を選定しなければならない。(会社法390条3項)

監査役会は各監査役がこれを招集する。(会社法391条)

また招集にあたって監査役は会日の1週間前までに各監査役に対して招集通知を発しなければならない。(会社法392条1項)

この期間は定款で短縮できる。

監査役会の決議は監査役の過半数で行う。(会社法393条1項)

②監査役会の権限

監査役会は以下の権限を有する。(会社法390条2項、4項)

[監査役会の権限]
(1)監査報告の作成
(2)常勤監査役の選定および解職
(3)監査の方針、監査役会設置会社の業務および財産の状況の調査の方法その他の監査役の職務の執行に関する事項の決定
(4)監査役から職務の執行状況について、いつでみ報告を受ける権利

会計監査人

①会計監査人とは

会計監査人とは株式会社の計算書類等の監査をする者をさす。(会社法396条1項)

会計監査人は株主、債権者や取締役等の経営者に信頼できる会計情報を与えるために設置される。

株式会社は定款の定めによって会計監査人を置くことができる。(会社法326条2項)

会計監査人は公認会計士または監査法人でなければならない。(会社法337条1項)

また以下の法定の欠格事由がある。(会社法337条3項)

[会計監査人の欠格事由]
(1)公認会計士法の規定により法定の計算書類について監査することができない者
(2)株式会社の子会社もしくはその取締役、会計参与、監査役もしくは執行役から公認会計士若しくは監査法人の業務以外の業務により継続的な報酬を得ている者またはその配偶者
(3)(2)に揚げる者が社員の半数以上である監査法人

②会計監査人の選任および終任

会計監査人は取締役・会計参与・監査役と同様、株主総会の普通決議によって選任される。(会社法329条1項)

会計監査人の任期は選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結までとなる。(会社法338条1項)

この定時株主総会において別段の決議がなされなければ当該株主総会において会計監査人は再任されたとみなす。(会社法338条2項)

株式会社は株主総会の普通決議をもって、いつでも会計監査人を解任できる。(会社法339条1項2号)

ただし解任を株主総会の目的とするには選任時と同様に監査役または監査役会の同意が必要になる。(会社法344条1項2号)

③会計監査人の権限

会計監査人は株式会社の計算書類およびその附属明細書、臨時計算書ならびに連結計算書類を監査する。

そして法務省令で定めるところにより会計監査人は会計監査報告書を作成しなければならない。(会社法396条1項)

[会計監査人の権限および義務]
閲覧・謄写権】会計帳簿等の書面、電磁的記録を閲覧・謄写することができる
報告聴取権】取締役、会計参与、支配人その他の使用人に対し会計に関する報告を求めることができる
子会社調査権】職務を行うために必要があるときは子会社に対して会計に関する報告を求め、または会社もしくは子会社の業務および財産の状況の調査をすることができる
株主総会出席権、意見陳述権】計算書類等が法令または定款に適合するかどうかにつき監査役、監査役会または監査委員会あるいはその委員と意見を異にするときは定時株主総会に出席して意見を述べることができる
株主総会出席義務、意見陳述義務】定時株主総会において会計監査人の出席を求める決議があったときは総会に出席して意見を述べなければならない
不正行為の報告義務】職務を行うに際して取締役の職務の執行に関し不正の行為または法令もしくは定款に違反する重大な事実があることを発見したときは延滞なく監査役に報告しなければならない

④会計監査人の報酬等

取締役は会計監査人の報酬などを定める場合は監査役(2人以上の場合は過半数)の同意を得なければならない。

監査役設置会社にあっては監査役会、委員会設置会社にあっては監査委員会の同意がそれぞれ必要となる。(会社法399条)

委員会設置会社

①委員会設置会社とは

委員会設置会社とは指名委員会、監査委員会および報酬委員会を置く株式会社をさす。(会社法2条12号)
②委員会

各委員会は次の共通する特徴を有している。(会社法400条、401条1項、404条4項)

[各委員会の共通特徴]
(1)委員会3人以上で組織される
(2)委員は取締役の中から取締役会決議で選定される
(3)委員はいつでも取締役会決議で解職できる
(4)委員の過半数は社外取締役でなければならない
(5)委員は会社に対し職務の執行につき費用の前払いや支出した費用および利息の償還を請求することができる。会社はその費用等が職務の執行に必要ないと証明しなければ、これを拒むことはできない

指名委員会は株主総会に提出する取締役(会計参与設置会社にあっては取締役および会計参与)の選任および解任に関する議案の内容を決定する機関だ。(会社法404条1項)

監査委員会は取締役、執行役および会計関与の職務執行を監査し監査報告の作成し株主総会に提出する会計監査人の選任および解任ならびに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容を決定する機関だ。(会社法404条2項)

取締役会の内部機関として取締役会と情報を共有することで、より授実したきめ細かい監査が行われるようにした。

監査委員は以下のような権限を有する。(会社法405条-408条)

[監査委員会の権限および義務]
報告聴取権・調査権監査委員会が選任した監査委員は、いつでも執行役等および支配人その他の使用人に対し職務の執行に関する事項の報告を求め、また会社の業務および財産の状況を調査できる
子会社調査権監査委員会が選定した監査委員は監査委員会の職務を執行するため必要があるとき子会社に対して事業の報告を求め、または子会社の業務および財産の状況を調査できる
不正行為の報告義務】執行役または取締役が不正行為をし、もしくは当該行為をする恐れがあると認めるとき、または法令・定款に違反する事実もしくは著しく不当な事実があると認めるときは延滞なく、その旨を取締役会に報告しなければならない
差止請求権】執行役または取締役が会社の目的の範囲外の行為その他法令・定款に違反する行為をし、またはこれらの行為をする恐れがある場合で当該行為により会社に著しい損害が発生する恐れがあるときは当該執行役または取締役に対して当該行為を止めることを請求できる
会社と執行役または取締役との間の訴えにおける会社代表権、責任追及等の訴えに関する権限】会社と執行役または取締役(執行役または取締役であった者を含む)との間の訴えについて会社を代表する。責任追及の訴えに関する株主からの提訴請求等についても会社を代表する。ただし監査委員が訴訟の当事者である場合を除く

報酬委員会は執行役等が受ける個人別の報酬等の内容に関する方針を定め、その方針によって個人別の報酬等のないようを決定する権限を有する機関だ。(会社法404条3項)

執行役が委員会設置会社の支配人その他の使用人を兼任しているときは当該支配人その他の使用人の報酬等の内容についても同様に決定する。

③執行役および代表執行役

執行役とは取締役会の決議によって委任を受けた事項を決定し委員会設置会社の業務を執行する委員会設置会社における必要的な機関をさす。

執行役は取締役会決議によって委任された業務執行の決定および業務執行を行う。(会社法418条)

委員会の設置を選択した株式会社では1人または2人以上の執行役を設置しなければならない。(会社法402条1項)

執行役については以下のように規定されている。(会社法402条2項、4項-6項、403条1項)

[執行役の資格、任期、兼任および解任]
資格】(1)法人、成年被後見人、被保佐品、一定の罪を犯し刑を処せられ執行が終わって2年を経過しない者等は執行役となれない(2)執行役を株主に限る旨を定款で定めることは原則としてできない。ただし公開会社でない委員会設置会社ではできる
任期任期後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結後、最初に召集される取締役会の終結の時までとされる。ただし定款で任期を短縮することができる
兼任執行役は取締役を兼任することができる
選任】執行役は取締役会の決議によって選任される
解任】執行役は、いつでも取締役会の決議によって解任することができる

執行役と会社との関係は委任関係だ。(会社法402条3項)

したがって執行役は委員会設置会社に対し善管注意義務および忠実義務を負う。(会社法419条2項)

また取締役と同様に競業取引および利益相反取引も制限される。(会社法419条2項)

執行役が会社に損害を与える場合は、その損害を賠償する義務を負う。

また職務を行うにつき悪意または重大な過失があり第三者に損害が生じたとき第三者に対しても損害を賠償する義務を負う。(会社法423条、429条)

代表執行役とは執行役のなかから定められる会社を代表する機関をさす。

代表執行役は取締役会の決議で執行役の中から選任しなければならない。

なお代表執行役はいつでも取締役会の決議によって解職することができる。(会社法420条2項)

代表執行役は代表取締役と同様に委員会設置会社の事業に関する一切の裁判上または裁判外の行為を行う権限を有す。

代表執行役の権限に加えられた制限は善意の第三者に対抗できない。(会社法420条3項)

代表権は与えられていないが代表権を有するものと認められる名称を付した執行役を代表執行役と信じて取引をした第三者を保護する制度だ。(表見代表執行役)(会社法421条)

④委員会設置会社の取締役および取締役会

委員会設置会社の取締役は法令に別段の定めがある場合を除き委員会設置会社の業務を執行することができない。(会社法415条)

業務執行は執行役が行う。(会社法421条)

委員会設置会社の業務執行の決定および執行役等の職務執行の監督が取締役会の権限となる。(会社法416条、400条2項、401条1項、402条2項、403条1項)

[委員会設置会社の取締役会の権限]
(1)経営の基本方針の決定等、業務執行の基本事項の決定
(2)各委員会の委員の選定および解職
(3)執行役の選定および解任
(4)一定の重要事項を除く業務執行の決定の執行役への委任

役員等の損害賠償責任

①会社に対する責任

取締役、会計参与、監査役、執行役または会計監査人(総称として「役員等」)は、その任務を行った時は株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。(会社法423条1項)

なお、この責任は過失責任だが賠償責任を負う役員が複数いる場合には、これらの者は連帯債務者となる。(会社法430条)

取締役または執行役が競業取引の制限に違反して株主総会(取締役会設置会社にあっては取締役会)の承認を得ずに競業取引を行った場合は当該取引によって取締役等が得た利益の額が会社の損害額と推定される。(会社法423条2項)

取締役または執行役が行った利益相反取引によって会社に損害が発生した場合に当該行為を行った取締役または執行役等は、その任務を怠ったものと推定される。(会社法423条3項)

株式会社は何人に対しても株主の権利の行使に関し財産上の利益の供与をしてはならない。(会社法120条1項)

株式会社がこの規定に違反して利益供与をした場合は当該利益供与に関与した取締役または執行役は会社に連帯して供与した利益の価値に相当する額を支払う義務を負う。(会社法120条4項)

分配可能額を超えて剰余金の配当がなされた場合は、これをなした業務執行取締役または執行役は会社に対して連帯して株主が交付を受けた金銭等の帳簿価額を支払う義務を負う。(会社法462条1項)

ただし業務執行者等がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は義務を免れる。(会社法462条2項)

役員等が任務を怠った場合に責任(会社法423条1項)は原則として株主総会の同意がなければ免除することはできない。(会社法424条)

ただし役員等が「善意でかつ重大な過失がないとき」は一定の要件を満たす時に限り責任の一部をめんじょすることができる場合がある。(会社法425条-427条)

②責任追及等の訴え(株主代表訴訟)

株式会社が役員等の責任追及を怠り責任追及等の訴えを提起しない場合には株主は会社に代わって会社のために役員等の責任追及を目的として訴えを提起することができる。(責任追及等の訴え/株主代表訴訟)(会社法487条)

責任追及等の訴えを提起できる者は6か月前から引き続き株式を有する株主だ。(会社法847条1項)

この6か月という期間は定款で短縮することができる。

また公開会社でない会社ではこの期間制限がない。(会社法847条2項)

なお単元未満株主については定款の定めによって責任追及等の訴えの提起を制限することができる。(会社法847条1項括弧書)

株主は、まずは会社に対して書面または電磁的方法によっり責任追及等の訴えを提起するよう請求しなければならない。(会社法847条1項)

会社に対する請求から60日以内に会社が責任追及等の訴えを提起しない場合には請求をした株主自らが責任追及等の訴えを提起することができる。(会社法847条3項)

責任追及等の訴えが本来の目的である会社や株主の利益を保護する理由以外で提起される様なことは防止する必要がある。

そこで訴えの提起が濫用されないように規定が置かれてる。

③第三者に対する責任

役員等がその職務を行うについて悪意または重大な過失があったときは、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。(会社法429条1項)

役員等がその任務に違反した場合は本来は会社に対する関係で責任が発生するに過ぎないはずだ。

しかし役員等の職務の執行は第三者の利害に関するところが大きいといえ特に第三者の保護のため役員等の第三者に対する責任を定めた。(法定責任)

役員等が会社または第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合で他の役員等も責任を負うときは、これらの者は連帯債務者とされる。(会社法430条)

虚偽の登記や計算書類及び事業報告書等に記載または記録すべき重要な事項について虚偽の記載または記録等をした役員等は、その者が当該行為をすることについて注意を怠らなかったことを証明しない限りは第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。(立証責任の転換)(会社法429条2項)

4章 商法 レッスン7 計算その他

計算

①計算の意味

企業活動の目的は利潤の追求だ。

だから株式会社では各事業年度において会社の財産状況を明らかにし株主に剰余金の配当を行う原資を把握し会社債権者の保護を図る。

②計算書類

株式会社は法務省令で定めるところの各事業年度に計算書類および事業報告ならびに付属明細書を作成する。(会社法435条2項)

計算書類…貸借対照表、損益計算書その他株式会社の財産および損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めたもの(会社法435条2項)

取締役の勝手な行動や不正を防ぎ株主および債権者の利益を確保するためだ。

[計算書類等の作成および広告の流れ]
(1)取締役や執行役(会計参与設置会社にあっては会計参与も共同する)が作成する。
(2)監査役設置会社(会計監査人設置会社を除く)においては作成した計算書類等につき監査役の監査を受ける。
(3)取締役会設置会社においては監査を受けた計算書類等は取締役会に提出され承認を受ける。総会の1週間前の日から計算書類等を本店に5年間その写しを3年間それぞれ備え置き株主および会社債権者の閲覧に供し請求に応じて謄本または抄本を交付する。
(4)計算書類等を取締役が定時株主総会へ提出・提供し原則として株主総会で承認を受ける。
(5)定時株主総会終了後、延滞なく会社は貸借対照表(大会社では損益計算書も)を公告する。

③余剰金の配当等

株式会社は株主に余剰金の配当をすることができる。(会社法453条)

[余剰金配当の要件]
(1)株主総会の決議…原則として普通決議(会社法454条1項)
(2)分配可能額の存在…会社財産を確保するため(会社法461条)
(3)純資産額が300万円以上…会社財産を確保するため(会社法458条)

資金調達

①募集株式の発行等

募集株式の発行等とは会社成立後に株式引受人を募集することにより株式を発行すること(通常の株式発行)および自己株式を処分することをさす。(会社法199条-213条)

[株式会社の資金調達]
(資金調達)(企業内部からの調達)(利潤の社内留保)
                 (減価償却費など)
      (企業外部からの調達)(金融機関借入金)
                 (社債の発行)
                 (募集株式の発行等
(募集株式の発行等)(通常の株式発行)
          (自己株式の処分)

募集株式について一定の募集事項を定めなければいけない。(会社法199条)

[募集株式発行の方法]
株主割当て)株主に対して割当てを受ける権利を与える方法

公開会社では取締役会決議により募集事項を決定する。

公開会社でない会社は原則として株主総会の決議で定款に定めがあれば取締役の決定(取締役会設置会社では取締役会の決議)で募集事項を決定する。(会社法202条3項)

(それ以外の方法)(1)公募発行…広く一般から募集株式を引き受ける者を募集する。(2)第三者割当て…特定の第三者に募集株式を割り当てる。

公開会社では原則として取締役会の決議で募集事項を決定する。(会社法201条)

ただし株主以外の者に対して特に有利な金額で募集株式の発行等をする場合は株主総会の特別決議が必要だ。(会社法199条3項、309条2項5号)

公開会社でない場合は原則として株主総会の特別決議が必要だ。(会社法199条2項、309条2項5号)

②新株予約権

新株予約権とは株式会社に対して行使することによって当該株式会社の株式の交付を受けることができる権利をさす。(会社法2条21号)

③社債

社債とは会社法の規定により会社が行う割当てにより発行する会社を債務者とする金銭債権であって会社法676条各号に掲げる事項について定めに従い償還されるものをさす。(会社法2条23号)

解散および清算

①会社の解散

[株式会社の解散事由(会社法471条、472条)]
(1)定款で定めた存続時間の満了
(2)定款で定めた解散事由の発生
(3)株主総会の特別決議
(4)合併による消滅
(5)破産手続開始の決定
(6)休眠会社のみなし解散
(7)解散命令または解散の訴えにおける解散を命ずる裁判

②清算手続

清算とは解散した会社につき法律関係を整理会社財産を換価分配するための手続をさす。

(追記 2021.9.6)

ここは毎年今の会社で携わっているので詳しい。

4章 商法 レッスン8 組織再編

今までの教訓を生かして、ここから読み始める。

組織再編は僕も経験しているので理解は容易なはずだ。

事業の譲渡

事業の譲渡した会社は原則として事業を譲渡した日から20年間は同一の市町村および隣接する区域で同一事業を営んではならない。

株主保護の観点から原則として株主総会の特別決議が要求される。

①事業の全部を譲渡 双方の特別決議の承認

②事業の重要な一部を譲渡 譲渡会社の特別決議の承認

事業譲渡契約内容の決定を取締役または執行役に委任することはできない。(会社法362条4項、416条4項15号)

会社法は①譲渡資産が譲渡会社の帳簿価額が総資産1/5超(定款で引下げ可)②譲渡対価が譲受会社の純資産1/5超(定款で引下げ可)③当事会社の一方が他方の特別支配会社に該当、株主総会の特別決議は不要だ。

特別支配会社
A株式会社の総株主の決議権90%以上をB株式会社とその完全子会社が保有した場合のB社のことだ。

事業の譲渡の効果

譲受会社が譲渡会社の商号を譲り受け引き続き使う時や債務を引き受ける旨広告した際は譲渡会社だけでなく譲受会社も譲渡会社の事業で生じた債務を弁済する責任を負う。(会社法22条1項)

従業員と譲渡会社の雇用関係は譲渡資産に含まれる

両者間の労働契約は従業員の承諾がなければ譲受会社に譲渡できない。(民法625条1項)

合併とは

2つ以上の会社が契約により法定手続きにより1つの会社となる事だ。

吸収合併 ②新設合併(会社法2条27項、28項)

合併の手続き

合併契約を締結(会社法748条)

→ 法務省令所定事項を記載書面または電磁的記録本店に備え株主および債権者閲覧を供す

→ 原則、株主総会の特別決議による承認決議が必要(合併に反対の株主に株式買取請求権の保障)

→ 合併当事会社の債権者は合併に異議申立ての機会を(異議申立てた債権者には原則、弁済または相当の担保の提供

→ ①吸収合併存続会社は効力発生日に消滅会社の権利義務を承継 ②新設合併設立会社は成立日に消滅会社の権利義務を承継

→ 法務省令で定める事項を記録した書面または電磁的記録を作成

→ 吸収合併または新設合併の登記

合併の効果

①当事会社の一部または全部の解散 消滅会社は解散すると同時に消滅し清算はしない。(会社法471条4号)

②消滅会社の株主の収容 対価として与えられるもの株主、社債債権者、新株予約権者となる。

会社分割とは

1つの会社を2つ以上の会社に分けること。

吸収分割 ②新設分割

会社分割の手続き

①分割当事会社

株式会社または合同会社のみ

②分割手続き

吸収分割→分割契約の締結 新設分割→分割計画の作成

→ 分割契約または分割計画の事前開示(株式会社のみ

→ 株式会社 原則、株主総会の特別決議による承認 合同会社 総社員の同意

→ 分割当事会社に対し債権者に異議申立ての機会の保障

→ 吸収分割または新設分割の登記

会社分割の効果

分割会社は分割後も存続し分割によっては解散しない。

①吸収分割

継承会社が分割会社の権利義務を承継する。(会社法759条1項)

分割会社は対価として承継会社の株主または社員、社債権者、新株予約権者など。(会社法759条4項)

②新設会社

成立日に分割会社の権利義務を承継する。(会社法764条1項)

新設分割会社は対価として新設分割会社の株主となる。(会社法764条4項、5項)

株主交換および株式移転とは

株式交換とは株式会社が発行済株式の全部を他の株式会社または合同会社に取得させる。

煩雑な手続きを踏まず既存の会社間の完全親子会社関係を円滑に創設すること。  

株式移転とは1つまたは2つ以上の株式会社が発行済株式の全部を新設する株式会社に取得させる。

煩雑な手続きを踏まず新会社を設立、完全親子会社関係を円滑に創設すること。

組織変更とは

株式会社がその組織を変更する事で持分会社となる、または持分会社がその組織を変更する事で株式会社になること。(会社法2条26号、743条)

組織変更の手続き

一定の法律事項を定め組織変更計画を作成

→ 法務省令所定の事項を事前に開示し株主および会社債権者の閲覧を供する(株式会社が組織変更をする場合のみ)

→ 効力発生日の前日までに計画について総株主または総社員の同意を得る

→ 債権を有する者に異議申立ての機会を保障

→ 効力発生日に変更の効力が発生

→ 効力が生じた日から2週間以内に本店所在地にて組織変更前の会社は解散の登記、組織変更後の会社については設立の登記

(追記 2021.8.25)

登記だけど登記簿謄本を見たことない人には理解が難しいだろう。

僕は幸い今の仕事で本社の法人担当の仕事の手伝いをしてる。

だから見慣れてて助かる。

いきなり本店とか言われて普通ピンとこない。

これも登記ならではで登記簿の所在地に本店と書いてあるから、そう言ってるだけ。

こういった日常からは分からない事だらけなので慣れるまでしんどい。

一寸ポジティブになれる逸話を紹介する。

こういった見慣れない専門用語を使うのも役人ならではだ。

つまり役人って明治時代から超エリートだったので庶民との格差を見せつけるため、こういった隠語を使った。

つまり、おいそれと庶民に分かられてたまるかといった意地悪心からきている。

4章 商法 レッスン9 持分会社

会社法は知って損はないので先に進める。

持分会社とは

合名会社、合資会社または合同会社の総称(そうなんだ思わず叫んだ)

持分会社と社員の責任

持分会社の社員間には人的信頼関係があり会社とのかかわりでも経営に対して意欲があり個性が重視される。

社員は原則、会社の業務を執行(会社法590条1項)

会社の代表(会社法599条1項)

合名会社と合資会社の無限責任社員は会社債権者に対し直接、連帯し無限責任を負う。(会社法580条1項)

合資会社の有限責任社員は会社債権者に対し直接責任を負うが履行してない出資価額が限度される。(会社法580条2項)

合同会社の社員は有限責任社員で出資について全額払込主義がとられる。

金額払込主義……会社に対する出資義務を社員となる前にすべて履行しなければならない。

株式会社の株主と同じ間接有限責任だ。(会社法578条、604条3項)

合名会社 直接無限責任
合資会社 直接無限責任 直接有限責任
合同会社 間接有限責任
株式会社 間接有限責任

持分会社の設立手続き

定款の作成

社員になろうとする者が定款を作成、全員がこれに署名または記名押印する。(会社法575条1項)

社員が無限責任社員または有限責任社員のいつれかの別

出資の履行

①合名会社および合資会社

社員すべて出資義務を負い社員の出資目的および価額または評価標準は定款で定める。(会社法576条1項6号)

②合同会社

すべて間接有限責任社員のみで構成、出資の目的物は金銭その他の財産に限定する。(会社法576条6項カッコ)

全額払込主義(会社法578条、604条3項)

定款作成後の設立登記までに済ませる。

会社債権者の引当となる会社財産の確保の趣旨。

設立登記

本店の所在地において設立登記することで成立(会社法579条)

設立の瑕疵

①設立の無効

株式会社と同様、客観的無効原因があるか主観的無効原因のある。

たとえば設立に参加した社員個々の設立行為に錯誤や通謀虚偽表示がると主観的無効原因を認める。

②設立の取消

個々の社員の設立行為の取消原因が常に会社の設立事態の取消原因となる。(設立取消の訴え、会社法832条)

取消原因として社員の制限行為能力、意思能力の瑕疵を理由とする設立の意思表示の取消など。

持分会社の運営

①社員の業務執行

社員は定款に別段の定めがある場合を除き持分会社の業務を執行する。(会社法590条1項)

有限責任社員か無限責任社員であるか問わず。

2人以上の社員がある時は定款に特段の定めがある時を除き社員の過半数で決定する。(会社法590条2項)

なお持分会社の常務については各社員が単独で行うことが出来る。(会社法590条3項)

②業務執行社員

定款の定めにより一部社員のみが業務執行を行うことが出来る。

業務執行社員が2人以上ある時は定款に特段の定めがある時を除き業務執行社員の過半数で決定する。(会社法590条3項)

③監視権

業務執行社員を定款で定めた時に各社員は持分会社の業務執行する権利を有しない時も、その業務および財産の状況を調査することができる。(会社法592条1項)

④業務執行社員の義務

善管注意義務および忠実義務(会社法593条1項、2項)

株式会社の取締役と同じ協業避止義務を負う。(会社法594条)

利益相反取引を制限される。(会社法595条)

⑤業務執行社員の責任

その任務を怠った時は持分会社に連帯で損害賠償する責任を負う。(会社法596条)

会社の代表

業務を執行する社員は原則、持分会社を代表する。(会社法599条1項)

持分会社の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為の権限を有す。

この権限に制限を加えても善意の第三者に対応できない。(会社法599条4項、5項)

社員が2人以上の時、業務執行社員は原則、各自持分会社を代表する。(会社法599条2項)

社員の加入と退社

①加入

新たに社員を加入させることができる。(会社法604条1項)

加入は総社員の同意により当該社員の定款変更で効力が生じる。(会社法604条2項)

②退社

持分会社において会社の存続中に特定社員の資格が絶滅的に消滅する、つまり退社の性質は持分の払戻し。

任意退社

存続期間を定款で定めなかった時または社員の終身の間会社が存続する旨定款で定めた時は各社員は半年前までに予告、事業年度終了時に退社をする。(会社法601条1項)

法定退社

定款で定めた事由の発生、破産手続き開始の決定、総社員の同意、解散、死亡、後見開始の審判が下る、合併による消滅、除名など(会社法607条)

③持分の払戻し

退社した社員は、その出資の種類を問わず持分の払戻しを受けれる。(会社法611条1項)

その出資の種類を問わず金銭で払戻しできる。(会社法611条3項)

事業の継続が困難になることを防止するため。

持分の譲渡

他の社員の全員の承諾なしで一部でも譲渡できない。(会社法585条1項)

利益配当

社員は持分会社に利益配当を請求できる。(会社法621条1項)

配当に関する事項を定款に定められる。(会社法621条2項)

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

ユーキャンの行政書士通信講座
価格:63000円(税込、送料無料) (2021/9/18時点)


5章 基礎法学 レッスン1 法の概念

法とは何か

①法の定義

法とは物理的強制力に支えられた支配機構によって定立され直接に強制される規範。(国家の制裁により強制される社会的ルール)

②法と道徳の関係

法と道徳の共通点は「社会規範

壊れた洗濯機を勝手に廃棄 (道徳)反する(家電リサイクル法)違反

国家権力に裏づけされた強制力の有無で区別

③法の機能

国民の行動の判断基準になる(時速100km以下で走る)

紛争解決の基準になる(登記の先後によって所有権の帰属が決まる(民法177条))

④法の支配

何人も法以外のものには支配されない英米法の基本原理

法の効力

属地主義とは

自国の領域内に限定(海外で大麻を吸っての捕まらない)

②属地主義の例外

属人主義(自国民の行った行為は自国の法律を適用)

保護主義(自国または自国民の利益を保護する必要がある時は自国の法律を適用)

世界主義(世界の共通の一定の法益を侵害する時は自国の法律を適用)

③人的適用範囲

天皇および摂政は刑事訴追を受けない。

④場所的適用範囲

日本の領土、領空および領海だけでなく国外の船舶、飛行機や外国の公館(大使館)も(刑法1条2項)

法の不遡及

施工前の事実にさかのぼって適用されない。

⑥効力の発生または消滅の時期

成分法では法の施行の日(施行期日)から効力が生じる。

習慣法は成立した時から効力が生じる。

⑦経過規定(経過法)

新法か旧法か明文をもって適用を決める。

法の分類

①成文法と不文法

一定の形式および手続きに従い制定される法(成文法

上位法は下位法に優先する。(憲法は法律に優先する。法律は政令や省令に優先する。)

文字による表記以外の形で存在する法(不文法

成文法は不文法に優先する。

習慣法(習慣に基づいて成立する法)

・そのことが繰り返し行われる
・それに対し法的な確信が形成される

判例法(判例、特に最上級の裁判所の判決が繰り返される。)

条理(物事の筋道)

②一般法と特別法

適用対象が一般的な法(一般法

適用対象が特定される法(特別法

③強制法規と任意法規

当事者の意思にかかわらず適用される規定(強制法規

法令の内容と異なる合意を認められる規定(任意法規

④国内法と国際法

国家がもっぱら自国内で制定する法(国内法

国家間あるいは国際機関との間など国際社会を規律する法(国際法

⑤公法と私法

国(または地方公共団体)と構成員(国民、住民)の関係を律する法律(公法)

私人間を律する法律(私法)

⑥実体方と手続法

権利や義務など法律関係の内容を規定する法律(実体法)

実体法の中身を実現するための手続を定めた法(手続法)

法の解釈

法の解釈とは

法の意味するところを明らかにすること

抽象的一義的でない法の解釈が必要

②文理解釈

条文の言葉を文法的に解釈する方法

社会の複雑化から論理解釈の方法が要求された。

③論理解釈

1.事項以外の事項について条文は適用されない解釈(反対解釈)
2.類似する事項について条文を当てはめる解釈(類推解釈)
3.法令の趣旨や目的から適用する(勿論解釈)
4.通常の用法より狭い意味に理解する解釈(縮小解釈)
5.上の逆(拡張解釈)
6・多少変更した意味に理解する解釈(変更解釈)

法の基本原理

私法の基本原理

権利能力平等の原則(人は等しく権利と義務の主体となりうる)

私的自治の原則(当事者の自由意思を最大限尊重)

③所有権絶対の原則(個人の所有権を国家権力が強引に制約してはいけない)

④過失責任の原則(その人に故意または過失がなければいけない(例外)公害、消費者保護は無過失責任

刑法の基本原理

①規制的機能(犯罪行為に対し規範的評価を明らかにする)

②保護的機能(社会生活上の一定の利益を犯罪から保護する)

③保障的機能(国家権力が恣意的に刑罰権を乱用しない)

責任主義

「責任なければ刑罰なし」(未成年や精神破綻者など)

罰刑法定主義

あらかじめ成文の刑法が存在しないといけない。

事後法の禁止(ある行為後に施行された刑罰法規はダメ)
類推解釈の禁止(不利になる類推解釈はダメ)
明確性の原則(できるだけ明確に規定しなさい)
習慣刑法の禁止(習慣法の処罰はダメ)

5章 基礎法学 レッスン2 紛争の解決方法

ほとんどの人が紛争なんて経験ないから馴染みが薄く解り難い分野だ。

紛争解決手続の概要

①紛争解決手続とは

私たちは契約を結んで、それが実現するよう行動する義務がある。(契約の拘束力)

だが相手方(債務者)が契約上の義務(債務)を果たさない時、相手方(債権者)はどうしたらよいか。

当然悪いのは債務を実行(履行)しない債務者だ。

だが債務者に履行を要求できる債権者が自ら手を下すなら法治国家でない。(自力救済の原則的禁止)

そこで当事者間の紛争が生じたら、その解決手続を法定されている。

②紛争解決手続の種類

民事訴訟手続 調停
裁判外の和解 仲裁
即決和解   支払催促
裁判外紛争解決手続(ADR)

それでは、おのおのお紛争解決手続について見ていこう。

民事訴訟手続

①民事訴訟手続の特徴

(長所)当事者間の紛争が法律の適用により適切に解決できる。法的に明快な決着がつく。

(短所)両当事者の主張を聞き証拠を調べと時間がかかる。裁判は終始複雑で高度に専門化した手続をする。法律専門家(弁護士など)に依頼するが費用も高い。

②民事訴訟の主体

当事者とは訴えまた訴えられることにより判決の名あて人となる者のこと。

訴える者(原告) 訴えられた者(被告

当事者能力とは訴訟手続の当事者となることができる資格のこと。

原則、民法などの規定に従い判断される。(民事訴訟法28条)

訴訟能力とは当事者が自ら有効な訴訟行為を行いまたは相手方や裁判所の行う訴訟行為を受けることができる能力のこと。

当事者能力 ‡ 訴訟能力

未成年者成年被後見人は法定代理人なしで訴訟行為はできない。(民事訴訟法31条)

被保佐人や被補助人も特則がある。(民事訴訟法32条)

代理人とは訴訟当事者に代わり訴訟行為および受ける者をさす。

(任意代理人(民事訴訟法54条1項))本人の意思で代理権が与えられた代理人 ①法令により裁判上の行為をすることができる代理人 ②訴訟代理人(弁護士など)

(法定代理人)法律の規定で代理権が与えられた代理人 ①実体法上の法定代理人 ②訴訟法上の特別代理人

裁判所(管轄)①(事物管轄140万円以下は簡易裁判所それ超えるなら地方裁判所 ②(土地管轄)義務履行地である住所を管轄する裁判所に訴える。(民事訴訟法5条1号) ③(合意管轄)当事者の合意で決める。

③手続の流れ

訴えとは(訴えの概念)裁判所に原告が請求を提示して一定内容の審判を要求する訴訟行為のこと。

民事訴訟手続の第一審手続は訴えの提起によって開始される。

(給付の訴え)被告に対するある給付請求権の存在を主張し給付を命ずる判決を求める訴え(例:貸金返還請求の訴え)
(確認の訴え)特定の権利または法律関係の存在や不存在を主張し確認する旨の判決を求める訴え(例:債務不存在確認の訴え)
(形成の訴え)権利関係の変動のための一定の法律要件の存在を主張して変動を宣言する判決を求める訴え(例:離婚の訴え)

民事訴訟手続は当事者の訴えの提起によって開始

裁判所は当事者の訴えの範囲を超えて判断できない。

当事者は一旦開始した民事訴訟手続を自由に止めれる。

すべて民事訴訟手続を利用する当事者に任される。

訴状を裁判所に提出(民事訴訟法133条1項)

(例外)簡易裁判所への口頭による訴えの提起(民事訴訟法271条)

訴状の必要的記載事項(民事訴訟法133条2項)
(当事者および法定代理人)当事者の氏名、住所、法定代理人の氏名
(請求の趣旨)訴えによって求める判決内容の結果的な表示
(請求の原因)請求を特定するに必要な事実

裁判所は訴状の必要的記載事項や所定の印紙の有無など審査

不備があれば相当の期間を定め補正を命令

補正せず期間経過すると訴状は却下(民事訴訟法137条)

二重起訴の禁止(民事訴訟法142条)

裁判所が訴状を受理し書記官が相手方の被告へ訴状を送達(民事訴訟法138条1項、98条)

訴状が被告に送達された時で訴訟係属が認められる。

訴訟は口頭弁論の期日に裁判所の法廷で両当事者が平等にかかわる。

(口頭弁論)公開の法廷で両当事者が裁判官の面前で口頭で弁論および証拠調べを行い収集した裁判資料に基づいて裁判する審理方式。

弁論主義)当事者が主導権を握って裁判の基礎となる事実や証拠の収集および提出がなされる。

つまり当事者が事実を主張しない限り、その事実は存在しない。(主張責任

(証拠調べ手続)事実認定は当事者が申し出た事実について証拠調べをし得られた証拠に基づき行う。
(自由心証主義)事実認定は審理にでたすべての資料・状況に基づき裁判官の自由な判断で心証に委ねる。
(証明責任)事実認定の際、事実を証明できないことによる不利益のこと→主張責任を負う当事者が負う。ある法律に基づき効果を主張する者は、その規定の主要事実について証明責任を負う。

④訴訟の終了

当事者の意思による訴訟の終了

(訴えの取下げ)原告は訴えを取り下げることができる(民事訴訟法261条)
(訴訟上の和解)訴訟係属中に両当事者が相互に譲歩して訴訟の全部または一部を終了させる合意できる。→和解が成立し和解証書に記載されると確定判決と同一の効力が生ずる。(民事訴訟法267条)

終局判決による訴訟の終了

終局判決は訴訟判決と本案判決の2種類

判決が確定すると当事者は判決の取消を求めて、その訴訟手続内で争うことができなくなる。(形式的確定力)

紛争を蒸し返しを防止するため判断内容が後訴を拘束する効力(既判力)
給付判決の内容を民事執行手続で実現する根拠となる効力(執行力)

⑤不服申立て

上訴には控訴(当事者が第一審の判決に不服の際に上級裁判所に再審査を求める)と上告(当事者が第二審の判決に不服の際さらに上級裁判所に再審査を求める)がある。

⑥保全手続と強制執行手続

保全手続には仮差押え仮処分がある。

(仮差押え)金銭債権について債務者の財産の現状を維持し後日強制執行が不能また著しく困難な時その執行を保全する目的で債務者財産の処分を禁じる暫定的処置。
(紛争物に関する仮処分)

強制執行とは債権者が債務者の財産を勝手に持ち出しや処分することを禁じている。(自力救済の禁止)そこで国家権力に頼り強制的に債権を回収すること。

強制執行を根拠づける正当化する文書が必要。(債務名義

確定判決、和解調書、調停調書

その他の紛争解決方法

①裁判外の和解

和解とは紛争が生じた際、当事者が話し合い相互の主張を譲り合って紛争をやめるための合意のこと。

合意の内容を一方が履行しない際の措置を取り決めておく。(期限の利益喪失約款など)

和解に関する紛争につき合意管轄の取り決め。(訴訟の際の時間費用の節約)

②即決和解

即決和解とは当事者が簡易裁判所に申し立て期日に両当事者または代理人が出頭し和解調書を作る。(起訴前の和解)

(長所1)即決和解が成立し和解調書に記載されると確定判決と同じ効力が生じ和解調書は債務名義になる。→約束を不履行の際は強制執行が可。
(長所2)裁判外の和解の公正証書の作成と違い金銭の代替性や物の引渡しだけでなく不動産の明渡しの強制執行も可。

③調停

調停とは第三者である調停委員が仲介し当事者の互譲を促し条理にかなった解決を図る制度。(民事調停法1条)

調停は原則、相手方の住所、営業所か事務所の所在地を管轄する簡易裁判所に申し立て。

ただし事前の合意で地方裁判所や簡易裁判所が管轄裁判所になる。(民事調停法3条)

(調停の長所)

両当事者の言い分を調停委員が聞き調整し解決策を探る。

解決策が見いだせれば調停が成立する。

調停が成立すると調停調書を作る。(民事調停法16条)

調停調書も和解調書と同様、債務名義となるので一方が調停条項を履行しない際は即強制執行が可能だ。

(調停の短所)

協議を重ねても当事者の合意がなければ調停は不成立(不調)となる。(民事調停法14条)

調停委員には両当事者を強制してまで解決策を押しつける権限はない。

また当事者が呼出しに応じない際も調停では当事者を強制的に話し合いの場につかせられない。

④仲裁

仲裁とは仲裁人という第三者の判断による事項(仲裁判断)に確定判決と同じ効力を与える制度。(仲裁法45条1項)

(仲裁の長所)

仲裁判断に紛争当事者が拘束される。

仲裁は紛争総解決基準が示され、これに対する不服申立てが許されない。

紛争の簡易で迅速な解決に適している。

(仲裁の短所)

仲裁には十分な証拠調べの保障や不服申立ての制度がない。

仲裁人に適切な人がいず仲裁判断に不満が残る時は紛争がこじれ収拾つかない。

⑤支払催促

支払催促とは金銭の支払請求権などについて簡易裁判所の書記官に申し立て書記官から債務者へ発せられる督促のこと。(民事訴訟法382条ー396条)

(支払催促の長所)

相手方の呼出しや審尋なく発するところ。

請求に関する証明も必要でない。

低費用で簡易迅速に進められる。

相手方が争わなければ確定して債務名義となるから強制執行が可能。

(支払催促の短所)

最初から通常訴訟を申立てたより時間も費用もかかってしまうケースある。(異議申立て)

支払催促の所轄裁判所は相手方の住所地を管轄する簡易裁判所になる。

通常訴訟に移ってしまうと相手方の住所地の管轄裁判所に出頭しないといけない。

さらに時間と労力を浪費する結果になりかねない。

裁判外紛争解決手続(ADR)

裁判外紛争解決手続(ADR)とは裁判外紛争解決機関による紛争解決手続のこと。

(ADRの長所)

専門的知識が要求される分野で専門家の関与が比較的容易である。

解決に至る時間が短く手続きも簡単で費用も安い。

代理人が必ずしも弁護士に限らないので他の専門資格者が活躍できる。

(ADRの短所)

弁護士が代理人にならないで専門家が公平的で高い紛争解決に向け研鑽を続けノウハウを蓄積しないといけない。

つまり解決の信用性や妥当性を高める必要がある。

ADR基本法

「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」が制定、施行されている。

認証

法務大臣の認証を受けた事業者(認証紛争解決事業者)(ADR基本法2条4号)が紛争の当事者双方と紛争解決に関する契約を締結し契約に基づき事業者が紛争の解決にあたる。

法務大臣が認証することで短所を解消し紛争解決機関の適正さを確保する。

解決方法

①助言 ②斡旋 ③調停 ④仲裁

民事訴訟手続との違い

手続を利用するのに相手方の同意が原則必要なこと。

手続利用に関する相手方の同意(民事総省手続)不要(ADR)あっせん、調停、仲裁→必要(仲裁では仲裁合意)
第三者が解決案を提示するか(民事訴訟手続)する(判決)(ADR)調停、仲裁→する(調停案、仲裁判断)
解決案を拒否できるか(民事訴訟手続)できない(ADR)調停→できる 仲裁→できない(訴訟を提起することができない)

日本司法支援センター(法テラス)

法テラスとは2004年(平成16年)に交付・施行された総合法律支援法に基づき独立行政法人として設立された。

目的は総合法律支援に関する事業を迅速かつ適切に行うこと。(総合法律支援法14条)

法テラスは広く全国へ法による紛争解決ひ必要な情報サービスを受けられる社会の実現を目指し迅速かつ適切、効果的な運営を図る。(総合法律支援法34条)(日本支援センター業務方法書2条)

主な業務

①情報提供業務(総合法律支援法30条1項1号)
②民事法律扶助業務(総合法律支援法30条1項2号)
③国選弁護等関連業務(総合法律支援法30条1項3号)
④司法過疎対策業務(総合法律支援法30条1項4号)
⑤犯罪被害支援業務(総合法律支援法30条1項5号)
⑥受託業務(総合法律支援法30条2項)

実は僕は人を訴えたことがあるから意外とこの辺は詳しい。

とは言い切れない。

紛争解決方法に余りに選択肢があり過ぎだ。

覚えきれない。

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

ユーキャンの行政書士通信講座
価格:63000円(税込、送料無料) (2021/9/18時点)


6章 一般知識 レッスン1 政治総論

政治に関する基礎概念

①権力分立

権力分立とは国家の所作用を性質に応じ立法、行政、司法に区別し異なる機関に担わせ分離し相互に抑制と均等を保持する制度だ。

この権力分立はロックやモンテスキューによって理論化された。

立法権と行政権の厳格な分立を基調とするアメリカ型の大統領制や立法権と行政権の緩やかな分立と抑制と均衡関係を基調とするイギリス型の議院内閣制がある。

[議院内閣制と大統領制の比較]
典型例(議院内閣制)イギリス、日本(大統領制)アメリカ
立法と行政の分立の厳格度(議院内閣制)緩やか(大統領制)厳格
立法府と行政府の信任の有無(議院内閣制)内閣不信任制度、下院の解散制度          (大統領制)大統領は議会から不信任✖、大統領に議会解散権✖
行政府の長の選出方法(議院内閣制)議会が選ぶ(大統領制)国民が選ぶ
閣僚と議院の兼職の可否(議院内閣制)兼職可(大統領制)兼職不可

②選挙の基本原則

普通選挙とは制限選挙と対比され納税額や財力の有無を選挙権の要件としない選挙を指す。

1890年(明治23年)日本では第1回帝国議会が開かれた。

それ以来、選挙権に納税が要件とされた。

1925年(大正14年)成年男子による普通選挙が実施された。

1945年(昭和20年)成年女子に普通選挙が認められた。

平等選挙とは選挙人の選挙権に平等な価値をおくことをさす。

平等選挙は衆参議院の議員定数の不均衡が問題となっている。

最高裁は衆議院の議員定数を違憲と判決した。(最大判S51.4.14)

直接選挙とは選挙人が直接に議員を選ぶことをさす。

地方公共団体の長と議会の議員など住民が直接これを選挙すると定めている。(憲法93条2項

秘密選挙とは選挙人がどの候補者また政党に投票したか第三者が知りえない選挙をさす。

すべての選挙における投票の秘密は侵してはならない。(憲法15条4項

[日本の選挙制度の歴史]
[選挙区制度]
(小選挙区制)選挙人が1選挙区につき1人の議員を選ぶ制度
(中選挙区制)選挙人が1選挙区に複数人の議員を選ぶ制度
(比例代表制)選挙区で政党の得票数に応じ議席を与える制度

③政党

政党とは日本では政治団体の(1)所属国会議員5人以上(2)直近の国政選挙で得票率2%以上の政党をさす。(政治資金規正法3条2項)

政党政治とは政権交代の可能性がある複数政党制と他の政党を認めない一党制がある。

複数政党制には2大政党制多党制がある。

政治資金規正法は政治資金の収支を明確にし政治活動の公明性を確保するための制定された。

1948年(昭和23年)制定
1994年(平成6年)政治家個人の政治資金管理団体は1つに制限
2000年(平成12年)政治家個人への献金・団体献金が禁止

だが政治団体から政治団体への献金に量的制限がない。

政党支部を使った迂回献金の問題がある。

1994年(平成6年)政治資金規正法の改正と同じくし政党助成法が制定された。

政党助成が受けれる政党は(1)国会議員を5人以上有するか(2)国会議員を1人は有し直近の国政選挙で得票率2以上がいる。(政党助成法2条1項)

政治史
6章 一般知識 レッスン2 日本の政治制度

選挙制度

①衆議院議員選挙

今の衆議院議員選挙制度は小選挙区比例代表並列性を採用している。

小選挙区比例代表並立制でえは小選挙区と比例代表制を単純に並べて総定員数480を小選挙区定数300と比例代表定数180に分けたうえで(1)小選挙区選挙で有効得票数の最多数を得た者および(2)全国11ブロックで行う比例選挙で各党の得票数をブロック単位で集計しドント式で獲得議席数を決め各党の比例名簿登載者の上位から獲得議席数に達するまで当選者とする。

現行制度の特徴は政党候補者に限り小選挙区と比例代表への重複立候補が認められている。

現行制度の問題点として以下のことが挙げられる。

(1)重複立候補が認められるため小選挙区で落選した候補者が比例代表で敗者復活することが可能となり落選者が後で当選することに有権者から戸惑いがある。

(2)政党中心の選挙が指向され政党要件が厳格に定められたため政党以外は小選挙区において政見放送ができないこと。

2000年(平成12年)公職選挙法の改正により小選挙区にける得票数が供託金没収点に達しなかった重複候補者の比例代表選挙における当選が排除された。

②参議院議員選挙

今の参議院議員選挙制度は各都道府県ごとの選挙区選挙と全都道府県の区域ごとに行われる非拘束名簿式比例代表選挙で行い総定員数242人を選挙区選挙146人、比例代表選挙96人で3年ごと定数の半分を改選する。

2000年(平成12年)には公職選挙法の改正により拘束式から非拘束式と呼ばれる名簿式に変更された。

問題点としては非拘束名簿式比例代表制は有名人候補による大量得票を狙った制度ではないかと指摘も多い。
③公職選挙法

公職選挙法は日本国憲法の精神に則り衆議院議員、参議院議員ならびに地方公共団体の議会の議員および長を公選する選挙制度を確立し選挙が選挙人の自由の表明させる意思によって公明かつ適正に行われることを確保し民主政治の健全な発達を期することを目的とした。(公職選挙法1条)

何人も選挙に関し投票を得たり、もしくは投票を得させたり、または得させない目的で戸別訪問することはできない。

行政改革

①行政国家現象

行政国家現象とは行政権が非退化し本来は法の執行機関である行政府が国の基本政策の形成および決定に事実上中心的な役割を果たしている現象をさす。

たとえば法律では大枠のみを決め細部については行政府の命令に委任する委任命令が増えた。

また法律案の作成において官僚が主導権を握って議員立法は極端に少ないのが現象がおこっている。

更に許認可権や行政の裁量行為が増大し法令に根拠の薄い行政指導も頻繁に行われる。

このような行政権の肥大化を抑制し行政の効率化や規制緩和を図るために行政改革が行われた。

②中央における行政改革

1973年(昭和48年)の中東戦争勃発に伴う石油危機(オイルショック)がもたらした経済不況と低経済成長への転換は行政システムへも大きな影響を及ぼした。

不況によって財政収入の伸びが低下したにも関わらず景気対策のため巨額の公共事業への支出が必要になった。

1975年(昭和50年)以降、政府は財政法4条によって本来は発行が許されない赤字国債を特例として発行した。

1979年(昭和54年)のイラン革命に端を発した第二次オイルショックの発生による景気低迷によって財政の赤字体質はよりいっそう深刻になった。

このような1970年代以降の低経済成長や巨額の財政赤字の発生に伴って高度経済成長期に肥大化した行政を抜本的に見直すため総合的かつ長期的な視点に立った行政改革の必要性が叫ばれた。

1981年(昭和56年)鈴木(善幸)内閣は第二次臨時行政調査会(第二次臨調)を発足させた。

この第二次臨調は五次に渡る答申を政府に提出し特に注目すべきは三公社(日本国有鉄道、日本電信電話公社、日本専売公社)の民営化を中心とした改革、総合調整機能の許可、国と地方の役割分担の改善などを提言した。

1983年(昭和58年)中曽根内閣成立後に第二次臨調は最終答申を政府に提出して解散した。

1983年(昭和58年)行政改革関連二法(国鉄再建臨時措置法、臨時行政改革推進審議会設置法)が成立し第一次臨時行政改革推進審議会が発足した。

行政改革の推進を僅か2年足らずの間に総務庁設置法を含む行政改革関連の法案45件も成立させた。

結果1985年(昭和60年)には三公社のうち日本電信電話公社(現:日本電信電話株式会社(NTT))と日本専売公社(現:日本たばこ産業株式会社(JT))が民営化された。

1987年(昭和62年)三公社の中で最も論議が多かった国鉄も分割・民営化され6つの旅客鉄道会社(JR東日本、JR西日本、JR東海、JR九州、JR四国、JR北海道)と日本貨物鉄道株式会社となった。

尚、第二次臨調でも懸案であった郵政民営化は小泉内閣の時に行った。

2007年(平成19年)10月より日本郵政株式会社が郵便事業株式会社、郵便局株式会社、株式会社ゆうちょ銀行、株式会社かんぽ生命保険の4社の持ち株会社として発足した。

1996年(平成8年)橋本内閣行政改革会議を発足させた。

行政改革会議は「公共性の空間」は中央の官の独占物ではないとする基本理念の下最終報告で以下の提言をした。

(1)1府22省庁を1府12省庁に再編する。
(2)内閣府を設置し内閣の機能強化を図る。
(3)独立行政法人制度を導入し行政の効率化を図る。

2006年(平成18年)行政改革推進法が制定された。

簡素で効率的な政府を実現するため行政改革について基本理念を定め各分野の改革の基本方針、推進方策を定めた。

(1)政策金融改革
(2)独立行政法人の見直し
(3)特別会計改革
(4)総人件費改革
(5)政府の資産および債務改革

政策金融とは政府が経済社会の発展、国民生活の安定など一定の政策を実現する目的で法律を制定し特殊法人として設立し出資金の多くを政府が出資した金融機関の総称だ。

2008年(平成20年)に政策金融改革で現行機関の組織および機能を再編し株式会社日本政策金融公庫が設立された。

[内容]
【改革前】日本政策投資銀行(注1)【改革後】2008年(平成20年)10月特殊会社に事業移管、2015年(平成27年)4月1日から概ね5-7年後を目途に完全民営化
【改革前】商工組合中央金庫(注1)【改革後】2008年(平成20年)10月特殊会社に事業移管、2015年(平成27年)4月1日から概ね5-7年後を目途に完全民営化
【改革前】国民生活金融公庫【改革後】2008年(平成20年)10月日本政策金融公庫へ移管
【改革前】農林漁業金融公庫【改革後】2008年(平成20年)10月日本政策金融公庫へ移管
【改革前】中小企業金融公庫【改革後】2008年(平成20年)10月日本政策金融公庫へ移管
【改革前】国際協力銀行【改革後】2008年(平成20年)10月日本政策金融公庫へ移管
【改革前】沖縄振興開発金融公庫【改革後】2012年(平成24年)以降(注2)日本政策金融公庫に統合
【改革前】公営企業金融公庫【改革後】2008年(平成20年)10月廃止
(注1)政府は2014年度(平成26年度)末を目途に政府による株式の保有も含めた両金融機関のあり方を見直すとしている。
(注2)政府は沖縄振興の観点から沖縄振興開発金融公庫を存続する方向で検討に入っている。

独立行政法人とは「国民生活および社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務および事業にあたって国が自ら主体となって直接に実施する必要がないもののうち民間の主体に委ねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるもの又は一つの主体に独占して行わせることが必要であるものを効率的かつ効果的に行わせることを目的として、この法律および個別法の定めるところにより設定される法人」をさす。(独立行政法人通則2条1項)

独立行政法人は「官から民へ」の原則の下、民間に委ねた場合には実施されない恐れがある法人および事務、事業に限り、それ以外は民営化、廃止および事務、事業の民間委託・廃止を行う必要がある。

2006年度(平成18年度)以降にはじめて中期目標の期間が終了する独立行政法人に対する国の歳出の縮減を図る見地から組織および業務のあり方これに影響をおよぼす国の施策の在り方について検討が行われ独立行政法人の整理整合化が始められる。

特別会計とは国が行う特定の事業や特定の資金を運用するなどの目的で一般会計とは別に設けられる会計をさす。

特別会計は事業の内容によって受益と負担の関係や事業ごとの収支をより明確にできるという利点がある。

特別会計改革においては特別会計の廃止および統合並びに経理の明確化および特別会計において経理されている事務、事業の合理化、効率化が行われた。

2010年度(平成22年度)総人件費改革において国家公務員の年度末総数を2005年度(平成17年度)の国家公務員の年度末総数の5%以上の純減とすることを目標として改革が行われた。

政府の資産・債務改革においては財政融資資金の貸付金の残高の縮減を維持し歳出の削減を徹底するほか国有財産の売却、余剰金の見直しその他の改革を行った。

③地方における行政改革(地方分権)

地方分権とは中央政府と地方政府とが分有する一国全体の行政機能を地方自治の主体としてできるだけ多くの権限を地方公共団体に付与することをさす。

日本国憲法には地方自治の章を設けて地方自治の本旨(憲法92条)を示し地方自治を制度的に保障した。

また地方自治の本旨を具現化した地方自治法を憲法と同時に施行した。

[戦後の地方分権の動向]
1949年(昭和24年)GHQの要請によって来日したシャウプ使節団による税財政に関する勧告(シャウプ勧告)に基づく地方税財政の改革
1950年(昭和25年)シャウプ勧告を基礎として地方税財政の改革が行われ地方税法が制定された。
1956年(昭和31年)地方自治法の大幅改正による都道府県と市町村の関係の明確化(上下関係化)大都市につき特別市制から政令指定都市制度への変更

これらの改正によって戦後の地方自治制度が確立するが一面において地方分権的な要素が弱まり中央集権的な色彩が強まった。

(1970年代)二度に及ぶ石油危機(オイルショック)や高度経済成長の終焉は地方自治体の財政を急激に悪化させ高度経済成長を前提とし福祉施策の拡大や公害対策を中心としてきた地方自治体に変革(行政の減量化や合理化)を求めることになった。

(1980年後半)国と地方の関係について行政改革を推進する観点から国・地方を通して行政が最も合理的かつ効率的に機能するよう国と地方の機能分担を見直すことが強く提唱された。

1991年(平成3年)地方自治法の大幅な改正が行われ機関委任事務に対する議会および監査委員の権限が拡大、職務執行命令訴訟制度の見直しが行われた。

1992年(平成4年)地方分権特例制度(パイロット自治体制度)が閣議決定され翌年「地方分権の推進に関する決議」が採択された。

1994年(平成6年)地方自治法が改正され中核市制度と広域連合制度が創設されるなど地方分権に向けた制度改革が行われた。

1995年(平成7年)地方分権推進法が5年の時限法として制定され地方分権推進委員会の設置が規定された。

地方分権一括法とは地方分権を図るために地方自治法や国家行政組織法など地方自治に関わる475の法律の改正を一括して行った法律のことをさす。

この法律は主従関係にあった国と地方自治体を対等な協力関係とするのが目的で地方分権推進委員会による第四次までの勧告を具現化したものだ。

地方分権一括法は国の仕事の代行であった機関委任事務を廃止し地方自治体の裁量に任せる「自治事務」と国が実施方法まで定める「法定委託事務」に分け国と地方自治体の役割分担の明確化を図った。

また国と都道府県の対立を解決する国地方紛争処理委員会、都道府県と市町村の対立を解決する自治紛争処理委員を設置した。

ここで解決しない際は裁判所で争うシステムを定めた。

さらに国が義務付けてきた必置規制の廃止および緩和、地方事務官制度の廃止などを規定した。

三位一体の改革とは(1)地方交付税交付金制度を見直し(2)国庫補助負担金を削減し国の歳出削減を進めて、その代わりに(3)一定の財源を国から地方に移譲するという3つのことを同時に行おうとする改革をさす。

2003年(平成15年)三位一体の改革については地方分権改革推進会議が意見書を提出した。

経済財政諮問会議でも検討され、それを受けて「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」に三位一体の改革の具体的な改革工程が盛り込まれた。

三位一体の改革は地方公共団体が国の補助金・地方交付税への依存から脱却すること地方交付税の不交付団体を増やして地方財政のプライマリーバランスを黒字化することを通じて健全な地方財政を確立することを目的とした。

④NPM(ニュー・パブリック・マネジメント)

NPMとは民間企業で活用される経営理念や経営手法を公共部門の運営に適用することでマネジメントの革新を図り効率的でより質の高い行政サービスの提供を目指す公共経営のことをさす。

NPMの概念は行政規模・財政規模を増大させていった先進国の財政悪化により1970年代に起きた不況を契機に「新自由主義」の下、イギリスのサッチャー政権で「小さな政府」を目指したことが背景にある。

(1)徹底した競争原理の導入
(2)業績や成果による評価(成果主義)
(3)政策の企画立案と実施施行の分離(権限委譲)

1996年(平成8年)三重県の事務事業評価システムで初のNPMが導入された。

その後1990年代後半には橋本内閣による「橋本行革」でNPMを意識した独立行政法人制度の導入や政策評価の制度化などが決定した。

また小泉内閣による「小泉改革」の下、郵政民営化規制緩和国立大学の独立行政法人化として推進された。

しかし地方公共団体全体でみるとまだNPMの概念が行き渡っておらず十分に活用されてない。

[NPMにおける先進的アウトソーシングの実施例]
(札幌市)市政総合案内コールセンター…2003年4月から全市で稼働開始し1件当たりの対応コストを対応時間10分間に換算して市職員が917円に対しコールセンターは331円に削減されアウトソーシングによるコスト削減効果は64%だった。
(横浜市)地域ケアプラザ管理運営
(加賀市)山代温泉交流施設の管理運営
(桑名市)図書館運営業務部分の民間委託
(大阪府)総務サービスセンターの開設と民間委託

⑤行政統治

行政統制とは行政国家の下、肥大化した行政権に対する民主的コントロールすることをさす。

(立法権による統制)法律案の決議、予算ならびに決算の決議、条約の承認および審議過程での質疑と決議など
(人事権による統制)内閣総理大臣の指名、内閣の信任、不信任など
(国政調査権による統制)国政調査権に基づく行政府の有する資料の提出要求など

行政改革会議は内閣府を置き内閣の機能強化を図り内閣の機能強化を図るためには内閣総理大臣のリーダーシップを十分に発揮できるような仕組みづくりを提言した。

(内閣による統制)法案提出権による統制
(内閣による統制)人事権による統制(各省庁の局長以上および特殊法人の役員の人事に関する承認権など
(内閣による統制)指揮監督権による統制
(内閣総理大臣による統制)国務大臣、副大臣、大臣政務官の任免権および指揮監督権による統制

すべての司法権は最高裁判所および法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。(憲法76条1項)

1962年(昭和37年)に制定された行政事件訴訟法2条は訴訟類型として抗告訴訟、当事者訴訟、民衆訴訟、機関訴訟を設けている。

司法制度改革

①背景

行政改革を始めとした社会経済の構造改革を進め明確な規律と自己責任原則に貫かれた事後監視型社会(⇔事前調整社会)への転換を図り自由かつ公正な社会を実現していくため基礎となる司法の基本的制度が国民の身近なものとなるよう抜本的に見直し司法の機能を充実強化することが不可欠となった。

よって次のような司法制度改革が行われた。

②国民の期待に応える司法制度の構築

民事司法制度は国民が司法を通じて迅速、適切かつ実質的に権利・利益を実現するため以下の措置が講じられた。

(1)民事裁判の充実、迅速化
(2)知的財産権県警事件等の専門的知見を要する事件および労働関係事件への対応強化
(3)家庭裁判所および簡易裁判所の機能の充実
(4)民事執行制度の強化

また国民が必要に応じて多様な紛争解決手段を選択できるよう裁判外紛争解決手続ADR)について拡充および活性化が図られた。

刑事司法が目的を十分かつ適切に果たすため刑事司法制度の改革について以下の措置が講じられた。

(1)刑事裁判の充実、迅速化
(2)被疑者・被告人の公的弁護制度の整備
(3)検察審査会の一定の議決に対する所謂法的拘束力の付与
(4)新たな時代に向けた捜査および公判手続の整備
(5)犯罪者の改善更生および被害者等の保護

③司法制度を支える体制の充実強化

法曹人口の大幅な増加が必要とされ法科大学院を含む法曹養成制度の整備の状況など見定めつつ2018年頃には法曹人口を5万人にするため司法試験の合格者を増加させた。

一方これに伴う法曹の質の低下や合格者の就職難などの問題が懸念されてもいる。

法曹養成に特化した教育を行う法科大学院を中核とし法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させ新たな法曹養成制度の改革が行われた。

④裁判員制度(国民の司法参加)

裁判は裁判官、検察官および弁護士ら専門家で行われてきた。

そこに一般の国民も裁判員として参加することで国民の司法への理解と信頼が深まることが期待された。

2009年(平成21年)から国民の裁判員として刑事裁判に参加する裁判員制度が始まった。

裁判員として参加する裁判は地方裁判所の刑事裁判のうち国民の関心が高い重大な刑事事件だ。

ただし裁判員や親族に被害を受ける恐れがある事件については例外的に裁判官のみで行う。

因みに従業員が裁判員で仕事を休む際は使用者が不利益な扱いをすることは禁止されている。

[裁判員制度の概要]
(1)裁判員候補者名簿の作成
裁判所が裁判員候補者名簿を作成する。
・裁判員候補者は衆議院議員選挙の有権者から選ばれる。
・裁判員候補者名簿に記載された者には名簿記載通知と調査票が送付される。
(2)呼出状が届く
裁判所から裁判員候補者に呼出状が届く。
・事件ごとに裁判員候補者名簿の中から裁判員候補者が選ばれる。
・呼出状には質問状が同封されており事前に回答のうえ返送する。
(裁判員による裁判の対象となる事件)
・死刑または無期懲役もしくは禁錮にあたる罪に関する事件(殺人・強盗致死傷・現住建造物等放火など)京都アニメーション放火殺人事件、小田急乗客襲撃事件
・法定合議事件(地方裁判所で合議体によって取り扱われる事件)のうち故意の犯罪行為によって被害者を死亡させた罪に関する事件(障害致死、危険運転致死など)東池袋自動車暴走死傷事件は過失運転致死傷罪なので対象外
(3)裁判員の選任手続
出頭した裁判員候補者の中から裁判員および補充裁判員を選任する。
・裁判員は事件ごとに裁判員候補者の中から選ばれる。(原則として6名
・質問状への回答や裁判所でも質問への回答をもとに裁判員をできない事由(欠格事由、就職禁止事由、不適格事由)がないか裁判官が判断する。
(4)公判手続
裁判員は事件の審理に参加し証拠を見聞する。
(5)評議および評決
裁判官と裁判員の論議により判決の内容(有罪、無罪、量刑)を決める。
・評議は全員一致を目指して論議するが全員一致に至らなければ多数決で評決を行う。
(6)判決
裁判員の立会いの下に裁判官が判決を言い渡す。

[裁判員の主な義務]
出廷義務…裁判員は審理や判決の言渡しの公判期日に出頭し評議に出席しなければならない。(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律52条、63条、66条)
守秘義務…裁判員は評議の秘密をその他職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律9条2項)

(追記 2021.9.9)

種本が2012年なので当時の行政に対する見方が良く判り興味深い。

これが10年後の現在どうなったか比較するのも面白い。

6章 一般知識 レッスン3 財政

財政総論

①財政とは

財政とは国や地方公共団体が租税により資金を調達し公共のため支出する経済活動をさす。

国の財政には一般会計特別会計がある。

予算単一主義の原則に基ずく一般会計が狭義の財政だ。

予算単一主義の例外にあたる国は17の特別会計がある。

すべての特別会計それぞれに歳出と歳入がある。

一方、地方公共団体の財政は一般会計、特別会計、公営企業会計に分かれる。

公営企業会計は水道や鉄道など企業性を有する事業について設置される。

②財政の機能

[財政の機能]
資源分配機能】市場では最適配分が行われない公共財や公共サービスを提供する機能
所得再分配機能】所得分配の不平等を是正する機能。具体的には累進課税制度で高額所得者に高率な税負担を課す一方、低所得者への生活保障や雇用保険などの社会保障給付を行うことで所得格差の是正を行う。
経済安定機能】財政支出を伸縮させることにより経済の安定化をもたらす機能。ビルトインスタビライザー(景気の自動安定化装置)フィスカルポリシー(裁量的財政政策)などがこの機能。

③財政政策

ビルトインスタビライザー(景気の自動安定装置)とは累進課税制度と社会保障制度を採用して自動的に景気変動を調整する仕組みをさす。

不況の時は累進課税のため税収が下がるが一方、生活保護費などの給付が増える。

マネーサプライ(通貨供給量)は増加し景気が刺激される。

好況の時は累進課税で税収が増え一方、生活保護費などの給付は減る。

マネーサプライ(貨幣供給量)は減少し景気は抑制される。

フィジカルポリシー(裁量的財政政策)とは増税・減税、公共投資による財政支出によって政策的に財政規模を伸縮させることをさす。

不況の時は減税および公共投資による財政支出を拡大し景気を刺激する。

好況の時は増税および民営化による財政支出を縮小し景気を抑制する。

(追記 2021.9.15)

教科書的にはそうかもしれない。

だか日本は平成時代から35年間ずっと緊縮財政政策を続けてきた。

国の財政

①会計年度

国の会計年度は毎年4月1日から翌年3月31日までだ。(財政法11条)

各会計年度における経費は、その年度の歳入をもって支弁しなければならない。(会計年度独立の原則(財政法12条)

②予算

予算の内容として「予算は予算総則、歳入歳出予算、継続費、繰越明許費および国庫債務負担行為とする」と規定している。(財政法16条)

予算総則は財政運営の基本的事項について議会が権限を付与するため設けられた。

予算総則には予算の総括規定が盛り込まれ、それ以外に公債や財務省証券の発行限度額や予算執行に関する必要事項が規定される。

歳入歳出予算は予算の本体のことをさす。

「歳入歳出は、すべて、これを予算に編入しなければならない」と規定している。(財政法14条)

「歳入歳出予算は、その収入また支出に関係ある部局等の組織の別に区分」しなければならないと規定してある。(財政法23条)

歳入歳出予算は部局等の区分とした上で歳入予算では性質別に「部」「款」「項」歳出予算では目的別に「項」という予算科目に分類される。

継続費とは工事、製造その他の事業で完成に数年度を要するものについて特に必要がある場合、経費の総額および年割額を定め予め国会の議決を経て議決に従い数年度にわたって支出するものをさす。(財政法14条の2)

繰越明許費とは歳出予算の経費のうち性質上または予算成立後の事由に基づき年度内に支出を終わらない見込みのあるものについて予め国会の議決を経て翌年年度に繰り越して使えるものをさす。(財政法14条の3)

国庫債務負担行為とは法律に基づくもの、または歳出予算の金額もしくは継続費の総額の範囲内におけるもののほか国が債務を負担する行為をさす。

国庫債務負担行為をなすには予め予算をもって国会の決議を経なければならない。(財政法15条)

「国の会計を分つて一般会計および特別会計とする」と規定している。(財政法13条1項)

特別会計に加えて政府関係機関予算も存在する。

それぞれが予算総則、歳入歳出予算、継続費、繰越明許費、国庫債務負担行為という予算の内容を備えて編成される。

一般会計予算とは政府の一般政務に必要な通常の歳入と歳出に関する予算をさす。

特別会計予算とは(1)国が特定の事業を行う場合(2)特定の資金を保有してその運用を行う場合(3)その他特定の歳入をもって特定の歳出を充て一般の歳入歳出と区分して経理する必要がある場合に限り法律をもって設置することができる予算をさす。(財政法13条2項)

政府関係機関予算とは株式会社日本政策金融公庫など全額政府出資の企業の予算のことをさす。

③決算

「国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し内閣は次の年度に検査報告とともに国会に提出しなければならない」と規定する。(憲法90条1項)

会計検査院とは会計検査を任務とする憲法上の機関のことをさす。

会計検査院は歳出、歳入の内容について合法性・正確性・妥当性・効率性などの見地から検査・確認をおこなう。

内閣は国家および国民に対し定期に少なくとも毎年1回、国の財政状況を報告しなければならない。(憲法91条)

④国債

国債とは国が発行する債券をさす。

国の財政は本来は租税収入や印紙収入などで歳出をまかなうのが原則だ。

歳入が不足する場合は国は国債を発行することができる。

国の歳出は公債または借入金以外の歳入を以て財源にしなければならない。但し公共事業費、出資金および貸付金の財源については国会の議決を経た金額の範囲内で公債を発行し又は借入金をなすことができる」と規定している。(財政法4条1項)

例外的に発行することができる国債を建設国債とよぶ。

もっとも人件費や事務的諸経費など一般財源を確保するため年度ごとの公債特例法によって特例国債の発行が認められている。(赤字国債

すべて公債の発行については日本銀行にこれを引き受けさせ又、借入金の借入れについては日本銀行から借り入れてはならない」と規定する。(財政法5条)

国債は原則として市中(民間)消化させなければならない。

これは日本銀行が国債を引き受けると通貨が大量に発行されてインフレの危険があるためだ。

(追記 2021.9.15)

この行だけ読むとやっちゃあいけない事っぽく読める。

だが今はデフレだから大いにやるべきだ。

インフレターゲット(コアCPI2%)を据えそれを越えない限り国債を発行すれば良い。

もっとも「特別の事由がある場合において国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りではない」と例外も規定している。(財政法5条但し書き)

地方の財政

地方公共団体の財源には地方税、国庫支出金、地方交付税交付金、地方債などがある。

①地方税

地方税とは地方公共団体が経費に充てるために自主課税権に基づいて一般住民より徴収する租税をさす。

地方税には都道府県税市町村税がある。

その使途は限定されてない普通税使途が限定されている目的税がある。

地方税法によって地方公共団体が課税しなければならない法定税目として都道府県税12税目、市町村税8税目が規定されている。

他に地方公共団体が課税することができる税目として都道府県につき1税目、市町村につき5税目があげられる。

この他に地方税法は地方公共団体が総務大臣と協議し同意を得て別に税目を起こし普通税や目的税を課すことができる。(法定外普通税法定外目的税

地方分権一括法により法定外普通税は許可制から総務大臣の同意を要する協議制に改められた。

法定外目的税の制度が創設されて以降は地方公共団体におきて法定外税を設ける動きが活発化している。

地方財政計画ベースの地方歳入総計にみた場合、地方税からの収入が最も比率が大きい。

地方税、地方交付税、地方譲与税などの使途が特定されずどのような経費にも使われる資金を一般財源と呼び歳入全体の7割を占める。

次いで大きな歳入減が国庫支出金だ。

国庫支出金や使用料、手数料のように使途が特定されている資金を特別財源と呼ぶ。

②国庫支出金

国庫支出金は国から委託された事務を行うために国から地方に支出される補助金や負担金だ。

その使い道は国から指定されている。

③地方交付税交付金

地方交付税交付金とは地方自治体間の財源の水準維持と地方自治体に必要な税源を確保するため国が地方公共団体に対して配分する税をさす。

地方交付税は基本的には基準財政需要額から基準財政収入額を減じて算定された財源不足額を交付基準としている。(普通交付税)

地方交付税の総額は地方交付税法上、国税の一定割合と定められている。

地方交付税は(1)所得税の32%(2)酒税の32%(3)法人税の34%(4)消費税の29.5%(5)たばこ税の25%の合計額が地方交付税特別会計に振り込まれ地方自治体に配分される原資となる。

この合計額のうち96%相当額が普通交付税として基準財政需要額が基準財政収入額を上回る地方自治体に交付される。

残り4%特別交付税として基準財政需要額の算定方法によっても捕捉されない特別な財政需要のある地方自治体に交付される。

④地方債

地方債とは財政収入の不足や公営事業・公共事業などのための地方公共団体の借入金をさす。

地方債を財源とできることを以下の通り規定している。(地方財政法5条1項)
このほか特例法により地方債を起こすことが認められている場合もある。

地方公共団体が起債する際は総務大臣または都道府県知事との協議が必要である。

例外として赤字が一定水準以上の地方公共団体、起債制限比率の高い地方公共団体、赤字公営企業などが起債する際は総務大臣または都道府県知事の許可が必要になる。

財政投融資

①財政投融資とは

財政投融資とは国の信用に基づいて調達した資金などを用いて国の政策目的実現のために行う政府の金融的手法による投資および融資をさす。

財政投融資資金の配分により財政を通して政府が果たす機能のうち「資産配分」機能と「経済安定」機能の2つを担う。

②財政投融資の内容

財政投融資の具体的な手法は(1)財政融資(2)産業投資(3)政府保証に分けられる。

③税制投融資改革

財政投融資制度が抜本的に改革され郵便貯金や年金積立金の全額が資金有用部に預託される仕組みから特殊法人などの施策に真に必要な資金だけを金融市場から調達する仕組みへと改めた。

6章 一般知識 レッスン8 個人情報保護

個人情報保護法

①個人情報保護法とは

個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)は高度情報通信社会の進展に伴い個人情報の利用が著しく拡大していることに鑑み個人情報の適正な取扱いに関し基本理念および政府による基本方針の作成その他の個人情報の保護に関する施策の基本となる事項を定め国および地方公共団体の責務等を明らかにするとともに個人情報を取り扱う事業者の遵守すべき義務等を定めることにより個人情報の有用性に配慮しつつ個人の権利利益を保護することを目的とする法律だ。(個人情報保護法1条)

②個人情報保護法の基礎概念

個人情報」とは生存する個人に関する情報であって当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより個人を識別することができることとなるものを含む)をいう。(個人情報保護法2条1項)

たとえば企業が従業員に関する情報を番号で管理している場合に、その情報自体からは特定の個人を識別することができなくても他の名簿と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができれば、この従業員に関する情報は個人情報にあたる。

個人に関する情報には氏名、性別、生年月日等、個人を識別する情報に限らず個人の伸長、財産、職種、肩書等の属性に関して事実、判断、評価を表すすべての情報であって評価情報、公刊物等によって公にされている情報や映像および音声による情報も含まれる。

また「生存する個人」は日本国民に限らず外国人も含まれる法人その他の団体は「個人」に該当しないため法人等の団体そのものに関する情報は個人情報に含まれない。

個人データ」とは個人情報データベース等を構成する個人情報のことをさす。(個人情報保護法2条4項)

個人情報データベース等」とは特定の個人情報をコンピュータを用いて検索することができるように体系的に構成した個人情報を含む情報の集合物またはコンピュータを用いてない場合であってもカルテや指導要録等、紙面で処理した個人情報を一定の規則に従って整理または分類し特定の個人情報を容易に検索することができるように目次、索引、符号等を付し他人によっても容易に検索可能な状態においているものをいう。(個人情報保護法2条2項)

保有個人データ」とは個人情報取扱事業者が本人または、その代理人から求められる開示、内容の訂正、追加または削除、利用の停止、消去および第三者への提供の停止のすべてに応じることができる権限を有する個人データのことをさす。(個人情報保護法2条5項)

ただし以下に示すものは「保有個人データ」には該当しない。

[保有個人データの例外]
(1)その存否が明らかになることにより公益その他の利益が害されるもの
(2)6か月以内に消去する(更新することは除く)ことになるもの

[個人情報取扱事業者の取り扱う対象]
個人情報
生存する個人に関する情報であって当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む)
個人データ
個人情報データベース等を構成する個人情報
保有個人データ
個人情報取扱事業者が本人または、その代理人から求められる開示、内容の訂正、追加または削除、利用の停止、消去および第三者への提供の停止のすべてに応じることができる権限を有する個人データ

個人情報取扱事業者」とは「個人情報データベース等」を事業の用に供している者のことをいう。(個人情報保護法2条3項)

[個人情報取扱事業者から除外される者]
(1)国の機関
(2)地方公共団体
(3)独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律で定める独立行政法人等
(4)地方独立行政法人法で定める地方独立行政法人
(5)その取り扱う個人情報の量および利用方法からみて個人の権利利益を害する恐れが少ない者として政令で定める者

取り扱う個人情報の量および利用方法からみて個人の権利利益を害する恐れが少ない者」とは、その事業の用に供する個人情報データベース等を構成する個人情報によって識別される特定の個人の数の合計が過去6か月以内のいずれの日においても5,000人を超えない者とされる。

個人情報取扱事業者に該当すると「個人情報」「個人データ」および「保有個人データ」の区分に応じて、それぞれの取扱いについて事業者として義務を負うことになる。 

また以下に示す者については一定の目的で個人情報を取り扱う場合には個人情報取扱事業者の義務に関する規定は適用されない。(個人情報保護法50条1項)

ただし、これらの者も個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置、個人情報の取扱いに関する苦情の処理その他の個人情報の適正な取扱いを確保するために必要な措置を自ら講じ、かつ当該措置の内容を公表するよう努めなければならない。(個人情報保護法50条3項)

[個人情報保護法の適用除外]
(1)放送機関、新聞社、通信社その他の報道機関(目的)報道の用に供する目的
(2)著述を業として行う者(目的)著述の用に供する目的
(3)大学その他の学術研究を目的とする機関もしくは団体またはそれらに属する者(目的)学術研究の用に供する目的
(4)宗教団体(目的)宗教活動の用に供する目的
(5)政治団体(目的)政治活動の用に供する目的

③個人情報取扱事業者の義務

個人情報取扱事業者は個人情報を取り扱うにあたっては、その利用の目的をできる限り特定しなければならず利用目的を変更する場合には変更前の利用目的と相当の関連性を有する合理的に認められる範囲を超えて変更してはならない。(個人情報保護法15条)

個人情報取扱業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱ってはならない。(個人情報保護法16条1項)

利用目的のよる制限は以下に示す場合には適用されない。(個人情報保護法16条3項)

[利用目的による制限の例外]
(1)法令に基づく場合
(2)人の生命、身体または財産の保護のために必要がある場合であって本人の同意を得ることが困難であるとき
(3)公衆衛生の向上または児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって本人の同意を得ることが困難であるとき
(4)国の機関もしくは地方公共団体または、その委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに協力する必要がある場合であって本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼす恐れがあるとき

個人情報取扱事業者は偽りその他不正の手段により個人情報を取得してはならない。(個人情報保護法17条)

個人情報取扱事業者は個人情報を取得した場合は、あらかじめその利用目的を公表している場合を除き、すみやかに、その利用目的を本人に通知(または公表)しなければならない。

また利用目的を変更した場合は変更された利用目的を本人に通知(または公表)しなければならない。(個人情報保護法18条)

個人情報取扱事業者は個人情報の取扱いに関する苦情を適切かつ迅速に処理するよう努めなければならない。

また、これらの処理をするために必要な体制の整備に努めなければならない。(個人情報保護法31条)

個人情報取扱事業者は個人情報の取扱いに関する苦情を適切かつ迅速に処理するよう努めなければならない。

また、これらの処理をするために必要な体制の整備に努めなければならない。(個人情報保護法31条)

個人情報取扱事業者は利用目的の達成に必要な範囲で個人データを正確かつ最新の内容に保つよう努めなければならない。(個人譲歩保護法19条)

個人情報取扱業者は、その取り扱う個人データの漏洩、滅失または毀損を防止するなど個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。(個人情報保護法20条)

個人情報取扱事業者は、その従業者に個人データを取り扱わせるにあたって当該個人データの安全管理が図られるよう当該従業者に対する必要かつ適切な監督を行なわければならない。(個人情報保護法21条)

個人情報取扱事業者が個人データの取扱いの全部または一部を外部に委託する場合において、その個人情報取扱事業者は委託先で個人データが安全に管理されるよう委託先に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。(個人情報保護法22条)

個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供してはならない。

ただし以下に示す場合は除く。(個人情報保護法23条)

[第三者提供の制限の例外]
(1)法令に基づく場合
(2)人の生命、身体または財産の保護のために必要がある場合であって本人の同意を得ることが困難であるとき
(3)公衆衛生の向上または児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって本人の同意を得ることが困難であるとき
(4)国の機関もしくは地方公共団体または、その委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに協力する必要がある場合であって本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼす恐れがあるとき
(5)第三者におけるオプトアウトを行っている場合

オプトアウトとは個人情報取扱事業者が第三者に提供する個人データについて以下の要件を満たすとき本人の同意がなくても個人データを第三者に提供できるとする制度だ。(個人情報保護法23条2項)

(1)本人の求めがあれば当該本人が識別される個人データの第三者への提供を停止することとしていること
(2)次に揚げる事項について、あらかじめ本人に通知し、または本人が容易に知りうる状態に置いていること

[本人に通知し、または本人が容易に知りうる状態に置くべき事項]
(1)第三者への提供を利用目的とするとき
(2)第三者に提供される個人データの項目
(3)第三者への提供の手段または方法
(4)本人の求めに応じて当該本人が識別される個人データの第三者への提供を停止すること

個人情報取扱事業者は保有個人データに関し以下の表に掲げる事項について本人の知りうる状態におかなければならない。(個人情報保護法24条1項)

[本人の知りうる状態に置くべき事項]
(1)当該個人情報取扱事業者の氏名または名称
(2)すべての保有個人データの利用目的
(3)保有個人データの開示、訂正、削除、利用停止等の求めに応じる手続

個人情報取扱事業者は本人から当該本人が識別される保有個人データの開示を求められたとき本人に対して延滞なく当該保有個人データを開示しなければならない。

ただし以下に示す場合には開示することにより不都合が生ずるため、その全部または一部を開示しないことができる。(個人情報保護法25条1項)

[開示の例外]
(1)本人または第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害する恐れがある場合
(2)当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼす恐れがある場合
(3)他の法令に違反することとなる場合

個人情報取扱事業者は本人から当該本人が識別される保有個人データの内容が事実でないという理由によって当該保有個人データの訂正等を求められた場合には他の法令により特別の手続が定められている場合を除き利用目的の達成に必要な範囲内において遅滞なく必要な調査を行い、その結果に基づいて当該保有個人データの内容の訂正等を行わなければならない。(個人情報保護法26条1項)

個人情報取扱事業者は本人から当該本人が識別される保有個人データが(1)同意なく目的外利用されているという理由(2)不正に取得されたものであるという理由または(3)同意なく第三者に提供されているという理由によって利用停止等を求められた場合であって、その求めに理由があることが判明したときは違反を是正するために必要な限度で遅滞なく当該保有個人データの利用停止等を行わなければならない。(個人情報保護法27条)

個人情報保護法の実効性を確保するため主務大臣には以下の表に示す権限が与えられている。(個人情報保護法32条-34条)

[主務大臣の権限]
報告の徴収
必要な限度において個人情報取扱事業者に対し個人情報の取扱いに関し報告をさせることができる。
助言
必要な権限において個人情報取扱事業者に対し個人情報の取扱いに関し必要な助言をすることができる。
勧告および命令
個人情報取扱事業者が一定の義務に違反した場合で個人の権利利益を保護するため必要があると認めるときは当該個人情報取扱事業者に対し当該違反行為の中止その他違反を是正するために必要な措置をとるべき旨を勧告することができる。その勧告を受けた個人情報取扱事業者が正当な理由がなく、その勧告に係る措置をとらなかった場合で個人の重大な権利利益の侵害が切迫していると認めるときは当個人情報取扱事業者に対し、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。

認定個人情報保護団体とは個人情報取扱事業者の個人情報の適正な取扱いの保護を目的として個人情報の取扱いに関する苦情を処理や情報提供等の業務を行う主務大臣の認定を受けた民間団体をいう。(個人情報保護法37条)

認定個人情報保護団体は本人等から個人情報取扱事業者の個人情報の取扱いに関する苦情について解決の申出があったときは、その相談に応じ申出人に必要な助言をし、その苦情に係る事情を調査するとともに当該個人情報「取扱事業者に対し、その苦情に内容を通知して、その迅速な解決を求めなければならない。(個人情報保護法42条1項)

行政機関個人情報保護法

①行政機関個人情報保護法とは

行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(行政機関個人情報保護法)は行政機関において個人情報の利用が拡大していることに鑑み行政機関における個人情報の取扱いに関する基本的事項を定めることにより行政の適正かつ円滑な運営を図りつつ個人の権利利益を保護することを目的とする法律をさす。(行政機関個人情報保護法1条)

②行政機関個人情報保護法の基礎概念

行政機関」とは法律の規定に基づき内閣に置かれる機関および内閣の所轄の下に置かれる機関、内閣府、宮内庁ならびに内閣府設置法に規定する機関、国家行政組織法3条2項に規定する機関、会計検査院などをいう。(行政機関個人情報保護法2条1項)

個人情報」とは生存する個人に関する情報であって当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む)をいう。(行政機関個人情報保護法2条2項)

保有個人情報」とは行政機関の職員が職務上作成し、または取得した個人情報であって当該行政機関の職員が組織的に利用するものとして当該行政機関が保有しているものをいう。

ただし行政文書に記録されているものに限る。(行政機関個人情報保護法2条3項)

個人情報ファイル」とは保有個人情報を含む情報の集合物であって(1)一定の事務の目的を達成するために特定の保有個人情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの(2)一定の事務の目的を達成するために氏名、生年月日、その他の記述等により体系的に構成したものをいう。(行政機関個人情報保護法2条4項)

③行政機関における個人情報の取扱い

行政機関は個人情報を保有するにあたっては法令の定める所掌事務を遂行するため必要な場合に限り、かつ、その利用目的をできる限り特定しなければならない。

また行政機関は特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を保有してはならず利用目的を変更する場合には変更前の利用目的と相当の関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えて行ってはならない。(行政禁個人情報保護法3条)

行政機関は本人から直接書面(電磁的記録を含む)に記録された当該本人の個人情報を取得するときは以下の表に示す場合を除き、あらかじめ本人に対し、その利用目的を明示しなければならない。(行政機関個人情報保護法4条)

[利用目的の明示の例外]
(1)人の生命、身体または財産の保護のために緊急に必要があるとき
(2)利用目的を本人に明示することにより本人または第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害する恐れがあるとき
(3)利用目的を本人に明示することにより国の機関、独立行政法人等、地方公共団体または地方独立行政法人が行う事務または事業の適正な遂行に支障を及ぼす恐れがあるとき
(4)取得の状況からみて利用目的が明らかであると認められるとき

行政機関の長は利用目的の達成に必要な範囲内で保有個人情報が過去または現在の事実と合致するよう努めなければならない。(行政機関個人情報保護法5条)

行政機関の長は保有個人情報の漏洩、滅失または毀損の防止その他の保有個人情報の適切な管理のために必要な措置を講じなければならない。(行政機関個人情報保護法6条)

個人情報の取扱いに従事する行政機関の職員もしくは職員であった者は、その業務に関して知り得た個人情報の内容をみだりに他人に知らせ、または不当な目的に利用してはならない。(行政機関個人情報保護法7条)

行政機関の職員もしくは職員であった者が(1)正当な理由がないのに個人の秘密に属する事項が記録された個人情報ファイルを提供したときは2年以下の懲役または100万円以下の罰金(2)その業務に関して知り得た保有個人情報を自己もしくは第三者の不正な利益を図る目的で提供し、または盗用したときは1年以下の懲役または50万円以下の罰金(3)行政機関の職員が、その職権を濫用して、もっぱらその職務の用以外の用に供する目的で個人の秘密に属する事項が記録された文書、図画または電磁的記録を収集したときは1年以下の懲役またはは50万円以下の罰金に処せられる。(行政機関個人情報保護法53条-55条)

行政機関の長は法令に基づく場合を除き利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し、または提供してならない。(行政機関個人情報保護法8条1項)

もっとも行政機関の長は以下のいずれかに該当すると認めるときは一定の場合を除き利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し、または提供することができる。(行政機関個人情報保護法8条2項)

[利用および提供の制限の例外]
(1)本人の同意があるとき、または本人に提供するとき
(2)行政機関が法令の定める所掌事務の遂行に必要な限度で保有個人情報を内部で利用する場合であって当該保有個人情報を利用することについて相当な理由があるとき
(3)他の行政機関、独立行政法人等、地方公共団体または地方独立行政法人に保有個人情報を提供する場合において保有個人情報の提供を受ける者が法令の定める事務または業務の遂行に必要な限度で提供に係る個人情報を利用し、かつ当該個人情報を利用することについて相当な理由があるとき
(4)もっぱら統計の作成または学術研究の目的のために保有個人情報を提供するとき本人以外の者に提供することが明らかに本人の利益になるとき、その他保有個人情報を提供することについて特別の理由のあるとき

行政機関(会計検査院を除く)が個人情報ファイルを保有しようとするときは当該行政機関の長は、あらかじめ総務大臣に対し個人情報ファイルの名称、利用目的など一定の事項を通知しなければならない。

ただし国の安全、外交上の秘密その他の国の重大な利益に関する事項を記録する個人情報ファイル、犯罪の捜査、租税に関する法律の規定に基づき犯則事件の調査または公訴の提起もしくは維持のために作成し、または取得する個人情報ファイルなど一定のファイルは例外とされる。(行政機関個人情報保護法10条)

行政機関の長は政令で定めるところにより当該行政機関が保有している個人情報ファイルについて、それぞれ個人情報ファイルの名称、利用目的、その他政令で定める一定の事項を記載した個人情報ファイル簿を作成公表しなければならない。

ただし国の安全、外交上の秘密その他の犯罪の捜査、租税に関する法律の規定に基づき犯則事件の調査または公訴の提起もしくは維持のために作成し、または取得する個人情報ファイルなど一定のファイルは例外とされる。(行政機関個人情報保護法11条)

行政機関が、これまでに説明したような適切な取扱いを行わない場合には本人の権利利益が侵害される恐れがある。

そこで本人には以下に示す権利が認められている。

[行政機関個人情報保護法により本人に認められる権利]
開示請求権
行政機関の長に対し当該行政機関の保有する自己を本人とする保有個人情報の開示を請求する権利(行政機関個人情報保護法12条-26条)
訂正請求権
自己を本人とする一定の保有個人情報の内容が事実でないと思われたときに当該保有個人情報を保有する行政機関の長に対し当該保有個人情報の訂正(追加または削除を含む)を請求する権利(行政機関個人情報保護法27条-35条)
利用停止請求権
自己を本人とする保有個人情報が違法に取得、保有、利用または提供されていると思われるときに当該保有個人情報を保有する行政機関の長に対し、これらの行為の停止または当該保有個人情報の消去を請求する権利(行政機関個人情報保護法36条-41条)

プライバシーマーク

①プライバシーマーク制度

プライバシーマーク制度は日本工業規格「JIS Q 15001(個人情報保護マネジメントシステム-要求事項)」に適合して個人情報について適切な保護措置を講ずる体制を整備している事業者等を認定して事業活動に関してプライバシーマークの使用を認める制度のことをさす。
プライバシーマーク制度は(1)消費者の目に見えるプライバシーマークで示すことによって個人情報の保護に関する消費者の意識の向上を図ること(2)適切な個人情報の取扱いを推進することによって消費者の個人情報の保護意識の高まり応え社会的な使用を得るためのインセンティブを事業者に与えることを目的としている。

②プライバシーマークの認定

プライバシーマークの認定にあたっては「JIS Q 15001:2006」の要求事項に基づいて審査がなされており自社で保有する個人情報の収集(取得)、保管、利用、委託、提供、破棄、情報主体からの要求(開示、訂正、削除、拒否)への対応などの一連の取扱いについて適切に行う手順が確立されているかを審査する。

1回の認定によるプライバシーマーク付与の有効期間2年間だが更新することにより2年間延長することができる。

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

ユーキャンの行政書士通信講座
価格:63000円(税込、送料無料) (2021/9/20時点)


過去と予想問題

以下の設問に〇×で答えよ。

憲法編

1 憲法とは国家権力を制限して国民の人権を保障する国家の根本的なルールである。(予想)

2  日本国憲法の基本原理は国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の3つだ。(予想)

3 主権の用語が「国政についての最高意思決定権」の意味で使われている例として日本国憲法前文の「ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」がある。(H12.6.1)

4 基本的人権は立憲的意味の憲法が制定される様になってから認められた新しい人権をさす。(予想)

5 平和主義が日本国憲法上現れているのは9条の規定のみである。(予想)

6 以下の記述は日本国憲法の条文を基礎としているが本来の条文に比べて重要な要素が欠けているなど変更されているものか本来の条文に照らして正しいか。
「日本国民は正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し国権の発動たる戦争と武力の行使は国際紛争を解決する手段としては永久にこれを放棄する。」(H17.3.2)

7 外国人は日本国憲法の定める基本的人権の享有主体でない。(S63.27.1)

8 基本的人権は自然人について認められたものであるから法人は日本国憲法の定める基本的人権の享有主体ではない。(S63.27.2)

9 外国人に対して再入国の自由が認められているかについて判例は外国へ一時旅行する自由を保障されているものではないとして再入国の自由を否定している。(予想)

10 公共の福祉を人権相互の矛盾衝突を調整するための実質的公平の原理であり、すべての人権に論理必然的に内在していると理解するのが通説的な見解である。(予想)

11 警察官が正当な理由もないのに個人の容貌等を撮影することは憲法13条に違反するが公共の福祉のために必要な場合には許される場合がある。(H13.5.3)

12 喫煙の自由は基本的人権に含まれるとしても、あらゆる時、所において保障されなければならないもではない。(H9.1.21)

13 自己決定権とは個人の人格的生存に関わる重要な私的事項を公権力の介入や干渉を受けることなしに各自が自律的に決定できる権利をさす。(予想)

14 形式的に一人一票の原則が貫かれていても投票価値が平等であるとは限らない。(H16.3.1)

15 思想・良心の自由は内心の領域にとどまる限り、そのような思想や良心をもっても絶対的に自由であり国家権力は内心の思想に基づく不利益な取扱いやと規定の思想をもつことを禁止することはできない。(予想)

16 憲法19条の「思想及び良心の自由」は国民がいかなる思想を抱いているかについて国家権力が開示を強制することを禁止するものであるため謝罪広告の強制は、それが事態の真相を告白し陳謝の意を表するに止まる程度であっても許されない。(H21.5.2)

17 憲法の政教分離規定は国家が宗教とのかかわり合いをもつことを全く許さない趣旨ではない。(S62.4.27)

18 政教分離について判例は問題になっている行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進または圧迫、干渉になるかにより判断する。(予想)

19 最高裁の判例の趣旨に照らすと報道の自由は憲法21条の趣旨に照らし十分尊重に値する。(H16.5.2)

20 最高裁の判例の趣旨に照らすと取材の自由は表現の自由を規定した憲法21条の保護の下にある。(H16.5.1)

21 検閲について判例は行政権が主体となって思想内容等の表現物を対象とし、その全部または一部の発表の禁止を目的として対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に発表前にその内容を審査したうえ不適用と認めるものの発表を禁止するこtであるとしている。(予想)

22 最高裁の判例の趣旨に照らすと学問の自由と大学の自治の享有主体は教授その他の研究者である。(予想)

23 官公署に提出する書類の作成を業として行おうとする者に対して行政書士試験等に合格することを求める資格制は営業の自由を制限しているといえる。(H13.4.3)

24 酒類の販売にも業務を拡大しようと企てるコンビニエンス・ストアに、あらかじめ酒類販売業免許の取得を要求する免許制は営業の自由を制限しているとはいえない。(H13.4.4)

25 私有財産を公共のために用いる場合の正当な補償とは自由な市場取引において成立すると考えられる価格と一致することを要するとするのが最高裁判所の判例である。(S62.5.28)

26 財産権を制限する法律に損失補償の規定がない場合は当該法律は憲法29条3項に反し違憲である。(予想)

27 何人も法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、またはその他の刑罰を科せられない。(H3.1.23)

28 何人も権限を有する司法官憲が発し、かつ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、いかなる場合も逮捕されない。(H7.5.25)

29 何人も正当な理由がなければ拘禁されない。(H7.5.25)

30 刑事補償請求権を定める憲法40条の規定を受けて刑事補償法が制定されている。(予想)

31 法律の制定に関し請願する権利は日本国憲法上、明文で規定されてない。(H3.2.21)

32 裁判所において裁判を受ける権利は日本国憲法上、明文できていされてない。(H3.5.21)

33 何人も抑留または拘禁された後、無罪の裁判を受けた時は法律の定めるところにより国にその補償を求めることができる。(H8.4.26)

34 憲法25条の規定は法規範性をもたず生存権は、その内容を具体化する法律が制定されることによって具体的な権利になる。(予想)

35 義務教育は無償とするとの規定は授業料その他教育に必要な一切の費用を無償としなければならないことまで定めたものではない。(H4.5.22)

36 勤労者の団結する権利は日本国憲法上、明文で規定されてない。(H3.4.21)

37 立候補の自由は日本国憲法上、基本的人権として明文で規定されてない。(H5.3.21)

38 選挙権の行使の義務は日本国憲法において国民等の義務として明文で規定されていない。(H1.4.27)

39 国民代表について両議院の議員は自分の応援をしてくれる特定の階級、党派、地域住民など一部の国民の代表をするのではなく、あくまで全国民を代表するものと解すべきであるという考え方は政治的代表の考え方に基づくものである。(H14.4.3)

40 両議院の議決について「条約の締結の承認」は衆議院の優越が認められている。(H1.1.30)

41 両議院の議決について「予算の議決」は衆議院の優越が認められている。(H1.2.30)

42 両議院の議決について「憲法改正の発議」は衆議院の優越が認められている。(H1.5.30)

43 参議院の緊急集会でとられた措置は国会が行ったものとみなされ次の国会開会の後10日以内に衆議院に報告しなければならない。(予想)

44 国会は罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。(予想)

45 議院規則の制定は議院の権能である。(H14.2.4)

46 議員の資格争訟の裁判は議院の権能である。(H14.4.4)

47 議員に対する懲罰が議院の権能である。(H14.3.4)

48 内閣は行政権の行使について国会に対し連帯して責任を負う。(予想)

49 内閣は衆議院で不信任の決議案を可決し、または信任の決議案を否決した時は10日以内に衆議院が解散されない限り総辞職しなければならない。(予想)

50 内閣総理大臣は国務大臣を任命する。ただし、その過半数は衆議院議員の中から選ばなければならない。(予想)

51 内閣総理大臣は答弁または説明のため出席を求められた時は議院に出席しなければならない。(S63.1.29)

52 内閣総理大臣の同意がなければ国務大臣は、その在任中、訴追されることはない。(S63.3.29)

53 内閣総理大臣は法律によらなければ国務大臣を罷免することはできない。(S63.4.29)

54 内閣は法律の規定を実施するために政令を制定することはできるが憲法の規定を実施するてめに政令を制定することはできない。(予想)

55 下級裁判所の裁判官を任命することは内閣の権能とされている。(H3.2.25)

56 大赦、特赦、減刑、法の執行の免除および復権を承認することは内閣の権能とされている。(H3.5.25)

57 信仰の対象の価値または宗教上の教義に関する判断については訴訟が具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争の形式をとる場合には司法審査の対象となる。(H9.5.25)

58 大学は一般社会と異なる特殊な部分社会を構成しているから単位認定行為のような内部的問題は特殊の事情がない限り司法審査の対象にならない。(H9.3.25)

59 地方議会の議員の除名処分は議員の身分の喪失に関する重大事項であるから単なる内部規律の問題ではなく司法審査の対象になる。(H9.4.25)

60 最高裁判所の裁判官は内閣の指名に基いて天皇が任命し下級裁判所の裁判官は最高裁判所の指名した者の名簿に基づいて内閣が任命する。(H11.1.25)

61 最高裁判所の裁判官は国民審査または弾劾裁判所の裁判によらなければ罷免されない。(H11.2.25)

62 行政機関は終審として裁判を行うことができない。(H2.1.23)

63 規則制定権は最高裁判所の権能の1つである。(H15.2.7)

64 最高裁判所の裁判官は国民審査において投票者の多数がその裁判官の罷免を可とする時は罷免される。(H11.4.25)

65 すべての裁判官は、その良心に従い協力して職権を行い憲法および法律にのみ拘束される。(H2.4.23)

66 最高裁判所は法令が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。(H4.4.25)

67 天皇の国事に関するすべての行為には内閣の助言と承認を必要とし国会が、その責任を負う。(H6.2.21)

68 皇室に財産を譲り渡し、または皇室が財産を譲り受けることは国会の議決に基づかなければならない。(予想)

69 わが国は租税法律主義をとっているので地方公共団体は地方税について条例によりその税目・税率等を定めることはできない。(H5.3.25)

70 日本国憲法89条前段は宗教上の組織もしくは団体への公金の支出を禁止することにより政教分離の原則を財政面から保障することを目的としている。(予想)

71 地方公共団体の組織および運営に関する事項は地方自治の本旨に基づいて法律で定める。(H8.4.21)

72 地方公共団体の議会の議院は、その地方公共団体の重mンが直接選挙するが地方公共団体の長は議会の議決により指名される。(予想)

73 憲法の改正は国会が発議するが、そのためには各議院に総議員の3分の2以上の賛成が必要とされる。(H13.1.7)

74 明治憲法も改正規定を設けていたが、この規定に基づいて改正が行われたことはない。(S63.2.32)

解答

1 〇
2 〇
3 〇
4 × 基本的人権は憲法の制定以前から成立していると考えられる権利で憲法が法的権利として確認したに過ぎない。
5 × 憲法前文2項にも現れている。
6 × 「武力による威嚇」が抜けている。条文を丸暗記してないと正解しない難問だ。
7 × 外国人も基本的人権の享有主体となり得る。憲法には国民となっているが最高裁判決で認めている。
8 ×
9 〇
10 〇
11 〇 憲法13条には公共の福祉に反しない限りと制限を設けている。
12 〇 喫煙は条例等で厳しく制限されている。これが憲法違反なはずがない。
13 〇
14 〇 1票の格差の話だ。
15 〇
16 × 謝罪広告事件。
17 〇
18 〇 目的効果基準。
19 × 報道の自由は憲法21条の保障の下にある。博多駅テレビフィルム事件。
20 × 取材の自由は憲法21条の保障の下にはないが憲法21条の趣旨に照らし十分尊重に値するとされている。博多駅テレビフィルム事件。
21 〇
22 〇 東大ポポロ事件。
23 〇
24 ×
25 ×
26 × 直接、憲法29条3項を根拠にして補償請求をする余地はあり合憲とされる。河川附近地制限令違反事件。
27 〇
28 × 例外として現行犯逮捕がある。
29 〇
30 〇
31 ×
32 ×
33 〇
34 〇
35 〇
36 ×
37 × 憲法15条1項「公務員を選定し及びこれを罷免することは国民固有の権利である。」によって保障されると考えられているが明文の規定はない。
38 〇
39 〇
40 〇
41 〇
42 ×
43 ×
44 〇
45 〇
46 〇
47 〇 
48 〇
49 〇
50 ×
51 〇
52 〇
53 ×
54 ×
55 〇
56 × 決定することが内閣の権能であり認証は天皇の権能。
57 ×
58 〇
59 〇
60 × その長たる裁判官以外の裁判官は内閣でこれを任命する。(憲法79条1項)
61 × 裁判官は裁判により心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては公の弾劾によらなければ罷免されない。(憲法78条前段)
62 〇
63 〇
64 〇
65 × すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、この憲法および法律にのみ拘束される。(憲法76条3項)
66 〇 最高裁判所は一切の法律、命令、規則または処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。(憲法81条)
67 × 天皇の国事に関するすべての行為には内閣の助言と承認を必要とし内閣が、その責任を負う。(憲法3条)
68 〇
69 × 憲法84条の規定する法律には条例も含まれる。
70 〇
71 〇
72 ×
73 〇 憲法の改正は各議院の総議員の3分の2以上の賛成で国会が、これを発議し国民に提案してその承認を得なければならない。
74 × 日本国憲法は明治憲法73条の改正規定により明治憲法を改正したものとして公布された。

行政法編

1 行政とは国家作用のうち立法と司法を除いたものと説明することができる。(予想)

2 行政法には大きく分けて行政活動の主体に関する行政組織法、行政主体が何を行うかに関する行政作用法、行政活動によって不利益を受けた国民がどのように救済されるかに関する行政救済法がある。(予想)

3 法律による行政の原理には(1)法律の優位(2)法律の留保(3)法律の法規創造力の3つが含まれている。(予想)

4 法律の留保とは行政活動を行うには法律の根拠が必要であるとする考え方であり学説は、そのすべての行政活動に法律の根拠が必要であるとの結論で一致している。(予想)

5 公法とは国または地方公共団体とその構成員の関係について定めた法律をいう。(予想)

6 防火地域内にある耐火構造の建築物の外壁を隣地境界線に接して設けることができるとしている建築基準法65条の規定は相隣関係に関する民法234条の規定の特則として民法の規定の適用を排除するものである。(H15.3.9)

7 公営住宅に世帯主として入居している者が死亡した場合、その相続人が低所得者である時には入居関係は相続させなければならないとするのが最高裁の判例である。(H18.4.8)

8 食品衛生法の許可を得ないで取引をなした場合においては消費者保護の法理により、その取引に関する売買契約は私法上無効であり買主は代金の返金を要求することができる。(H15.1.9)

9 行政主体は国と公共団体に分かれ公共団体には地方公共団体、特殊法人、独立行政法人がある。(予想)

10 独立行政法人とは従来は国が行ってきた行政活動のうち一定のものを省庁から切り離し、これを独立して行わせるために設立された法人のことである。(予想)

11 行政庁とは行政主体の意思決定をし、これを外部に表示する権限を有する行政機関である。(H21.9-ア)

12 諮問機関とは行政庁から諮問を受け意見を具申する行政機関で、その答申が行政庁の意思を拘束するものである。(H2.35-2)

13 執行機関とは行政主体の法律上の意思を決定をし外部に対して表示し、これを執行する権限をもつ行政機関である。(H2.35-4)

14 行政庁の権限が委任された場合には委任をした行政庁は、その権限を失い委任を受けた機関が自己の名でその権限を行う。(H5.38-1)

15 上級の行政庁は下級の行政庁に対し権限を委任した場合であっても当該割球の行政庁を指揮監督することができる。(H5.38-1)

16 国または公共団体は私有の公物につき時効取得することが認められてないのであるから私人も公物の時効取得は認められていない。(H12.10-イ)

17 許可とは既に法令または行政行為により課されている一般的禁止を特定の場合に解除する行為であり、その具体例として自動車の運転免許がある。(H19.10-1)

18 特許とは特定人のために新たな権利を設定し、その他法律上の力ないし法律上の地位を付与する行為であり、その具体例として道路の占有許可がある。(H1.40-2)

19 認可とは第三者の契約や合同行為などの法律行為を補充して、その法律上の効果を完成させる行為であり、その具体例として農地の権利移転の許可がある。(H1.40-5)

20 確認とは特定の事実または法律関係の存否について公の権威をもって判断しこれを確定する行為であり、その具体例として選手人名簿への登録がある。(H1.40-4)

21 執行力とは私法行為とは異なり裁判所の裁判を待つまでもなく行政行為の内容を行政庁が自力で実現し得ることをいう。(H3.34-5)

22 錯誤による漁業の免許は当然に無効となるものではない。(H4.33-5)

23 行政上の強制執行と行政上の即時強制とは前者が義務の不履行を前提としているのに対し後者が義務の不履行を前提としていない点で異なっている。(S63.40-3)

24 行政指導とは法律の規定に基づく場合にのみ行われ相手方に対し法的拘束力を有する行為である。(H4.35-2)

25 違法な行政指導がなされた場合であっても、それにより不利益を受けた者が不服申立てによって救済を求めることはできない。(予想)

26 行政手続法は政府の諸活動について国民に説明する責務が全うされるようにすることを主な目的とする。(H21.12-1)

27 行政手続法が規定する事項について他の法律に特別の定めがある場合は、その定めるところによる。(H14.12.-4)

28 命令制定手続は行政手続法の規律の対象になっている。(H14.13-ア)

29 人の学識技能に関する試験または検定の結果についての処分は行政手続法の適用がない。(H13.12-イ)

30 申請に対する処分の手続として審査基準の原則的公表は義務的と定められてない。(H13.13-4)

31 申請に対する処分の手続として申請後延滞なく審査を開始することは義務的と定められている。(H13.13-5)

32 聴聞を経る処分の手続には参加人の関与手続が定められている。(H14.14-エ)

33 行政庁が不利益処分をする場合においては原則として、その処分と同時に当該不利益処分の理由を示さなければならない。(予想)

34 文書閲覧権は聴聞手続のみならず弁明の機会の付与手続にも定められている。(H14.14-オ)

35 行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として不利益な取扱いをしてはならない。(予想)

36 行政指導に携わる者は、その相手方に対しとうがい行政指導の趣旨、内容並びに責任者を明確に示さなければならない。(H18.12-1)

37 公開の対象となる行政文書には紙媒体で存在する文書だけでなく図画、写真フィルム、録音データ、フロッピーディスク、CD、DVD等の電磁的記録も含まれる。(予想)

38 開示請求書の記載事項として開示請求をする者の本人性を証する書類が要求されている。(H15.8-イ)

39 開示請求書の記載事項として開示請求する者の氏名または名称および住所または居所ならびに法人その他の団体にあっては代表者の氏名を要求されている。(H15.8-ア)

40 開示請求を受けた行政機関の長は開示に関する決定を原則として開示請求の日から30日以内にしなければならない。(予想)

41 不開示の決定をした通知をするときは理由の提示は求められていない。(予想)

42 氏名・生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(個人識別情報)については原則として不開示とすることができる。(予想)

43 行政機関の長は開示請求に係る行政文書に不開示情報が記録されている場合であっても公益上特に必要があると認めるときは当該行政文書を開示しなければならない。(H16.8-1)

44 開示請求された行政文書に第三者に関する情報が記録されているときは行政機関の長は開示決定をするにあたり、その第三者に対し意見書を提出する機会を与えることができる。(予想)

45 行政文書の開示を受ける者は実費を納付しなければならない。(予想)

46 開示決定等について不服申立てがあった場合に裁決または決定をすべき行政機関の長は原則として情報開示・個人情報保護審査会に諮問しなければならない。(予想)

47 行政不服審査法の目的は簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済を図る事でなく行政の適正な運営を確保することである。(H11.49-ウ)

48 行政庁の不作為も不服申立ての対象となり得る。(H11.49-エ)

49 異議申立てとは行政庁の処分または不作為に対して処分庁ないし不作為庁に不服申立てる手続のことである。(予想)

50 審査請求は行政庁の処分または不作為に対して処分庁ないし不作為庁以外の行政庁に不服申立てをする手続のことである。(H13.15-1)

51 行政不服審査法は列記主義を採用している。(H14.15-5)

52 不服申立ては申立人の選択により書面または口頭でこれをすることができる。(H6.44-イ)

53 権利能力なき社団や財団でも代表者や管理人の定めがあれば、その名で不服申立てができる。(H6.15-2)

54 審査請求がなされた場合であっても処分庁は原則として処分を執行し、または手続を続行することができる。(H6.44-エ)

55 審査請求は原則として処分があったことを知った日の翌日から起算して30日以内にしなければならない。(H3.43-1)

56 書面による教示が求められた場合に当該教示は口頭で行ってもかまわない。(H13.16-4)

57 行政事件訴訟において行政事件訴訟法に規定のない事項については一般法である民事訴訟法の規定が適用される。(予想)

58 抗告訴訟の種類は行政事件訴訟法に定められた処分または裁決の取消しの訴え、無効等確認の訴えおよび不作為の違法確認の訴えに限られる。(S63.43-2)

59 当事者間の法律関係を確認し、または形成する処分に関する訴訟で法令の規定により、その法律関係の当事者の一方を被告とするものは当事者訴訟である。(H21.18-1)

60 機関訴訟とは国または地方公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で選挙人たる資格その他自己の法律上の利益に関わらない資格で提起するものであり法律の定めがないと提起できない。(H9.35-3)

61 取消訴訟を提起することができる処分が口頭でなされた場合に相手方から書面による教示を求められた時は書面で教示しなければならない。(H18.19-2)

62 行政事件訴訟法によれば取消訴訟は処分または裁決があったことを知った日から6か月以内に提起しなければならない。(H12.11-3)

63 行政庁の自由裁量処分について裁量権の濫用があった場合には裁判所はその処分を取り消すことができる。(予想)

64 取消訴訟において執行停止の申立てがなされたとしても内閣総理大臣の異議があった時は裁判所は執行停止をすることができない。(予想)

65 取消訴訟において事情判決をする場合、裁判所は当該判決の主文において処分または裁決が違法であることを宣言しなければならない。(予想)

66 国会議員の立法行為は、その内容が憲法の一義的な文言に違反しているにも関わらず国会があえて当該立法行為を行うというような例外的な場合でない限り国家賠償法上、違法とはならない。(H5.35-5)

67 国家賠償法1条1項に規定する「公権力の行使」は行政作用に限られ立法作用および司法作用は含まない。(H10.37-1)

68 公務員個人は国または公共団体がその責任を負担する以上、被害者に対し直接責任を負うことはない。(H16.11-5)

69 公立学校における教員の教育活動は公的事実行為であり公権力の行使に当たる。(予想)

70 国家賠償法第1条の「公務員が、その職務を行うについて」とは公務員が客観的に職務執行の外形を具備した行為を行えば足り公務員の主観的意図は問題とならない。(H7.37-2)

71 国家賠償法では普遍的な人権保障の見地から、すべての外国人が等しく補償を受けられることが規定されている。(H8.37-4)

72 公の営造物の設置または管理の瑕疵とは公の営造物が通常有すべき安全性に欠いていることをさすが賠償責任が成立するのは当該安全性の欠如について過失がった場合に限られる。(H2.19-2)

73 改修中の河川については段階的改修が認められ水害発生部分につき改修が未だ行われていなかったことをもって河川管理に瑕疵があったとはいえない。(S63.42-1)

74 損失補償とは違法な公権力の行使により特定人に生じた財産上の損失を全体的な公平負担の見地から補償することである。(H4.37-1)

75 地方自治法上、普通地方公共団体とは市町村、都道府県のことをいう。(予想)

76 東京都の特別区は特別地方公共団体の一種であるが東京都自体は普通地方公共団体である。(H16.17-ア)

77 「区」という名称が付される地方行政組織のうち特別区と財産区は地方公共団体であるが行政区は地方公共団体でない。(H16.17-イ)

78 地方公共団体の組合には一部事務組合、広域連合、全部事務組合および財産区の4種類がある。(H8.41-2)

79 地方自治法上で用いられている「住民」という概念は日本国民を対象とする概念であるから外国人が住民として扱われることはない。(H16.18-2)

80 地方自治法上の直接請求の中で都道府県の議会の解散を請求をする場合、都道府県の議会の議員および都道府県知事の選挙権を有する者の総数の3分の1以上の連署により都道府県の選挙管理委員会に対して行う。(H1.45-2)

81 普通地方公共団体の議会の議員および長の選挙権を有する者は、その総数の100分の1以上の者の連署をもって条例の制定の請求をすることができる。(H4.42-1)

82 直接請求として地方税の賦課徴収、分担金、使用料、手数料の徴収に関する条例の制定改廃を求めることも可能である。(H18.23-1)

83 住民監査請求をすることができる者は当該地方公共団体の住民に限られ、それ以外の者が請求することは認められていない。(H21.24-1)

84 普通地方公共団体の議会は議長が召集する。(H2.42-1)

85 普通地方公共団体議長および副議長は議会の許可を得て辞職することができる。(H5.42-5)

86 普通地方公共団体の議会は常任委員会を必ず設置しなければならない。(H7.41-1)

87 普通地方公共団体の議会の議員は予算につき議会に議案を提出することができる。(H11.41-1)

88 地方議会の議員は条例の定めにより報酬および期末手当の支給を受けることができる。(予想)

89 条例案の提出権は普通地方公共団体の長のみが有する。(H3.42-3)

90 議会における条例の制定改廃または予算に関する議決について異議がある時は長はこれを再議に付すことができる。(H16.19-1)

91 行政委員会および行政委員は、すべての普通地方公共団体に置けなければならないもの都道府県のみに置くもの市町村のみ置くものとに分かれる。(予想)

92 外部監査制度が設置された地方公共団体については、これまでの監査委員は条例の定めるところにより廃止することができる。(H12.20-4)

93 地域自治区とは市町村長の権限に属する事務を分掌し地域の住民の意見を反映されつつ、これを処理する目的で条例により設置される市町村の特定の区域のことである。(予想)

94 法定受託事務とは国または都道府県が本来果たすべき役割に係るものであって国または都道府県において、その適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律または政令により特に地方公共団体の、その処理が委託される事務をいう。(予想)

95 地方公共団体は法律の範囲内で条例および規則を制定することができる。(予想)

96 普通地方公共団体の会計は一般会計および企業会計である。(H4.41-2)

97 収入のうち分担金に関する事項については条例で使用料および手数料に関する事項については規則で、これを定めなければならない。(H4.41-3)

98 普通地方公共団体は金融機関を指定して公金の収納または支払いの事務を取り扱わせなければならない。(H6.41-2)

99 普通地方公共団体は公の施設の利用に関し条例で5万円以下の過料を科する規定を設けることができる。(H7.42-3)

100 地方公共団体は各「公の施設」の住民による使用が有料・無料であるに関わらず施設の設置自体を条例で規定しなければならない。(H12.19-1)

101 国と都道府県の紛争は国地方紛争処理委員会に国と市区町村間の紛争は自治紛争処理委員に審査を申出をするものとされている。(H13.19-2)

102 国地方紛争処理委員会の委員は総務大臣が両議院の同意を得て任命し、また自治紛争処理委員は次元ごとに総務大臣または都道府県知事が任命する。(H13.19-2)

解答

1  〇
2  〇
3  〇
4  ×
5  〇
6  〇
7  ×
8  ×
9  〇
10  〇
11  〇
12  ×
13  ×
14  〇
15  〇
16  ×
17  〇
18 〇
19 〇
20 × 選挙人名簿への登録は公証にあたる。確認の例として建築確認、選挙人の決定がある。
21 〇
22 〇
23 〇
24 × 行政指導は法的拘束力をもたない事実行為であり法的根拠は不要だ。
25 〇
26 ×
27 〇
28 〇
29 〇
30 ×
31 〇
32 〇
33 〇
34 ×
35 〇
36 〇
37 〇
38 〇
39 〇
40 〇
41 ×
42 〇
43 × 義務ではない。
44 〇
45 〇
46 〇
47 ×
48 〇
49 〇
50 〇
51 ×
52 ×
53 〇
54 〇
55 ×
56 ×
57 〇
58 ×
59 〇
60 ×
61 × 行政庁は書面によって教示する義務はない。
62 〇
63 〇
64 〇
65 〇
66 〇
67 ×
68 〇
69 〇
70 〇
71 × 相互の保証あるときのみ
72 × 営造物責任は無過失責任
73 〇
74 × 適法な公権力の行使
75 〇
76 〇
77 〇
78 × 全部事務組合と財産区は違う。
79 ×
80 〇
81 × 50分の1
82 ×
83 〇
84 × 長が召集
85 〇
86 × 条例で決める
87 × 事件のみ
88 〇
89 ×
90 〇
91 〇
92 ×
93 〇
94 〇
95 〇
96 ×
97 × 使用料、手数料も条例で定める。
98 × 都道府県は義務的だが市町村は任意。
99 〇
100 〇
101 × すべて国地方紛争処理委員会に審査を申出。
102 〇

民法編

1 民法には民事紛争の解決の基準が示されている。(予想)

2 民法は総則・物権・債権・会社・親族・相続の6篇からなる。(予想)

3 権利とは相手方に一定の行為をする(またはしない)ように法によって主張することができる力をいい義務とは相手方から一定の行為をする(またはしない)ように法によって強制されることをいう。(予想)

4 売買契約を結ぶと売主は買主に権利を有することになるが反面、買主は売主に義務だけを負担することになる。(予想)

5 私的自治の原則は特に取引の場面では契約自由の原則として具体化される。(予想)

6 契約自由の原則は(1)契約を締結するか否か(2)誰と契約するか(3)どのような内容の契約を締結するか(4)どのような方式で契約を締結するかについて当事者間で自由に定めることができる原則である。(予想)

7 契約自由の原則は、いかなる当事者間にも、そのまま当てはめるべきであり修正をしてはならない。(予想)

8 権利能力を有するのは自然人と法人のみである。(予想)

9 意思無能力者のなした行為は取り消すことができる。(予想)

10 未成年者でも婚姻したときは成年に達したとみなされる。(S63.33-3)

11 未成年者が法律行為をするには単に権利を得または義務を免れる行為といえども法定代理人の同意を必要とする。(S63.33-4)

12 成年被後見人が成年後見人の同意を得ずに行った重要な財産上の法律行為は無効である。(H7.27-3)

13 制限行為能力者が行為能力があると信じさせるため相手方に対して詐術を用いたときは制限行為能力者は制限行為能力を理由に、その法律行為を取り消すことができない。(H7.27-5)

14 権利能力なき社団Aが不動産を買い受けた場合においてAは法人に準じて扱われるので登記実務上A名義の登記が認められる。(H16.25-4)

15 不動産とは土地および定着物をいう。(予想)

16 住宅の売買契約を締結した場合において、その住宅が母屋と離れの2つに分かれていたとしても買主はその両方を取得する。(予想)

17 果樹から収穫した果実は法定果実である。(予想)

18 意思表示とは一定の法律効果を発生させる意思を外部に表すことをいう。(予想)

19 意思表示は動機・効果意思・表示意思・表示行為から成り立つ。(予想)

20 表意者が真意でないことを知りながら行った意思表示は相手方が表意者の真意を知っていたときであっても有効である。(S62.33-1)

21 相手方と通じて行った虚偽の意思表示は、その当事者間においても無効である。(S62.33-2)

22 錯誤による意思表示については表意者に重大な過失がある場合であっても表意者がみずから無効を主張することができる。(S62.33-3)

23 詐欺による意思表示の取消しは善意の第三者に対抗することができる。(S62.33-4)

24 強迫による意思表示の取消しは善意の第三者に対抗することができない。(S62.33-5)

25 代理人が、その権限内において本人のためにすることを示して行った意思表示は本人に対して直接に、その効力を生じることはない。

26 制限行為能力者も代理人となるこおtができる。(S63.34-2)

27 「秋に転勤が決まったら家を貸す」という内容の契約は停止条件付の契約である。(予想)

28 時効とは一定の事実状態が一定期間継続した場合に、それが真実の権利関係と一致するかどうかを問わず、そのまま権利関係として認める制度をいう。(予想)

29 時効の中断により、それまでの時効期間の経過は無意味となり中断事由の終了とともに改めて時効が進行を開始する。(S62.34-2)

30 時効は裁判上の請求によって中断し、その訴えにつき却下または取下げがあった場合でも時効中断の効力に影響はない。(H7.28-1)

31 時効完成後に時効の利益を放棄することは許されるが時効成立前に予め時効の利益を放棄することは許されない。(H7.28-3)

32 債権の消滅時効の期間は原則として10年である。(予想)

33 期限の定めのない債権の消滅時効は債権成立の時から進行する。

34 債務の履行不能による損害賠償請求権の消滅時効は債務の履行が不能になった時から進行するとするのが判例の立場である。(H9.28-4)

35 20年間、所有の意思をもって平穏かつ公然に他人の不動産を占有した者は、その所有権を取得する。(S62.34-4)

36 動産については即時取得により所有権を取得することができるが時効により取得することはできない。(S62.34-1)

37 占有を開始した時、他主占有であった者は時効取得することはできない。(予想)

38 法律の規定と異なる内容の物権を当事者の合意に創設することは契約自由の原則から許される。(予想)

39 物権を有する者が物を奪われ物の占有を全面的に排除されてしまった場合に、その物の引渡しや明渡しを請求する権利を物権的妨害排除請求権という。(予想)

40 物権変動は当事者間で特約をしない限り契約が成立した時点で生ずる。(予想)

41 購入した建物を登記する前に建物に不法占拠者がいた場合、その者に買主は登記がなくても対抗することができる。(H4.28-2)

42 何ら実体上の権利を有しないのに登記簿上の名義人となった者には土地の買主は登記がなくても対抗することができる。(H8.28-5)

43 甲は乙から土地を購入したが、その登記前に乙が死亡し乙の相続人丙が相続登記を済ませた場合、甲は丙に対抗することができる。(H4.28-1)

44 A所有の甲地がBに譲渡され、さらにAB間の譲渡の事実を知っているCに譲渡されてCに所有権移転登記がされた場合、Bは登記なくしてCに対抗することができる。(H12.28-イ)

45 乙が甲から借りて使用していたカメラを丙が乙の所有物だと過失なく買い受けた場合、丙はそのカメラについての所有権を取得することができる。(S62.36-3)

46 乙が甲から横領したカメラを丙が乙の所有物であると過失なく信じて買い受けた場合、甲は横領時から2年間は丙に対してそのカメラの返還を請求することができる。(S62.36-4)

47 本人が代理人の占有を通じて取得する占有を代理占有という。(予想)

48 占有物をだましとられた場合、占有回収の訴えを提起できる。(予想)

49 所有権とは法令の制限内で自由にその所有物の使用、収益および処分をする権利をいう。(予想)

50 袋地の所有者は公道に出るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。(H6.28-1)

51 公道に至るための他の土地の通行権を有する者は必要があるときは他の土地の所有者の費用をもって通路を開設することができる。(予想)

52 隣地の竹林の根や枝が境界線を越えて侵入してきたときは相隣者はこれを自分で切り取ることができる。(H6.28-5)

53 遺失物は遺失物法の定めに従い公告をした6か月以内にその所有者が判明しない場合は拾得した者がその所有権を取得する。(予想)

54 所有者のない動産または不動産を所有の意思をもって占有した者は、その所有権を得ることができる。(H6.28-4)

55 各共有者は他の共有者の同意なしに自己の持分権を第三者に譲渡することはできない。(H6.28-3)

56 各共有者は独断で共有物の保存行為をなすことができる。(H3.28-2)

57 担保物権には法律の規定によって当然に生ずる法定担保物権と当事者の契約によって設定される約定担保物権がある。(予想)

58 担保物権を有する者が目的物の上に行使することができる権利は債権の弁済を受けた割合に応じて縮減する。(予想)

59 留置権を行使していても債権の消滅時効は中断しない。(H5.28-3)

60 先取特権の目的物が賃貸されたことにより債務者が金銭を得ている場合でも当然金銭に対しては先取特権を行使することができる。(H7.29-3)

61 質権は質権設定者がその目的物を質権者に引き渡さなくてもその効力を生ずる。(H5.28-1)

62 質権は譲り渡すことができない物を目的とすることができない。(予想)

63 抵当権は抵当権者と抵当権設定者の間で抵当権を設定する契約を締結することによって成立する。(予想)

64 地上権および永小作権は抵当権の目的物とすることができない。(S62.47-1)

65 抵当権の効力は原則として英刀剣設定時の従物にも及ぶ。(H1.35-3)

66 土地に抵当権が設定された後、抵当権設定者が、その土地の上に建物を築造した場合、抵当権者は該当土地と建物を一括して競売することができない。(H1.35-4)

67 債権とは、ある人がすべての人に対して特定の行為を要求する権利をいう。(予想)

68 債権には物権に認められる直接性が認められない。(予想)

69 債権は排他性、絶対性を有し債権者に対する影響が大きいため原則として法律に定めるある場合に限られる。したがって債権を登録する必要がある。(H6329-3)

70 同一債務者に対する同一の内容を目的とする債権が2個以上の契約として成立することは可能である。(H6.29-2)

71 特定物債権とは具体的な取引において当事者が目的物の個性に着目し、その物の引渡しを目的とする債権をいう。(予想)

72 中古の一戸建て住宅の売買契約における家屋の引渡請求権は不特定物債権である。(予想)

73 選択債権とは数個の給付のなかから選択によって債権の目的を決定する債権をいう。(予想)

74 債権の目的が数個の給付のうちから選択によって決まる場合は、その選択権は債務者に属する。(H6.29-1)

75 もち米50キロを買う契約を米店との間で行った場合、そのもち米50キロの所有権は目的物が特定される前でも特約がなければ売買契約をした時に移転する。(H19.31-5)

76 債権者平等の原則とは債務者に複数の債権者が存在し債務の総額が資産額を超える場合に債権の発生時期に応じて優先的に回収できるとする原則をいう。(予想)

77 債務不履行には(1)履行遅延(2)履行不能(3)不完全履行の3つの種類がある。(予想)

78 履行遅延の成立要件に履行期に遅れたことが違法であることという要件はない。(予想)

79 不確定期限付債務が遅延となる時期は期限の到来時である。(予想)

80 債務の履行が可能か不可能かの判断は一般的な常識(社会通念)によって決定するので必ずしも目的物が減失することは必要でない。(予想)

81 債務不履行の成立要件のうち債務者の帰責事由については債権者が立証しなければならない。(H5.29-1)

82 不完全履行がなされた場合、追完可能な場合には改めて債務の完全な履行を請求することができる。(予想)

83 債務不履行の場合は債権者に過失があるとき裁判所はそれを考慮することができるにとどまる。(H5.29-2)

84 履行遅延があった場合、債権者はただちに契約を解除することができる。(予想)

85 履行不能については債権者は催告せずに契約を解除することができる。(予想)

86 不完全履行において追完が不可能な場合は履行遅延に準じて催告した後に契約を解除することができる。(予想)

87 受領遅滞の効果として債務者には債務不履行に基づく損害賠償請求権や契約の解除権が発生する。(予想)

88 責任財産とは強制執行の対象となる財産のことをいう。(予想)

89 債権者代位権とは債務者が自らの有する債権などの財産権を行使しない場合に債権者がその債権を保全のために債務者に代わってその権利を行使して債務者の責任財産の維持および充実を図る制度のことである。(予想)

90 債権者代位権は債権者が債務者の代理人としてその権利を行使するのであり債権者が自己の名をもって債務者の権利を行使するものではない。(H3.29-5)

91 債権者が債権の期限到来前に債権者代位権を行使するには保存行為の場合を除き裁判上の代位によらなくてよい。(H3.29-1)

92 債務者が既に自ら権利を行使している場合であっても、その行使の方法または結果によっては債権者は債権者代位権を行使することができる。(H3.29-4)

93 債権者が債権者代位権を行使することにより債務者は債権者代位権の行使の対象となった債権を譲渡することができなくなる。(予想)

94 詐害行為取消権とは債務者が債権者を害することを知って法律行為をした場合に、その法律行為の取消しを債権者が裁判所に請求できるとする制度をいう。(予想)

95 相続の放棄は詐害行為とならない。(H8.30-1)

96 詐害行為取消権は裁判上行使し得るだけでなく裁判外でも行使し得る。(H11.29-1)

97 詐害行為取消権の効力は当該詐害行為取消権を行使した債権者のみの利益のために生ずる。(H11.29-4)

98 民法は多数当事者の債権債務関係を原則として分割債権・債務となると定めている。(予想)

99 連帯債務とは数人の債務者が同一の内容の給付について各自が独立に全部の給付をなすべき債務を負担し、そのうち一人の給付があれば、すべての債務者の債務が消滅するという多数当事者の債務をいう。(予想)

100 連帯債務の債権者は各連帯債務者に対して債権の全額を請求することはできない。(予想)

101 連帯債務においては原則として連帯債務者の一人について生じた事由は他の債務者に影響を与えない。(予想)

102 連帯債務者の一人に対する履行の請求による時効の中断は他の連帯債務者については効力を生じない。(S62.37-2)

103 連帯債務者の一人と債権者との間で更改がなされた時は他の連帯債務者は債権者に対して債務を免れる。(H2.30-1)

104 保証債務とは主たる債務者がその債務の履行をしない場合に主たる債務者に代わって保証人が履行する債務をいう。(予想)

105 保証債務は債権者、主たる債務者と保証人の三者間で締結される保証契約によって成立する。(予想)

106 通常、保証人は催告の抗弁権と検索の抗弁権をもつ。(H7.30-4)

107 債権者がした連帯保証人に対する履行の請求による時効の中断は主たる債務についても効力が生ずる。(H13.29-3)

108 債権譲渡とは債権者が債務者に対して有する債権を他人に移転する契約をいう。(予想)

109 債権は原則として譲渡することができる。(H6.29-5)

110 譲渡禁止の特約に違反した債権譲渡も有効である。(予想)

111 債権譲渡の通知は譲渡受人から債務者に対してなされなければ債務者に債権譲渡を対抗することができない。(予想)

112 債権が譲渡された場合の債務者の承諾は譲渡人また譲受人のいずれに対してもすることができる。(予想)

113 債権譲渡において異議をとどめないで承諾をした債務者は譲渡人に対して対抗できたことを譲受人に対しては対抗することができなくなる。(予想)

114 債権が二重に譲渡された場合には第三者に対する対抗要件として確定日付のある証書による債務者への通知か、または確定日付のある証書による債務者の承諾が必要である。(予想)

115 債権が二重に譲渡された場合において一方の譲渡については確定日付のある証書によらない通知、他方の譲渡については確定日付のある証書による通知が債務者に対してなされた時は確定日付のある証書による通知がなされた債権譲渡の譲受人が優先する。(予想)

116 債権が二重に譲渡された場合において、いずれの譲渡についても確定日付のある証書による通知が債務者に対してなされた時は確定日付の先後によってどちらが優先するかを決する。(予想)

117 給付内容の実現により目的を達成して消滅する場合にのみ債権は消滅する。(予想)

118 債権の消滅原因のうち弁済、代物弁済や供託は目的の実現により消滅する場合に該当する。(予想)

119 利害関係を有しない第三者であって債務者の意思に反して弁済することができる。(H4.30-1)

120 特定物の引渡しを目的とする債務の弁済は特約のない限り債権者の現在の場所において行うこととする。(H4.30-5)

121 特定物の引渡債務以外の債務の弁済は特約がない限り債権発生当時その物が存在していた場所において行わなければならない。(予想)

122 弁済の提供とは債務者が給付を実現するために必要な準備をして債権者の協力を求めることをいう。(予想)

123 弁済の提供が有効と認められるためには債務の本旨に従った現実の提供または一定の条件下での高騰の提供が必要である。(予想)

124 債権の準占有者に対する弁済は当該準占有者が善意かつ無過失である場合に限り、その効力を有する。(H11.30-2)

125 代物弁済とは本来の給付と異なる他の給付を現実にすることによって本来の債権を消滅させる弁済者の一方的な意思表示である。(予想)

126 相殺の意思表示は相殺敵状に達した時にさかのぼって効力を生じる。(H2.31-3)

127 契約とは2個以上の意思表示の合致した法律行為で法的拘束力が生ずるものをいう。(予想)

128 双務契約とは当事者間双方が対価的な債務を負担する契約のことをいう。(予想)

129 諾成契約とは当事者間の合意の他に物の引渡しが必要となる契約のことをいう。(予想)

130 契約は申込みの意思表示と承諾の意思表示の合致により成立する。(予想)

131 承諾の期間を定めないで隔地者に対し契約の申込みをした時は、いつでも申込みを撤回することができる。(H4.31-2)

132 契約が成立すると契約の拘束力が生ずるため当事者の一方の意思だけでは契約を原則として解消できない。(予想)

133 同時履行の抗弁権は留置権と同様に公平の観念に基づくものであるので何人に対してもこれをもって対抗することができる。(H8.31-1)

134 同時履行の抗弁権を行使するためには双方の債務の弁済期が同じである必要がある。(H8.31-3)

135 危険負担における債務者主義とは一方の債務が消滅すると他方の債務も消滅するという考え方をいう。(予想)

136 債権者は相当の期間を定めずに催告した場合でも催告の時から客観的にみて相当な期間が経過した時は契約を解除することができる。(H1.36-2)

137 贈与契約は贈与者が受贈者に対して無償で自己の財産を与えることを目的とする、無償、片務、諾成の契約である。

138 未登記の建物を書面によらず贈与した場合において贈与者Aが受贈者Bにその建物を引き渡した時はAはその贈与契約を撤回することができない。(H17.28-1)

139 建物の条件付き贈与において、その建物を受贈者に引き渡した時は、たとえ条件が成就していなくても贈与者は撤回することができない。(予想)

140 他人の所有物を目的とする売買契約は有効であり、その売主は、その目的物の所有権を取得して買主に移転する義務を負う。(H9.30-3)

141 全部他人物の売買において悪意の買主は損害害賠償請求はできないが契約の解除はすることができる。(予想)

142 一部他人物の売買において悪意の買主は損害賠償請求はできないが代金の減額請求はすることができる。(予想)

143 数量指示売買における数量不足について悪意の買主は損害賠償請求はできいが代金の減額請求はすることができる。(予想)

144 売買の目的物に抵当権が存在しており、この権利行使により買主が所有権を失った時は善意の買主に限り契約解除や損害賠償の請求をすることができる。(予想)

145 解約手付による解除をすることができるのは契約の相手方が履行に着手するまでの間である。(予想)

146 土地の売買において買戻しの特約をする場合は契約締結時にしなければならない。(H6.30-1)

147 消費貸借契約とは金銭その他の代替物を借りて、のちにこれと同種・同等・同量の物を返還する契約をいう。(予想)

148 消費貸借契約は利息付きの場合は「有償・双務・諾成」契約である。

149 使用貸借契約は借主が死亡することによって終了する。(H5.30-1)

150 賃貸借契約の法的性質は「有償・双務・諾成」契約である。(予想)

151 賃貸借の存続期間は10年を超えることはできない。(H3.31-1)

152 AはBに対して自己が所有する建物を賃貸したがBが有益費を支出して同建物に増築部分を付加した同建物と一体とした場合において後にその増築部分が隣家の火災により類焼して失われた時もBはAに対して増築部分につき有益費の償還請求をすることができる。(H21.32-エ)

153 不動産の賃貸借は、これを登記しても、その後その不動産について物権を取得した者に対してはその効力を生じない。(H3.31-2)

154 賃借人は賃貸人の承諾を得なければ賃借物を転貸することはことはできない。(予想)

155 賃貸借の合意解除をしても転借人には対抗できない。(H18.33-ア)

156 賃貸借の債務不履行があった場合、賃貸人はあらかじめ転借人に催告をしなくても転借人に対抗できる。(H18.33-ウ)

157 請負契約とは請負人がある仕事を完成させることを約し注文者がその仕事の結果に対して報酬を与えることを約束することで成立する契約をいう。(予想)

158 特約がない限り請負人は自ら仕事を完成する義務を負うから下請人に仕事を委託することは出来ない。(H14.29-1)

159 完成した仕事の目的物である建物に瑕疵があった場合、注文者は修補か損害賠償のいずれかを選択して請負人に請求することが出来るが両方同時に請求することは出来ない。(H14.29-4)

160 注文者は仕事完成までの間は損害賠償すれば何らかの理由なくして契約を解除するすることができる。(H14.29-2)

161 無償委任の受任者は自己の財産におけると同一の注意をもって事務を処理する義務を負う。(H16.28-ア)

162 受任者は委任事務を処理するにあたり受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。ただし果実については引き渡す必要がない。(S63.36-3)

163 受任者は委任事務に必要な費用を事前に請求できる。(予想)

164 委任契約は委任者、受任者の双方からいつでも解除することができるが相手方に不利な時期である場合は解除することができない。(S63.36-3)

165 寄託契約において当事者が寄託物の返還の時期を定めていない時は受寄者は、いつでも寄託物を返還することができる。(H5.30-5)

166 雇用は請負と同じく当事者双方の合意によって成立する諾成契約である。(H3.30-4)

167 事務管理とは義務のないのに他人のために事務の管理をすることをいう。(予想)

168 不当利得とは法律上の原因がないのに利益を受け他人に損失を及ぼした者に対して利得の返還をさせることで当事者間の公平を実現する制度のことをいう。(予想)

169 不当利得による善意の受益者は、その利益の存する限度において返還する義務を負う。(H1.37-4)

170 不当利得による悪意の受益者は受けた利益の全部を返還すれば足りる。(H1.37-2)

171 債務のないことを知りながら、その弁済として給付をなした者は、その返還を請求することができない。(H1.37-3)

172 不法原因給付にける不法原因が受益者についてのみ存する場合は給付者は返還の請求ができない。(H1.37-5)

173 不法行為とは故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を違法に侵害して損害を加える行為をいう。(予想)

174 胎児は損害賠償の請求権について、しでに生まれたものとみなされる。(S63.37-5)

175 被用者が事業の執行につき第三者に損害を加えても使用者は被用者の選任および事業の監督につき相当の注意をしている場合は責任を負う必要はない。(H6.31-2)

176 借家の塀が倒れて通行人が怪我をした場合、塀の占有者である借家人は通行人に対して無過失責任を負うが塀を直接占有していない所有者が責任を負うことはない。(H21.34-5)

177 親族とは6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族をいう。(予想)

178 婚姻は戸籍法の定めるところにより届け出たうえで戸籍簿に記載されて初めて効力を生ずる。(H2.32-4)

179 婚姻をしている者が他の者と内縁関係を結ぶ場合は重婚となる。(H2.32-1)

180 女性は前婚の解消の日から必ず6か月を経過しなければ再婚することができない。(H8.32-3)

181 成年被後見人が婚姻するには、その後見人の同意が必要である。(H2.32-2)

182 夫婦の一方が第三者に対して日常の家事に関する債務を負った場合、他の一方が連帯の責任を負わないことを第三者に予告した時でも連帯して責任を負う。(H2.32-1)

183 夫婦間でした契約は第三者の利益を害さない限り婚姻中いつでも夫婦の一方からこれを取り消すことができる。(予想)

184 妻が婚姻成立の日から200日後に出産した子は摘出子と推定されるため、たとえ夫のよる懐胎が不可能な場合であっても摘出否認の訴えによらなければ夫は親子関係を否定することはできない。(予想)

185 配偶者の直系卑属を養子とする場合、養子となる者が未成年であれば家庭裁判所の許可を得なければならない。(S63.38-4)

186 特別養子制度において養親となることができるのは25歳以上の者または婚姻している者でなくてはならない。(H6.32-1)

187 相続は死亡と失踪宣告により擬制された死亡によって開始する。(予想)

188 胎児は相続についてはすでに生まれたものとみなされる。(予想)

189 相続欠格、廃除と相続放棄は代襲原因となる。(予想)

190 妻Bと子C・D・EがいるAに相続が発生した場合においてAが子Cの不行跡を理由にCを廃除していたときはCの子FもAの遺産を代襲相続することはできない。(H15.30-1)

191 非嫡出子の相続分は嫡出子の2分の1である。(予想)

192 兄弟姉妹の遺留分は3分の1である。(予想)

193 遺留分の法規を相続開始する場合は家庭裁判所の許可を得なければならない。(予想)

194 遺留分の法規を相続開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述する方式でしなければならない。(予想)

195 共同相続の場合における限定承認は相続を放棄した者を除き共同相続人全員が共同してこれを行わなければならない。(H10.32-5)

196 未成年者が遺言をするには法定代理人の同意が必要である。(H13.30-1)

197 遺言者は、その遺言の撤回権を放棄することはできない。(H7.32-5)

1 〇
2 × 総則・物権・債権・親族・相続の5篇
3 〇
4 ×
5 〇
6 〇
7 × 借地借家法などの特別法もある
8 〇
9 × 取り消すことができるのでなく無効
10 〇
11 × 保護者である法定代理人の同意は不要
12 × 成年後見人に同意権はない原則として取り消す
13 〇
14 × 法人格をもってない
15 〇
16 〇
17 × 天然果実
18 〇
19 × 動機は関係ない
20 ×
21 〇
22 ×
23 ×
24 ×
25 ×
26 〇
27 〇 停止条件と解除条件
28 〇
29 〇
30 × 時効は中断しない
31 〇
32 〇
33 〇
34 × 債務の履行を請求できる時から進行する
35 〇
36 × 動産も時効により取得できる
37 〇 借家にいくら住み続けても時効はない
38 × 物権法定主義
39 × 物権的返還請求権
40 〇
41 〇
42 〇 無権利者は第三者に該当しない
43 〇
44 × 背信的悪意者でない単なる悪意者は第三者に該当する
45 〇
46 × 盗品、遺失物の特則は横領には不適用
47 〇
48 × だましとられた場合(詐取)や遺失物を拾得された場合は占有回収の訴えの対象とならない。
49 〇
50 〇
51 × 自分の費用
52 × 根は自分で切り取ることができる。
53 × 3か月以内
54 × 所有者のいない不動産は国庫に帰属する。
55 ×
56 〇
57 〇
58 × 担保物権は不可分性を有する
59 〇
60 × 金銭が債務者に払い渡される前に差押えが必要
61 × 質権設定者がその目的物を質権者に引き渡さなければその効力が生じない
62 〇
63 〇
64 ×
65 〇
66 × 一括競売
67 × ある人が特定の人に対して
68 〇
69 × 恐らく物権の説明
70 〇
71 〇
72 × 特定物債権
73 〇
74 〇
75 × 不特定物売買の場合において所有権は目的物が特定した時に債権者に移転
76 × 各債権者は債権額に応じて按分(比例配分)された額で配当を受ける
77 〇
78 ×
79 × 債務者が期限の到来を知った時
80 〇
81 × 債務者が自分に故意または過失がなかったことを立証
82 〇
83 × 裁判所は必ずこれを考慮する
84 × 催告がいる
85 〇
86 × 履行不能に準ずる
87 × 損害賠償請求権および解除権は認められない
88 〇
89 〇
90 × 「自己の名」をもって代位行使する
91 × 「裁判上の代位」と「保存行為」
92 × 不適切であっても債権者代位権を行使できない
93 〇
94 〇
95 〇
96 × 取引の安全に与える影響が大きい
97 × すべての債権者の利益のために生ずる
98 〇
99 〇
100 ×
101 〇
102 ×
103 〇
104 〇
105 × 債権者と保証人の間で保証契約を締結することで成立
106 〇
107 〇
108 〇
109 〇
110 × 原則として無効
111 × 通知は譲渡人からなされなければならない
112 〇
113 〇
114 〇
115 〇
116 × 通知が到達した日時の先後によって決する
117 × 目的達成が不可能、実現させる必要がなくなった場合も
118 〇
119 × 債務者の意思を反してはダメ
120 × 債権発生時にその物が存在した場所
121 × 債権者の現時の住所
122 〇
123 〇
124 × 弁済者が善意かつ無過失である
125 × 債権者と弁済者間の契約
126 〇
127 〇
128 〇
129 × 説明は要物契約
130 〇
131 × 相当な期間を経過するまで撤回できない
132 〇
133 × 双務契約の相手方に対してのみ
134 × 弁済期であることは必要だが同じである必要はない
135 〇
136 〇
137 〇
138 〇 引渡しか登記のいずれかか
139 × 条件が成就してない限り撤回は可能
140 〇
141 〇 理屈でなく暗記しかない
142 〇 理屈でなく暗記しかない
143 × 知ってるから出来ない
144 × 善意悪意をとわずできる
145 〇
146 〇
147 〇
148 × 「有償・片務・要物」
149 〇
150 〇
151 × 20年を超えることはできない
152 × 価格の増加が現存する場合に限る
153 × 
154 〇
155 〇
156 〇
157 〇
158 ×
159 ×
160 〇
161 × 有償無償を問わず善管注意義務を課す
162 ×
163 〇
164 × 原則として損害を賠償して解除できる
165 〇
166 〇
167 〇
168 〇
169 〇
170 × 受けた利益の全部と利息および損害がある時は賠償責任
171 〇
172 ×
173 〇
174 〇
175 〇
176 ×
177 〇
178 × 届け出れば効力を生ずる
179 × 内縁関係のみではならない
180 × 懐胎していた場合は出産日からできる
181 ×
182 ×
183 〇
184 × 「親子関係不存在確認の訴え」
185 × 許可は不要
186 × 「かつ」
187 〇
188 〇
189 ×
190 × 
191 〇
192 × 遺留分権利者でない
193 〇
194 〇
195 〇
196 × 15歳に達した未成年ならOK
197 〇

商法編

1 未成年は商法上の商人となることができない。(H6.48-2)

2 取引所でなされる取引であっても商人以外の者がこれを行ったときは商行為とはならない。(H6.48-4)

3 商行為である賃貸借契約によって生じた債務の不履行を理由とする損害賠償債務は商行為によって生じた債務でないから、その遅延損害金の利率は民事法定利率である年5分となる。(H15.33-2)

4 商人が平常取引をなす者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたのに対し遅滞なく諾否通知をしなかったときは申込みを除絶したものとみなされる。(H15.33-5)

5 故意または過失により不実の事項を登記した者は、その事項が不実であることを善意の第三者に対抗することができない。(予想)

6 商号は営業とともに譲渡する場合のほか、これを譲渡できない。(H6.48-3)

7 支配人は商人に代わり、その営業に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する。(H9.45-4)

8 商業使用人を用いる場合は自然員でなければならないが代理商を用いる場合は法人でもよい。(H13.33-1)

9 商業使用人のうちの支配人も代理商も商人の許可のない限り商人の営業に属する取引を自己または第三者のために行うことはできない。(H13.33-5)

10 商事売買において買主は受け取った目的物を遅滞なく検査し、もし瑕疵または数量不足を発見した場合は、ただちに売主に対して通知を発する義務がある。(予想)

1 ×
2 × 絶対的商行為であり商人以外で商行為となる。
3 × 年6分の商事法定利率を適用
4 × 申込みを承諾したものとみなす
5 〇
6 × 営業を廃止する場合も譲渡できる
7 〇
8 〇
9 〇
10 〇

一般知識編

1 死者の個人情報については「個人情報の保護に関する法律」による規律の対象とならない。(H19.54-1)

2 個人情報取扱事業者は本人から当該本人が識別される保有個人データの内容が事実でないという理由によって当該個人データの利用停止を求められた場合は原則として利用停止しなければならない。(予想)

3 個人情報保護法は認定個人情報保護団体という制度を用意して苦情処理などを事業者団体が処理することを期待している。(H19.53-5)

4 「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」は個人情報である限り日本国民に関する情報のみならず外国人に関する情報も保護の対象としている。「(H18.57-1)

5 行政機関は個人情報を保有するにあたって利用の目的をできる限り特定しなければならず、また最初に個人情報を保有した目的を変更してはならない。(H18.57-2)

6 行政機関の長は政令で定めるところにより当該行政機関が保有している個人情報ファイルについて一定の事項を記載した個人情報ファイル簿を作成し公表しなければならない。(予想)

7 プライバシーマークはJIS Q 15001(個人情報保護マネジメントシステム-要求事項)に適合している事業者に認定される。(予想)

8 プライバシーマーク付与の有効期間は2年間であるが更新手続きによって1年間の延長ができる。(予想)

1 〇 生存する個人
2 × 本人が求められるのは「利用停止」でなく「訂正等」
3 〇
4 〇
5 × 一定の範囲内で変更できる
6 〇
7 〇
8 × 1年間でなく2年間

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

ユーキャンの行政書士通信講座
価格:63000円(税込、送料無料) (2021/10/28時点)


あとがき

1レッスン頁数にして10頁弱で2時間半かかった。

結構疲れる。

最初は頁の隅のワンポイント的な小さな文字も漏れなく目を通していった。

そんなことしてたら時間がいくらあっても足りない事に気づいた。

始めはザックリ読むことに途中から変えた。

それでも、これをこれから毎日2か月間続けられるか不安だ。

(追記 2021.8.31)

8日目で7レッスン半を読み終えた。

半という中途半端は商法のレッスン1が長すぎて途中で飽きた。

これからは興味が沸かない箇所は読み過ごして進められる所から進めようと思う。

その方が効率的だ。

(追記 2021.9.16)

進め方を少し修正する。

おかげ様で緊急事態宣言の延長に次ぐ延長で勤め先の自宅待機の日が増えた。

この期を利用して自宅待機の日および休日は2レッスン読み進め平日は1レッスンないし0.5レッスンづつ進めることにした。

(追記 2021.9.23)

勉強を始めて1か月が経った。

奇跡的に予定通り半分(30レッスン)を読み終えた。

予想通り行政法の行は一般市民には全く馴染みがなく単調で退屈だ。

文量も多く重要条文も幾つも読み飛ばしている。

これも想定済で後で幾らでも肉付けできる。

覚えられない事に拘って先に進まないより、こういった個所は最後にゆっくりと集中して取り組めば良い。

要は全体で満遍なく5割解ければ合格だから試験までに手を付けてない個所がある方が命取りだ。

話は変わるが僕は過去に司法書士が手掛ける業務をやった事がある。

といっても自分が所有する不動産の抵当権を外す手続をした。

多くの人が勘違いしてるのが、これらの業務を無資格の人はできないと思っている。

実は本人に関する事は資格など全く関係ない。

たとえば裁判でも弁護士に依頼せずとも自分の裁判なら自分で弁護できればできる。

それを一般の人は自分一人で弁護するのでは心もとないので依頼してるだけだ。

僕がやった行為もそれと同じで司法書士に依頼せずともやって一向に問題ない。

ただし他人の抵当権をさわる行為は無資格で行うと違法となる。

ネットで法務局へ提出する申請書の雛形を拾ってきて数か所を替えれば後は提出するのみだ。

僕が住んでいるところにも法務局の出張所があるので、そこに赴いて手続した。

最寄駅から出張所へ向かう途中に司法書士事務所が幾つもあった。

皆全く客などおらず暇そうにしてた。(今は僕みたいな人ばっかりかもしれない。)

出張所でも心得たもので、ちゃんと相談コ-ナーが設けてある。

だから窓口に申請書を提出する前に、その相談コーナーを利用すれば係の人が申請書を添削してくれる。

司法書士への報酬費用としての約2-3万円が節約できたことになる。

2か月は飛ばしすぎなので4カ月にしようか迷い始めた。

索引


意思表示(いしひょうじ)


外国人(がいこくじん)
行政庁(ぎょうせいちょう)


社員(しゃいん)